●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●   …………………………………………SEEK…………………………………………   第 8 回 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 柳井政和 (C)1995 Masakazu Yanai Reproduction 1998.12.19 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ14●『神への挑戦者』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  「我々ミューは決して一枚岩ではないのよ。いつ自分達で争うかもしれない。神達と何 ら変わりはないのよ……」ミューの去り際の言葉がイプシロンの心を呼び覚ました。  ミュー様も完全ではない。誰かが助けてあげなきゃ。それができるのは私だけ。私は負 けられないのよ。イプシロンはその体を操っているミューに抗った。 「イプシロン。もう少しだけあなたの身体を貸しなさい」  「だまれ!デルタ君を利用したことには耐えられないって言ってるのに、私の意志を踏 みにじるのは構わないってわけね!」イプシロンの言葉にミューは一瞬動揺する。  イプシロンはその一瞬の隙を利用してミューの部屋に瞬間移動した。イプシロンは、ミ ューのためにもこの鏡の間を守る必要がある。鏡の間でイプシロンとミューは静かな戦い を始めた。互いに1つの体をめぐって、精神力の限りをつくしてぶつかりあっていた。 ────────────────────────────────────────  「デルタ様」階段を駆け降りていたデルタの部下達が足を止めた。  階段の上方より靴音が迫ってきていた。デルタも振り返って暗闇に目を凝らした。 「デルタ様。一足先に目的地に向かって下さい。ここは我々が食い止めます」  彼らは剣を引き抜いた。デルタは頷き走りだした。部下達の明かりが遠ざかって行く。 ────────────────────────────────────────  同盟軍は帝都をほぼ完全に掌握し終わっていた。今は、兵士たちは帝都の消化活動に従 事している。フォトンは皇宮を仰ぎ見た。帝国の兵士たちは皇宮の中にいる。王国の兵士 たちは、同じ皇宮でもその庭の天幕である。  「テスラ達は宮殿か……」フォトンは漏らした。隣のラドが肩に手を置き首を横に振る。 「それよりも今は王子の心配をしよう。王子は銀竜が陣取っている屋敷に消えたそうだ」  フォトンがその知らせを聞いて駆け出そうとする。ラドはフォトンを制する。 「いや、よいじゃろう。あの竜は王子を守っているのだ。わしにはそう思える」  その時、銀竜ともう1匹の竜が空に飛び立った。空がにわかに曇り出す。  「何か雲行きが悪いですよ。何か起こる予兆では」フォトンはラドをせかした。 ────────────────────────────────────────  再び皇宮に戻って来たカロミリアンは落ち着きを失っていた。この皇宮は、彼女が父を 殺した場所なのだ。カロミリアンは逃げるように神殿にこもっていた。テスラも忙しく、 カロミリアンに構う余裕などない。カロミリアンは、一心不乱に神に祈った。 「姫様。ここではお泣きになってもよろしいのですよ」  1人の女性がカロミリアンの顔を胸に引き寄せた。ボルトの次女だった彼女は、同時に カロミリアンの姉の様な存在だった。堰を切った様にカロミリアンの目から涙がこぼれ 落ちる。その女性はゆっくりと彼女の頭をなでてやった。  「ジェンヌ……」カロミリアンは彼女の胸に顔を埋める。  「姫様。本当はあなたには向かないのです……こんなことは。姫様、これからはあなた が犯した罪を償って生きて行きましょう。姫様が望むのなら、私は姫様を帝都の外に連れ 出して……」激しい音と共に神殿の扉が開け放たれた。  「そんなことをしてもらっては困るのですよ。