●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●   …………………………………………SEEK…………………………………………   第 5 回 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 柳井政和 (C)1995 Masakazu Yanai Reproduction 1998.12.19 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ09●『サーセ急襲』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  アンペアの本陣のすぐ裏手、セルビオの幕舎は絶えず薄暗い。 「本国からの長旅で疲れただろう」  セルビオは4人の娘を迎えていた。キマイラ特務部隊フラフス4、薄いあらわな服をま とった彼女らは、アンペア師団の中枢にしてセルビオに忠誠を誓う存在。 「セルビオ様に会えるのなら、どこからだって飛んで来ますわ!」  水色の髪のムムがセルビオに抱き着く。4人の娘は一様にコウモリの翼を生やしていた。 「リオット……。カロミリアン姫から例の物は預かってきてくれたね」  黒髪のリオットが、一通の手紙をセルビオに見せる。セルビオは、最も信頼を置く部隊、 フラフス4に新たなる指示を出した。ムム、リオット、クィン、パオ……陰謀は紡がれる。 ────────────────────────────────────────  光の破片が夜空を彩る。7月の星空に照らされて、ディツの異様が浜に大きな影を落と す。ディツは銀の戦斧を神殿の前に突き立てていた。その瞳には北の大陸が映っている。 「ノーデンス……貴様との決着、我が手でつけてやる」  その神殿の中、ミカは少女の姿で目を覚ました。神殿の入り口に星明かりが見える。ミ カはおぼつかない足取りで入り口に向かう。神殿の入り口に来たミカは、それが星空でな いことを知った。柄は竜の首、刀身はその体、銀の戦斧は星空を映し取っていた。 「お、お兄ちゃん!」  ミカが銀の戦斧に近づく。その目から涙がこぼれる。その涙は、銀竜の心を蘇らせた。 銀竜は残った力を振り絞り、その体を竜の姿に戻す。銀竜はミカを見つめ口を開いた。 「大丈夫のようだな。どうやら私はディツに騙されていたらしい。あぁ、ようやく呪縛か ら解き放たれたのに……、飛ぶ力さえディツは私に残してくれなかったようだ。ミカ、君 は天空神プルーム様にこのことを……ディツ……ノーデンス……そして……」  銀竜は憧れ続けた大空を眺め、静かに息を止めた。ミカは泣き崩れる。そして、銀竜に 禁じられていた復活の呪文を使った。光の奔流が神殿に溢れる。 ──────────────────────────────────────── 「うーん、ヨタ様じゃないけどあんなでかいディツをどうやって運ぼうかな。無理だよな」  リーは色々なことを考えながら港を1人で歩いていた。夜の海がキラキラと輝いている。 「ディツを大陸にでも運びたいのかい?」  桟橋の下から声が聞こえる。リーが覗き込むと、海にはリーと同じ年ぐらいの少年が浮 かんでいた。少年の周りには虹色の魚が無数に泳いでいる。海が輝いていたのはこのせい だ。神魚は、この海域の死者の魂を浄化して発光しているのだ。リーが驚いた顔をする。 「俺はシオノって言うんだ。海神の神官さ。ディツを渡らせられるやつを知ってるぜ」 「え!……シオノって言ったよね。教えてくれないか」  リーは身を乗り出してシオノに聞いた。シオノはリーに手を差し出す。リーはよく分か らないままにその手を握った。シオノが笑顔を浮かべる。 「確か人間の友達って、こう手を握るんだよな。俺、人間の友達ができたのは初めてだ」 ────────────────────────────────────────  フラフス4のパオは港の沖合にいた。彼女はリオットに言われた通りに火球を港に向け 放った。火球が反乱軍の船を襲う。幾つかの船が爆発する。兵士にパニックが起こる。 「大変だ!船が何隻か燃え上がっているよリー。消火しなきゃ」  シオノは叫んだ。リーは逃げ惑う兵士を捕まえて消火活動を指示した。 ────────────────────────────────────────  ライザは反乱軍の天幕近くに潜んでいた。正確には、ヨタの天幕近くの泉で、神官に混 じって水浴びをしていたのだ。軍服を脱ぎさえすれば、夜なので正体はばれない。  ヨタは、今日の昼に訪れた黒髪の美女のことを考えていた。あの女性はディツを大陸に 近づけてはならないと言っていた。一体何が起ころうとしているのか……。  夜の静寂を破り、突如兵士の叫び声が各所で上がった。パオの火球のせいだ。あの男が 襲われたのかも!ライザは急いでヨタの天幕に飛び込んだ。中では、コウモリの翼にサソ リの尾を持った女が、今にもヨタに襲い掛かろうとしていた。ライザはヨタに飛び掛かる。 「何やってんのよ。あんたにゃ死んでほしくないわ!」  フラフス4のクィンは、主人の命令通りヨタをさらおうとしていた。マヒ毒の針がヨタ を襲う。ライザはヨタを突き飛ばした。針がライザに刺さる。裸のライザは、ヨタの上に 倒れ込んだ。天幕の外から兵士達が入ってくる。クィンは舌打ちをし、天井を破って飛び 去った。シェリーが駆け寄る。ライザは気を失いながら、ヨタの耳元で小さくささやいた。 「あたしに……魔法をかけたでしょ……。あんたの笑顔が、頭を……離れな……くて……」 ────────────────────────────────────────  レスターはラドの一行と共に、神殿奥の魔宝石の探索から帰って来た。