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2008年03月14日 17:19:06
 友人のryota氏の出演している演劇「きっと明日も、桜散る」を、友人のはやかわ氏とともに一月下旬に見てきました。

 ryota氏も、はやかわ氏も高校時代以来の同窓の友人です。

 銀座の小劇場での観劇で、同じシリーズの演劇を見るのは今年で三回目。毎年一回行われています。

 今回は、劇団としての旗揚げ公演ということでした。

 方向性としては、ある程度笑いありの、真面目な演劇という感じです。

 いわゆる「演劇」と聞いて、普通の人が思い浮かべるものだと思います。

 前衛系ではなく、きちんと役を演技して、物語を作るといった内容です。



 毎年見ていての感想なのですが、一年ごとに出来がよくなっています。

 今年は、前の二回よりも格段によい物になっていました。

 そして、脚本的にも優れたものになっていました(脚本家は、前二回から違う人に変わったそうです)。

 基本的に、満足しました。なので評価は高いです。

 ただ、そういった評価とは別に、問題だと感じる部分もありました。

 以下、感想の前に、演劇における難しい点だと感じた部分を書いていこうと思います。

 時間的には、映画と同じ二時間だったので、映画との比較を中心にしていきます。



 まず、私が見た演劇は、基本的によくできていました。

 普通に観劇して、泣かせどころで泣き、笑いどころで笑えるものでした。

 実際、かなり泣いて涙を流しましたし、大笑いしました。

 そういった意味で、値段と時間に対する満足度は高く、及第点は超えています。

 その上で、いろいろと書いていきます。



 まず第一に挙げられるのは、役者に対する時間配分の問題です。

 演劇は映画と違い、登場人物の軽重を付け難いという潜在的な問題があるようです。

 そのことを理解するために、まずは映画について書きます。

 ハリウッド映画などは、スター中心のシステムで、主役の視点で話を進めていきます。

 これは、二時間という短い時間で長いストーリーを語る上で、無理のない方法であり、観客の没入感の高い演出方法です。

 この方法では、出演者ごとに画面に出る時間が大きく違います。主役はほとんどの画面で出続け、端役は数分や数十秒で退場します。



 しかし、劇団系の演劇でこの方法を使うと問題が起こってきます。

 主役が割り振られた人も、端役が割り振られた人も、準備に要する時間はそれほど変わらず、そこに掛けるコストも大きくは変わらないからです。

 そのために、端役になった人の負担が非常に大きくなります。

 具体的に言うと「端役でほとんど出ないのに、練習と準備の時間ばかり出られて、その劇団に在籍しているメリットがない」という状態が発生してしまいます。

 そのため、こういった重み付けを行うと、公演の度に劇団員がやめていくという事態が発生します。

 なので、各役に、ある程度均等にスポットを当てるという配慮が必要になってきます。

 この制約が、脚本での足かせになっているなということは、前二回の公演も見て、感じていました。



 今回私が見た劇団の役者の数は十六人。この人数で二時間を割ると、一人当たりの時間は七分半になります。

 必ずどのシーンでも二人絡むとしても、一人当たりの時間は十五分です。

 これで二時間で意味のあるドラマを作ろうとすると、どうしても散漫になります。「大河ドラマを二時間に詰め込んだような」話になってしまいます。

 そこで、役者間の不平不満をできるだけ解消しつつ、物語を整理するために、どういった重み付けを行うかが脚本作りの肝になってきます。



 今回見た演劇では、その問題点を緩和するために、物語の構造を上手く配置していました。

 本作は、ジャンルで言うと「遺産相続物」です。

「富豪」という中心人物がいて、「その子供たち」という周辺人物がいて、「その子供の家族」という末端要素がいる構成です。

 この構成のために、「富豪←→子供」「子供←→子供」「子供←→家族」というシーンを重ねていくことで、シーンが切り替わっても幹は一本だけという共通認識を作り出していました。

