●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●           PBeM     猪槌城(いづちじょう)                第2回シナリオ ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●                                     柳井政和 ver 0.01 1999.11.28 ver 0.01 1999.12.05 ver 0.01 1999.12.27 第3話、第4話、第5話のうち、どちらか好きなシナリオを選んで参加してください。一 人のキャラは、どれかのシナリオにしか参加できません。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第3話「万字賀谷」 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- 万字賀谷に霧が立ち込めはじめていた。全ての世界を白色が包んでいく。そこには、人の 争いとは無縁の世界が広がっていた。しかし、人はその白い世界の中で戦い続ける。霧の 中で、自分の行く先を探す迷い人のようにもがきつづける。 「なに! 雪姫をさらわれただと!」 「豪雪」は、万字賀谷の絶壁に作られた雪組地下屋敷の中で怒鳴った。お側衆の女たちが 身を縮める。「すぐに捜索隊を」と言おうとして「豪雪」は言葉を飲みこんだ。今はそん な時ではない。そんなことをすれば月組の思う壺だ。この場所の存在が月組に知れるやも しれない。 雪組の被害は甚大だった。しかし、不幸中の幸いか、城下町に放った滝川探索隊が戻れば 状況は変わる。うまく、町と連携を取らなくては。雪姫のことはその後だ。いや、しかし ・・。「豪雪」は、「氷室」を呼んだ。 ;** 地下屋敷の深奥には、上忍のみが立ち入りを許されている洞穴がある。そこには、霧の露 が集まりできた深い泉があった。泉の中央には石の鉢が置かれてあり、鉢の中央では、淡 い光が揺らめいていた。神通力を授かると言い伝えられている不思議な光だ。油も足さず、 未だ消えたことがない。 「豪雪」は、その光を見つめながら「氷室」を待った。地下屋敷へ至る痕跡を消す仕事を 追えた「氷室」が洞穴にやってきた。 「豪雪様、雪姫様のお体が・・」 「豪雪」は苦笑いを漏らした。自分の娘を治療するために、忍軍を動かし、その隙を突か れて天井屋敷を失い、そうまでして救おうとした娘の体も何者かに奪われてしまう。愚か だ。我ながらそう思う。「豪雪」は、口を開いた。不思議と口からは、「雪姫」と関係な いことが出てきた。 「月組の頭領は青い目の爪牙という少年だそうだな。これまでの青い目と違って、非常に 積極的な男のようだな。月組悲願の雪組殲滅を目指して、一途に攻撃してくるわ。わしと 違って迷いがないようだ。 年は雪姫より少し下ぐらいか。忍者として生まれていなければ、今ごろ町などで出会って 話をしていたかも知れぬな。最近、ふと考えることがあってな。死を賭してまで守るもの とは何なのか。忍軍か、それとも人か・・。親として子を持ち、妻を失い、その子も失う。 そうまでして戦う理由が見つからぬ」 「氷室」は、鉢の光に照らされる「豪雪」の顔を見上げた。その顔には表情はなかった。 「氷室」は、若き日の「豪雪」の姿を思い出そうとして止めた。過去を思ってどうなると 言うのだ。 「わたしは豪雪様の指示に従うだけです。私は忍者ですから」 洞穴には、老忍者と父親の影が揺らめいていた。 ;** 「良いか、敵は弱っている。早急に隠れ場所を見つけるんだ。そうすれば一気に雪組を滅 ぼせる」 「青い目の爪牙」は、主だった氏族の族長を集めて族長会を開いていた。 「それと、城下町の氏族との連絡は緊密におこなえ。また、雪組忍者を決して城下町に向 かわせるな。城下町にいる雪組忍者たちは、未だにこの状況を知らぬはずだからな」 月組は、着々と雪組を滅ぼす手を進めていた。悲願の雪組殲滅は近い。「爪牙」の青い目 が熱を持ち、淡い光を湛えていた。 ;** 「やれやれ、困ったわい」 明光院は、万字賀谷の先を見て楽しそうに声を漏らした。 「何が見えるのだ?」 同行している武士が老人に問うた。 「月組の兵だよ」 「月組?」 武士が、分かりかねるといった顔を老人に向けた。 「わしは千里眼を持っているからのう。異土の中のことも詳しいわい。さて、猪槌の里に 入るのに邪魔なものは排除するとしようかのう。久しぶりに腕がなるわい」 老人は忍び笑いを漏らした。 ;** 猪槌城、城門の控え、十六夜の詰め所。「火野熊」は自分が留守にしている間の城下町の 事件の報告を受けていた。 「なるほど、どうやら忍者共が交戦しているらしいな。交戦場所は城下町と万字賀谷か。 よし、有志を募って忍者共の動向を探らせろ」 「火野熊」は手早く部下たちに指示を出した。頭の中は、先ほど清水で見た怪異のことで いっぱいだった。あれが怪異か。あれなら見たことがある。そう、あれは鈍砂山のタタラ の民の里で見たものだ。「火野熊」は素早く立ち上がって旅支度を整えはじめた。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- 今回の主なシナリオ ■忍者組織「雪組」 内容=「雪姫」の体の探索 場所=万字賀谷 内容=城下町への密使 場所=万字賀谷〜城下町 内容=雪組地下屋敷での潜伏 場所=万字賀谷 ■忍者組織「月組」 内容=雪組探索 場所=万字賀谷 内容=明光院との交戦 場所=万字賀谷 内容=城下町との連絡 場所=万字賀谷〜城下町 ■猪槌城護衛団「十六夜」 内容=忍者の動向調査 場所=城下町〜万字賀谷 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第4話「鈍砂山」 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- 城下町の一角、剣術道場雷神。「二重」たち一行は、空が朱に染まる頃、雷神の道場に帰 ってきた。到着後間もなくして、陽は沈み、空は紫紺に染まっていった。どうにか、その 日のうちにたどり着くことができた。 「真鉄殿。お目当ての物も手に入ったようですし、今後はどうするんです?」 「二重」が旅の埃を落としながら聞いた。 「ああ、今晩は泊めてもらい、明日山に帰ることにする」 「真鉄」は、雷神の面々にも慣れたのか、口数が多くなっていた。確かに明日の方が良い だろう。今日は歩きづめでかなり疲れてしまった。 「二重」は、自室に引きこもった。ふうっと息を着く。どうにか夜までに戻ってくること ができた。「二重」は、部屋の戸にかんぬきを掛けた。 ;** あれが怪異か。「火野熊」は、自室で酒を飲みながら考えを巡らしていた。もし、あれが 怪異だというのならば、見たことがある。そう、あれは鈍砂山のタタラの民の小屋の一つ だった。かつて、「千重」に連れられてタタラの民の集落を訪れたときだ。その小屋の中 の一つに「千重」と共に入った。中には男が一人いて、様々なからくりが部屋に散乱して いた。その中に、いくつかのギヤマンの壷があり、その中であの揺らめく光があった。 「確か、その男の名前は・・真鉄」 「火野熊」は、杯を傍らに置いた。明日一番に鈍砂山に向かおう。あの男なら、怪異のこ とを詳しく知っているに違いない。 「くくくっ、久方振りに血が騒ぐ。そうか、道は案外近いところに落ちていた。危険を犯 す必要もない。あの危険な怪異を壷に入れている男がいる。奴なら俺が知りたいことを、 きっと知っているだろう」 ;** 鈍砂山、タタラの民の集落。満月に近い月が天に座している。山の肌にへばりつくように 建ち並ぶ小屋たちは、月明かりに照らされ、くっきりとした影を落とした。木々に覆われ た山の中、その場所だけ、いびつな傷跡のように影が濃かった。その集落の中、少し外れ た位置にある小屋がある。主を待つ「真鉄」の小屋である。 小屋の向こうは切り立った崖になっており、崖には小屋から幾筋もの階段が掘り抜かれて いた。小屋から下った先は、月明かりの届かない深遠に続いている。 月が、時と共にゆっくりと動く。崖の底に月の光が達したとき、鈍い金属の光が閃いた。 巨大な金属の塊が崖下に見えた。その金属の塊は、巨大な人型をしていた。すぐに、月は 崖を通り過ぎた。崖下に、また闇が訪れた。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- 今回の主なシナリオ ■猪槌城護衛団「十六夜」 内容=タタラの民の集落へ「火野熊」と共に行く 場所=城下町〜鈍砂山 ■剣術道場「雷神」 内容=タタラの民の集落へ「真鉄」と共に行く 場所=城下町〜鈍砂山 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第5話「百花繚乱」 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- 「花扇様。町が随分騒がしいようです」 「そうみたいですね。