神殿の入り口に 少女と小さな銀竜がいた。少女は倒れており、銀竜は少女の前に立ち塞がっていた。 「あの少女は!竜に変身した少女!」  レスターが槍を構える。ラドはレスターを制して少女の方に近づく。少女は苦しそうに 喘いでいる。銀竜は心配そうに少女をのぞき込んでいる。この小さな銀竜は、ミカの魔法 で記憶を失い姿を変えて蘇った銀竜だった。ラドは少女の額に手を当てる。 「まだ幼いのに……。この少女は連れて帰る。竜も敵意はないようだ」  ラドは少女を抱えて歩きだした。神殿を出た時、突如上空より奇声が発せられた。 ──────────────────────────────────────── 「お年寄りの相手も大変ね。これもセルビオ様のためだわ」  ムムは神殿の上空より音波攻撃を行った。ラド達が耳から血を出しその場にうずくまる。 銀竜は上空を睨んだ。ミカを助けなければ!銀竜は炎を吐いた。ムムの体が燃え上がる。 「……セルビオ様……」  レスターは燃え尽きるムムの姿を凝視した。やはりこの銀竜は危険な存在では……。 ────────────────────────────────────────  テスラ達は反乱軍から離れた山に隠れていた。少人数でヨタたちを討つ作戦を練ってい たのだ。しかしなかなかいい案が浮かばない。ライザもいつの間にかいなくなっているし。 「取り敢えずヨタたちをパラサイト号で追いながら、隙を見つけて攻撃しよう」  テスラが話を締めくくる。そこにコウモリの翼を持った女が降りて来た。 「アンペアの使いか。名は何という」ウィリアムが問う。 「名はリオット。アンペア様の参謀セルビオ様より手紙を預かっています」  テスラは手紙を受け取った。手紙にはザイン帝国第3皇女カロミリアン姫のサインがあ る。……親愛なるテスラ様へ。この様なこと、あなたにご相談するのもおかしな話ですが、 他に相談する者もいず、筆を執らせていただきます。実は最近、父の様子がおかしいので す。何か正体の分からない影のような、闇のようなものが父から発せられているのを感じ ます。テスラ様、私はどうすれば良いのでしょうか。愛するテスラ様。一刻も早く戦いを 終え、戻って来て下さい。私1人ではとても心細いのです。はるか北の大地であなたの無 事と活躍、一刻も早いご帰還をお祈りしてます。カロミリアン=メルク=ザイン……。 「テスラ様。ボルト皇帝はノーデンスを復活させるつもりです。貴方様がどんなに粉身な さっても、このままでは帝国に春は訪れません。唯一の方法は、テスラ様が新皇帝として ファラド軍を掌握なさり、反乱軍と講和を結ぶことです。アンペア軍は既にセルビオ様が 掌握なさってます。テスラ様は、カロミリアン姫と結婚なさり、正統皇位継承者として帝 国の悪であるボルト皇帝を討つのです。全ての手配は整っています」  テスラはその場でよろめき、1歩下がった。ウィリアムがテスラを支える。 「はっ、はは。そんな馬鹿なことが信じられるか……。皇帝が……ノーデンス……」  テスラは脂汗を流しながら剣を抜いた。リオットが飛び去る。 「覚えておいて下さいテスラ様。これから起こることが全てを証明してくれます。いつで も私をお呼びになって下さい。セルビオ様は全てを準備なさっています」 ────────────────────────────────────────  その日反乱軍の船は出港した。クリム家のスパイ、シュレッドは影を通じてボエラに連 絡を送っていた。シュレッドが影を呼び反乱軍の動きを告げる。 「反乱軍は爆炎の魔宝石を積みサーセを急襲する模様。その攻撃の指揮官はラド将軍、そ の孫リー、海賊団の首領ガンマの3人。ヨタはシオノという海神の神官を伴い、デビルク ラーケンの巣近辺に住むレヴィアタンという大亀に会いに行くとのこと。これはディツを 大陸に上げるため。私はヨタと行動を共にし、引き続き連絡を行います」  反乱軍は全船団を出発させた。笛吹海峡を通る時、全船員がゴートーに敬礼した。 ────────────────────────────────────────  ウェイン王城。任務に失敗したイプシロンは、ミューの前で肩を震わしていた。 「……イプシロン。お前はこのままでは私の役には立てないようね」  ミューはイプシロンに手をかざす。イプシロンがその場から逃げ出そうとする。 「やめて、ミュー様。お願い、封印はいや。だ、誰か助け……」  イプシロンは固まった。もはやよくできた人形に過ぎない。ミューはイプシロンを抱え 1枚の鏡の前に立った。その鏡には研究室らしきものが映っていた。ミューが闇と化す。 ────────────────────────────────────────  巨大な電気ウナギが海を回遊している。腹に開いた穴がすっかり治ったシャルルは、イ プシロンから新たな命令があるのを待っていた。その時、イプシロンの悲鳴が上がる。 「やめて、ミュー様。お願い、封印はいや。だ、誰か助け……」  精神感応を受け取ったシャルルはウェイン王城に向けて進み始めた。 ────────────────────────────────────────  リーはサーセの方角を向いた。どうやって敵をおびき出すか……。ヨタの立てた作戦で は、リーがロジェスト提督をおびき出す。残った船団をガンマが爆炎の魔宝石で殲滅する。 港の船を空にした所で敵は港に立てこもるはずなので、ラド将軍の本隊が離れた所より上 陸、敵の背面に待機し、ガンマがサーセに魔宝石を打ち込むことで帝国軍をあぶり出す。 敵は提督不在で統率は取れないはず……。そろそろ港が見えてきた。兵士が騒ぎ出した。 「あれじゃないのか、帝国を襲ったと言う巨大魚は。あの方向だと王城に向かってるぜ」  リーはこれだと思った。早速指示を出す。沈める予定だった20隻の船を率いてギャラ クティカ号でシャルルを追う。