●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●   …………………………………………SEEK…………………………………………   第 4 回 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 柳井政和 (C)1995 Masakazu Yanai Reproduction 1998.12.19 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ07●『ディツの目覚め』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  旧ウェイン王国海軍母港サーセ。2度の敗戦により後方に下げられたロジェストは、旗 艦『浮沈』の艦上で待機していた。彼の目の前には、次の作戦図が作られていた。 「ばかな!テスラごときにゴートーが倒されるはずがない!」  彼は自分の耳を疑った。反乱軍海軍撃滅。そして……、ゴートーが死んだ? 「そうか……、ゴートーが死んだか」 ────────────────────────────────────────  静かな夜だった。ウェイン王旗のはためきと、松明の弾ける音が一際大きく聞こえる。 ウィッチハウス島の反乱軍は、迫りくる戦いの予感を感じていた。明朝にでも来襲する帝 国軍を思うと誰もが寝付けない。泥のように寝ている者の何と幸せなことか。 「呑気なものだ。火急の軍議だと言うから来てみれば……」  老将軍がため息を漏らした。本陣では反乱軍の主だった面々が、揃いも揃って鍋を囲み、 酒を飲んでいる。リーがいた。周囲にはやし立てられ、リーが恥ずかしそうに酌をする。 「余計なことを……」  ラドは目線を逸らしつつも、一気に飲み干す。 「今夜は親睦会みたいなものですよ。明日の作戦以降はゆっくりできませんし」  ヨタが微笑んだ。ラドは鼻を鳴らし、2杯目を飲み干した。周囲から歓声が上がる。ま ったく余計なことを……。ラドの眼が熱くなったのは、きっと酒のせいだろう。 ──────────────────────────────────────── 「……ヨタ様」  皆の酒気が吹き飛んだ。陣屋の入り口には重傷の兵士が立っていた。そのまま男は倒れ 込む。陣内は一瞬騒然となった。ラドがそれを制する。男はかすれるような声で最後の言 葉を発した。ヨタは士官に肩を借りて立ち上がる。 「……帝国の……シーク……狙って……」  ヨタは自分が歩けないことも忘れてその兵士に倒れ込んだ。 「シーク!……これは、戦争どころではありませんね」 ──────────────────────────────────────── 「申し訳ありません。反乱軍の密偵が1人、包囲網を抜けてウィッチハウス島にたどり着 きました。これで反乱軍にも我々の目的に気づく輩がいると思われますが。如何致しまし ょう、セルビオ様」  薄暗い船室の中、2人の男が給仕服の女の報告を受けていた。 「構わんよ、セラム。お前のせいじゃない。あれは半分わざとなんだ。それにここら辺で 反乱軍、……いや、ヨタに本気になってもらわないと困るんでね」  セルビオと呼ばれた黒髪の男は、そう言ってもう1人の甲冑の男を振り返った。 「やはりファラドはヨタ暗殺に失敗したらしいよ。どうだいシオン。複雑な心境だろう」 「私には弟などいません」  フルフェイスをかぶり、表情の読めないその男の返事に、セルビオは口の端を上げた。 「さて、アンペアのご機嫌でも取りに行くか。シオン、今回は出番はなしだ。一緒に来い」  シオンは返事もせずに頷いた。数瞬後には、セルビオとシオンの姿は消えていた。 ──────────────────────────────────────── 「SEEK the secret。隠蔽されしものシーク」  ヨタが静かに呟いた。皆は、聞き慣れない言葉に当惑しつつも、静かに耳を傾けていた。 「『世界蟹』世界を支えている巨大な蟹。太陽が1万回昇り1万回沈む、これを1万回繰 り返した昔、この世界はただの塩の平原だった。そこに1匹の蟹がやって来た。その蟹は 塩の巨人と争い倒される。蟹の8本の足は折られ、両目はちぎって投げ捨てられた。動か なくなった蟹の背中で、蟹の血は海となり、大地は生まれた。右目は太陽となり、左目は 月となり昼と夜が生まれた。8本の足は立ち上がり、この大地の八柱神となった。残った ままになっている左右の爪は、あらゆる力の源になった。神々はそれをシークと呼んだ」  ここまで話すと、ヨタは鍋から蟹をつまみ上げて、皿の上に載せた。リーが聞く。 「神話だと、それから八柱神が命の土……蟹味噌かな?……、から色々な生き物を作った って言うのが、世界の始まりですよね。シークなんて本には載っていませんでした……」 「ええ、普通は神話には登場しません。しかし、300年以上前の魔法使いたち、まだS eeker、探索者と呼ばれていた人たちがいた頃は、かなりシークの研究を進めていたので す。シークには3つの意味があります。1つは『世界蟹』の爪そのものです。右の爪は 『刈り取るものシーク』と呼ばれ、死や破壊を意味します。右足に当たる四柱神、ノーデ ンスたちですね。逆は『育むものシーク』。生命や誕生。プリムローズが含まれます。こ の2つの勢力は互いに均衡しあって、丁度左右の爪を組み合わせた形で表されます。この 均衡が、シークの2番目の意味です。最後に3つ目の意味として、シークはこの均衡を自 在に操る存在を指します。