カロミリアン姫!各地で独立のための反 乱が起こっています。今、姫がいなくなれば、帝国はその核を失うのです!」  「テスラ!あなたは姫様になんということを!」ジェンヌが叫んだ。 「姫。あなたは惑わされています。あなたにはやるべきことがあるのです!」  テスラは部下たちに、カロミリアンを神殿の外に連れて行かせた。 「テスラ!あなたは姫様を何と思っているのですか。あなたも皇帝の恩寵を賜って……」  テスラは鞘から剣を抜いた。金属の擦れる音が神殿に反響する。 「幸いにも姫はここにはいない。姫はお前が死んだことを一生知らないで過ごすだろう」  テスラが剣を振り下ろすと共にジェンヌが豪火に包まれた。ジェンヌは悲鳴を上げる間 もなく灰になった。 ────────────────────────────────────────  銀竜とミカは、空に飛び立ったミューを追っていた。今、ミューを天空神のもとに向か わせてはならない。全ての武器をラスヴィルに託したプルームは、完全な無防備だったか らだ。ミューは天空の城ガゼルにたどり着いた。白亜の城門がミューの前にそびえ立つ。  「待て!それ以上は行かせん!」門をくぐろうとしたミューを炎が襲った。  2匹の竜はガゼルに降り立った。ミューが炎をその吐息で凍らせる。ノーデンスの力だ。 銀竜とミカは飛び立ち、ミューに向かい急降下した。ミューが両腕を2匹の竜に突き出す。 「お前たちは分からないのか。今の私は4柱分の神の力を使えるのだ」  天空城に竜の恐怖の声がこだまする。竜の姿は消え、ミューの両腕には光り輝く2本の 斧が握られていた。ミューは悠然と城門をくぐり抜けた。城の最奥部にプルームはいた。 「ミュー。お前たちは、本当に神の意志なしで、人間がやっていけると思っているのか」  天空神の目は、既に敗北を確信していた。天空神は玉座で静かに目をつぶった。 「人間は自らの力で生きて行くのだ!」  ミューの手から2本の斧が放たれた。プルームを貫いた斧は、白亜の壁に甲高い音を立 てて突き刺さり、そして砕け散った。ミューはプルームの頭に手を置いた。そして天空神 もその中に取り込んだ。玉座の後ろを中心に、ガゼルに無数のひびが入った。 「……次は海神……」  天空の城は崩れ、その巨大な残骸は海へと落下していった。その破片の1つにミューを まとったサラはいた。海を引き裂くかの様に、残骸は激しい水柱を上げた。 ────────────────────────────────────────  2人の戦いは続いていた。時は過ぎ、サラ=ミューは神々を飲み込んで行く。イプシロ ンと戦いながら、ミューはイプシロンの力の強さに焦りを感じていた。これ程イプシロン の力が成長していたとは、このままでは計画通り、集めた神の力を封じる器として使用で きてしまう。神の力を集めても、ミュー自身はそれを保つことはできない。心が閉じられ ていないからだ。何かに固定するしかないのだ。神の力を支えられるだけの許容のある強 力な体であり、神の力を我欲のために使おうとする意志のないものでなければならない。 神の力を利用しようとする者があらわれても、それから逃れられる能力があり、何よりも 永遠に機能できるもの。イプシロンはその条件を全て満たしていた。  ミューの部屋に、デルタの靴音が聞こえ始めてきた。そろそろこの部屋にたどり着く。 「早くこの部屋を見つだし、全ての鏡を壊すのよ。そうすればミューは止められる」  ミューがイプシロンの口を使って喋ろうとする。彼女にとって最後の希望だ。 「アララ、そんなこと私の体がさせると思っているの。私の心なんてつい最近できたもの よ。今あなたが私の心と戦っているのとは別に、私の体はミュー様を守るために動き続け るわ。あなたは私の心と戦い続けるしかないのよ!」  イプシロンの体は靴音に反応して動き出した。ミューのために侵入者を撃退するためだ。 その動きは以前の様に、冷酷で機械的であった。 ────────────────────────────────────────  マルクはヨタと行動を共にしていた。