●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●   …………………………………………SEEK…………………………………………   第 2 回 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 柳井政和 (C)1995 Masakazu Yanai Reproduction 1998.12.19 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ02.5●『ヘンゼルとグレーテル』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  時は少し戻る。帝国軍軍団指揮官テスラは、帝国水軍旗艦『浮沈』の甲板にいた。大地 母神の神殿攻略に行く途中、将軍ファラドからの書簡を渡すために、この船に寄っていた のだ。船上には負け戦特有の、敗北感と疲労が満ちていた。 「提督、またしても大敗北を喫してしまいましたな」  テスラは高笑いしながら、甲板に出てきた帝国水軍提督ロジェストに会釈をした。老境 の提督ロジェストはテスラをにらみつけた。彼の覇気はまだ衰えていなかった。  帝国水軍2度目の敗戦。帝国は地上ではほぼ無敵の戦力を有していた。広大な北方で覇 権を争ってきたこれまでの歴史がそうさせてた。しかし、水の上では話が違う。彼らの中 には初めて海を見るものもいた。半年前、反乱軍の砦のひとつウィッチハウス島を攻略す る作戦『ヘンゼル』が行われた。そしてウェイン王国海軍に大敗北を喫した。  それから半年、帝国は全力をあげて水軍の再建を行った。そして前回の3倍の戦力で行 われた作戦『グレーテル』。提督ロジェストは、またも苦汁をなめることになった。 「だまれ!海では貴様の魔法騎士隊でもどうにもできまい」ロジェストが激しく抗議した。 「確かに、魔法石は海水に濡れると魔力が急速に消費されてしまいますからな。しかし、 2度も敗北なされては皇帝は何と言われるでしょうか」テスラは高笑いした。 「判っている。……しかし、ゴートーめにまたしてもやられたわい。だが次は負けぬぞ」  ロジェストは拳を握りしめた。塩。彼らの敵は塩水だった。魔力を中和する塩が、魔法 石の魔力を奪うのだ。そして海は魔力を拡散させて、魔法石をただの石に変えてしまう。 海での戦いは帝国軍の唯一の鬼門であった。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ03●『謎の訪問者』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  反乱軍本部はごったがえしていた。大地母神の神殿から戻って来たヨタが、神殿生き残 りの神官たちを連れてきたからだ。本部に使っている建物には収容仕切れず、急遽宿舎を 作ることになった。何よりも、ほとんど男だけの世界に、女性が多数入ってきたことが深 刻であった。 「ヨタ。どうしたものかな」  老将ラドがヨタに困った顔を向ける。ヨタは「はあ」と気のない返事を返す。 「元々、男と女が一緒に暮らすのが普通ですから、いいのではないですか。活気も出てき たことですし」  確かに活気は出てきた。しかし、今この本部を襲われたら……。ラドは不安だった。 ────────────────────────────────────────  反乱軍本部は活気に満ちていた。その中、人一倍浮かれた顔で、辺りを歩き回っている 青年がいた。彼の名はマルク=レート。反乱軍の若き兵士だ。「サラさんはどこだろう」 マルクは神官サラに一目惚れして以来、彼女を捜し続けているのだ。行方不明のサラが、 今回の神官たちの中にいるかもと思い捜しているのだ。 「サラさんいないな……」  彼は辺りを見渡した。その時、神官の格好をしていない黒髪の美女を見つけた。誰だろ う。彼はその女性が本部に入って行こうとするのを見た。 ──────────────────────────────────────── 「何だあんた勝手に入るな。奥に入るのには身分証がいるのを言われているだろう」  反乱軍本部を警備していた兵士は、黒髪の美女を引き留めようとした。 