シークを手に入れたものは、神々の力を自在に操れるのです。 シークは、ある一定の条件が揃うと世界に登場するそうです。それは道具だったり、呪文 だったり、あるいは特定の人物かもしれません。私にはそれ以上は分かりませんが……」  皆が押し黙った。一体誰が、何のためにそのシークを……。 ────────────────────────────────────────  朝が来るとすぐに反乱軍は軍議を再開した。歩くことのできないヨタの世話は、数人の 兵士がおこなっていた。銀の髪を伸ばしたシェリーもそれを手伝っていた。彼女はヨタの 役に立つのが嬉しかった。しかし最近のヨタは、笑みを浮かべなくなってきた。自分で動 けないことへの憤りなのだろうか、それとも反乱軍の現状に対する苛立ちなのか。彼女は ヨタを見つめながら考えた。軍議は昼まで続いた。  ラドが、ディツを目覚めさせるための有志を募った。数十人の手が上がる。その中に混 じって1人の目立たない男が手を挙げた。彼の名はシュレッド。クリム家のスパイ。彼は 反乱軍の動向を偵察するために潜入していた。 「俺も参加する」  レスターが手を挙げた。帝国軍を裏切ってついてきた青年だ。皆の視線が注がれる。 「まだ、信用されていないようだな。まあ、俺はここで今すぐ殺されても仕方ないからな」  レスターが弱気な顔をする。アルフィアーネはその顔を見て手を挙げる。 「レットが行くなら、私も行きます!」 ラドはディツ隊の参加者を締め切った。 「しかし、今問題なのは沖にいる帝国軍。あの船団をどう迎え撃つかですね」  一同が静まる。その静寂を破って1人の少年兵が入ってきた。リー=ラドである。 「ギャラクティカの出港準備が整いました。ところで出撃は今晩ですよね。帝国軍が笛の 音にびっくりするのはさぞや見物でしょうね」  リーはそう言って、食事を配ろうとした。ヨタがリーを、ゴートーの席に促す。 「リー君。それはどういう意味なのですか?」 ────────────────────────────────────────  海戦後の夜。王国海軍を撃滅した後、帝国艦隊はドルフィン島へ向け航行していた。波 の音は単調に響いている。ほとんどの帝国兵は寝静まっていた。だが、ライザは寝付けず に、寝室の天井を見ていた。兵士たちはライザを恐れ、離れて寝ていた。 「何で、あんな弱そうな男の顔……」  そう呟くと胸の鼓動が速くなった。何故、ヨタの笑顔が胸に残るのか納得できなかった。 「取り敢えず、あれを取っ捕まえようか」  彼女は理解できない気持ちを、そうすることで解決しようとした。それがいい。彼女は 微笑した後、眠りに落ちて行った。 ────────────────────────────────────────  夕刻、帝国軍の艦隊はドルフィン島に集結しつつあった。テスラが艦隊の指揮を取る。 「テスラ様、今晩に例の作戦を」  ウィリアムがテスラに耳打ちをする。テスラは、唯一残った昔からの仲間に頷いた。2 人は並んで、ウイッチハウス島の方を、そしてウェイン王国の方を眺めた。 「この戦、主導権を握っているのは誰なんでしょうか……?」  ウィリアムが呟く。テスラは目を細めた。辺りは緋色に染まっていた。 「帝国の民のために……、我々が握らなければな」  ウィリアムは、夕日に照らされるテスラの横顔を見つめ続けた。 ────────────────────────────────────────  月明かりの中を船は走る。今夜は満月だ。目指すはウイッチハウス島の南にあるドルフ ィン島。敵艦隊はそこにいる。リーは最初は断ったのだ。しかし水兵たちは言った。「い いじゃないですか。リー殿は作戦の立案者、立派に艦長席に座れますよ。それにゴートー 提督の最後の命令では、あなたがこの艦の艦長になっています」王国軍最後の無傷の戦艦 ギャラクティカの艦長室にリーとヨタはいた。 「敵艦、左舷3つ、距離2。嫌味なぐらいいやがるぞ」  見張りが敵艦を見つけた。左舷前方15度、距離2000ラッチ(約1700m)。リ ーはヨタと視線を交わす。ギャラクティカは隠密行動をやめ、無数の明かりを灯しだした。 ────────────────────────────────────────  敵軍来襲の報告に、小型艇に乗り込みかけていたテスラは唖然とした。こんなに近づか れるまで気づかないとは。しかし、敵は何故明かりをつけたのだ。それもたった1隻で来 て。「生き残るつもりなら勘を働かせるんだな」ロジェストの言葉が思い出される。もし やと思い、指示を出そうとした瞬間、味方の艦が最初の砲撃を開始した。 「始まりましたね。最初の10分を持たせれば、我々の勝ちです。ゴートー提督、どうか 我々を勝利に導いて下さい」  帝国軍に異変が起きたのは、それから5分後のことだった。「ピュー」という甲高い音 がし始め、兵士たちが次々に倒れていく。数分後、その音は帝国軍の停泊地を埋め尽くし ていた。この音の正体は、笛吹海峡の悪魔と呼ばれる、体長20cmあまりのトビウオの 風切り音である。この音が笛吹海峡の由来となった。この魚の胸びれや背びれはかみそり の様に鋭くなっている。帝国軍の兵士は、何が起こったか分からずに、倒されていった。 「近くの者は早く乗り込め!パラサイト号を出すぞ!」  テスラは怒鳴った。近くの者が乗り込む。縄を焼き切ると、船は暗い海面に落下した。 「テスラ様、頭を下げて下さい!」  ウィリアムがエルダー・フレイムに呼びかけた。船を覆う様に炎の天蓋が現れる。テス ラはパラサイト号を起動させた。