空を飛ぶ者は追いかけられない。ウェーバー隊長 の話では、サラさんはミューという魔女に連れ去られたらしい。ミューのアジトを皆で襲 い、ミューの企みを阻止するしか手がなかった。シナモンの話では既に6神が融合してい るらしい。そのシナモンも元気がない。プリムローズの意志がなくなって久しいからだ。 「もし、このままプリムローズ様の意志が戻らなかったら、私は溶けて塩になってしまう。 でも心配しないで、あなたのサラちゃんは大丈夫。きっと普通の人間に戻れるわ」  そうじゃない、君がいなくなるのは寂しいなと思ったからだ、とマルクは言おうと思っ てとどまった。何考えてんだ俺は。まるで口説き文句じゃないか。  帝都に入った。今一緒にいるのはヨタ、ウェーバー、リー、ウィリアム=カーン、シナ モン、そしてウェーバー隊の何人かだ。  テスラにマルクやシナモンの姿を見られるのはまずい。それに、ヨタはウィリアムに説 得されテスラと会う約束をしていた。時間もない。一行は二手に別れた。マルク、シナモ ン、ウェーバーと、ウェーバー隊の一部は帝都のミューの屋敷に向かうことになった。王 子達もそこを目指しているはずだ。  「私が案内するわ」エレスが帝都の中で待っていた。  エレスの先導で、一行はミューの屋敷を目指した。 ────────────────────────────────────────  ヨタとリー、ウィリアムは直ちに皇宮に向かった。天幕のフォトンとラドが気がつく。  「ヨタ!無事だったか」ラド将軍がヨタに駆け寄る。  「ええ、大変なことになっている様ですね。急いでテスラとの会議を準備しなければな りません」ヨタがウィリアムに、すぐさまテスラへと連絡をするように告げた。  「ヨタ、どうしたのじゃ。何か重要な情報でもつかんだのか?」ラドが聞いた。  「今からの会議いかんでは、帝国と王国は再び戦争状態に突入します。帝国は現在非常 に不安定です。反乱も勃発しているようですし。……急ぎましょう。戦争だけはさけなけ ればなりません。軍人の私が言うのも何ですが、戦っては駄目だと思います。できればこ の先ずっと……」ヨタはリーにほほ笑みかけた。リーがヨタの目を見て頷いた。 ────────────────────────────────────────  「ぐふぁあ!」デルタの部下の最後の一人が、ドムグフの義手にたたき潰されて死んだ。  「先を急ぎましょう王子!」一行は再び階段を走りだした。  そろそろか……。バレオは兜のひさしを目深に下ろし、右手を体の陰に隠した。 ────────────────────────────────────────  デルタは懐かしい扉を再び目にした。一体どれだけの時をこの場所で過ごしたことだろ うか。次々に扉を開けて行く。そして最後の扉を開けて鏡の間にたどり着いた。 「やはりあった。この鏡を壊せばきっとミューは……いや、それよりもサラを……」  デルタは部屋を探そうとして、何者かの気配に気づいた。  「警告します。この部屋に許可なく立ち入ることはできません。許可なく入る者は除去 されますが、当方では責任を負いかねます……」無機質な声でイプシロンが警告する。  デルタは手近の鏡を背にしてレッドロードを構えた。イプシロンが間合いを取る。下手 に飛び道具や魔法を使って鏡を壊す訳にはいかない。またデルタも動けなかった。少しで も隙を作れば命はない。デルタは少しずつ移動しながら、鏡に映る世界の光景を覗いてい った。このどこかにサラの姿があるはずだ。 ────────────────────────────────────────  サラ=ミューは北の大地に降り立った。カジはミューの行く手に立ちはだかる。  「女神様から全てを聞いた!私の女神様は渡さないぞ!この世界から、神々を消し去ろ うなんて許さない!」カジはミューに指を突き立てた。その背後には秋の女神がいる。 「プリムローズお姉様、いやサラさん。思い出すのです。あなたが想っている人のために」  ミューは大地を踏み締めて迫って来る。