●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●   …………………………………………SEEK…………………………………………   第 3 回 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 柳井政和 (C)1995 Masakazu Yanai Reproduction 1998.12.19 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ05●『ウイッチハウス島』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  ウイッチハウス島到着前夜。ウイッチハウス島に向かう船は、荒々しく波をかき分け進 んでいた。下手をすると戦闘の真っ只中に入るかもしれない。不安が船を覆っていた。 「船こそ我が命!」  コーダイ艦長代理は、逃げ出した艦長に代わり船の舵を握っていた。甲板には船のほと んどの人間がいた。船が大きく左右に揺れる。その揺れに合わせてみんなの顔が青くなっ て行く。そんな中、1人ヨタは船室にいた。 「揺れますね」  ヨタは静かに本を読んでいた。どうやら彼にはあまり気にならないようだ。彼は本にし おりを挟み、外の様子を見に行こうとした。 ──────────────────────────────────────── 「くっ……、何でこんなに揺れるの……」  男装をしたキャスは、廊下の陰からヨタ暗殺の機会を伺っていた。反乱軍の中心人物を 一掃する機会。キャスの手には暗殺針があった。ヨタが階段を上ろうとする。キャスはそ っと背後に近づいた。「キャー!」階段の上より女性の悲鳴が上がった。アルフィアーネ ・ライアス、大地母神の神官である。ヨタは彼女が指さしている方を向いた。そこには針 を振り上げた女性の姿があった。キャスは軽く舌打ちをすると、ヨタの杖をたたき落とし た。  「何者ですか!」ヨタが叫ぶ。  キャスは針をヨタに突き立てた。ヨタが倒れる。キャスはヨタの杖を奪い、アルフィア ーネを突き飛ばして甲板に走り出た。船酔いの人物をよそ目に、暗い海の中にキャスは飛 び込んだ。水の揺らめきは船の後方に消えて行った。 ──────────────────────────────────────── 「ヨタ様!大丈夫ですか!」  アルフィアーネはヨタの状態を調べた。危ない……、息を吹き返すかどうか……。キャ スの一撃は正確に急所を捕らえていた。『大治癒』しかないわ。アルフィアーネは奇跡に かけた。アルフィアーネの手の平から光がこぼれ落ちる。ヨタは静かに目を開けた。 「よかった、ヨタ様」  そのころ、船内では異常が起こっていた。キャスの放ったクモ『白の凶』とダニ『紅の 兆』が毒をばらまいていたのだ。だが、反乱軍は運がよかった。大地母神の神官が多数乗 船していたお陰で、被害は最小限でくい止められた。今回の実質的な被害は、キャスの針 の後遺症でヨタの足が動かなくなったことだけであった。 ────────────────────────────────────────  キャスは黒くのっぺりとした海上を漂っていた。ヨタから奪った杖が手に貼り付いてい る。杖は海に沈むことに抗うかのように、キャスの手に根を下ろしていた。 「待機しているバレオはどこなの」  キャスは暗い周囲をうかがった。波の音だけが響く。キャスの体からは体温が奪われ、 次第に海に浮かぶのが苦痛になってきた。……このままでは溺れる。 「大丈夫かい、姉さん?寒ければ、僕が暖めてあげようか?」  音もなく近づいて来た船から、若い男の声が発せられた。その声の調子とは裏腹に、そ の男の顔は無表情だった。キャスは背中に冷たいものを感じた。相変わらず不気味な男だ。 男の名はバレオ・クリム、キャス・クリムの弟。彼は姉を回収して、静かな波を立て暗闇 に消えていった。 ──────────────────────────────────────── 「あれが『メデューサ』とあだ名されるライザ・ヘルツか」  テスラは甲板の上で風を受けている女を見つけた。