まるで反乱軍がシャルルを全面に押し立て、王城に向かっ ているかの様に見せかけながら。リーはギャラクティカ号にゴートーの将旗を掲げさせた。 ────────────────────────────────────────  反乱軍が現れた。怪魚に従い王城に向け進む船に、ロジェストはゴートーの将旗を見た。 「全軍に指令。半分の艦艇を持って敵艦と敵怪魚を各個撃破する。残りはサーセの守りに つけ。ゴートーめ、お前さえ倒せば後の戦果など問題ではない。我が赤鰐よ黒鯱を砕かん」  リーのおとり作戦は成功した。シャルルは海岸に乗り上げ動けなくなっていた。今から 帰った所でサーセ急襲は防げない。リーはロジェストに捕らえられていた。 「本当にゴートーは死んだのか……。私は奴に勝てないどころか弟子にまで負けたのか」  ロジェストはリーを軟禁するように部下に告げた。全てはサーセに戻ってからだ。 ────────────────────────────────────────  ヨタ達の船はデビルクラーケンの巣に向かっていた。ヨタの船室は鮨詰め状態だった。 ヨタの世話をしているシェリーやシュレッド、麻痺したままのライザ、銀竜にミカ、そし て「船だ船だ」とはしゃぐシオノ。その他大勢。ライザが目を覚ました。ヨタが覗き込む。 「お父さん!よかった。生きてたんだね。会えたんだね」  ライザがヨタに抱き着く。シェリーはライザを引っぺがした。ライザが口を膨らます。 「やだ。やだ!お父さんのそばじゃないとやーだー!」  「あなたは誰なのよ!」シェリーが叫ぶ。 「あたしの名前はライザ、4歳!お母さんはベラ。お父さんはこの人」 「はあ、記憶が混乱しているようですね」ヨタがシェリーの非難の視線を受けながら言う。 「えー、シュレド。外の空気を吸いに行きたいんですが。ここは息が詰まりそうですから」  シュレッドに肩を借りて部屋を出るヨタをシェリーは追いかけた。 ────────────────────────────────────────  上空で翼人レッドはヨタが甲板に出てくるのを待っていた。竜巻でヨタに攻撃をかける。 ヨタはマストに叩きつけられ血を吐いた。シェリーがヨタをかばうように覆いかぶさる。 「ヨタ様死なないで。私の命を全てあげてもいい。いつかの様に微笑んで下さい」  レッドが魔力を込めた羽根をヨタに放った。羽根はヨタに襲い掛かる。その時彼女の体 が光り、姿が宝石に変わった。宝石は光を増し宙に制止する。羽根が消し飛ぶ。ヨタはそ の宝石のきらめきにシェリーの横顔を見た気がした。宝石は弾けた。破片がレッドを貫く。 「シェリー!」  ヨタは立ち上がりシェリーのいた所に走った。足が動いた。光の滴が舞っている。 「まだだ、こんな所で死ぬ訳には……一族の恨み……はらす……ノーデ……様」  レッドは海に落ちて行った。その様子を、密かにつけていたテスラ達は見ていた。「翼 人はノーデンスの神官……まさかあの娘の言っていたことは……そんな馬鹿な……」テス ラは剣を振るった。ヨタ達の船に爆炎魔球が見舞われる。帆が破れ船体が破損する。 「ヨタ様、船が何処からか攻撃されました。修理をしなければこれ以上の航海は無理です」  「あそこに島が見えます。上陸して修理を行いましょう」ヨタは立ったまま兵士に答えた。 ────────────────────────────────────────  ヨタ達は島に上陸した。船の修理の間、ヨタと数人は島を見回っていた。ヨタは思った。 シェリーが消えた直前の宝石は……大地母神の神殿でパームがもらった宝石に似ていたと。  「何かおかしいよ、この島」シオノが言う。 浜辺を歩いていると遠くに人影が見えて来た。その人影は剣を振り上げて走ってくる。 「見つけたぞヨタ!覚悟しろ!爆炎魔球!」  テスラの火球とライザの雷が宙で激突する。テスラ達が迫って来た時、その間に闇が現 れた。闇は形を成し黒髪の美女の姿になる。テスラが「ミュー!」と叫ぶ。 「今は戦っている場合ではありません。ミューが神を地上におびき出しています。あなた 達は利用されているのです。このままではミューはSEEKを手に入れてしまいます」  ヨタが驚く。それと同時に島が揺れ始めた。島の下から低い声が響いてくる。  「お前はミューだろう!」ウィリアムが大声を出す。黒髪の美女は頷いた。 「私もミューです。しかし私にはミューの考えにはついて……」  その瞬間黒髪の美女が砕け散った。島の揺れがひどくなる。ヨタ達は急いで逃げ出した。  「この島はもしかして!」シオノは海に飛び込んだ。  「くそっ!一旦引くぞ。沖に出るんだ!」テスラたちも逃げ出す。  島の上空にわだかまる闇があった。闇はイプシロンを抱えた黒髪の美女に姿を変えた。 「ここにいたか……。余計なことを喋っていたようね」闇は飛び去る。  シオノは海に潜って行った。海中から見た島は、海に浮かんでいた。シオノの前に巨大 な顔が現れる。シオノは島に挨拶をした。島亀レヴィアタンはシオノに話しかけた。 「……海神の神官シオノよ。私に何を望む……」 「ウィッチハウス島にいるディツを大陸まで運んで欲しいんだ。友達との約束なんだ」  レヴィアタンはしばし考え、そして口を開いた。 「……いいだろう。……SEEK……地上で大変なことが起こっているようだな……」 ────────────────────────────────────────  ヨタは船をウィッチハウス島に向けていた。島がついてくる。シオノが海から現れた。 「ヨタ。あの島が島亀レヴィアタンだ。背中に山や森があるくらい大きいだろう。こいつ ならディツを大陸まで運べるよ」  ヨタ達はその亀の大きさに驚いた。もう1組驚いている者達がいた。テスラ達である。 「おい、あの島に見えるのは……ペガサスの船首像!」 ────────────────────────────────────────  ロジェストはサーセの船がことごとく破壊されていることに気がついた。 「くそっ!やはり遅かったか!」  帰ってくるロジェスト艦隊を見ながら、ガンマは交戦の準備をさせた。  「後はロジェストを倒すだけだな。ゴートー見ていろよ」ガンマは帝国艦隊と対峙した。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■●シナリオ10●『ギガの攻防』 ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  デビルクラーケンの巣付近には名を知られていない島が多数ある。その中の1つ、草木 1本生えていない島に、魔王ガシュタットの研究所はあった。その地下に今ミューはいる。 「未完成のイプシロンを、ついに完成形にする時が来たようね」  ミューはガシュタットが終ぞ成し得なかった人工生命体の完成を行った。イプシロンに 初めての『時間』が流れる。イプシロンはゆっくり目を覚ました。その姿は少女から女へ と変わっていた。デルタと同じ年齢に見える。イプシロンは完全に生命体となった。 「ミュー様……一体これは。……なぜお父さんを殺したの?」  イプシロンにかけられていたミューの記憶操作は外されていた。イプシロンは、彼女を 作った父親ガシュタットを、ミューが殺したことを思い出していた。ミューが微笑む。 「もう、そんなことはどうでもよくなっているはずよ。お前は人工生命体であることを越 え、心が変化することを知り、成長し、老いることができる様になったのだから」  イプシロンはそれを実感できた。彼女の心にはデルタの姿があった。 「イプシロン。これから最後の命令を行うわ。サラを全力で守りなさい。サラは多くの者 から狙われているわ。そして、デルタ=クロネッカーとサラを結び付けなさい……」  イプシロンは心が締め付けられた。嫌!それだけは嫌。デルタは……。ミューが続ける。 「……そうでなければ、王子を元の肉体に戻し、王子とサラを結び付るしかないわ……」 ────────────────────────────────────────  デルタは作戦室から出て来た。ファラドからの命令は、所定の位置に兵を配置し、一言 も声を発せず、声が聞こえた所に、隠れたまま魔法攻撃を行えというものだった。また、 後方から連れて来た農民を、兵のいる場所の間々に杭に縛り付けておけと。一体何をする つもりだ……。 「僕は倒すべき相手を助けているのでは。本当にやらなければならないことは一体……」  彼は軍を出ることにした。出発前、彼の副官プロトンの部屋に向かった。 「デルタ司令!何をおっしゃいます。あなた様が軍から退いたら帝国軍はどうなります!」  デルタはただすまないとだけ言った。プロトンに全指揮を任し、最後に手紙を渡す。 「アンペアに気をつけるがいい。そして、ミューも」  その手紙にはデルタの立てた作戦が書かれていた。 ────────────────────────────────────────  デルタは反乱軍の陣地に向け馬を走らせていた。突如その行く手に老婆が現れる。デル タは手綱を引き、馬を止めた。老婆はデルタを見つめていた。心が見透かされる様だ。 「そこの老婆。反乱軍の陣地はどこにある。教えてくれないか」 「ほう、ほう。ぬしは珍しい星を持っておるのお。しかし、その星の力すら食い物にする 影がお前の上にある……。ぬしはその影をはらわねばならぬ。ぬしは今から北に向かおう とするじゃろう。じゃが、北にだけは行ってはならぬ」  デルタは北に何か引かれるものを感じた。馬に拍車をかける。老婆が遠ざかって行く。 ──────────────────────────────────────── 「お父様は、1人で森に何をしにいったのかしら。いつもは慎重なお父様が誰も従えずに」  ファラドの娘ピコは父のことを思った。彼女は将軍直属の騎士として従軍していた。 ────────────────────────────────────────  ファラドは森の小さな泉の前で佇んでいた。亡き妻と初めて出会った思い出の地である。 「レティ……お前と初めてあったのはこの泉の前だったな……」  森から1人の女性が出て来た。ファラドは思わず「レティ!」と叫んだ。 「お久しぶりですわ、ファー義兄上。姿がいくら変わろうと、その魂に変わりはありませ ん。あなたがいかに姿を変えようと、私には分かります。姉が教えてくれるのです」 「……ロティか……。変わり無いようだな。私は変わってしまったがな」 「義兄上。私は姉の自殺についてずっと調べていました。そしてようやく真相を突き止め ました。ミューの下にいるイプシロンという少女が自殺に見せかけて姉を殺したのです」 「ミュー?まさか、そんなことが。そんなことをして、あの女に何の得があると言うのだ」 「様々な者の夢を渡り歩き、当時の目撃者を見つけました。その少女がミューの下にいる ことも調べがついています。しかしこの調査で私の寿命も後少しになってしまいましたが」  ロティは姉の形見の夢の卵をファラドに見せた。ファラドは息を飲んだ。 「義兄上。私は多少は剣もつかえます。どうか連れていって下さいませ」 ──────────────────────────────────────── 「お父様!無事帰っていらっしゃったんですね。……その方は……お母さん!」 「いや違う。この女性はシャーロットといい、お前の母さんの妹だ。お前の叔母さんにな る」  ロティはピコに挨拶をした。ピコは亡き母のことを思った。 ────────────────────────────────────────  反乱軍野営地に着いた時マルクの頭は死んでいた。