カジは腕を、ミューに振りかざした。  「女神様に捧げる私の愛の一撃!」カジの魔法はミューの手前でかき消された。  「……お前は全てを聞いたと言ったな」ミューはカジの頭をわしづかみにした。  「全てとはこういうことだ!」ミューは吠えた。神々への怒りが爆発する。  カジの頭にミューの記憶が流れ込んで来る。ミュー達の悲壮の決意が、そして神々との 戦いの歴史が。カジは短い叫び声と共にその場に倒れ込んだ。その髪は白髪と化していた。 「さあフルーティア。次はお前の番だ……」 ────────────────────────────────────────  テスラ、ロジェスト、カロミリアン、ラド、ヨタ、……同盟軍の主な者が集まっての会 議が始まった。帝都攻略後の処理を速やかに解決するためのものだ。ヨタはテスラの出方 を伺った。これ以上戦争を続けてはいけない。帝国の反乱処理に巻き込まれないように、 すぐさま王国軍を引き、王国再建を認めさせなければならない。ヨタは全神経を帝国の者 達の一挙手一投足に注いだ。彼らの考えが、感情が、次第に見え始める。彼らの思惑をう まく利用して、最も有利な形で話を持っていかなければ……。  リーはヨタの後ろで静かに会議の様子を見守った。これ程真剣なヨタ様は見たことがな い。空気が張り詰めている。そしてようやくヨタが口を開いた……。 ────────────────────────────────────────  王子達一行は次々と開け放たれた扉をくぐった。ドムグフの心に一抹の不安が走る。王 子が、デルタを逆恨みして攻撃するようなことがあってはならない。デルタからは、ミュ ーを倒す方法を聞き出さなければならない。列の一番後ろでは、バレオが注意深く辺りを 伺っていた。どうやらここが目的地のようだな。ならばこの奥に、あのデルタがいる。  デルタはイプシロンとの間合いを取りながら、サラが映っているはずの鏡を探していた。 「んっ……。数人の足音……ベクトル達か。それとも他の侵入者か……」  王子達は鏡の間になだれ込んだ。デルタ、イプシロン、無数の鏡が彼らを出迎える。  「サラ様を汚した男だ!」バレオが最後尾から叫んだ。王子の表情が一変する。  黄金の剣が一閃し、宙を舞ったラスヴィルがデルタに襲いかかる。  「王子!」ドムグフが止めに入ろうとする。しかし、王子は続けざまに三撃を加える。 デルタのレッドロードが辛うじてその猛攻を受け止める。イプシロンはその隙を狙って彼 らに襲い掛かろうとした。その時、イプシロンにミューからの命令が聞こえる。 「イプシロン。今すぐ私の元にやってきなさい!」  その声はイプシロンの心の中にも聞こえた。イプシロンはミューの声に力を付け、最大 の一撃に心を集中する。独りのミューは思った。このままでは、ミュー達を止めることは 不可能だ。唯一の方法は、イプシロンに自らを吸収させることだ。そうすれば、イプシロ ンの中に不協和音としてミューが住み着き、心は閉じられなくなる。ミューが躍起になっ て神を狩ろうとも、神を封印する器が無ければ全ては終わる。  封印さえ阻止すれば、神はいずれ自力でSEEKを打ち破り、元の姿に戻るだろう。ミ ューの計画を知らないイプシロンは、ミューの力の弱まりを逃しはしなかった。ありった けの精神波をたたきつける。イプシロンの目に意志の光が戻る。  「ミュー様、今行きます!」イプシロンは1つの鏡に飛び込んだ。  イプシロンは、遥か地下にある大地母神の洞窟にたどり着いた。むき出しの岩肌が、辺 りを流れる溶岩に不気味に照らされている。そこには、今し方最後の八柱神を取り込んだ ミュー……サラがいた。イプシロンは一歩一歩ミューに近づいて行く。 ────────────────────────────────────────  「サラ!」デルタはイプシロンの飛び込んだ鏡に彼女の姿を認めた。 「レッドロード!私に力を!私のこの思いを力に変えてくれ!」  レッドロードから灼熱の球が弾け出る。  「危ない王子!」ドムグフがその球を義手でつかんだ。  