部下たちは、口々に彼女のうわさを 挙げる。彼女はいかづちの眼を持つ魔女。その一睨みで相手を焼き尽くすことができるの だ。帝国軍でもその力は恐れられ、軟禁状態で幽閉されていた。魔法具の力が使えない海 の上、彼女の眼力が役に立つはずだと、半ばやっかい払いで投入されたのだ。彼女は自分 を見ている視線に気づいたのか、テスラの方に近寄って来た。 「あんたがあたしたちの指揮官様かい。ちょっとはいい男じゃないかい?ふふふ」  彼女の豊かな肢体が、着崩した軍服の下から覗き見える。  「船の上じゃなかったら相手をしてやるぜ」テスラが笑みを返す。 「バカね。本気にしたの?」  そう言いながら、ライザはテスラに顔を近づけた。テスラが手を動かそうとした瞬間、 ライザはきびすを返した。テスラは立ち去るライザを見て不機嫌な顔をした。 「ちっ、からかわれたのか」 ────────────────────────────────────────  帝国群のウイッチハウス島攻略作戦『ハーメルン』が始まった。投石機がうなりを上げ て船を狙う。接舷した船から兵士が雪崩込み剣を振るう。最初の小競り合いの後、ウェイ ン王国海軍は距離を取り、島に撤退し始めた。 「追うぞ!全速前進!奴らの行き着く先に港があるぞ!」  テスラが怒声を上げる。反乱軍の船は島を迂回し始めた。それを追いかける帝国軍の船 団。  突如ウイッチハウス島の切り立った崖から燃え盛る石が飛んで来た。崖沿いに仕掛けら れていた大型投石機が使われたのだ。たまらず帝国軍の船は後退する。指令系統の整って いない後退。そのすきをついて反乱軍の船団が攻撃を仕掛ける。すぐに逃げ去る反乱軍。 追おうとした帝国軍は、突如変わった潮の流れに船速を落とされた。  「なるほど、ここら一帯の海を熟知していると言う訳だな」テスラが歯軋りをする。 「テスラ様!逆側の海に1隻の船が!」  その船は、コーダイ操る船だった。ウイッチハウス島のゴートー提督が敵を引き付けて いる間に、ウイッチハウス島にたどり着く手筈だったのだ。テスラはロジェストの言葉を 思いだしていた。「生き残るつもりなら勘を働かせるんだな」 「あの船を追え!手近の艦にも追うように伝えろ!」 ────────────────────────────────────────  コーダイ艦長代理の操る船は、海を跳ねるように進んでいた。  「戦闘海域を突破できるでしょうか」ヨタがラドに尋ねる。「ゴートー提督のことだ。 うまくやってくれる」ラドは椅子から立てないヨタに答えた。「敵の軍艦数隻が、こちら に迫って来ます!」兵士の声が上がった。  「船はコーダイに任せるとして、私たちは甲板に出て兵士に指示をださなければ」ヨタ は兵士に肩を借りて立ち上がった。彼らは甲板に上がって行った。 ──────────────────────────────────────── 「ふふふ、あいつらの船の動きを止めて皆殺しにすればいいんでしょ」  『メデューサ』ことライザ・ヘルツは近づく船を眺めていた。敵の船は、高速で入り江 に向かっている。そうはさせない!ライザは目を見開く。四白眼になった目から電撃がほ とばしる。船の帆が燃え上がった。船足が落ちる。入り江に入る前にテスラたちの船は追 いつた。船の横っ腹に衝角を突き立てる。帝国軍の先鋒が反乱軍の船に乗り移った。 「逃げな!逃げな!死にたくない奴は逃げな!あーっはっはっはっはっ!」  ライザの眼力で数人の反乱軍兵士が燃え上がる。船には火の手が上がっていた。  「うわー!俺の大切な船が!」コーダイ艦長代理は号泣した。 ──────────────────────────────────────── 「ヨタ様、大丈夫ですか」  アルフィアーネは、ヨタに付き従って甲板への階段を上った。目の中に、広がる火の手 が飛び込んで来た。数名の兵士が切り結んでいる。その中に、彼女は見知った顔を見つけ た。彼女の父は帝国からの亡命者であり、当然彼女は帝国にも知人がいた。 「レスター、レスターじゃないの!」  その兵士は振り向いた。驚いた顔をして口を開く。 「アルフィアーネ!なぜこんな所に!」 「お願い、レスター。帝国はひどい所よ。私の父の一件で分かったでしょう。