船は勢いよく水面を疾走し始めた。 「アンペアの作った小型艇か。どんな仕組みで動いているかは知りたくはないがな」  ドルフィン島近海を脱出した。テスラはウィリアムに点呼をさせる。その時、給仕服の 女がテスラに何かを投げた。エルダー・フレイムが炎の鞭になり、それをたたき落とす。  「毒手裏剣!」ウィリアムが叫ぶ。  ライザが電撃を放ち、女を黒焦げにする。「危ない所だったねえ」ライザがテスラに向 き直った。あの弱そうな男の顔がライザの頭をよぎる。 「……ねえ、所で指揮官様。あたしが捕まえた男は、あたしの捕虜ってことでいいかい? もちろん洗いざらい吐かせてみせるからさ」 ライザはウインクをしながら、投げキッスをテスラに送った。ウィリアムが反対する。 「……いいだろう。何を考えているかは知らんが、どうせ駄目だと言っても聞かんだろう」  「テスラ様……」ウィリアムは肩を落とした。 ────────────────────────────────────────  リーが立てた作戦。それは笛吹海峡の悪魔の性質を利用した作戦だった。満月の夜、彼 らは産卵のためドルフィン島の入り江に集まる。わざとらしく光を灯して帝国軍に発砲さ せ、その音で魚たちを飛び跳ねさせる。血の匂いに魚たちはパニックを増し、攻撃性を高 めていく。帝国軍全滅とはいかなくとも、ディツを蘇らせる時間稼ぎにはなるはずだった。  ヨタとリーは手を取り合った。帰還途中、さらにリーは懐かしい顔に出会うのだった。 「よっ!リー、久しぶりだな。でっ、ゴートーの奴はどうした。帝国の補給船から色々と 奪って来たぜ。」 「ガンマ船長……、実は……」  リーはことの次第を話した。海賊ウォーターウルブズの団長ガンマ。ガレー船6艘を主 力とする船団を操る。帝国軍への反撃のためには、必要不可欠の戦力だった。 ────────────────────────────────────────  ドルフィン島の入り江は、血の匂いが満ちていた。月に照らし出された海面がゆっくり と盛り上がる。全長30mの巨体、シャルンホルスト1号は海に浮かんでいる死体を食い 始めた。10年振の食事である。収まらない空腹を満たすために、シャルルは周りの船を 打ち砕いた。悲鳴が闇に消える。命令をするイプシロンもここにはいない。 「なんだ、こいつは」  海神の加護を受け、沖の方からやって来た少年は声を漏らした。海神の神官シオノ、彼 は1万匹のカムナ(神魚)を従えている。 「……戦で死んだ人間は想念が強すぎて、その憎しみや恐怖が海を汚すんだ。俺はそれを 浄化するために来たんだ。これ以上無駄な戦いをするなら討つぞ!」  彼はシャルルに説得を始めた。だが、腹を空かせたシャルルの耳には届かなかった。シ ャルルは帝国の船を沈めて、犠牲者を貪り食う。カムナがビチビチと水面で音を立てた。 シオノは頷いて水中に潜った。水面がうねり弾ける。カムナに勢いをつけてもらったシオ ノが空を舞い、もりを持ってシャルルに突撃する。シオノの体に海神の力が流れ込む。 「海神よ、力を!……下り飛竜!」  シャルルの横腹に穴が開いた。魔法生物のシャルルの体の一部が、海神の力で溶け始め た。シャルルはたまらず叫び声を発し、月夜の海を沖に逃げ去って行った。入り江には、 帝国艦隊の残骸が残された。 ────────────────────────────────────────  ラド一行は、不死のトロルの住む山を目指していた。ディツの眠る神殿はウイッチハウ ス島の入り江の底にある。そこに行く方法を唯一知っているはずのトロルがそこにはいた。 道案内は、トロルの友人である島の子供パウがおこなっていた。パウは最初、止めようと しに来たが、アルフィアーネの説得によって道案内をしてくれることになった。 「あの山の不死のトロル、ノスフェラトゥは友達だ。でも本当は行ったらなんねえ。恐ろ しいことになるだ。ノスも近寄るなって言ってる」  山を登り始めて数刻がたった。山頂から岩が投げられて来た。皆は岩陰に散開した。 「ノス、おらだ。こん人たちがディツの神殿に行きたいらしいだ」  ラドたちは戦意がないことを示しながら、ゆっくりと出て来た。醜悪な姿のノスが見下 ろす。ノスは近づくなと指示しながらラドたちの話を聞いた。彼は血を介して移る病気を 持っているらしい。だがトロルの再生能力のために死ねずに、ここにこもっているそうだ。 「そうか、お前たちは国の民を生かすために戦っているのか……。死を待つだけのわしに はお前たちがうらやましく見える。……海岸へ向かえ。神殿へ導こう……」  ノスの話が終わる前に火球が飛んで来た。ノスの腕が飛び散る。「離れろ!海岸へ行く のだ!」ノスは指示を出しながら、火球の飛んで来た先へ襲いかかった。体が再生する。 「何だあの巨人は!ええい、倒してラドを追うぞ!」  テスラが剣を振りかざした。帝国兵が駆け出す。ライザのいかずちが閃く。その時ウィ リアムの杖、エルダー・フレイムから巨大な炎が立ちのぼった。炎は人の様な姿を取った。 「ウィリアム、こいつは近づかない方がいいぜ。病気持ちだ。こいつは死を振りまく」  炎がトロルを包んだ。ノスは最後に咆哮した。ノスの心の叫びが島を揺るがす。ウィリ アムは、その声に心の奥で震えた。エルダー・フレイムが杖に戻りながら語る。 「こいつは死を望んでいたのさ」  不死のトロル、ノスフェラトゥは、その場に立ったまま炭となった。 「不死のトロルの声だ。ディツの神殿に行かせることを認めたのか。珍しいな」  カムナと共にシャルルを追っていたシオノは、ウィッチハウス島に進路を変更した。 ────────────────────────────────────────  ラドたちは、海岸線まで下りて来ていた。パウが心配そうな顔で山の頂上を見ている。 その内に、島の入り江近くに無数の魚が集まり始めた。その中心にはシオノがいた。 「海神よ、潮で隠されし聖なる地をあらわにしたまえ!」  入り江の水位が下がり、広い干潟が現れる。その中心には丘があり、神殿が立っていた。 ラドたちは、その丘を登りだした。神殿からは、2人の目がその様子を見下ろしていた。 「ミカよ、人間たちがやって来た。ディツ様の眠りを守るわしの役目もそろそろ終わる。 いよいよ外へ出て、この白銀の翼で、自由に大空を飛ぶことができる」  銀竜は少女に語りかけた。少女は、雄大な姿の銀竜と共に神殿の入り口に向かった。 「あの神殿の中にディツが!先陣は俺がもらう!」  レスターは神殿に入ろうとした、しかし神殿は結界が張られており中に入れない。レス ターは、神殿内の銀竜に向かい火球を放った。火球は銀竜を直撃する。ミカはレスターを とめるため、竜に変化し間に割って入った。そこへ、反乱軍の放った矢が次々に突き刺さ る。ミカは変化が解け、床にたたきつけられた。それを見た銀竜は、半狂乱で暴れ始めた。 「き、貴様!今、生きていることを後悔させてやる」  銀竜の口から炎が吐かれた。 ──────────────────────────────────────── 「くっ、無駄な時間を食ってしまったぜ。しかし、この揺れは一体……」  テスラたちは山を駆け下りていた。干潟に神殿と竜の姿が見える。微震が起こっていた。 「……ミ……カ……」  銀竜は、急速に自分の力が衰えて行くのを感じていた。彼の背後には、戦神ディツの影 が迫っていた。大きな地震が起きる。神殿が崩れ去り、ラドたちは一斉に逃げ出した。割 れた地面の底からは、牛頭の巨人が現れた。銀竜はその場で動かなくなった。 「すごい……なんて化け物だ」  反乱軍に潜り込んでいたシュレッドは声を漏らす。まさか、こんなものが出てくるとは。 「よう、久しぶりだなディツ」  凍てついた風が吹き抜けた。天空を渡って、冬将軍ノーデンスの声がディツの耳に飛び 込む。反乱軍も、テスラたちも、それぞれの場所でディツの様子を見守った。ディツは北 の方角を睨んだ。 「そいつら人間に手を貸すことぁないぜ。厄介事ができるまで、この島にお前がいること も忘れていたような連中さ。前の戦いでお互い分かったろ?戦神は戦いが終われば厄介払 いされちまう。皆、いい加減なもんさ。俺と組もうぜディツ。どうせ南はお前のもんだ」  北方の神の声が、ディツの耳に響く。ディツは銀竜に手を伸ばした。すると、銀竜は銀 の戦斧に姿を変えた。 「これが答えだ!」  ディツは戦斧を振るった。ザイン地方に熱い風が吹いた。 「ふっ、せいぜいその島で風を起こしていればいい。手を組むのなら、こちらに渡って来 れる氷の橋をかけてやろうと思ったのだがな!」  ノーデンスは北方の地下深くで、ディツに溶かされた腕をなおしながら、傍らの女性に 言った。 「くく、復活した時には、お前の力も使い、大陸中の木々を枯らし、凍てつかせてやる」 ──────────────────────────────────────── 「どうやら、ラドは成功したようですね」  ヨタは甲板でリーと共にウィッチハウス島を眺めた。いよいよ決戦は近い。王国を帝国 の手から取り返すのだ。そう決意するヨタを、シェリーはこっそりと見守っていた。 ────────────────────────────────────────  ロジェストは、ゴートー亡き後、不要になった作戦図を海に破り捨てた。 「貴方は偉大な船乗りだった。貴方を越えることがわしの、わしの夢じゃったのに。しか し、そうなるとわしも引退の時が近いかのう……」  夕日に向かって敬礼をする。その時、帝国軍全滅の訃報が入った。 「ばかな、ゴートー以外にそんなことができる者など……。そうか、ゴートーは死んでな どおらんのだ。全てはこのわしを騙すための計略だったのだ」  ロジェストの顔に輝きが戻る。しかし彼は真実を知らなかった。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ08●『ヘクトの丘』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  すでに戦闘が終了した後であることは、マルクにも理解できた。第1部隊への伝令とし て来た彼は辺りを見回した。木は焼けているが、雨も降ってないのに地面は濡れて泥とな っている。いったいどんな戦闘が行われたのだろうか。 「第1部隊はもうヘクトの丘に向かったんだろうか」  何かが光っている。彼はその輝きに駆け寄った。光の正体は一抱えほどの水晶柱だった。 水晶柱の中には小人がいて、何か話しかけてきた。 「へえ、何だろっ、これ。夢でも見ているのかな。危険はなさそうだけど。おーい、何を 話しているんだい。そうだ、ヨタ様なら何かご存じかも」  マルクが触ろうとすると、水晶は輝く粉を散らしながら少女の姿になった。手の平大の 少女は、巻くし立てるように喋り始める。 「私はシナモン。プリムローズ様はどこ!ずっとこの王国を飛び回って探していてやっと 近くまで来たと思ったら火事に洪水に、身を守るために水晶を作ったら魔力を使い過ぎて こんなに縮んじゃって……。ところで、あなた誰?ちょうどいいわ。私をヘクトの丘まで 連れて行くのよ!」  