激しい衝撃と共に義手が吹き飛び、ドムグフは壁にたたきつけられた。デルタはサラの 映った鏡に飛び込もうとする。ラスヴィルは、黄金の剣を絶叫と共に振り上げた。剣に黄 金の光が集まる……。 ────────────────────────────────────────  「……お前がイプシロンの心に取り付くことは分かっていた。そうするしか方法は残さ れていなかったわね。……この体もそろそろ限界。SEEKごとイプシロンの中に封印す れば、私の全ての目的は達せられる」サラ=ミューはイプシロンに微笑んだ。  「ミュー様……」イプシロンは、溶岩に照らされたサラの顔を見た。 「例え人であれ、神であれ、私達の邪魔はできない。イプシロン。よく見ておくのよ!」  ミューは全てを決心したかのように目をつぶった。その時洞窟の空間が開く。  「サラ!」レッドロードを握り締めたデルタが、鏡をくぐりその上体を現した。  「デルタ君!」イプシロンがデルタの方を向こうとする。  「私を見るのよ!」ミューが厳しい声を上げる。 ────────────────────────────────────────  「デルタ・クロネッカー!」王子は剣を振り下ろした。光が弾ける。光の衝撃波が鏡を なぎ払う。光は部屋を舞い、連鎖的に部屋中の鏡を砕いて行く。デルタがくぐりかけてい た鏡も吹き飛んだ。部屋にいた全員が、光の反射で打撃を受け気絶した。 ────────────────────────────────────────  デルタの上半身が血しぶきを上げて宙に舞った。くぐっていた鏡が割れたのだ。上半身 だけが宙に舞う。同時に全てのミューが砕け散った。サラを覆っていたミューも、イプシ ロンに巣くっていたミューも。イプシロンが悲鳴を上げる。悲鳴は溶岩の熱音にかき消さ れた。イプシロンの目には全てが焼き付けられた。SEEKが、そして八柱神の力が。今 や、サラはただの人間に戻り、全ての神はイプシロンの中に固定されていた。イプシロン は数歩下がった。  「嘘よ。そんなの嘘だわ……」イプシロンは逃げる様にその場から姿を消した。  「デルタ!」意識を取り戻したサラがデルタに駆け寄る。  デルタは残りの力を全て振り絞り、サラに手を差し出し、サラの目を見た。サラは涙を 流しながらデルタの手を握り、その体を抱きかかえた。デルタの目から生気が失せて行く。  溶岩の明かりが鈍く2人を照らす。サラはデルタの唇に、そっと自分の唇を重ねた。 ────────────────────────────────────────  イプシロンはガシュタットの研究所に戻っていた。イプシロンの心は深い悲しみで満た されていた。研究施設の封印されたスイッチを入れる。彼女は作りかけのイプシロンのコ ピーに命を与えた。1人では寂しかろうと男女1人ずつ作り、女の子にパイ、男の子にタ ウと名付けた。イプシロンは研究所の一番奥に座り込んだ。 「いいこと、2人共、この部屋に人を入れては駄目よ。侵入者は全て抹殺しなさい」  イプシロンはそう言い残すと、長い眠りについた。彼女はどんな夢を見るのであろうか。 「……もし、あの子達を倒す程の、強力な力の持ち主が現れたのなら、その人をご主人様 にでもしよう……もしあの子達が自我に目覚めて、私を起こしてくれたなら、その時はあ の子達と3人で暮らそう……」 ────────────────────────────────────────  「一体どうなっているんだ」ウェーバーが呟いた。  ウェーバー達がミューの部屋にたどり着いた時には全てが終わっていた。鏡は全て砕け 散っており、王子達はその部屋で倒れていた。ウェーバー達が王子達を介抱する。マルク はその中にサラの姿がないかと探した。そしてシナモンに振り返る。 「サラさんの場所はまだ分からないのかい。……どうしたシナモンしっかりしろ!」 「……もう遅いわ。もう2度とプリムローズ様の意志は蘇らない……」  ウェーバー達が集まってくる。  「で、どうなったんだ。……どうなるんだ」ウェーバーがシナモンに問い正した。 