シナモンは1日中話しまくるのだ。  「まあ、きれいなお花。どことなくエナのケロケロに似ているわね。そういえばエナ名 産のチュールの香りはたまらなかったわ。知ってるマルク?あの香りはチュールの実にち ょっぴりフロントを混ぜるともっとよくなるのよね」こんな調子だ。エナも他の物もさっ ぱり分からない。疲れて休もうとすれば「こらー!休むな急げ!君の代わりはいるけどプ リムローズ様は1人だけなのよ」とソプラノでわめき立てる。半分の時間でここに着いた。 心身共にボロボロだ。最後の気力を振り絞り伝令書をウェーバーに手渡し、倒れ込む。 「まあ大変。私が看病しましょう」サラはそう言いマルクをテントに運ばせた。  ああ、憧れのサラさんに看病を……。嬉しいけど、これでは全然格好よくないぞ! ────────────────────────────────────────  夜、ウェーバーは天幕の裏でエレスを待っていた。茂みから黒装束のエレスが現れる。 「敵の戦力を調べて来たわ。ちょっと分が悪すぎよあんた達。絶対勝てないわよ」 「まあそうだろう。だが義賊ってのは弱い者の味方と相場が決まっている」 「変わったわねウェーバー。昔のあなたはもっと慎重な性格をしていたのに」 「そうかもな。所でお前を呼んだのには訳がある。今あの盗賊団の首領は誰がやっている」  エレスは自分の父がやっていると答えた。ウェーバーは「都合がいい」と呟く。 「お前の親父から数人借りてきて逃げ道を作っておいてくれ。このままじゃ俺たちは嬲り 殺しだ。アンペアが付近の村々を襲ったせいでこっちは多数の農民を抱えているからな」  エレスが頷きその場から姿を消す。エレスは闇の中を走りながら1人呟いた。 「私がお金を取らないで仕事をするのは、ウェーバー、あなたの頼みだからよ……」 ────────────────────────────────────────  「こんなところにおられたのですね。随分捜しましたよ」王子の声がする。  ドムグフは顔を上げた。王子が傍らに立っている。ここは反乱軍野営地の外れ、ドムグ フはここで夜営をしていた。王子を疑う目を避けるために、離れて王子を守っていたのだ。 「王子殿いけません。ただでさえ偽物と疑う者がいるのに、ますます疑われてしまいます」  王子は気にせずに質問をした。自分の体がどうなっているかと。ドムグフが戸惑う。  「この者は何も知りませぬ。私から全てを話しましょう」ドムグフの義手から声が出る。 「し、師匠!」ドムグフが師アナハイムの声に驚いた。王子が体を乗り出して聞く。  アナハイムの声は続けた。ミューを倒すために、王子の肉体を使いノーデンスの転生先 とする。そしてノーデンスには、代わりにミューを倒してもらう約束をしたということを。 「成程、全てはミューという魔女を倒すためだとおっしゃるのですね。分かりました」 「ドムグフよ。お前にロディマスを譲ろう。ロディマスにはわしの研究成果が入っておる」 「何ですと?私に全ゴーレムの指揮権を?どういうことですか師匠!」 「わしのゴーレム兵団を好きに使うがよい。これからの戦いにどれほど役立つか分からぬ がな。せめて王子を助けて差し上げろ。さらばだ、我が不出来にして唯一の弟子よ」 ────────────────────────────────────────  早朝、軍議が始まった。ファラド将軍到来の報は既に反乱軍にももたらされていた。フ ァラドのこれまでの戦の戦術は、王国軍以上に王国の地を知り尽くしている者のものだっ た。  「どうしたものか……」老指揮官ニュートロンがこぼす。  「あの、よろしいでしょうか」1人の青年士官が立ち上がった。  「何だ貴様は、下賎な者が口を挟む様な所ではないわ。下がるがよい」老指揮官が怒鳴 る。  「まあいいじゃねえか。どうせあんたもいい案が浮かばねえんだろ」  ウェーバーの一言にニュートロンは怒りをあらわにする。フォトンという青年士官は作 戦を提案した。まず、軍を2つに分け、ニュートロンに片方を率いてもらいファラドの軍 を探ってもらう。明日出るであろう霧が出た所で混乱を起こしてもらい帝国軍を同士討ち させる。残りの軍はウェーバーが率いてアンペア軍の横を突き、女子供がこの丘陵地帯を 抜ける時間を稼ぐ。王子がその作戦を採用することを告げた。 「この作戦で行きましょう。時間は我々の立場を不利にする一方。ヨタやラドの隊はウィ ッチハウス島にいるとのこと。民衆達を逃がした後、我々は南に行き合流を図るのです」  王子は金色の剣を掲げた。天幕中の将校達が王子に従い剣を掲げる。 ────────────────────────────────────────  バレオはミューの私室にいた。闇の中、鏡に囲まれたミューがいる。 「バレオ、サラを守りなさい。そして、サラとデルタが結ばれるように陰で動きなさい」  「なぜ、その様なことを。よければ教えて欲しいのですが」バレオが問う。  「知る必要がないこと。お前はミューには成れないわ……」バレオは部屋を去って行っ た。  ミューは鏡達に語りかけた。鏡が世界各地の様子を映し出す。鏡の1枚が割れていた。 「デルタかラスヴィルか……、サラはどちらを選ぶのか。選択は2つ、運命は1つ……」 ────────────────────────────────────────  バレオは反乱軍の野営地に急いだ。アンペアからボエラに貸し出されたキャスは、サラ を襲うよう命令されるはずだからである。バレオは帝国軍の監視の目を縫って進んだ。 ────────────────────────────────────────  霧が出て来た。全ての世界が白に染まりゆき静寂が訪れる。ニュートロンは指令を出す。 