「何かしら?」  その女性は一瞬兵士を見つめたかと思うと冷たい笑みを浮かべた。兵士の表情が虚ろに なり、兵士は扉を開けた。女性は、さも当然であるかの様に反乱軍本部に入った。 ──────────────────────────────────────── 「帝国最強の精鋭、魔法騎士隊も俺たち2人だけになってしまったな」  森から反乱軍本部を眺めていたテスラが、ウィリアム・カーンに呟いた。ヨタたちに一 掃されたテスラの部隊は、テスラとウィリアムの2人だけになっていた。 「テスラ様。しかし、この本部さえ叩けば」  ウィリアムが杖を握り締めてこたえる。2人はヨタたちの後をつけてやって来たのだ。 「確かに俺の力があれば叩けるな」杖がこたえた。エルダー・フレイム、意志を持った古 代の武器。2人が消滅しなかった のはエルダー・フレイムのお陰であった。 「しかし反乱軍が邪魔さえしなければ、ウェイン王国から既に神を奪っているであろうに」  テスラが歯軋りをした。ウィリアムはテスラの顔を見つめた。そして思い返した。ウェ イン王国侵攻が決まったあの日のことを……。  いつからか帝国に、黒髪の魔女が入り込んでいた。その魔女は皇帝に取り入り、政治に も口出しをするようになった。その頃テスラは、一部隊の指揮官でしかなかった。そして その頃から、ウィリアムは彼の付き人だった。テスラのウェイン王国侵攻案が、皇帝の目 に触れるようになったのは、黒髪の魔女の口添えがあったからだ。そしてテスラは軍団指 揮官に昇進した。ウィリアムはそのことが素直に喜べなかった。なぜなら黒髪の魔女ミュ ーが、彼に不安を覚えさせたからである。  テスラはいつか語った。俺たちが、ほとんど見れない春に心引かれるのは当然のことだ。  わずかばかりの作物、そして植民地からの乏しい食料。俺は俺たちの国に春を呼びたい。 ザイン帝国を、子供たちが明るく生きて行ける春の来る国にしたい。そのために俺は鬼に なる。南方のウェイン王国には、春の女神が住むと言われている。俺はその春の女神をこ の国に連れて来るつもりだ。どんな手を使っても。俺たちの子供達には、春の訪れる国を 見せたいじゃないか。ウィリアム。俺のために戦ってくれるか。  ウィリアムは頷いた。ウィリアムがテスラの付き人になった日のことであった。 ────────────────────────────────────────  「何者だあの女?」反乱軍本部の廊下を歩いていたカジが振り向いた。彼は修行の旅の 途中お金がなくなり、反乱軍でお茶くみのバイトをしていた。ただならぬ魔力の気配。カ ジは、その黒髪の女性が作戦会議室に向かうのを目撃した。 「どこにむかっているんです?案内しましょう」  カジはその女性を監視するために、自分もついて行くことにした。 ──────────────────────────────────────── 「それではあなたは、反乱軍は解散しろと言うのですか!」  ラドが声を荒げた。ヨタは窓際に立ち、その様子を伺っている。大神官は今、兵士の一 人が呼びに行っていた。 「失礼します。」  お茶を入れに行ったカジが部屋に戻ってきた。黒髪の美女は、椅子に座ったままラドを 見つめていた。「一体どうなっているんだ」カジは考えた。どうやら彼女は反乱軍が存在 すると困る人物らしい。  ヨタが口を開いた。「できれば全てをお話ししてくれませんか。私たちは、民衆の平和 を願って戦っているのです。なぜ私たちの活動が、民衆の不幸を招くのですか。帝国が平 和を与えてくれるとは思えませんが」 「大事の前の小事です。あなたたちが抗えば抗うほど、事は早く進みます。大陸の民を救 うためには、この国の人間に抵抗してもらっては困るのです。100人を生かすために、 10人を殺さなければならないこともあるのです。下らない感情に流されては、大陸に不 幸を招くことになります」  カジは彼女の物言いを聞いて、はらわたが煮え繰り返った。そんな訳の分からない理由 のために、この国の女性たちが不幸になっていいものか!泣き寝入りをして悲しんでいる 女性たち、引き裂かれた恋人たちはどうなる!彼は湯飲みを机に叩きつけた。 「君は愛を知っているのか?