「この世界から、全ての神の意志がなくなったわ……」 「全ての神の意志がなくなったってどういう意味だ。おい!」  最後にシナモンは人間サイズに巨大化し、驚くマルクを抱き寄せ口づけをした。 「頑張ってね、マルク。今まで、ありがと……」  シナモンは溶けて塩になった。マルクはその塩をつかもうとした。塩は空気に溶けて消 えて行く。ウェーバーがマルクの肩をたたいた。 「どうも、全部終わっちまったみたいだな。しゃあねえ。救助隊が来るまで待つとするか」  ウェーバーはそう言って腰を下ろした。マルクが膝をつく。 「僕はサラさんが好きだったはずなんだが……。卑怯だぞシナモン……」 ────────────────────────────────────────  帝国と王国の会議は続いていた。空はここ数カ月なかったぐらいに晴れ渡っていた。空 から見下ろしたザイン帝国の帝都は、傷を癒すために休息する、古参の戦士の様にも見え た……。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ15●『エンディング』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  あれからどれくらいが経っただろうか。ヨタは窓の外を眺めた。軍を退役して何年かが 過ぎた。今では彼は、大賢者と呼ばれていた。送られて来た書簡の1つに目を通す。それ はピコ・ファラドからの書簡であった。彼女は今、帝国の将軍の列伝を編纂しているらし い。ヨタは彼女に、ある情報の提供を依頼していた。それはファー=ラドについての真実 であった。  彼女の書簡に目を通す。最後にピコの私信が添えられていた。テスラが戦死。その戦死 は、カロミリアン女帝の策略の可能性が高いというものであった。しかし、その動機は不 明であるという……。  「ヨタ様、久しぶりですね」ノックもなしにヨタの部屋に軍人が入って来た。  この部屋にノックなしで入って来る人間は少ない。その中の1人、リー=ラドは荷物を 部屋の隅に置いた。手には1通の手紙を持っている。  「今日は、海軍提督に就任したことの報告に伺いました」リーは椅子に座った。 「それはおめでとうございます。いやいや、リー君は次期将軍との声もありますし」 「いえ、そんな。僕はまだまだ学ぶことが沢山ありますし……」  笑い声が交じりながら会話は続く。ヨタがリーの持っている手紙に気づいた。 「その手紙は誰からのですか」 「あっ、これですか。いや、驚かないで下さいよ。……ウェーバーさんからです」 「……驚きました。それは本当に驚きますね。で内容は……」  手紙を受け取ったヨタは手紙を読み始めた。  「……おい、ヨタ!それにリー!突然だが、俺の娘が王国の財宝を荒らしに行くぜ!金 髪で青い目のとびきりの美少女だぜ!会っても襲い掛かるんじゃねえぜ、特にリー!そろ そろストレスの溜まる役職につくそうじゃねえか。俺の耳は地獄耳だからな。それじゃあ、 生きていたらまた会おう。……相変わらずですね」ヨタとリーは苦笑した。  ヨタが手紙を書簡の山の上に置いた。  「で、あれはどのくらい進みましたか?」リーがヨタの机の中を覗き込む。 「まだまだほんの一部分ですよ。世界各地のSEEKER達に送ってもらった情報を集め、 真実の歴史を発掘する旅は。私1人で終わる作業ではないですよ。今9冊並んでいるこの 歴史書が、この先何冊になるかは分かりませんね」  ヨタとリーはあの戦争を思い返した。結局ミューが何者かを知ることはできなかった。 そして戦争の背後に何があったかを。  「……ヨタ様……」扉の所に小さな少女が立っていた。  リーは、ヨタが戦災孤児を引き取って育てていることを思い出した。あれから戦争がな くなった訳ではない。帝国の反乱鎮圧から始まった戦乱の機運は、ウェイン王国をも巻き 込んでいた。 「どうしたんだいライザ。花瓶でもひっくり返したのですか、水浸しになって」  ヨタはその少女の髪を拭いてあげながらリーに説明した。 「この娘は最初に引き取った子供ですよ。