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● 2006.05.11 定家明月記私抄 (堀田 善衛) / 定家明月記私抄 続篇 (堀田 善衛)

定家明月記私抄
堀田 善衛
定家明月記私抄 続篇
堀田 善衛

 藤原定家の名前を知っている人はどれくらいいるのだろうか。百人一首の選者だと言えば「ああ、聞いたことがある」と膝を打つのではなかろうか。

 平安時代という“文の時代”から、鎌倉時代という“武の時代”へと変わる激動期に彼は生きた。そして平安文化の最後の頂点を築き上げた。

 今、私たちが源氏物語などの平安期以前の古典に接することができるのは、定家が多くの版の書物から、校閲を重ねて現代に残したからである。

 その彼が、十代の後半から老人まで、延々と日記を書いていたことを知る人間はほとんどいないと思う。

 その日々の雑記が「明月記」である。妖怪好きの人間は、引用文献として一度はこの日記の名前を見たことがあるのではないか。市井の様子をジャーナリストのように事細かに書いたこの書物は、過去の時代を知るための貴重な資料でもある。

 その大部の日記を、芥川賞作家である堀田 善衛氏が短いながらも丁寧に解説したのが「定家明月記私抄」と、その続編である「定家明月記私抄 続編」だ。

 単なる抄訳ではない。平安時代を鋭い視点で捕らえ、文の時代がどうやって滅んでいったかを語る文化論になっている。そして秀逸な歌論でもある。

 文から武に移り変わる時代。定家という一人の文人がどういった生涯を送ったのか。そして自分の一族を未来へと存続させるためにどういった手を打ったのか。

 一人の男の人生をたどりながら、彼を取り巻く文化の爛熟と滅亡に思いを馳せる。2006年の冒頭に読んだが、非常に興奮したのを覚えている。

2006.05.11 柳井政和


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