人間の愛を分かっているのか?」  その時外のほうから爆音が上がった。 ──────────────────────────────────────── 「敵襲だ!敵の数は……2名!1人は剣より火球を放ち、1人は炎の槍を持っている!」  本部の兵士たちが駆り出された。1人の剣より火球が放たれ反乱軍本部を襲う。その火 球は作戦会議室に飛んで行った。窓から外を伺ったヨタは「危ない!」と叫ぶと、部屋の 奥へと走った。カジは火球に気づき、素早く本を取り出した。 「出でよゴーレム!我らを守りたまえ!」  カジの開いた本から光が漏れた。一瞬後、火球は建物にぶつかりその壁を吹き飛ばした。 しかし中の者は無事だった。カジの呼び出したゴーレムが盾となり助かったのだ。グラリ とゴーレムが揺れて崩れた。「ひええ〜」カジが驚きの声をあげる。そして土煙が晴れた。  彼らは敵と対峙した。 「見つけたぞ!反乱軍参謀ヨタ、そして将軍ラド……」  カジは敵の溢れんばかりの殺気に恐怖した。そして敵から目をそらした時に気づいた。 あの黒髪の女性がいない。「あの女……どっかでみたっけ」エルダー・フレイムが微かに 声を漏らした。 「ヨタ!ラド!貴様らの首、この場で取ってやる!」  テスラが声を轟かした。ヨタは杖を構え、ラドは剣を抜いた。カジは黒髪の女性を探し に、建物の奥へ走って行った。しかし、そこには求める女性の姿はなかった。 「ウィリアム、突っ込んでラドを仕留めるぞ!」 「テスラ様!」  ウィリアムは疾風の様に走るテスラを追いかけた。 ────────────────────────────────────────  テスラとラドの剣が交じり合った。ウィリアムは、迫りくる兵士からテスラ守るために、 テスラの背後につこうとした。  「あなたの相手は私です」ウィリアムの炎の槍にヨタの杖が打ちこまれる。「元気そう じゃねーか……?150年ぶりだな」エルダー・フレイムが律動した。ウィリアムはヨタ を倒すためにその腕に力を入れた。  「あなたのことはエルダー・ルーツから聞いていますよ、エルダー・フレイム。今度は その人間を観察している訳ですね」ヨタは、ウィリアムの炎の刃を持った杖を、必死でこ らえながらこたえた。  「何物だ、この杖もお前の仲間なのかエルダー・フレイム?」ウィリアムが尋ねる。  ウィリアムは知っている。エルダー・フレイムが、世界を創造した太古の炎の末裔であ ることを。今は杖の中で生活しているが、あらゆる形をとり、全てを焼き尽くす力をもっ ていることを。 「奴は太古の地霊の末裔……。そして俺の宿敵だ」  ウィリアムはヨタの杖を弾いた。杖は地面に突き刺さり、ウィリアムは炎の槍を振り上 げた。ヨタが会心の笑みをもらした。 「ウィリアム……ここぁおめえの死に時じゃないぜ。時期を待てよ」  ウィリアムは驚いた。今こそヨタを殺すチャンスではないか。その時テスラに一陣の刃 が振り下ろされた。神官たちの中にサラがいると思いこみ、いいところを見せようと奮闘 していたマルクの剣がテスラを捕らえたのだ。「くう!」テスラが呻きを上げる。そして マルクの方向に火球を放った。  「テスラ様!ここは一旦お引き下さい!!」ウィリアムが叫ぶ。テスラは傷口を押さえな がら、ウィリアムと森に逃げ去った。置き土産の火球を数発残しながら。  「やった!今日は決まったぞ。サラさん見ていてくれましたか」いるはずのないサラに、 格好いい所を見せたと信じ切っているマルクが、ガッツポーズをとった。 「ラド……。逃げられてしまいましたね。これで本部は移動しなければなりませんね」 「しかし、勘のいい敵だったな。お前の杖が地面に立てられた時点で、あの青年は仕留め られたと思ったんだが」  ヨタは頷いた。「私のエルダー・ルーツの魔法『地走りの根』は、杖を地面にささなけ れば使えませんから」 「しかし、本部をどこに移すかだな……」  2人は本部の惨状を見てため息をついた。 ──────────────────────────────────────── 「ファラド将軍。すみません、反乱軍の本部を突き止めながら、すんでのところで敗北し てしまいました」  テスラはウィリアムを伴い、将軍に報告した。ファラドはテスラを咎めず、早く傷を癒 せとだけ告げた。 