どうやら、滝川が災いをまとい、舞い戻ってきたようです」 遊郭で最も大きい見世、扇屋に、数人の花魁が集まっていた。最も上座に居るのは、扇屋 の筆頭「花扇(はなおうぎ)」であった。辺りは人払いがなされている。 「裏切り者が再び舞い戻るとは」 花魁の一人が毒づいた。女たちは、ひそひそと「滝川」のことを囁きあっている。竜神丹 を服用し続け、十代の若さを保っている「花扇」が口を開いた。 「あれから十年以上も経つわ。滝川は私が殺しました。首を切り落とし、皮をはぎ、肉は 犬に与えました。それがどうやって再び?」 「花扇」の言葉に辺りは静まり帰る。 「誰かが反魂の法を?」 花魁の一人が言う。「花扇」は首を横に振る。 「誰がわざわざ遊女ごときに反魂の法などを? この一件には何か裏がある。何者かが、滝 川を使い、何かをおこなおうとしている。禿(かむろ)を何人か用意しなさい。滝川が現れ てから、町で雪と月が暴れておる。これは偶然ではない。むしろ必然。 そして、滝川が戻って来たのならば、行きつく先は千重の住む猪槌城。あの女は、花組の掟 を忘れ、千重の子を産み落としたのだからな」 花魁たちは、花扇の言葉を受け、自分たちの遊女屋に消えた。遊女には、歴然とした階級が 存在した。教養と技芸、美しさに秀で、最も権力を持つ花魁たち。彼女らは、太夫、お職な どと呼ばれていた。 また、遊女屋の世界は、独自の人材育成機構を持っている。花魁の下には、幾人かの年若い 少女「禿(かむろ)」が付いていた、禿は年経て新造(しんぞう)となる。そして一人前と して認められれば花魁として見世に出るようになる。 花魁たちは、自分の育てる少女たちに、一流の教養と技芸を授けた。この遊女屋で育てられ た女忍者たちが花組。猪槌第三の忍軍である。 「相変わらず怖いねえ」 隣の部屋から男の声が聞こえてきた。 「蜻蛉か、帰ったのではなかったのか?」 険しい声で「花扇」は答えた。ふすまの向こうで立ち上がる音が聞こえる。 「少し酒を飲みすぎた。もう帰るよ」 その会話は、遊女と客のそれではなかった。長年連れ添った男と女が交わす会話のようで あった。雷神の道場主「蜻蛉」は、一人遊女屋を後にした。 ;** 猪槌城、奥の間。 こんな夜更けに呼び出しとは、一体何事だ。「火野熊」は廊下の床板を踏み鳴らしながら 「千重」の部屋に向かった。部屋のふすまを開ける。奥には、黒い布を頭からかぶった「 千重」と一人の女がいた。この女は確か・・・。「火野熊」は、過去の記憶を手繰り寄せ た。確か名前は「滝川」。昔「千重」の居室で何度か見た覚えがある。 「火野熊、これを捨てて来い」 「千重」は一つの壷を指差し、唐突に声を発した。女は、花の匂いの香るような笑みをた たえている。「火野熊」は、女と壷を見比べた。女は、さも当然そうに、「千重」の横に 座している。 「これは何ですか?」 「火野熊」は問うた。いっとき間を置いて、「千重」の声が漏れる。 「厄介なものを持ちこんでくれたものだ。これは、ある者の魂だ。この魂が猪槌城にあっ た事実。この事実だけで、一つの忍軍が、この猪槌城を攻めてくるやもしれん。わしは、 この女に、ことを仕組んだ者の名前を聞きたださねばならぬ」 「矢文の主・・・ですか?」 「火野熊」の問いの後、しばしの静寂が支配する。水があぶくを立てるような声が再び聞 こえてくる。 「そうだ。それをわしは確かめる。お前は、この魂を、壷ごとこの世から葬り去れ。存在 すら消してしまえ」 「存在すら消してしまう。そんなことができましょうか?」 「千重」の眼が鋭く光った。 「できる。この壷を怪異に放り込め。お前も見てきたのだろう。怪異を。良いか、思い出 せ。今日、怪異で死んだお前の部下たちの名前を挙げてみよ」 「火野熊」は、その名前を答えようとした。 「名は・・・」 そこで言葉を詰まらせた。確かに、十六夜の若手が数人死んだ。しかし、名前を思い出す ことができない。そればかりか、顔も浮かんでこない。殺された事実だけが心に残り、そ の実体が消えている。「火野熊」は青ざめた。 「怪異は、恐ろしい」 「千重」は、ゆっくりと呟いた。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- 今回の主なシナリオ ■忍者組織「花組」 内容=少女くの一である禿(かむろ)たちによる猪槌城侵入 場所=城下町、猪槌城 ■剣術道場「雷神」 内容=遊郭へ「蜻蛉」のお供をする。 場所=城下町 ■猪槌城護衛団「十六夜」 内容=市中忍者狩 場所=城下町 ■忍者組織「雪組」 内容=滝川探索 場所=城下町 ■忍者組織「月組」 内容=雪組狩 場所=城下町