シナモンと名乗った小さな少女に気圧され、マルクは彼女と共に急いで南西のヘクトの 丘に向かった。 ────────────────────────────────────────  ウェイン王国王城ミューの私室前。バレオ・クリムは手土産を持ってやって来ていた。 部屋の入り口を通りながらバレオは考えた。ふんっ、ボエラの奴め、アンペアの様な小物 に惑わされるとはな。ファラドへの執り成し?ばかばかしい。ミューの方が使えるわ!バ レオは、部屋の中のミューと対面した。 「お前がクリム家のバレオか。……野心家だな」  部屋の中には無数の鏡があり、その中央にミューは座していた。 「この杖はヨタの持っていた杖。我が家の調べではエルダー・ルーツ。これをミュー様に」  バレオが杖を差し出す。杖には手首から切り取られた女性の手が張り付いていた。バレ オの手から杖が離れない。少し顔をしかめ、バレオは自らの手首を切り落とした。 「我が忠誠の証し……」 「……バレオ。クリム家の名前を捨てなさい。私はいつでも有能な人材を求めています」  バレオは腕を縛りながら退出した。……次はアンペアに姉さんを引き渡すだけだ。 ────────────────────────────────────────  デルタは、ミューの部屋の前で1人の男とすれ違った。珍しいな、ミュー様の部屋に直 接やって来る者とは。部屋を覗いてみる。ミューは水鏡の前で独り言を言っていた。デル タは部屋に入って行く。 「どうしたのデルタ?」  ミューは全てを見通しているような目で彼を見つめた。デルタは今後の指示を仰いだ。 ────────────────────────────────────────  イプシロンは王城でデルタを見つけた。デルタは何かを考えるように歩いている。イプ シロンはデルタを呼んだ。返事はない。無視して歩くデルタにテレパシーを送る。「ひ、 ひどいわデルタ君。お姉ちゃんを無視するのね。小さいころあんなに遊んであげたのに。 おねしょのシーツも……」デルタはゆっくりと無表情な顔をイプシロンに向けた。 「お兄ちゃん。あいさつぅ」 「……イプシロンお婆さま。お久しぶりです。その格好、そろそろお年を考えられては」  片膝をつき、デルタは答えた。イプシロンはデルタの頭を、子供にする様に撫で回した。 「……デルタ君、お婆さまはひどいんじゃない。あ、そろそろ立って。帝国軍の立派な指 揮官が、こんな小娘に頭を下げているのを見られたらまずいわ。ちょと聞いているの!ま さか好きな人のことでも考えてたんじゃ。まさか反乱軍のサラとかいう神官じゃないでし ょうね。えっ、本題に入れって。そうやって話をはぐらかそうとする……」  イプシロンはデルタに、王子の死体がどこに行ったか調べるようにと頼んだ。 ────────────────────────────────────────  ザイン帝国首都、ザインオーネの皇宮。玉座には1人の老人が座していた。寒風の中、 一陣の風と共に謁見の間に漆黒の闇が降り立つ。闇はその場にわだかまり、女の姿になる。 「お呼びでしょうか、……皇帝陛下」  黒髪の魔女は形ばかりの会釈をした。皇帝は、手元の猫を撫でながら魔女を睨む。 「ミュー。お前はなかなか深謀遠慮に過ぎる所があるな。今は何をやろうとしておる?」  ミューはボルトをせせら笑った。ボルトの顔が怒りで歪む。ボルトの爪が猫に食い込む。 猫が「ギャッ」と鳴いた。 「我が帝国に仇なすことではあるまいな?」 「フフ。地が出てるわよ、皇帝陛下様。今日は面白いプレゼントがあって来たのに」  ボルトの手に霜がおり、猫が凍りつき砕け散った。ミューは手を虚空に上げた。 「図に乗るなミュー!わしが復活した暁には、まず貴様から血祭りに上げてくれようか!」  ミューの頭上から1本の杖が現れた。杖は形を変え、白髭の老人になる。 「エルダー・ルーツ!なぜ、お前がここに!」 「フフ。思わぬ所からやって来たのよ。お前の復活が近いと言ったら喜んでついて来たわ」 「ノーデンス!我らが大地の眷属、貴様の再度の封印のために集結するぞ!」  ミューは杖に戻ったエルダー・ルーツをつかむと、皇宮の外へと投げ飛ばした。 「エルダー・ルーツは誰かに拾われ、お前の封印のために向かうであろう!」  魔女は闇の姿になり、皇宮を凍らせるボルトを後に南へと飛び立った。 「……奴らに、プリムローズ殺害ができればいいが……しかし、ミューめ!」 ────────────────────────────────────────  波の音が響き渡るクリム邸。ボエラはバレオからの報告を読んでいた。突如手元が歪む。 誰かが物品転送をしてきたようだ。手元に1通の手紙が現れた、手紙には皇帝の署名と捺 印があった。ボエラは手紙を開いた。 「反乱軍がヘクトの丘に集まる。そこに大地母神の神官でサラと言う者がいる。そいつを 殺し、血の一滴も含め、死体を回収するのだ。お前のことは信頼している。よろしく頼む。 ミューが何か企んでいるらしい。何を企んでいるか分からぬが注意せよ」  ボエラは立ち上がった。 「誰かおらんか!」  ボエラはその肥大した体を揺すって笑った。今こそクリム家が勢力を伸ばす時だ!その 頃、同じ手紙を受け取った者たちがいた。アンペアとファラドである。 「皇帝陛下の信頼に答えなければな。四魔将も皇帝に仕える者はわし1人になった……。 ようやく帝国を手に入れられると言うものじゃ。ケケケ。ミューよ、帝国は渡さんぞ」  アンペアは手術台を振り返った。そこには改造途中のキャスの姿があった。 「ケケケ。目障りなクリム家は、クリムの者に滅ぼさせるとするか」  同じく王城内。