「どうしたテスラ。貴様が負けるとわな」  王城の廊下でロジェスト提督がテスラに話しかけてきた。テスラは苦笑いを返した。 「今頃は、貴様の発見した本部も引き払われているだろうな。帝国軍は地上では無敵だと 思っていたよ」  「提督。あなたのように、何もない所を攻めて負けてくるよりはいいでしょう。あんな 何もない海の離島を攻め落とせないよりは」テスラが憎まれ口を返す。 「本当に何もないと思っているのか。一つだけ忠告してやる。生き残るつもりなら勘を働 かせるんだな。あんな何もない所に、あんな立派な砦を作るくらいだ。何もないはずがな い。わしの勘はそう言っている」  どうやらロジェストトは何か情報をつかんでいるようだ。去って行くロジェストを見な がら、テスラはウィリアムに呟いた。「あの島に何があると言うのだ……」 ────────────────────────────────────────  テスラの報告を聞いた後、将軍ファラドは自室へと向かった。今日は後ひとつ、会見が 残っていたはず。ファラドはドアを開けた。そこには美しい女性が座っていた。彼女の名 はキャス・クリム。下級貴族の娘である。父から、帝国に協力したいという伝言を預かっ てやってきたのだ。 「始めましてファラド将軍。ちょっとした提案がありますの」  キャスは父からの書状を手渡しながら語った。反乱軍要人の暗殺や情報の探索、クリム 家の力を使えばきっと役に立てると書かれてあった。 「ゲームですわ……すべてが。投資する価値はあると思いますけど」  キャスが妖艶な笑みを浮かべる。ファラドは考えた。確かにクリム家のように、暗殺者 を育てている家ならそれも可能か。 「分かった。お父上には了解したと伝えておいてくれ」  そして書状をキャスに渡した。キャスは礼をすると部屋から出て行った。去り際に、暗 殺用の蜘蛛をこっそり放ちながら。 ──────────────────────────────────────── 「おやおや、ファラド将軍は命を狙われているようね」  ファラドが自室で考え事をしていると、暗闇の中からミューが現れた。その手には蜘蛛 が握られていた。 「白の凶か。クリム家らしいな」  ファラドは椅子から立ち上がった。ミューは楽しそうに蜘蛛を握り潰した。 「ファー=ラド将軍。折角念願の故郷に戻って来たと言うのに、一向に嬉しそうにないよ うね」  「その名前で呼ぶな!」ファラドは肩を震わした。 「故郷から追放されたお前の姿を変えてやり、願っていた故郷を与えてやったのよ」 「違う、俺が望んでいたのは……」  「父親への劣等感に凝り固まったお前に何ができる!」ミューがファラドを一喝した。  ファラドは唇を噛んだ。ミューの魔法で姿を変えてもらっている今、ミューに逆らうこ とは、この地位を捨てることを意味していた。ファラドは、ミューの手に握られている蜘 蛛に、自分の運命を重ねて見ていた。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ04『王子との再会』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  デルタ・クロネッカーは森の中を歩いていた。プリムローズの力を手にいれんがため、 ウェーバー一行を密かに追っていたのだ。彼は森を急いだ。ある程度進んだ時だろうか、 物陰から異臭が漂って来た。  「うっ、何の匂いだ?」思わず鼻を押さえる。  そこには、首を切り落とされた帝国兵の亡骸が捨てられていた。  「な、何てことを……」この者たちは、確かに反乱軍の捕虜になったはず。いくらなん でも、捕虜に対してここまでするであろうか。傷口は鋭利な刃物のものであった。普通の 刃物でないことは明らかである。2つだけ、この傷跡に記憶があった。魔法による方法と、 もうひとつ……。確かに、あいつによるもの……。  「あらあら、デルタがみつけてしまったよ、ミュー様」その様子を水鏡で見ているかわ いらしい少女が言った。 「でも、私がやったことまでは、分かんないはずだわ」  「そうかしら?この子の目を見てご覧なさい。ほら、なにかつかんだみたいね」水鏡に 浮かぶ、自分が育てたデルタの視界を眺めながら、ミューは口元に一瞬笑みをこぼした。  