 しかし、十六人全てをこの構造に落とし込むことはできず、イレギュラー末端とでも呼ぶべき人物もいました。

 そして、末端要素やイレギュラー末端要素の中で、物語に上手く溶け込めていない人物が出てきていました。



 通常のハリウッド系の映画では、主人公は一人で、その人物を中心に話が進んでいきます。

 このタイプの物語を、私はシングル・スレッドのストーリーと呼んでいます。

 対して、今回の演劇のように、それぞれの人物にほぼ均等に重み付けが用意されているような物語を、私はマルチ・スレッドのストーリーと呼んでいます。

 いくつかの話が、切り替わりながら物語が進んでいくからです。

 そのいくつかのスレッドに、今回の演劇では不要と思われるものがありました。

 具体的に言うと、刑事のスレッドは不要で、医者のスレッドはやや不要で、末娘の恋人のスレッドもやや不要でした。

 また、メイドや殺人犯のスレッドは伏線が回収されていませんでした。

 こういったことから、スレッド数が多くなると、その全てを整合性のあるものにするのは難しいなと感じました。

 映画でもマルチ・スレッドのストーリーはありますが、スレッド数は多くても五から六つです。

 さすがに十を超えるスレッドは無茶だよなと思いました。



 続いて感じたのは、演劇というやり直しの利かない舞台芸術の難しさです。

 映画では台詞を間違ったら撮り直しができます。しかし演劇ではそれができません。

 今回見た舞台では、台詞を大きく間違うような場面はありませんでした。

 しかし、一瞬台詞に詰まるシーンは何度かありました。時間にして、コンマ数秒です。

 ほんの短い時間ですが、それだけの短時間であっても台詞に詰まると観客が素に戻ってしまいます。



 人間なので、完全にミスをなくすことはできません。

 なので、舌の回転のミスで一瞬詰まることはあると思います。しかし、予想以上にそのことが演劇に与えるダメージは大きいなと感じました。

 これは、舞台の近くで観劇するという要素が大きいと思います。

 小劇場でしたので、狭く暗い場所で、ほんの数メートルの距離で役者が演技をしています。

 そのために没入度は高く、映画に比べてもかなり集中して演技を見ることができます。

 しかし、その近さゆえに、呼吸の乱れがダイレクトに影響してしまいます。

 例えば武道で相手と相対している時に、相手が急に呼吸のテンポを変えたら、それに意識を奪われるようなものです。

 呼吸の乱れは、かなり影響が大きいです。



 最後に、こればかりは予算の問題だなと思った点を書きます。

 席です。

 椅子の問題です。

 二時間という時間は決して短い時間ではありません。この時間を、あまりよくない椅子で過ごすと、腰にかなりの負担がきます。

 実際、かなりきつく、翌日整骨院に行ってマッサージしてもらいました。

 一番前の席に座ったということもあり、地べたに板を敷いただけのような場所でした。

 役者を間近に見られるという利点もありましたが、お尻と腰が痛かったです。

 最低限、空気で膨らませるクッションを持って行けばよかったなと思いました。

 これは小劇場の観劇では重要だと感じました。



 問題点を中心に書きましたが、演劇の利点もあります。

 まず何より大きいのは、役者が間近で動くことによる没入感の大きさです。

 情報量が圧倒的に多いので、非常に楽しめます。

 あと、舞台の制約が大きいということは、欠点でもありますし、利点でもあります。

 だいたいにおいて、創作物は制約が大きいほど、とんがった物ができやすいですので。

 というわけで、演劇の問題点も感じつつ、大いに楽しんできました。

 以下、粗筋を書いた後に、さらに具体的な感想を書いていこうと思います。



 以下、粗筋です。(ネタバレあり。といっても公演は終わっているので関係ないと思います。最後まで書いています)