味方になっ て!私たちと一緒に来て!」 「しかし、俺はただの一兵卒。帝国を裏切る訳には」 「帝国は卑怯な集団よ!昨晩もヨタ様を暗殺しようとして……。ヨタ様は一命を取り留め たけど、お陰で歩けなくなってしまったわ!」  レスターは兵士に肩を支えられているヨタに目を移した。ヨタはレスターに微笑みかけ た。アルフィアーネの目が自分を見ている。 「裏切りは許さないよ!」  ライザがレスターをにらんだ。船の火と煙が視線を遮り、レスターは火傷ですんだ。ア ルフィアーネがレスターに駆け寄る。ライザはヨタの方に向きを変えた。 「いい男だねぇ。ちょっと頼りなげなのがいいじゃないか」  ライザはヨタを捕まえようと近づく。その時船が大きく揺れた。ウイッチハウス島から の投石が帝国軍の船に当たったのだ。「撤退!」声が上がる。ライザは舌打ちをしてその 場を後にした。帝国軍の船が去って行く。反乱軍の船はウイッチハウス島に入って行った。 ────────────────────────────────────────  戦いの決着がついた。笛吹海峡の潮の流れを知り尽くすゴートー提督の下、ウェイン王 国海軍は敵の10分の1という戦力差を補い戦い、敵の半数を沈めることができた。だが 数という力の前に敗れつつあった。ゴートー提督は部下たちに命令を発した。最後の突撃 を行うと。  「なぜ僕を一緒に連れて行ってくれないんですか!僕はウェイン王国海軍の一員です!」 リー=ラドは必死に訴えた。だがゴートーは最後まで許してくれなかった。 「お前はラド将軍とヨタを支えるんだ。……いや、ウェイン王国を支えてくれ。わしは死 にに行く。やがて国が再興されたなら、誰かが海軍を作り直さんといかん。お前はそのた めに生きろ。ウイッチハウス島に、ウェイン王国最後の戦艦『ギャラクティカ号』がある。 お前にその艦の指揮を命じる!」  ゴートーはリーを小舟で脱出させ、最後の突撃に向かった。ゴートー提督の乗る旗艦 『ペガサス号』が沈んで行く。リーは舟の上で、ゴートー提督に最後の敬礼を取った。 「さようなら提督。いつか提督を越える船乗りになって見せます。それが提督への一番の 恩返しでしょうから」 ────────────────────────────────────────  反乱軍一行はどうにか上陸できた。それもゴートー提督が最後の突撃を行い敵を引き付 けておいてくれたからだ。ラド将軍は、懐かしい面々と再会した。反乱軍とウェイン王国 海軍は合流し、早速作戦会議が開かれた。その席には、老将ラドの孫リーの姿もあった。 「ラド将軍。そろそろ話してくれてもいいでしょう。一体このウイッチハウス島には何が あると言うのです」  ヨタの声の後、一同の視線がラドに集まる。ラドは一同の顔を見回した。 「この島には、大地母神の召し使い『牛頭の神ディツ』が眠っているのだ。我々はディツ を起こし、帝国に反撃を開始する!」  牛頭の神ディツは農耕の神、そして荒々しい戦神でもあった。そのディツが、この島に 眠っているとラドは語った。「ディツは昔の戦いに疲れ、いずこかの地で長い眠りについ た……」伝説ではそう語られていた。 ────────────────────────────────────────  反乱軍の中、アルフィアーネは忙しく働いていた。傷を負った兵士の数は多く、神官た ちの手に余る数がいた。アルフィアーネはザークの谷にいる父のことを考えた。 「お父様は今頃どうしているかしら……」  レスターは負傷兵に混じって治療を受けていた。彼は幼なじみの少女に向かって言った。 「帝国のことだが……わかった。お前の言葉を信じることにしよう……反乱軍に加わるよ」 ────────────────────────────────────────  戦闘が一段落つき、帝国軍の旗艦に軍団長たちが集まっている頃、沖合の上空から1人 の少女がその海域を見下ろしていた。 「あらら、結局何もしなくていいじゃないの。まったく、もう」  非難の声を上げたのはイプシロンだった。彼女はミューの命令の下、秘密兵器を連れて 来ていたのだ。これならウェーバーのおじさんからかっている方が絶対いいに決まってい る。ただ見ているだけじゃ、つまんない。 