デルタは帝国兵を埋葬すると、再び森の中へ歩き始めた。 「……気をつけなくては……まだ、その時ではない……」 ──────────────────────────────────────── 「サラ、滝への道は本当にこれであっているのか?」  反乱軍のウェーバーとその第一部隊は、道なき道を進んでいた。しかしこんな所を進ん で、本当にあっているのかとウェーバーは思った。 「その滝までなら、オラが近道を知ってるだ」  村の若者らしき男が森の中から出て来た。その体は、農作業で鍛えられたらしく、がっ しりとしていた。  「お前は?」ウェーバーが問う。 「オラはウィリアム=クライス通称ウィル。麦踏みとケンカをさせたら、テナンテ村で一 番だ。オラがデスパー滝まで案内してやるだ」 「それは助かる。サラの道案内はいまいち信用できなかったんでな」  サラがむくれた顔をする。 「お城で育った奴が、森での方向感覚に強いはずがないだろ。ウィル我々を案内してくれ ないか」 「分かっただ。……それから、オラを反乱軍に加えて欲しいだ」  ウェーバーはしばし考えた。 「いいだろう。ウィル、お前にはこの剣を授ける。反乱軍最強の第一部隊隊長、ウェーバ ー様自ら剣を授けてやる。これでお前も正式な反乱軍の一員だ」 「はっ!ウェーバー様ありがとうございますだ!」 ────────────────────────────────────────  拷問と尋問は既に半日程続いていた。ここは帝国軍の陣地のひとつ。そこに冒険者グラ ムは捕まっていた。 「ではラスヴィル王子は、テナンテの村周辺のデスパー滝にいるというのだな」  グラムはぐたりとうなだれていた。反乱軍に王子の場所を知らせに行こうとした彼は、 帝国軍の陣地に迷い込んでしまったのである。 「そして、デスパー滝に出没するという竜は、幻術師の作り出した偽物だというのだな」  帝国軍部隊長はニヤリと笑った。反乱軍のものたちはこの事実を知らない。幻影の竜と 帝国軍の挟み撃ち。考えるだけでも傑作な作戦であった。グラムは自分の無力さに涙した。 「泣くな。寂しくないように、お前の友達とやらもすぐに後を追わしてやる」  「すまない、ボルト。俺のために……」グラムは心の中でそう呟いた。 ────────────────────────────────────────  幻術師ボルトは自分の名前が嫌いだった。ウェイン王国を踏みにじった帝国皇帝の名前 と同じ名前だったからである。彼は幼い頃から王子の遊び友達だった。彼自身は昔はひ弱 で、よく王子に守ってもらっていた。そして、王子のためなら命を懸けれると信じていた。  ボルトは修行の旅に出ていたのだが、王国の現状を旅の途中で知り、旅で知り合ったグ ラムと共に急遽引き返して来たのだ。そしてたまたま野営した滝の裏で、王子の死体を発 見した。彼には分かった。それが術による仮死状態だということが。 「グラム……遅いな」  ボルトは、反乱軍を呼びに行ったグラムが心配になった。王子の死体を発見して以来、 彼は幻の竜を作り出すことによって、帝国軍の兵士を遠ざけていたのである。「!」結界 を誰かが通った。侵入者だ。彼は感覚を研ぎ澄ました。魔法具の反応を多数感じた。 「ちっ、帝国軍か。」  ボルトは魔法用の呪符を滝に投げ込んだ。《幻の盾》の呪文を唱えた。するとデスパー 滝の上空に幻の竜が現れた。 ────────────────────────────────────────  デルタ・クロネッカーは森の中反乱軍の後をつけていた。「デスパー滝」彼はこの近く に滝があったことを思い出した。「先回りさせてもらう」デルタは素早く滝へと向かった。  ウェーバーたち一行は滝の下までたどり着いた。彼らが滝の裏に向かおうとすると、突 如上空より竜が飛来してきた。 「ひるむな!竜が何ぼのもんだ。俺たちの力を見せてやれ!」  ウェーバーが怒鳴り声を上げた。ウィルは腰を抜かせた。  変だなと幻術師ボルトは思った。いつもなら逃げて行くはずの帝国軍が、敢然と竜に立 ち向かってくる。使いたくなかったが、どうやら《幻覚魔獣》の術を使用しなければなら ないらしい。しかしこの術は死人がでてしまうかもしれない。