「急げ、霧が完全に出る前に敵の動きを探るのだ!」  老指揮官は焦っていた。敵の姿が何処にも見えない。ギガ峠の複雑な地形にファラドは 兵を分散して隠していた。そして霧の到来と共にファラドの作戦が始まった。視界を失っ たニュートロン軍は霧の中に人影を見つけ襲いかかる。悲鳴が上がった。杭につながれた 農民達の悲鳴を合図に周囲より魔法弾が飛来する。霧の中を逃げる反乱軍の音、声、悲鳴 めがけて各所に配置された帝国軍が沈黙の攻撃を行う。反乱軍は成す術もなくやられて行 く。 「こっ……この攻撃は、ラド将軍の息子が民衆の暴動を皆殺しにした方法……」  ニュートロンはギガ峠がその場所だったことを思い出した。魔法弾が老指揮官を貫く。 「反乱軍は予定通り罠にかかった様だな。後は霧が晴れるのを待つだけだ」  ファラドがピコとロティに言った。ファラドがラドに王国追放を命じられた戦い。民衆 の暴動を1人残らず殺して静めた作戦。この作戦のどこに問題があると言うのだ親父! ────────────────────────────────────────  霧が視界を濁らせる。ウェーバー達と王子がアンペア隊に奇襲をかける。デルタに指揮 権を渡されたプロトンは戦闘が始まると待機を解き、アンペア隊に攻撃を開始した。3軍 入り乱れての乱戦が始まる。声を荒げて指示を出していたアンペアが突如悲鳴を上げた。 「うぎゃー!な、何だ。わしの左手が。くそ、何者だ姿を現せ。む、貴様は誰だ」  霧の中からローブをまとった娘が出てくる。アンペアが改造人間に自分を守らせる。 「私の名はイプシロン、魔王ガシュタットの娘。三流君、死んでもらうわ」  透明なチャクラムが改造人間ごとアンペアを真っ二つにする。イプシロンは霧に消えた。 脳に改造を受けてなく、アンペアが精神力で支配していた改造人間達が急に意識を取り戻 す。人面タニシに改造されたマリアンヌは帝国軍に突っ込んでいった。また、胸に虎の縦 縞があるリューオと角と翼が生えているジャコの2人の少年はアンペア軍を逃げ出した。  「アンペアのバカたれー!」リューオはアンペアの悪口を言う。  「いつか思い知らずぞー!」ジャコも同じ様にしながら走り続けた。  「何だ今のは?」クラフトは霧の中を走り去る2匹の改造人間を見た。  プロトンは暴れる改造人間達と反乱軍のせいでその場に釘付けにされた。容赦ない攻撃 はプロトン隊の数を急速に減らしていった。クラフトの剣が襲い掛かる。  「うおぉぉ!ギッシュの敵!帝国軍め覚悟しろ!」プロトンの首が落とされた。 ──────────────────────────────────────── 「随分困っているみたいね。手を貸してあげましょうか?お父様」  地面に転がる上半身だけのアンペアに1人の少女が手を差し伸べた。四魔将のシータで ある。アンペアは苦痛に顔を歪めながら手を伸ばした。シータはアンペアを抱え安全な場 所まで引いた。改造人間達はどうやら反乱軍を押している様だ。1人あたりの強さが違う。 「退却!敵帝国兵は倒した。改造人間は相手にせず退却するのだ!」  王子の声が全軍に伝わる。反乱軍は波が引くように退いて行った。 ────────────────────────────────────────  戦闘が始まっていた。アンペアの差し向けた別動隊がサラを狙ってやって来ていたのだ。 サラの天幕にはマルクやフィレナがいた。民衆と共に包囲網を抜ける直前のことだった。  「なかなか熱が下がりませんね」サラが言う。  サラと一緒にいるというだけで呼吸も脈拍も体温も乱れてしまうマルクだった。告白し ようと心を決めた時、マルクの袋からシナモンが顔を出した。驚くサラにシナモンが叫ぶ。 「あー、見つけた。プリムローズ様だ。やっと会うことができたわ」  駄目だ〜!。完全に手が届かない。失意のマルク20歳だった。その時入り口から女が 侵入して来た。アンペアに改造されたキャスはサラの姿を認め女郎蜘蛛の姿に変身した。 「うお〜!サラさんは渡さん。俺のサラさんが欲しければ俺を倒してみろ!」  マルクは剣を抜いてキャスに襲い掛かった。天幕の裏から手が伸びる。その手はサラを 天幕の外へ引っ張った。バレオである。辺りは乱戦状態であった。 「ここは危険です。北に向かって下さい。さる男性がサラ様のことを待っています」  サラは魅かれる様に北を見た。バレオの先導でサラは北に向かった。デルタを求めて。  「あの悲しみの目を持った方を探さねば……」 ────────────────────────────────────────  突如アンペア隊の統率が乱れた。民衆を逃がす役を命じられていたフォトンはすぐに指 令を出した。民衆を連れたフォトン隊が霧の中をエレスの案内で進む。完璧なファラドの 陣には唯一の抜け穴があった。デルタ旗下の兵がいなくなっていたのである。 ────────────────────────────────────────  デルタは誘われる様に北へと向かっていた。霧の中を馬で駆け抜ける。プロトンは巧く やっているだろうか。いや、もう関係ないことだ。道の向こうを歩いている者がいる。  「誰?」向こうから澄み渡るような美声が聞こえてくる。  「あ、あなたは……」  デルタとサラはしばし見つめ合った。そして全てを理解した。言葉を交わすことなしに。 2人はそうすることが当然の様に抱き合い、そして唇を合わせた。何者かの気配がする! イプシロンが木を飛び降り2人の前に現れた。デルタはサラの前にかばう様に立ち塞がる。 「イプシロン!サラには手を出させない!」 「何?デルタ君、サラをかばう訳?キスしたぐらいで……もう王子様気取り?」  イプシロンは涙を流していた。デルタは驚いた。よく見るとイプシロンは『女』になっ ていた。