● 本のお話 ● |
● 2004.05.21(金)01 珠玉のメイドさんマンガ「エマ」4巻(森 薫) 5月26日発売本日「エマ」4巻が届き、読み終わりました。 「エマ」4巻(森 薫) さて、まずは「エマ」4巻の内容を、ダイジェストで紹介しましょう。 荒れるウィリアム 飛び道具「モニカ姉様」の出現で、急遽エレノアと婚約 ● エマ篇 ● 何故か全裸のドロテア夫人 ドロテア&トロロープにいじられるエマ ● 再会篇 ● ミセス・トロロープのお供で、エマはウィリアムの婚約パーティーに ウィリアムとエマ再会 だいたい、大きく分けると、「ウィリアム篇」「エマ篇」「再会篇」の3つの構成で物語が進みます。 個人的にはこの4巻の見所は、引いたり寄ったりとカメラワークを使った心情描写だなと思います。再会を盛り上げるために、ウィリアムとエマの感情の揺れを描き、再会の時に、その振幅を最大限にするために、この巻は費やされています。とはいっても、エマは全体的に控えめなので、この描写もかなり控えめに表現されています。 それでは以下感想です。エマの魅力自体は、これまでの感想で散々語ってきましたので、今回は純粋に漫画1巻分を、“マンガ読み”としてどう楽しんで読んだかを書いていきたいと思います。 ● ウィリアム篇ウィリアム篇では、ウィリアムの感情描写が中心になっています。人に見られている所では能面のようになり、抑圧した感情を強調しています。逆に人が見ていない所では、寄りと引きを使ってぐらぐら感情を揺らしています。 次のエマ篇は、エマというキャラ自体が感情を表に出さないので表現が抑え気味なのですが、逆にウィリアム篇では、静と動が使い分けられていて表現的に楽しめました。ウィリアム篇が、表現を楽しむ部分だとしたら、エマ篇はメイドいじりを楽しむ部分、そんな感じでした。 ウィリアム篇は、表現的チャレンジがいくつかなされていて、そういう部分に凝ったのかなと思いました。オペラのシーンなどは、特にそういう部分かなと思いました。 このウィリアム篇では、地味だけど、ウィリアムが弟の絵を見るエピソードの作り方がよかったです。エピソード自体は、まだ小さな弟コリンが、自分が描いた絵を兄のウィリアムに見せに来るという単純な物なのですが、1エピソードでいくつかの情報を同時に示唆させる作りになっていて、よくできているなと思いました。 エピソードの最後は、末弟コリンの書いたわけの分からない絵を、兄のウィリアムが何の絵かすぐ当てるというものです。それを見て、ウィリアムの妹のグレイスが、よく分かるわねと感心します。なぜ分かったのかについて、ウィリアムは、妹や弟の絵を散々見て、答えてきたからだと解説します。1話の短いエピソードですが、この最後の1ページで、ウィリアムが家族を次に背負っていかないといけない、次代の家長であることを婉曲的に伝えていました。これはうまいなと思いました。この1話は、内容の濃い1話でした。 さて、ウィリアム篇ですが、これだけだと話が進展しません。そこで飛び道具として、エレノアの姉のモニカという宝塚系(?)の人物が出てきます。そして、彼女が後半部分で一気に話を進めます。 このモニカという人物は、キャラとしては面白いのですが、ちょっと飛び道具的に突然現れるので賛否が分かれそうな所だなと思いました。まあ、連載物なのでありなのでしょうが、書き下ろしなら2巻か3巻で顔出しをさせておかないといけない、重要度の高い役割を果たしています。 しかし、モニカという飛び道具的なキャラを一人出すことで、一気にウィリアムとエレノアを婚約させたので、連載のコストパフォーマンス的にはありなのかもしれません。 ウィリアム篇では、この婚約のエピソードで話は終わります。 ● エマ篇ウィリアム篇を読んだ印象が、「試行錯誤があったのだろうな」だったのに対して、エマ篇は「描きたいことを描いたんだろうな」という印象が強かったです。地味なエマのエピソードを書いているのに、やたら派手なシーンや、作者の妄想が爆発していると思われるシーンが次々と登場します。 そのシーンを列挙してみます。「なぜか全裸のドロテア夫人(肉感的美女!)」「コルセット(足でギューギュー締めつけ)」「ハロッズでお買い物」「ドロテアとトロロープで、エマを貴婦人風にしていじり倒し」 このように、絶対作者は楽しんで描いているなというシーンが連続して出てきます。 コルセット!(この巻では、エマもコルセット攻撃を食らいます) このように、作者の好み全開のシーンが続くのですが、楽しんでいるだけではないです。 描かないといけない重要なシーンとして、ケリーの墓参りのシーンが描かれています。このシーンがあるとないとでは、物語の深みがまったく変わってきます。このシーンがきちんと入っているのは、重要だなと思いました。