「いいじゃないの、たまには。暇ならついでに海遊びでもすればいいでしょう」  イプシロンの耳にミューの声が響く。珍しく彼女は憤慨した。だってそうだ、せっかく シャルルをつれてきているのに手を出せないなんて。 「シャルル!」  声に合わせるように海面がゆっくり盛り上がり、異形の怪物が頭を覗かせた。シャルン ホルスト1号。全長30mの電気ウナギ。イプシロンの命令だけを聞く秘密兵器。  「あ〜。もう、どばっと人殺しができる場所はないの。シャルルまで持って来てこれじ ゃ、お父さん会わせる顔がないよ〜」  彼女の叫び声は、青く美しい空の中に溶けて行った。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ06●『プリムローズ』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  森に覆われたザークの谷の帝国軍司令部では、アンペアが今回の作戦の説明を行ってい た。偽プリムローズで谷に誘い込んだ反乱軍を、谷の両側から急襲する。谷のこちらから はアンペアの部隊が、向こうからはデルタ・クロネッカー率いる部隊がそれぞれ挟み撃ち にする。その直前に、偽プリムローズに幻覚の粉をばらまかせる。作戦は以上の通りだっ た。デルタは幻覚の粉のことを聞いて激しく怒り、席を立った。 「アンペア、貴様には軍人としての誇りはないのか。正々堂々と……」 「正々堂々とは弱者の戯言。卑怯卑劣で結構、要は勝てばよいのだ……」  アンペアはデルタを厳しく睨んだ。この作戦の司令官はアンペア。最終的な決定権はア ンペアにある。デルタには、その作戦を翻す権限はなかった。デルタは、その後の軍議中、 無言を通した。 ────────────────────────────────────────  デルタは気分転換のため、夜のザークの谷を散策していた。空気が澄んでいる。優しい 風がデルタの心を落ち着かせて行った。「ガサッ!」茂みから音が聞こえて来た。 「誰だ!」  デルタは問いただした。返事はない。デルタが茂みに近づくと、そこには行き倒れてい る男がいた。デルタは用心深くその男に近づいた。男はデルタに気づくと、堰を切ったよ うにしゃべり出した。彼グラムが、幻術師ボルトと知り合ったこと、反乱軍を呼びに行こ うとして帝国軍に捕まったこと、そこから逃げ出してプリムローズを探していたことを。 「……って、わけさ。俺に生きて行く資格はない。かといって死ぬのも怖い。ああ、どう すればいいんだ。どうすれば……」  デルタはその男の様子を見て、ポケットに入っている携帯食を放り投げた。 「俺は帝国軍のものだ。今この近くには帝国軍が駐留している。お前が立ち去らないのな ら、軍務に則ってお前を殺さなければいけない」  デルタはそう言うと、グラムをその場に残してその場を立ち去った。 ────────────────────────────────────────  反乱軍第1部隊はザークの谷を進んでいた。彼らは、偽物のプリムローズを追いかけさ せられていることを知らない。その中、サラは1人澄んだ歌のようなものを感じていた。 「何だこの圧迫感は……。敵が近くにいるのか」  ウェーバーは独白を漏らした。ウェーバーの横に馬を並べる銀髪の偉丈夫ギッシュ・ロ アが辺りをうかがう。 「殺気が満ちているぜ」  第1部隊は谷の奥へと進んで行った。 ────────────────────────────────────────  デルタが谷の向こう側に行ったことを確認してからアンペアは笑みを漏らした。 「けけけけけけけけけ。バカめ。デルタの奴め、お前も一緒に葬ってやる」  アンペアは部下に命令した。アンペアの直属の部下たちがデルタの後を追った。ミュー の部下のデルタを殺せば一石二鳥。帝国を手に入れるためには、あの女は邪魔な存在だ。 アンペアは偽プリムローズを連れて移動し始めた。本当の作戦を始動させるために。 ────────────────────────────────────────  ラスタル・ライナスは、アンペアが少数の部下しか連れずに移動し始めたのを見て喜ん だ。