2人目はシェリーという名前で……」 ────────────────────────────────────────  荒波が水しぶきを上げる。ガシュタットの研究所があるこの島に、1人の白髪の男が現 れた。男は短い呪文を唱えて研究所の正確な位置を探す。 「何者だ!侵入者は直ちに引き返せ!」 「さもなければ我々が撃退する!」  研究所を守る男女の人造人間、パイとタウがその男の前に立ちはだかった。波の砕ける 音が鳴り響く。風はまるで嵐の訪れを予感させる様に、強く激しく吹いていた。男の白髪 が風になびく。男は2人の方に歩き始めた。その顔には深いしわが刻み込まれており、決 意の表情が浮かんでいた。 「我が名はカジ、SEEKERだ。私は、隠された真実を探しに来た……」 彼の表情には、ミューの面影があった。              −SEEK END− =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第8回名声ランキング(敬称略) ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ●21point:村岡博幸(イプシロン、シナモンcatchマルク=レート、天空の城ガゼル) ●15point:どんぶり(ライザ) ●13point:きむ ゆんすん/夕惟猗(銀竜、デルタ・クロネッカー、デルタの部下7人衆 &クロネッカー領の元家臣、フォトン・ヘルツ、ミカ) ●11point:サタクレ ●10point:よっとだ(カジ) ●8point:あめふらし(バレオ・クリム)/伸幸(ドムグフ)/松本彰(エレス・レイシ ル) ●7point:NRA ●6point:九条一馬(ジェンヌ) ●4point:風幻(ピコ・ファラド、フルーティア、レッドロード) ●2point:G☆G/志柿俊光 ●1point:中島一州  村岡さんはうまい行動(ほぼ全て採用)、イラストで点を稼ぎました。どんぶりさんは 最終回後のおまけの提案、イラストで点を稼ぎました。カジさんはイラストで点を稼ぎま した。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■没対策 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  「没が多かった……」と書かれていた方がいらしたので解説します。まず1つの理由は 前回にも書きました禁忌に触れたということです。禁忌は前回に載せた以外にも色々あり ますが、主にあの中でひっかかっていた様です。次の理由は、投稿の原則に従っていなか ったからです。原則には以下の様なものがあります。これは書かれているものではなく、 普通暗黙の内に決まっている様です。 ●担当者の趣向を見抜く(SEEKではキャラクターと世界観)。 ●方向性に逆らわない(SEEKではストーリー展開)。 ●自分を卑下しない(自分を卑下することは他人を否定することになる)。 etc.  後は文章に散りばめられた伏線や、マスターの主張を見落とさなければ没はないはずだ と思います。また、敢えて禁忌のスレスレを狙って駆け引きをしていた人もいました。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■キャラクター人気投票の結果 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ●1位:ミュー様 ●2位:ヨタ様 ●3位:サラ ●4位:アンペア ●5位:イプシロン ●6位:テスラ総統、デルタ ●8位:ファラド将軍 ●9位:ウェーバー ●10位:バレオ、ライザ ●12位:アナハイム、シェリー、ノーデンス、マルク、ラスヴィル王子 ●17位:キャス、シナモン、フルーティア、ミカ ●21位:ウィリアム・カーン、カジ、カロミリアン姫、セルビオ、ラド将軍 ●26位:エレス・レイシル、ガンマ船長、シータ、ダークカジェル、天空神プルーム、ド ムグフ、百鬼衆、ボエラ、マリアンヌ、リー