彼が考えている間に《幻の 盾》は打ち破られてしまった。もう迷っている暇はない。彼は呪文の決意をした。 「よし、竜が消えたぞ!」  ウェーバーたちは歓声を上げた。その時、空が光ったかと思うと、もう1匹の竜が現れ た。そしてウェーバーたちの背後から、帝国軍が奇襲してきたのである。ウェーバーたち が驚く暇もなく乱戦となった。竜と帝国軍を相手にしなければという不安が、第一部隊の 動きを鈍くしていた。 「あらら。何やってんのかしら。あんな雑魚に負けたら困るのよ。さっさとプリムローズ を探し当ててちょうだいね、おじさん。そしたら、ご褒美に苦しまないように殺してあげ るから」  ウェーバーたちの頭上から女の子の声が響いて来た。「またお前か!」ウェーバーが上 を向いた。そこにはミューの手下、イプシロンの姿があった。 「何物だお前!それに俺はおじさんじゃない。お兄さんと呼べ!」  「あらら……」イプシロンは苦笑した。  イプシロンはミュー様の言葉を思い出していた。「王の血と神の血が呼び合うのは逆ら えぬ運命。やがてプリムローズがでてくるわ」  イプシロンは一声「フライング・キラー!」と叫ぶと竜を攻撃した。竜の体のあちこち から鮮血が噴き出る。竜は報復の炎を吐いた。反乱軍と帝国軍に火の手が上がる。途端に 両軍は大混乱となった。  「何!あの竜は幻覚ではなかったのか」帝国軍の部隊長の悲痛な叫びが漏れる。  「この隙に、滝の裏にある洞窟に侵入させてもらう」この混乱を待ち望んでいたデルタ は、単身滝の裏に向かった。 ────────────────────────────────────────  滝の裏は外よりも温度が低かった。デルタは足元に気をつけながら、奥の洞窟に入って 行った。 「止まれ!お前は誰だ!」  洞窟の奥より声が聞こえた。幻術師ボルトのものである。ボルトは目を凝らして見た。 そこには長い黒髪を束ねた帝国軍の軍服を着た青年が立っていた。 「帝国軍どもに王子はわたさん!」  ボルトは呪符を構えた。デルタはそのまま奥へと歩きだした。 「邪魔をするな。無益な殺生はしたくない」 「それ以上先にはいかせん!」  ボルトは呪符を放った。デルタが退いた時には遅かった。既にデルタはボルトの術中に はまっていた。デルタの意識が薄れ行く。 「その呪符は、その人間がもっとも恐怖する場面を見せ続けるものだ。当分そこで苦しん でいろ」  ボルトはそう言って、外の様子を見に行こうとした。デルタは、過去のあの場面を思い 出していた。  幼いデルタは父を仰ぎ見た。これが敗戦の将の顔であるのだろうか。父の顔には信念が 満ちていた。デルタは、元は帝国内のとある領主の息子であった。しかし帝国が肥大する に従い、帝国からの税が増大し、領主である父は民のために帝国に牙を向いた。だが1ヶ 月後には反乱は鎮圧。彼らは捕らわれ、女魔術師ミューの前に引き出されていた。デルタ はミューに対して憎悪の感情をぶつけた。 「……お前がクロネッカー家の跡取りね。ところでクロネッカー卿、取引をしません?あ なたの息子の命を助ける代わりに、あなた自ら自分の命を断つという……」  ミューは護身用のナイフを地面に放り投げた。デルタの父は、最後にデルタの頭をなで てやり、そしてそのナイフで自らの命を断った。デルタは声にならない叫びを上げながら、 そのナイフを抜き取り、ミューへと突き立てた。ミューは微動だにせずそれを受けた。父 の血で濡れたナイフがミューの体に深々と突き刺さる。  「今日からお前は私が引き取るわ」ミューはそう言った。「私の身体の中には、今ナイ フより注がれた血によって、お前と同じ血が流れている。今日より私がお前の師となり母 となる。そのナイフは無くさず持っておくのね。あなたの父の形見なのだから」  デルタの心が弾けた。デルタを中心として凍気が放射された。洞窟が急激に凍りつく。 「何!この巨大な魔力はこの男から……」  ボルトはしゃべり終わる前に凍りつき砕け散った。凍気は止まることを知らず、滝を凍 りつかせ砕け散らせ、辺りに光り輝く氷の結晶を降らせた。 「竜が消えた!」  第一部隊の面々は空を仰いだ。空にはすでに竜の姿はなく、氷の雨が降っていた。「火 が消える!」第一部隊は猛反撃にでた。帝国軍は撤退して行った。  