帝国からの亡命貴族のラスタル卿は、ここ数年ザークの谷の近くに隠れ住んでいた。 帝国軍の追っ手が来てないか見回っている時に、アンペアの部隊の存在を知ったのだ。ア ンペアには、少なからずの恨みがある。彼は魔宝剣に魔法を込めた。「雷破球」球状の電 撃が剣に宿った。彼はアンペアの前に飛び出した。 「いざ!正々堂々と勝負!!」  アンペアは一歩下がって命令した。 「改造人間21号よ、わしを守れ!」  偽プリムローズは突如その姿を変え、翼の生えた怪物になりラスタルを襲った。ラスタ ルは雷破球を放った。電撃の球は怪物にぶちあたる。怪物は粉々に砕け散り、幻覚の粉が 宙に舞う。アンペアは口を覆った。ラスタルがその場に虚ろな顔をしながら立ち尽くした。 「けけけけけけけけけ。また新たな材料が手に入ったわい」  アンペアは、その男を部下に任せて作戦を開始した。 ────────────────────────────────────────  デルタ率いる帝国軍と反乱軍第1部隊が接触した。両軍入り乱れての乱戦になった。 「敵の頭をたたけ!」  デルタが命令する。デルタ自身もウェーバーに向かった。デルタは不思議に思った。作 戦だと、幻覚の粉がばらまかれているはずだが、何かあったのか。その時周囲から火の手 が上がった。森全体を覆うように火が放たれたのだ。両軍入り乱れて大混乱になった。 「くそっ、アンペアの奴め!俺たちごと反乱軍を倒そうということか!」  デルタは怒りの声をあげた。 ────────────────────────────────────────  森に潜む男が1人いた。帝国軍と反乱軍の動向をうかがっていたその男は、名をドムグ フと言う。彼はかつて帝国の魔法剣士であった。1年前の戦いで片腕を失い戦列を離れた 彼は、師匠プロフェッサー・アナハイムに再び出会った。アナハイムは、ミューが現れる までの宮廷魔術師だった人物である。アナハイムの手により魔宝石製のゴーレムの腕を移 植されたドムグフは、再び戦いの場に戻って来た。  彼の師は語った。ミューは何かを企んでいる。しかもそれは帝国のためにならないこと だ。ドムグフよ、ミューの企みを阻止するために、ミューよりも早くプリムローズを手に 入れるのだ。ドムグフは、プリムローズを得る鍵、王子をさらうことを決意した。 ────────────────────────────────────────  戦闘は熾烈を極めていた。燃え盛る炎の熱、煙、追い詰められた両軍兵士のパニック。 その中に迷い込んだカジもパニックに陥っていた。反乱軍基地がボロボロになったせいで、 彼はお茶くみのバイトに失業し、またあてどもない修行の旅に出た道中、この惨事に巻き 込まれたのだ。彼は焦って魔物を召喚した。 「私とて反乱軍のお茶くみバイト……じゃなくって、私も反乱軍の端くれとしてお手伝い させていただきますよ、みなさん!」  呼び出されたサイクロプスは、カジと同様混乱していた。サイクロプスは大暴走した。 ────────────────────────────────────────  燃え盛る森の中、デルタ・クロネッカーは反乱軍と戦っていた。デルタは戦闘の中、ウ ェーバーの姿を見つけた。  「氷結裂破!」凍てつく力がウェーバーに向かって放たれた。  「後ろは俺に任せて下さい!!!」ギッシュがウェーバーの間に割って入った。ギッシ ュの体が凍気で覆われる。一瞬後ギッシュは氷の柱となって弾け飛んだ。 「ギッシュ!」  ウェーバーは魔法の主を探した。その場に1人の青年の姿があった。 「ギッシュのかたき!」  デルタとウェーバーが対峙したその瞬間、一瞬その場の時間が止まった。炎に覆われた 谷の中へ光輝く者が飛来し、谷にいる全ての者を照らし出したのだ。 ────────────────────────────────────────  ザークの川の上流。グーフの川を見下ろす高台に、帝国から借りた兵を使い川をせき止 めている人物がいた。油太りしたその人物ボエラ・クリムは、暗殺業を営むクリム家の現 当主である。彼は、濁流をもって反乱軍を一掃する作戦を考えていた。 「よし、堰を切れ!」  溜まった川の水が勢いよく谷へと下って行った。 ────────────────────────────────────────  谷に光があふれる。デルタは光の中心に、慈愛にあふれる神を見た気がした。いや、す さんだ僕の心がそう見せたのかも知れない。デルタの瞳には涙が浮かんでいた。そしてデ ルタは、誘われるように光の渦へ引き込まれて行った。本当に自分の足で歩いているのか、 それとも光に意識を失わされているのか、彼には分からなかった。  その場にいる全員が似たような体験をしていた。光に向かって人々が歩き始める。その 時、サラは季節外れの風を感じた。頬を切るような冷たい風だ。 「冬将軍の足音のする時期ではないのに」  春の女神を前にして、サラは少し不安になった。光が私を呼んでいる。サラはその光の 中に歩いて行った。濁流が流れて来た。森を包む火が消される。谷には、巨大な光のドー ムが残り、水は火を消した後、谷を通り過ぎて行った。 「何じゃあれは!それに、なぜ川の水が突如流れて来たのじゃ!」  アンペアは自分の目を疑った。同じようにボエラ・クリムも驚愕していた。 「あれは……、神の力!」 ────────────────────────────────────────  その場では、反乱軍も帝国軍もなかった。別け隔てのない慈愛が満ちていた。春の女神 プリムローズの作った光の宮殿の中で、彼らは女神と対面していた。  「この方がプリムローズ……」カジは女神の姿に見とれた。  「女神……か……」ウェーバーがため息を漏らす。  「……」デルタはその場で押し黙った。  サラが口を開く。大地母神に捧げる聖歌を歌い始める。宮殿にサラの声と女神の声が響 き合う。女神はその声で宮殿中の者の傷を癒した。 「私が女神プリムローズ。いよいよ地上に転生する時が来たようですね」  光の宮殿は弾けて消えた。谷には帝国軍だけが残されていた。反乱軍たちは、大地母神 の神殿跡に現れた。  「ここは……」反乱軍一行は呆然としていた。「はっ、王子がいない!」兵士の声が上 がる。その声で反乱軍は初めて気づいた。ザークの谷での乱戦の中、王子をさらわれたこ とに。  王子の体をさらったドムグフは、既に谷を抜け出していた。 ──────────────────────────────────────── 「第一段階は終わったわ。いよいよ女神が地上に降臨した。デルタも帝国軍も反乱軍もよ くやってくれたわ。どれひとつ欠けても、女神が焦って出てくるようなことはなかったわ」  水鏡に映る光景を見ながらミューがささやいた。いよいよ神の力を手に入れることがで きる。春の女神プリムローズ……。そして大地母神の力を……。ミューは水鏡に映ってい た女の姿を目に焼き付けていた。プリムローズの転生先、サラの姿を。 ────────────────────────────────────────  王城の作戦会議室では、将軍ファラド、参謀アンペア、デルタ・クロネッカー、ボエラ ・クリムの姿があった。 「貴様のせいでわしの火計が阻まれたのじゃぞ」  アンペアがボエラを睨む。ボエラは汗を拭きながら弁解した。 「お前の家のキャスとかいう娘、白の凶を私の部屋に放ったのだが」  ファラドが冷淡に言う。ボエラは必死にその場を取り繕おうとした。デルタはその様子 を黙って見ていた。  「責任問題じゃぞ!帝国に災いをなすかもしれん!」アンペアがボエラを責める。 「それでは、こうしましょう。白の凶を放ったキャスの首を忠誠の証しに持って参ります」  「そうだな。取り敢えずそうしてもらおう」ファラドが機械的に答えた。 「いや……、その娘わしの改造人間のコレクションに加えるというのはどうですかな」 「はっ……ははっ。それで今回のことを許してもらえるのならば」  ボエラは怒りを胸に秘め退出した。くそっ!キャスめ、早まった真似をしおって!お陰 でわしの立場が危ういものになったではないか。彼は自分の邸宅に戻って行った。 ──────────────────────────────────────── 「アンペア!あの火計はどういうことだ!」  作戦会議室から出た後、デルタはアンペアに食ってかかった。アンペアは幻覚の粉でデ ルタの動きを止め、デルタの手を振りほどいた。 