ファラドは帝国軍の指揮官に招集をかけていた。 「ヘクト丘陵。誰よりも俺が熟知している場所に集うとはな……。そこなら、決戦はギガ 峠か。いいだろう、過去の忌まわしい記憶を振り払うためにも俺自らが迎え撃ってやる!」 ────────────────────────────────────────  ヘクトの丘近くに、森の中に木や草が生えず、常に薄暗い所がある。その場所、女神の ほくろには一軒の家が建っている。王子を抱えたドムグフはその家に向かっていた。 「アナハイム師のおしゃっていた場所。ここにかつての四魔将の1人シータ殿がいるはず」  ドムグフはその家に入った。中では1人の少女が、首を小脇に抱えた死の妖精デュラハ ンの執事にお茶を注いでもらっていた。四魔将の1人シータはカップを机に置き立ち上が った。 「あなたがドムグフね。話は聞いているわ。それを隣の部屋の台の上に置いてちょうだい」  ドムグフは、尋ねた四魔将の一人が少女の姿であったことに驚きながら王子を運んだ。 シータは、ドムグフに外で待っているよう告げると部屋にこもった。部屋にはアナハイム 特製の姿似せのゴーレムがあった。王子の体をそれに重ねる。するとゴーレムは王子の姿 になった。シータは王子の死体に爪を立てると、王子の魂を抜き取り偽物の王子の体の中 に押し込んだ。シータは一息つく。 「アナハイムよ、下手をすると世界を滅ぼすことになるぞ。そこまでせねばならぬ相手な のか、あの魔女は……」 「王子の死体は連れて行きますよ、シータ」 「えっ、あっレッドね。分かったわ。頑張ってね」  レッドと呼ばれた司祭姿の翼人は、王子の死体を抱えると窓から飛び立った。  ドムグフは困惑していた。前回さらった王子に彼は見覚えがあった。そう、1年前彼の 片腕を切り落としたのはその若者であった。憎しみがないと言えば嘘になるが、むしろ高 い身分にもかかわらず前線で戦っていたことに、戦士として畏敬の念を抱いていた。「王 子をシータの所まで運び、王子を蘇らせ反乱軍に協力せよ。これは皇帝の命でもある」師 匠の命は余りにも突飛であり、彼を困惑させた。  シータが出て来た。その手には王子の姿があった。 「まだ目は覚ましていないわ。後はアナハイムとの打ち合わせ通りよ」 ──────────────────────────────────────── 「翼人……北風の民か。王子をさらってどうするつもりだ?皇帝に知らせねば」  農民の格好をしたその男は、女神のほくろから森へと消えて行った。 ──────────────────────────────────────── 「……嘘だろ、なあ、嘘だって言ってくれよ!あいつが……ギッシュが死んだなんて……」  反乱軍第2部隊所属クラフト・セイルはウェーバーに食ってかかった。 「……すまん。部下は1人も失いたくはないんだがな……敵は許してくれないようだ」  ウェーバーは呟いた。ヘクトの丘には、各地に散っていた反乱軍たちが集まって来てい た。各部隊がかき集めてきた戦力のお陰で、兵力は半年前の2倍に膨れ上がっていた。本 当なら、この場に王子も連れて来ているはずだったのだが……。それぞれの部隊で失った ものは大きかった。 「ラド将軍やヨタは来ていないようだな……。無事だといいが」  ウェーバーは他の指揮官たちとの軍議に向かった。 ────────────────────────────────────────  満月は中天に差しかかっていた。デルタはアンペアを監視するためと、王子の死体の情 報を得るためにヘクトの丘に来ていた。デルタは気分を変えるために川べりを歩いていた。 アンペア直属のキマイラ部隊、あのおぞましい、生命への冒涜を心から振り払うために。 ────────────────────────────────────────  「……!……セラムが死んだよ」端正な顔立ちの若者は、月を背に受け呟いた。セルビ オである。傍らには、鎧兜で身を包んだ男が付き従っている。 「……そうですか。セルビオ様、予定通りに行いますか」  鎧兜の男シオンは、表情を変えずに問った。セルビオは歩き始める。 「そうだねシオン、大地母神の神官サラをさらうとしよう」 ────────────────────────────────────────  川に映った月の姿が揺れて消えた。サラは、深夜皆が寝静まってから、川に水浴に来て いた。水を手ですくい、静かに体にかける。水はなだらかに体の曲線をつたい、川へと戻 って行った。再び満月がサラの傍らに現れる。風の音に混じり、微かに下草を踏む音がし た。 「誰!」  サラは声を上げた。帝国の軍服に身を包んだデルタはその足を止め、その少女に見入っ た。サラは神官衣を引き寄せる。その手に神官衣を持ったまま、サラはその青年の目を見 つめた。 「なんて悲しく、そして熱い目ををしているの……」  その時、水鳥が飛び立った。 「お嬢さん、危ない所でしたね。私が通りがかっていなければ、その帝国軍の兵士に……」  セルビオが、シオンと共に対岸に現れた。違う、彼の目は私に危害を加えようという目 ではなかった。サラは急いで服を着た。セルビオが手をかざして念をこらす。弾かれるよ うにデルタが吹き飛ばされた。セルビオは笑い声を上げた。 「……貴様何者だ!……アンペアの様な笑い方だな」  デルタのその言葉に、セルビオは眉をしかめ再度デルタを弾き飛ばした。シオンがサラ に迫る。 「氷結裂破!」  川に薄氷が張る。シオンは魔法中和の剣を立てて魔法を中和した。