彼女は「目を覚まして上げる」と言うとチャクラムをデルタとサラに飛ばす。レ ッドロードがデルタの手に握られ見えないチャクラムを弾く。その衝撃で2人は飛ばされ た。 「いいわよ、その恐怖に満ちた顔。美しいわ。今とどめを刺してあげる」 「まて、イプシロン。それ以上罪無き者を殺めることは私が許さない。お前に殺された帝 国軍兵士、さらに帝国国民に変わって貴様を討つ!」  そう言うと、急速に彼に魔法の力が集まって行く。イプシロンの魔力さえも。デルタの 心に声が響く。我を受け入れよ。汝は神の血を引きし者。我が転生先……。 「封神冥界陣!あの世で今までの悪行を悔いるがいい」  イプシロンの周りに重力場が造られていく。空間が歪みイプシロンごと落ち込み消えた。 「何?このデルタ君の力は……神の力……」  イプシロンは残りの魔力を解放し脱出を行った。初めて使うデルタの術は不安定だった。  「ぐふっ……」デルタは吐血して倒れ込んだ。それをサラが抱き起こす。  「これは……」サラがデルタの体から伝わる鼓動を感じ取る。  デルタの体温が急速に下がっていった。ここには彼の体を温める物は何もない。……い や、彼女自身の体があった……。2人は肌を重ねる。バレオはその様子を見守っていた。 ────────────────────────────────────────  ミューはその光景を水鏡で見守っていた。水鏡の目とミューの目が合う。 「……イプシロンには可哀想なことをしたわね……2つの神の血が交わる時、神の力は高 ぶり完全に覚醒する……そして……。王子とデルタ……デルタがプリムローズを奪ったか」 ────────────────────────────────────────  クリム邸。キャスはボエラにサラの暗殺が失敗したことを報告していた。ボエラが猿芝 居はやめるように言う。キャスは女郎蜘蛛に変身してボエラに襲いかかった。ボエラの姿 が消える。キャスの目の前にいたボエラは幻影だった。ボエラは別室で哄笑していた。 「愚かなり、アンペア!大事を前に目先に捕らわれ保身に走るとは。所詮器にあらずか!」  しかし、数時間後ボエラの顔から血が引いて行った。クリム邸にいる手練が次々と殺さ れて行く。たった1人のために……。ボエラはクリム邸を封じ、逃げ出すよう命令した。 ────────────────────────────────────────  ザインオーネの皇宮。皇帝ボルトはシャドウベータを呼んだ。軍服の男が現れる。  「エルダールーツを探し倒すのじゃ。このままミューに好き勝手はさせん。わし自らが きゃつを打ち滅ぼしてくれよう。行くのじゃシャドウベータ!」 ────────────────────────────────────────  エルダーフレイムはその魂を帝都に飛ばしていた。眼下には帝都の町並みが見える。彼 はその中でも一際大きな館の煙突に降りて行った。アンペアの娘エイシィは暖炉の火が大 きく揺らめいたのに気づいた。気になり暖炉に近づく。すると炎から声が聞こえて来た。 「この家の向かいのスラムに白髭の老人が倒れている。その老人は古き根と名乗るはずだ。 その老人を救い匿うのだ。きれいな水をやっていればすぐ元気になる」  エイシィは窓から外を見た。老人が軍服の男に襲われている。すぐに人をやり助けにい かせた。老人は古き根と名乗り、ノーデンス復活が近いと述べた。古き炎は空に上がった。  「なぜ敵に手を貸す。強敵こそ弱いときに倒しておくものだぞ!」凍てついた風が吹く。  「強敵こそ強い時に倒すんだよ。我らの眷属は滅び行く定め。最後は我らの意志で命を 閉じる」 「……まあいい。天地も震える戦いが迫っている。お前もテスラの部下の武器などとなり 遊んでおらず我が下で戦うのだ!我の復活の時も近い」 「確かに遊びさ。帝国に春を連れて来たい……甘っちょろい馬鹿が吐く台詞だな。だがテ スラってのは何か手助けしたくなる馬鹿なのさ。俺は俺で馬鹿をやってるから手を出すな」  炎は南へと戻った。塩の巨人と戦う前から世界蟹にいた眷属は、既に少なくなっていた。 ────────────────────────────────────────  ここ200年余り、アナハイムは帝国の平和を守り続けてきた。しかしその平和に影を 落とす者が現れた。ミューである。彼女が来てから全てが狂い始めた。封印が弱まりつつ あったノーデンスは徐々に皇帝の心を支配し、眠っていたアンペアの野心は目を覚まし、 様々な陰謀が渦巻き始めた。もはや彼にはこの時代の流れをおし止めることはできなかっ た。そこでレッドを通じノーデンスと手を組み、ゴーレムの体を造ることを条件にミュー 抹殺と帝国に危害を加えないという密約を交わした。そしていよいよそのゴーレムが完成 する。アナハイムの調べでは、ウェイン王家は天空神プルームの血を引く一族。神の転生 先になる器となる。アナハイムは、王子の肉体を組み込んだゴーレムに、全魔力を注いだ。 「……せめて王子を助けて差し上げろ。さらばだ、我が不出来にして唯一の弟子よ!」  アナハイムの体が崩れ行く。そして山が動き出した。岩山は王子の肉体を核にしてノー デンスとして立ち上がった。石の体を持ったノーデンスは空に向かって吠えた。 「ミューよ、ディツよ、プリムローズよ、古き根よ、人間共よ。今こそ復讐の時が来た!」  冬将軍の叫びは帝国中の草木を根から枯らし、土を凍らせた。突然の寒気に外に出てい た帝国の人間が多数死んだ。ノーデンスの精神支配から解放された皇帝が倒れ込んだ。 「一体……わしは何をやっていたのじゃ……思いだせん……誰かおらんか……」  ノーデンスは南へと歩き始めた。帝国の民は、その凍てついた神の踏み鳴らす足音を、 畏怖しながら聞くしかなかった。いまだ封印されている地下の冬将軍の城では秋の女神フ ルーティアが泣いていた。