「ミューの下にいるからといって、大きな態度を取るなよ!ミューを嫌っている者は、こ の軍の中にも少なくないということだ。アナハイムの件もあるしな」  アンペアはデルタをその場に残し廊下の奥に消えていった。 ────────────────────────────────────────  ザイン帝国帝都皇宮。皇帝ボルトは遥か南の空を見上げていた。 「いたか……。プリムローズ」  その声は凍てつくほどに冷たかった。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■今回のシナリオ ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  今回参加者を募集するシナリオは、以下の2種類です。あなたが参加するシナリオをど ちらか1種類だけ選択して下さい。 ●シナリオ07『ディツの目覚め』  老将ラドは有志を募り、部隊を編制することにした。目的は、ウィッチハウス島深奥に 眠るディツを起こすこと。その頃、帝国軍の船団は、ウィッチハウス島上陸作戦を計画し ていた。反乱軍に残された軍艦は、傷つきくたびれた戦艦少数と、無傷のギャラクティカ 号だけであった。 ・ラドの一言「戦神ディツを蘇らせるのだ。まだ我々にも勝機は残っておる」 ・ヨタの一言「今問題なのは沖にいる帝国軍。私はこの船団を迎え撃たなければ」 ・テスラの一言「よし!ここで手柄を立てて復権してやる。反乱軍覚悟しろ!」 ●シナリオ08『ヘクトの丘』  完全に孤立し、王子も失った反乱軍第1部隊。彼らは、他の部隊と合流することになっ ていたヘクトの丘を目指していた。反乱軍の他の部隊もそこに集結しているはずだ。運が よければ、ラド将軍の本隊と合流できるかもしれない。しかし、その地を覗く鏡があった。 ミューである。ウェーバーたちはまだ知らない。サラの中にプリムローズが転生したこと を。そして、ミューの巧妙な罠が待っていることを。 ・サラの一言「何か邪悪な気配がするわ。一体何が起こると言うの」 ・ミューの一言「いよいよ第2段階ね。全ては予定通り。全ては運命のままに」 ・アンペアの一言「けけけけけけけけけけ。報告によれば反乱軍はヘクトの丘に向かって  いる。手柄はわしのものじゃ」 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第3回名声ランキング(敬称略) ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ●8point:村岡博幸(イプシロン、グラム、シャルンホルスト1号、リー=ラド) ●5point:きむ ゆんすん/夕惟猗(デルタ・クロネッカー) ●4point:どんぶり(冬将軍ノーデンス、ライザ・“メデューサ”・ヘルツ)/よっとだ (カジ) ●3point:あめふらし(キャス・クリム、白の凶、紅の兆、バレオ・クリム、ボエラ・ク リム)/NRA/松本彰(ギッシュ・ロア、アルフィアーネ・ライナス、レスター ・ガーベック、ラスタル・ライナス) ●2point 地獄帰りのサタンクレイドル様(コーダイ艦長代理)/G☆G ●1point 志柿俊光/中島一州/宮崎伸行(ドムグフ)  今回は、クリム家の恐怖に悩まされました。松本さんのアルフィアーネに救われた(ヨ タさま)わけですが、NPCは全ての行動が全参加者にバレているんです。必然的に彼ら を殺すのは、ダイス目ではなくストーリーであるべきなのです。でも本当に今回はダイス 目で死なずにすみました。  村岡さんは笛吹海峡と作戦『ハーメルン』で1点、死亡通知で1点稼ぎました。また、 村岡さんのキャラは今後の展開に合わせて、少々登場に手を加えさせてもらいました。ど んぶりさんは扉イラストで1点(お気に入り)、冬将軍ノーデンスによる帝国とライザへ の影響の設定で1点、やたら男にからむライザの行動で1点稼ぎました。あめふらしさん、 意味不明のセリフが最後まで理解できませんでした。松本さんはアルフィアーネとレスタ ーの恋物語を期待させるうまい行動で1点稼ぎました。地獄帰りのサタンクレイドル様さ んには、純粋に笑わせてもらいました。1点獲得です。