 女性の富豪には数人の子供たちがいた。

 彼女は若い頃に夫を亡くし、それから女手一人で事業を展開し、成功した人物だ。

 子供たちには隠しているが、彼女は心臓に病を抱えている。彼女は自分の誕生日に、自分が殺されたという演技をして、子供たちの反応を見て遺産の配分を決めようと考えた。

 執事とメイドは、その企みに協力する。

 富豪の家には、彼女の五人の子供たちが集まる。

 医者の長男と、派手なその妻。

 輸入業を営む次男と、いつもおどおどしているその妻。

 美容業を中心に様々な事業を展開する長女と、元ホストのその夫。

 ネットばかりをやっている引きこもりの三男。

 絵の道を目指して勘当されている末娘。

 末娘以外は、それぞれ遺産目当てで母親の機嫌を取ろうとしていた。そして結婚している子供たちは、それぞれ家庭の問題を抱えていた。

 母親である富豪は、屋敷で殺された振りをする。

 末娘以外の子供たちは、互いを罵り、死んだ振りをしている母親の前で、激しい遺産争いを展開する。

 絶望する母親。

 しかし、その興奮が冷めた後、それぞれの子供たちは、死体の振りをする母親の前に来て、自身が抱える問題を告白し始め、母親に対する思いを語りだす。

 子供たちは一様に、貧しかったが仲のよかった子供時代を懐かしむ。

 母親はそのことで、自分が子供たちを試したことを後悔する。

 だが、その時間も長くは続かなかった。母親の死が、狂言であることにそれぞれの子供たちが気付き始めたからだ。

 彼らは再び遺産の亡者となる。その子供たちに、優しい心を取り戻させようとする末娘。

 母親に勘当されていた末娘だけが、唯一一貫して母親のことを思いやっていた。

 だが子供たちは末娘の言葉を聞かない。彼らは闘争心をむき出しにして言い争う。そして、家族が抱えていた互いに対する思いをぶつけあう。

 彼らは、今まで隠していた思いを告げ、その問題に答えを出していく。そして、徐々に家族の絆を取り戻していく。

 そんな彼らの許に、富豪の会社の倒産の報がもたらされる。金のことで言い争う必要がなくなった家族は団結を取り戻す。

 家族が本当の絆を取り戻した時、その倒産の報は嘘だったと告げられる。その話は、家族を騙すことを選んだ母親に対して、執事と会社の人間が仕組んだ狂言だったのだ。

 会社は本当は倒産していなかった。だが、子供たちは醜い遺産争いに戻ることはなかった。家族の絆は取り戻されていたからだ。

 しかしそこで母親の寿命が尽きてしまう。心臓に病を抱えたまま奔走してきた母親は、そこで力尽きてしまう。

 家族は母親の死を心から悲しみ、家族で協力していくことを心に誓う。



 基本的に面白い物語だったのですが、脚本上の問題点がいくつかありました。

 まず、一番大きかったのは、終盤に起こったSF展開です。

 具体的に言うと「時間巻き戻し」が起こるのですが、この伏線は張られていません。

 いちおうゼロではないのですが、あの程度では伏線の内に入りません。

 いきなりここだけSFになるのはおかしいです。

 物語の展開上「母親の死を避けられない」ということを主張したいというのは分かるのですが、他の解決方法を考えるべきだったと思います。

 大きなところなので、かなりマイナス要因だと感じました。



 次に問題だったと思ったのは、有効に働いていないスレッドがいくつかあったことです。

 末娘の恋人のスレッドは、ほとんど意味をなしていません。なくても話が通ります。そして、いくつかの台詞が伏線として解決されていません。

 あと、粗筋に書いていないのですが、刑事のスレッドは大幅に短くした方が脚本上すっきりします。

 また医者のスレッドにも問題があり、刑事との確執は物語にほとんど寄与していません。刑事と医者のスレッドは統合して一本にした方が質が上がると感じました。

 また、ボリュームは適切でも、伏線が回収されていないスレッドもあります。

 メイドのスレッドでは、「子供の頃は家族同様だったのに、大きくなったらメイド扱いされるようになった」という発言があります。

 この問題に対する解決は、物語の終わりまでなされません。終盤に「あなたも家族よ」と一言言わせれば済むはずなのですが、こういった台詞はありませんでした。

 また、犯人のスレッドも投げっぱなしです(強盗殺人犯が屋敷にやって来る)。

「子供を助けるためにお金がいる」という動機を語っているのですが、その問題に対する解決はありません。

 スレッドが多いせいで、適切な内容でないものや、解決していないものがあるなと感じました。



 もう一つ脚本上で問題だと思ったのは、終盤の倒産騒ぎの理由です。

「健康食品を食べた人が全員死亡した」という理由なのですが、嘘でもこれはちょっとなあと感じました。

 ryota氏は「嘘だと分かる内容の倒産理由」だと言っていましたが、いくらなんでもありえないというのが一つ、そして倫理的に不快に感じるというのが一つで、あまり感心できない理由だと思いました。

 変なところでマイナス要因を作っているなというのが、正直な感想でした。



 問題点ばかり書いたので、よかった点も書きます。

 子供全員に泣かせどころが大量に用意されていたところです。

 実際、かなり泣きました。ティッシュなしでは見られませんでした。

 また、それぞれのキャラが抱える問題が、非常に分かりやすく、そして身に詰まされる内容だったのがよかったです。

 構成としては非常に単純で、「金の亡者だと思っていた子供たちが、実際はそれぞれの問題を抱えていて、極限状態でそれを解決していく」というものです。

 二時間という短い時間に多くのスレッドをぶち込む時には、これぐらいシンプルな構成にした方が無難だなと感じました。



 脚本ではないですが、演技を見ていて感じたことを一つ書いておこうと思います。

 舞台に立っている役者が全員泣くと、観客は泣けないということです。

 冷めるというか、一歩引いてしまうというか。そんな感じになります。

 しばらく経ってから考えましたが、もしかしたら全員均質な演技をした際には、観客として感情の力点を置く場所がなくなるのかもしれません。

 誰の立場に立って物を考えればよいのか分からなくなるので、結果的に誰の立場にも立てなくなる。

 そういった現象が生じるのではないかと思いました。



 最後に、役者について書こうと思います。

「ryota氏は、今回いい役もらっているな」というのが、最初の感想でした。

 長男役です。男キャラの中では、一番重要な役でした。

 前回の公演では、スーパーマンの服を着て出てくる“飛び道具”役でしたので、かなりの出世だなと思いました。

 役者については、母親役の人はいい感じだなと思いました。中心人物だということもあるでしょうが、上手いなと感じさせられました。

 あと、元ホスト(長女の旦那さん)の人がよかったです。役の内容がよかったのかもしれませんが、印象に残りました。

 最後に一点、役者について感じたことを書きます。次男の役の人は、前回の公演でも似たような役でした。

 たぶん、外見がそういった役に似合っているからだと思いますが、毎回同じような役を与えられるのは本人的にはどうなのかなと思いました。

「演技」ではなく素なのでは?と観客が思いそうで、よいのか悪いのか疑問でした。



 というわけで、つらつらと感想を書きましたが、劇は予想以上によかったです。

 普通の人がふらっと行っても、十分以上の満足感が得られるものになっていました。

 人が集まるのならば、座席のよい、もう少し広い場所でしてくれると嬉しいのになと思いました。
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