デルタは洞窟の奥へ向かっていた。「師匠、いやミュー、いつまでも貴様の下に居るわ けではないぞ」デルタは呪文のように呟き続ける。デルタは王子の死体からナイフで血を 取り、それを手早く布に染み込ませ、その場を去った。頭の中にはミューの声がこだまし ていた。「血を検めるわ……、血の濃さが問題ね……、デルタの血は……、ラスヴィルの 血は……、血は……、血は……」 ────────────────────────────────────────  ウェーバーたち一行は洞窟の奥の王子の死体の前に膝まづいていた。 「王子、必ずお救い申し上げます」  ウェーバーたちはそう言うと王子の死体を回収した。サラは大地母神に祈りを捧げ、王 子の復活を願った。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■今回のシナリオ■ ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  今回参加者を募集するシナリオは、以下の2種類です。あなたが参加するシナリオをど ちらか1種類だけ選択して下さい。 ●シナリオ05『ウィッチハウス島』  本部を離れた反乱軍一行は、新たなる地を求めて進んでいた。彼らの行く先はウィッチ ハウス島。ヨタは危険を冒してまで海を渡る必要はないと主張したが、ラドは譲らなかっ た。ウィッチハウス島にある何かが、彼の心を揺らがないものにしていたのだ。不安を隠 しきれないヨタは、仕方なくウィッチハウス島の反乱軍と連絡を取るのだった。その頃帝 国軍では、2つの部隊の派遣が決定した。1つは反乱軍本部への部隊派遣。もう1つはウ ィッチハウス島への3度目の挑戦であった。 ・ヨタの一言「一体ラドは何を知っていると言うのでしょう」 ・ラドの一言「ウィッチハウス島に行けば分かる。あそこは伝説の地なのだ」 ・テスラの一言「ウィッチハウス島攻略の部隊に参加させられるとはな。事実上の降格か」 ●シナリオ06『プリムローズ』  反乱軍のウェーバーとその第一部隊は、取り敢えず王子の安全を確保するために本部へ と向かった。その途中、第一部隊一行は何度かプリムローズの姿を見た。誘われるように 彼らは、ザークの谷に入り込む。その様子を見て忍び笑いをする老人がいた。帝国軍参謀 アンペアである。アンペアは笑いが堪えきれなかった。プリムローズ捜しで捕らえた女を 改造し作成した偽物のプリムローズに、反乱軍一行がまんまと騙されてくれたからである。 この谷の両側から攻撃されては、最強の第一部隊といえども勝ち目はなかった。最大のピ ンチが訪れる。 ・ウェーバーの一言「何かおかしい。嫌な予感がする。なぜ俺たちはこの谷に向かってい  るんだ?」 ・サラの一言「何かしら、歌のようなものが聞こえるわ。この澄んだ声は……」 ・アンペアの一言「けけけけけけけけ。最後に手柄を立てるのはこのわしじゃ」 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第2回名声ランキング(敬称略) ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ●5point:きむ ゆんすん(エルダー・フレイム)/村岡博幸(イプシロン、ロジェスト、 ボルト、グラム、、マルク=レート) ●4point:夕惟猗(デルタ・クロネッカー) ●3point:よっとだ(カジ)/NRA(ウィリアム・カーン) ●2point:あめふらし(キャス=クリム、白の凶)/G☆G(ウィリアム=クライス) ●1point:志柿俊光/中島一州/松本彰  今回は、村岡博幸さんの数撃ちゃ当たる作戦(?)にやられました。ロジェストの所の 設定、地名(デスパーの滝、ウィッチハウス島)で2点稼ぎました。また、きむゆんすん さんのエルダー・フレイム/ルーツの設定がよかったです。夕惟猗さんよっとださんは、 ページを増やすのが実現したので1点獲得しました。NRAさんは「なんで、ミューには あんだけひっついている奴がおるのに、テスラにはおらんのや!不公平やんか!!」にやら れました。お陰でテスラが重要な人物に昇格しました。あと、タイトルイラストに絵を使 わせてもらいました。