好きなシーンを楽しく書いているだけではなく、きちんと抑えなければならない所は抑えているなと思いました。 話は逸れますが、しかしミセス・トロロープは可愛いですね。エマに出てくる登場人物の中でも、出色の可愛さだと思います。美しさというのは、年を取ると共に衰えていくものですが、可愛さというのは、年を取っても変わらない人もいますし、さらに年を取ることで深まる人もいます。そういう、年を取って可愛い女性というのは、魅力的な登場人物だと思います。 ● 再会篇ドロテアとトロロープにいじり倒されたエマは、パーティーに無理矢理連れていかれます。そのパーティーこそが、ウィリアムの婚約パーティーなわけです。 そこで二人は劇的に再会します。トロロープ夫人は、ウィリアムの母だったということを、エマは知らなかったのです。というわけで、感動のシーンが大ゴマ多用でドラマティックに描かれています。 この再会の話は、2つのシーンに分けて演出されているのが上手いなと思いました。2つのシーンとは、再会して驚くシーンと、二人だけで感情をぶつけるシーンです。前者では、場所はパーティー内、周囲は華やかで、白系の背景を使って明るいシーンを構成しています。後者では、館の暗い一室で、2人だけで涙を流して感情を爆発させています。このコントラストのつけ方は、よい演出だなと思いました。エマの表情も非常によいです。特に、この後者のシーンは話の山場なので、相当力を入れて描かれています。 4巻の帯に“名篇「第二十九話 エマとウィリアム」収録!”と、わざわざ書いてあるだけあり、力が入っている1話でした。 さて、4巻の感想のまとめです。物語は堅調に進んでいるなと思いました。所々物語の速度を進めるために、早回しの感はあるのですが、読者としても早く先が読みたいので、まあいいかなという感じでした。 しかしエマは毎回、ページを見開きで見た時の密度感が高いですね。最近では密度感の薄い漫画を描く人が多いのですが、背景などの描き込みは見ているだけで楽しいです。背景や小道具、服などがとてもよいです。背景というのは、うまく描くのは簡単だけど、世界観や雰囲気を出すのは難しかったりします。なぜなら、背景まで厳密にクオリティ・コントロールするのは、作者の手間がかかるからです。 こういう部分でも楽しめるのは、連載している雑誌が、月刊誌というのが大きいなと思いました。ここら辺が楽しめるのも、エマの魅力の1つだと思っています。 それでは前回同様、目次を以下に掲載しておきます。
● 「アンケートハガキ」「エマ」4巻にも、毎度お馴染みの手書きアンケートハガキがついています。 勿体無くて送れない これは、2冊買えということなのですかね というわけで、アンケートの内容と個人的感想です。アンケートは、基本的に作者が聞きたいことが中心のようです。マーケティング的な意味合いは極めて低いなあと思います。 ○ どのシーンが好きですか? 「第十話 ひとり」の話ですかね。エマは、基本的に起伏を劇的に盛り上げない(コマ割と構成的に盛り上げていない)作品なので、どこという部分を物語的に選ぶのは難しかったりします。物語として選ぶならこの話です。「どのメイドいじりorロンドンの部分が好きですか?」という意味なら、ミューディーズのシーンと、第十八~十九話のシーンになりますね。 ○ あなたが住むならロンドンの屋敷? それとも田舎の屋敷? その理由もどうぞ 作者が聞きたい質問なんだろうなと思います。私個人としてはロンドンですね、暇に耐えられない性格なので。 ○ 恋人にしたいキャラは? グレイスですかね。もしくはトロロープ。他は大変そうな性格の人が多いので。現在4巻まで出ていますが、名前ありの登場人物は、かなり少なめの物語です。モニカもいいですね。 ○ 友達にしたいキャラは? 友達ならモニカでしょう。情念が強い人の方が一緒にいて面白いので。後は、ハキムですかね。純粋に面白そうなので。 ○ その他作者にいいたいことがあったらなんでもどうぞ 1巻から通して読むと、急速に進歩しているのが分かって面白いです。エマの次は何を書くのだろうかというのが気になります。あと、表紙の色味は、4巻より3巻の方が好きです。これは、いくつかの人の手が挟まるので、作者の意図した色味なのかどうかは不明なのですが、4巻の色は平べったい印象がします。特にエマの肌の部分が。 というわけで、エマ4巻の感想は以上です。 ● 参考リンクエマ 4巻 森 薫(amazon) エマ 3巻 森 薫(amazon) エマヴィクトリアンガイド 森 薫 (著), 村上 リコ (著)(amazon) エマ 2巻 森 薫(amazon) エマ 1巻 森 薫(amazon) シャーリー 森 薫(amazon) |