しかし、セルビオの 半身がその魔法中和外に出ていたので凍りつく。「ちっ」舌打ちをして、シオンは踵を返 し、セルビオと共にその場から去った。 「おーい、誰かいるのか?」  ウェーバーの声が聞こえてきた。デルタは、一時サラと目を合わし、そして立ち去った。 ──────────────────────────────────────── 「ようサラじゃねえか。どうしたんだこんな夜中に。ははーん誰かと逢引でもしてたのか」  ウェーバーが笑いながら言う。サラは急いで服の裾を直す。 「ウェーバーさんこそどうしたんですか?こんな夜中に」 「ん?元々本業は夜のお仕事だからな。逢引の約束をしてたのさ」  サラが困った表情をする。その時、背後から声がかけられた?ヨタの声のようだ。振り 向いて見る。確かにヨタだ。ヨタはにこやかな表情を浮かべて近づいてきた。 「ヨタ様!」  サラが声を上げる。ヨタはウェーバーたちの側まで来た。ヨタをウェーバーの剣が襲っ た。ヨタが驚いた顔をして跳びすさる。ヨタのローブの下から、魔法中和の剣が覗く。サ ラが先程の鎧兜の男を思い出し、ウェーバーに告げた。ウェーバーは剣を男に突き付ける。 「……なぜ分かった」 「簡単なことだぜ。ヨタは足音を立てて歩くからな。それに、アンペアの動向を探っても らっていたエレスが、お前は敵だと教えてくれたんだよ」  茂みの中から、黒ずくめの服を着た金髪の美女が現れる。 「……セルビオ様が心配だ……」  ヨタと同じ容姿を持った男シオンは、早々にその場を離れた。エレスが2人に近づいて 来る。  「久しぶりねウェーバー。本当に足を洗って真面目にしてるのね。昔の面影は全然ない わよ。……それで、アンペアの部隊を調べて来たんだけど」エレスは気分悪そうに語り出 した。 ────────────────────────────────────────  帰りがけ、サラはウェーバーに質問した。 「あの、ウェーバーさんは昔、何をしてたんですか。エレスさんが昔がどうこうって……」 「夜盗の首領をしてたのさ。エレスがまだガキの時だな。あれの親父もいい腕をしていた」 「え?それが……何で王国軍の部隊長になったんです?」 「ブレイド国王に誇りを救われたのさ。ここにいるのもその義理だな」 「誇り……ですか」  サラは自分がなぜ反乱軍にいるのかを考えた。 ────────────────────────────────────────  デルタは王城に向かって馬を走らせていた。何者かの気配がする。デルタは馬上で辺り を警戒した。突如馬の足が切断される。デルタは馬上から転がり落ちた。馬が倒れる。 「お前がデルタ・クロネッカーね。私と闘いなさい」  馬の上には1人の女剣士が立っていた。長い刀を抜く。デルタは距離を取った。 「何者だ!反乱軍の者か!」 「……クライム・クロネッカー……」  クロネッカーの名に驚くデルタをよそに、女剣士は目を赤く輝かせ、襲いかかって来た。 デルタは氷結裂破を放った。凍気は女剣士を凍らせた。氷の柱が砕け散り女の姿が消える。 デルタは息をついた。 「この程度で私を倒せるつもり」  デルタは声の主を探した。氷片の傍らに女剣士が形を成す。霊!実体を持たないのか! 女剣士の刀がデルタを襲う。デルタの脳裏にサラの姿がよぎった。その刹那、デルタの手 の中に一振りの刀が握られ、女剣士を両断した。女剣士は微笑みを浮かべて消えて行った。 女剣士の声が聞こえる。 「私は先代のプリムローズの守護剣士。そしてお前の血縁を逆上った者。その刀レッドロ ードをお前に託す。その刀は、お前に新たな力を与えてくれるだろう。プリムローズを守 るのだ!」  デルタは星空にサラの姿を思い浮かべていた。 「僕は、決して運命など信じない……」  彼は確信していた。サラがプリムローズだということを……。 ────────────────────────────────────────  夜が明けた。ウェーバーは眠い目を擦って天幕から出て来た。兵が息も荒く走ってくる。 「ウェーバー様!王子が!ラスヴィル王子が!」  ウェーバーは、急いでその兵士について走って行った。そこには王子を取り囲む兵士た ちと、禿頭の偉丈夫がいた。なぜ、王子が生き返っているんだ?ウェーバーは考えこんだ。 「王子!」  サラが目に涙を浮かべて王子にすがった。兵士たちの興奮は止まない。ウェーバーは、 厳しい視線を王子と禿頭の偉丈夫、ドムグフに注いだ。 ────────────────────────────────────────  翼人レッドは王子の死体を抱え、大空を進んでいた。彼は昔のことを回想する。あの帝 国建国当時の四魔将の輝かしい活躍を。死霊軍団のシータ、ゴーレム軍団のアナハイム、 鳥人軍団のレッド、キマイラ軍団のアンペア。シータ、アナハイム、アンペアの3人は、 それぞれの魔力で最盛期の力を保っている。だが自分は……老いて行く体が憎らしかった。 その時、空に鏡の様な光がきらめいた。 「見つけたわ。デルタ君の言ってた通りね。王子の死体は渡してもらうわ!」  イプシロンは、ミューの鏡で空間を越え、姿を現した。レッドが迎撃態勢を取る。 「フライング・キラー!」  イプシロンの放った見えないチャクラムがレッドの翼を切り裂く。レッドは王子の死体 に魔法をかけて北に向けて飛ばした。イプシロンの注意が一瞬そちらに向く。 「無音瞬殺神風!」  冬将軍の凍てついた風が逆巻く。ノーデンスの神官レッドが呼んだ竜巻が、イプシロン を襲った。イプシロンは切断されて地上に落下して行く。レッドは王子の死体を追った。 