封印はノーデンスに捕らわれている女神も閉じ込めていた。 ────────────────────────────────────────  霧の中ウェーバー達は身動きが取れなくなっていた。いつアンペアの追撃があるか分か らない。ニュートロン隊全滅の報も入って来た。ウェーバーが舌打ちをする。 「しまったぜ。人の逃げ道を作らせておいて自分の逃げ道を見失うとはな」  「ウェーバー。この戦争……本当の敵は帝国ではないかもしれません」王子が言う。 「突然何を言うんだよ王子様。誰かがこの戦を仕組んだとでも言い出すのか?」 「そうです……いやそうかも知れません。…………雪?この夏に?」  霧は晴れて来ていた。空が見える。しかし夏の晴れ渡った空は見えなかった。空は重く 雲をたたえ、そして夏にもかかわらず、王国に雪を降らしていたのである。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■今回のシナリオ ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  今回参加者を募集するシナリオは、以下の2種類です。あなたが参加するシナリオをど ちらか1種類だけ選択して下さい。 ●シナリオ11『北へ』  ラドは北を目指して進んでいた。サーセの残存部隊を叩いた時に手に入れた情報で、ヘ クトで反乱軍が窮地に立たされていることを知ったからである。またヨタもディツを大亀 に乗せ大陸を目指していた。折しも海上ではロジェストとガンマの戦いが始まろうとして いた。テスラは悩んでいた。あの娘の言葉が本当だとすれば……。帝国に春を呼ぶための 戦いではなかったのか。テスラは皇帝の顔を思い浮かべた。 ・ラドの一言「持ちこたえるのじゃ。今すぐ我々が駆けつける。それまでの辛抱じゃ」 ・ヨタの一言「戦神ディツ……。これで敵が神でも我々は負けることはないだろう」 ・テスラの一言「うぅおぉぉぉぉ!俺はどうすればいいんだ!!!!!」 ●シナリオ12『帝国と王国』  ファラドは空を見上げた。雪!ノーデンスが復活したのではと兵士たちが騒ぎ出す。フ ァラドは指揮官達に騒ぎを静める様に伝えた。帝国兵にとって、ノーデンスとは恐怖以外 の何物でもなかった。「そんな馬鹿な……」ファラドは否定する。アンペアはゆっくりと 体を再生させていた。雪が降ってくる。その目には闘志が燃えていた。そのころ王子はサ ラの身を案じていた。無事に民衆と共に逃げ出せたのであろうか。何か胸騒ぎがする。 ・ファラドの一言「ミュー……。人の人生をどれだけ縛れば気が済むというのだ!」 ・アンペアの一言「わしは死なん!帝国をこの手にするまでは誰にも負けん!」 ・ウェーバーの一言「万事休すか……。こんな時に雪が降っても何の役にもたたねえよ」 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■第5回名声ランキング(敬称略) ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ●14point:村岡幸博(イプシロン、カロミアン=メルク=ザイン、シャルンホルスト1号、 マルク=レートwithシナモン、ミュー、リー=ラド、ロジェスト) ●11point:きむ ゆんすん(エルダーフレイム、ガンマ船長、レヴィアタン) ●10point:夕惟猗(銀竜、デルタ・クロネッカー、フォトン・ヘルツ、プロトン、ミカ・ ウェイラン) ●9point:どんぶり(ライザ・”メデューサ”・ヘルツ、ノーデンス) ●8point:サタクレ(クィン、パオ、ムム、リオット) ●6point:NRA(ウィリアム・カーン、シオノ、シャーロット・ブラックロット、神魚) ●5point:あめふらし(キャス・クリム、シュレッド、バレオ・クリム、ボエラ・クリム) /伸幸(アナハイム、シータ、ドムグフ、偽王子、レッド)/松本彰(エレス・ レイシル、クラフト・セイル、レスター・ガーベック)/よっとだ(リューオと ジャコ) ●2point:九条一馬(シェリー・ミスティクス)/G☆G/志柿俊光(フィレナ)/風幻 (サラ、シャドウベータ、ピコ・ファラド、フルーティア、マリアンヌ・フォン・ ローゼン、レッドロード) ●1point:中島一州  村岡さんは挿絵で点を稼ぎました。きむ ゆんすんさんは表紙とレヴィアタン関連の設 定で点を稼ぎました。夕惟猗さんはキャラクター人気投票の提案と霧で点を稼ぎました。 どんぶりさんは暦(カレンダー)と4コマ漫画で点を稼ぎました。サタクレさんは陰謀 (深い読み)で点を稼ぎました。伸幸さんはノーデンス復活で点を稼ぎました。  さて、今回はちょっと能力値について書きます。最近高い能力値のキャラが氾濫してい るので、能力値の指針を以下に示しておきます。キャラメイクの際に参考にして下さい。 3……一般人 5……有能な冒険者 6〜7……超人、人間の限界に挑む者 8……神に匹敵する能力 9〜10……八柱神の能力(ディツの戦闘力が10)  能力値に問題があるキャラクターが結構いると思います、修正してみて下さい。 =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=--------- ■ ■■■キャラクター人気投票のお知らせ ■ =---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------=---------  SEEK参加者でもそうでない人でもいいです。好きなキャラクター(PC、NPC関 係なく)を5人、1位から5位まで好きなキャラを書いて送って下さい。1位に3点、2 位に2点、3位以下に1点として集計します。