● 本のお話 ● |
● 2006.05.11 よつばと! 5巻 (あずまきよひこ)
あずまきよひこ は、決して絵が上手いマンガ家ではない。それは、「あずまんが大王」の最初の頃や、「よつばと!」の連載初期を見ればすぐに分かる。絵が崩れている。 前作で絵がきれいになっても、新連載では絵がボロボロになる。連載のなかで手探りで絵のレベルを上げても、連載が終わるとまた試行錯誤の状態に戻るのだ。 氏の絵の基礎能力について知りたければ、序ノ口譲二の頃のものを見てみるとよい。この絵が洗練化される日が来るとは到底思えないからだ。 あずまきよひこ は絵が達者でない。しかしマンガは非常に上手い。 それも知的に上手い。本能ではなく理性で描いている臭いがする。 この作者のマンガを読んでいて感じるのは「考えているな」という印象だ。 「あずまんが大王」の頃には特に感じなかったが、「よつばと!」に至っては、企画や理想がまずあり、そこに自分のスキルや製作環境を近付けていっているという様子が見てとれる。 だが、そういったマンガ家は他にもいる。 あずまきよひこ を他のマンガ家から差別化している最大の武器は、センスのよさだと思う。 絵が得意でない代わりに、見せ方に気を使っている。それも物事をどう切り取って、楽しく見せるかという部分に関しては非常に秀逸なセンスを持っている。 おかげで何度でも読める。何回も楽しむために読んでしまう。 昨今、こういった読まれ方をする作品は少なくなった。 あずまきよひこ のマンガは面白い。 そして彼については、もう一つ注目していることがある。それは仕事に対する貪欲さだ。 この作者は、「あずまんが大王」で人気を獲得していく過程で、自分の武器が何なのかを知った。そして、それを活かす方法で次の連載を立ち上げた。 「よつばと!」は、「あずまんが大王」を書いた あずまきよひこ の単なる新作ではない。自分の経験を叩き台にして、その上を狙った作品だ。 そういったことを考えて実行できる能力を持った人が、確信犯的に書いている連載が「よつばと!」である。 おかげで、この本は目が離せない。最近単行本をあまり買わなくなった私が、文句なく買っているのは「よつばと!」と「シグルイ」ぐらいだろう。 あずまきよひこ のマンガは、まだまだ目が離せない。 2006.05.11
柳井政和
|