イプシロンの寸断された死体が地面にたたきつけられた。傷口が溶け出す。 「やはり魔王ガシュタットの作ったもの、神の力には弱いようね……」  闇が忍び寄り、ミューの姿になる。ミューは腕を振るった。熱い風がノーデンスの力を 吹き飛ばす。イプシロンの体は独りでに癒着し、元の姿に戻った。イプシロンはミューを 見つけて謝る。ミューは闇となり、イプシロンを包み込んで消えた。 ────────────────────────────────────────  サラは、王子の帰還に喜ぶ兵士たちの間で、微かな声を聞き取った。 「……助・け・て・プ・リ・ム・ロ・ー・ズ・姉・様……」 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■今回のシナリオ■ ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  今回参加者を募集するシナリオは、以下の2種類です。あなたが参加するシナリオをど ちらか1種類だけ選択して下さい。 ●シナリオ09『サーセ急襲』  帝国艦隊を撃滅し、ディツを蘇らせた反乱軍は勢いに乗っていた。今こそヘクトの丘に 集っているはずの他の部隊と合流し、帝国を撃つべきである。また、ディツの神殿の地下 からは魔宝石の鉱脈が見つかっていた。反乱軍は、魔宝石を船に積み込む。ヨタの指示に より、その魔宝石には、ディツの魔力で爆炎の魔法がかけられていた。投石機用である。 ディツは北を見続けている。そして再び謎の黒髪の美女が反乱軍に現れた。「行ってわ駄 目よ!」その女性は訴える。その頃テスラは、反乱軍を倒す作戦を練っていた。 ・ラドの一言「いよいよ決戦が近い。ウェイン王国をザイン帝国から取り戻すのだ」 ・ヨタの一言「戦神ディツが海を渡れればよいのですが。圧倒的な戦力になりますからね」 ・テスラの一言「プリムローズを帝国に連れ帰るまで、俺は負けられんのだ!」 ●シナリオ10『ギガの攻防』  ウェーバーは王子に疑問を抱いていた。おかしい、何故王子が消えて、復活して戻って 来たのだ……。王子は全軍を指揮し、決戦の準備を整えていた。王子は黄金の鎧を着て、 その姿を全軍に誇示する。全軍の士気はいやが上にも高まっていた。サラは王子と行動を 共にしている。その頃アンペアは、徐々に反乱軍の背後に回りつつあった。そして、反乱 軍が逃げ出す先には、ファラドがギガ峠に陣を展開しつつあった。……暗闇の部屋の鏡を 前にミューがたたずむ。鏡には、ノーデンス封印の地が映っていた。 ・サラの一言「何故か北の空が気になるわ……どうしてかしら」 ・ファラドの一言「俺が王国を追われる切っ掛けとなった戦場の地……ヘクト丘陵か」 ・ミューの一言「第2段階が終わったわ。次は第3段階ね……」 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第4回名声ランキング(敬称略) ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ●12point 村岡幸博(イプシロン、シャルンホルスト1号、マルク=レート、リー=ラド、 ロジェスト) ●8point:きむ ゆんすん(エルダー・フレイム、ガンマ船長、ノスフェラトゥ) ●7point:夕惟猗(銀竜、デルタ・クロネッカー) ●6point:地獄帰りのサタンクレイドル様(シオン、セラム、セルビオ)/どんぶり(ノ ーデンス、ライザ・“メデューサ”・ヘルツ) ●5point:NRA(ウィリアム・カーン、シオノ、パウ) ●4point:あめふらし(キャス・クリム、シュレッド、バレオ・クリム、ボエラ・クリム) /松本彰(アルフィアーネ・ライナス、エレス・レイシル、クラフト・セイル、レ スター・ガーベック)/よっとだ ●3point:宮崎伸幸(シータ、ドムグフ、偽王子、レッド) ●2point:G☆G ●1point:志柿俊光/九条一馬(シェリー・ミスティクス)/中島一州/風幻(クライム ・クロネッカー、シャドウ・ベータ、フルーティア)  今回は、不採用のキャラが何人かありました。以下にその基準を書きます。他のアニメ などの設定を参考にするのはいいが、そのまま盗んだ(と私でもわかってしまう)のは不 許可です。アニメやゲームのファンでもない自分にでもばれる程度のキャラはさすがにい ただけません。きちんと消化されていれば別ですが。今までのSEEK本文に矛盾を生じ させる内容も同様です。キャラ登場条件を失敗したキャラもその回出てこれません。ま た、本編に絡まないキャラに割く字数はありません(ページ不足)。あと、行動はマスタ ーの理解できる様に書いて下さい。それと、名前が短いと字数が少なくてすむので好きで す。  名声ポイントについて途中参加しづらいのではと質問がありましたが、名声ポイントな しでもいきなり活躍できますし、毎回3〜5点は気合があればとれます。また、「ドラマ がきっちりし過ぎている」と意見がありましたが、それは私の趣味です。  村岡さんは地図、リーの作戦、イプシロンの行動(笑)で点数を稼ぎました。きむ ゆ んすんさんは地図、ウィッチハウス島の設定で点数を稼ぎました。夕惟猗さんはデルタの 決めゼリフがきまっていました。どんぶりさんは扉採用で点数を稼ぎました。NRAさん はウィリアムのイラストに笑わされました。地獄帰り〜さんは神話(マスターを唸らせる 設定)、沈黙の艦隊(笑)、ヨタやラドの行動で点数を稼ぎました。宮崎伸幸さんはマス ターを唸らせる設定で点数を稼ぎました。