以下、いつものとおり、「ネタバレが絶対嫌!」という方は読まないでください。そんなに激しいネタバレはないとは思いますが。
モンスターズ・インクの製作はピクサーです。トイ・ストーリーやバグズ・ライフを作った会社です。
この映画を見に行くきっかけとなったのは、その予告編でした。子供部屋の扉の向こうにモンスターたちの世界がある。そこにまぎれ込んだ子供とモンスターの冒険。そんな予告編でした。ちょっと切ない感じのシーンで構成された予告編は、とても魅力的で、これは映画を見に行かなきゃと思ったものです。実際はそんなに切ないシーンばかりの映画ではまったくないのですが。どちらかというとハイテンションな映画でした。
先に書いておきますが、映画はとっても面白かったです。同じ会社の古い作品であるトイ・ストーリーは、物語の泣かせ所に納得できないことが多く、非常に不満の残る映画だったのですが、モンスターズ・インクは素直に楽しめました。
では以下、物語の出だしの粗筋と、感想を順に書いて行きます。
● 物語の出だしの粗筋
モンスターズ・インク(株式会社)は、モンスターの社会のエネルギー供給会社。近代的な設備で構成されたその会社は、日夜モンスターの世界にエネルギーを供給し続けています。
このエネルギーを集めるのが、モンスターズ・インクの精鋭たち「怖がらせ屋」です。モンスターズ・インクには、570万個にもおよぶ子供部屋に通じる扉がストックされており、この扉を通って「怖がらせ屋」たちは子供を怖がらせに行くのです。
「キャーーーーーー!」
子供が叫び声を上げれば大成功。この子供達の恐怖の声が、モンスターたちの社会のエネルギー源として蓄えられていくのです。ベルトコンベアーで次々と運ばれてくる扉を開けては子供達を驚かし、叫び声を集めていく「怖がらせ屋」たち。でも、そこには危険がいっぱいです。モンスターの世界では、子供に触られたモンスターは死んでしまうと信じられているからです。命がけでエネルギーを採取する彼らは、モンスターの社会のヒーローです。なぜなら、彼らがモンスターの社会を支えているのですから。
そんな「怖がらせ屋」のエリート中のエリート。目下記録更新中のサリー(大きなけむくじゃらのモンスター)が物語の主人公です。そして、相方のマイク(一つ目のモンスター)。体は大きいけどちょっとシャイなサリーと、体は小さいけど所かまわずしゃべり続けるエネルギッシュなマイク。彼らは幼稚園の頃からの大親友です。
モンスターの社会とはいえ、そこは人間社会とあまり変わりはありません。成績トップのサリーを妬む、No2のランドール(トカゲ型モンスター)や、サリーの師でもあり、モンスターズ・インクの3代目社長でもあるウォーターヌース(カニ型モンスター)たちと共に、日常は流れていきます。
しかし、モンスターの社会にも大きな問題が起こっています。最近子供達の叫び声が足りないのです。テレビなどを見て育った最近の子供たちは、少々のことでは怖がらなくなってしまったのです。「私の代で会社を潰すわけにはいかん」どこかの中小企業の社長さんよろしく、モンスターズ・インクの社長も悩んでいます。
そんなある日、書類提出のために会社に残っていたサリーは、そこにあってはならないものを見つけてしまったのです。絶叫フロアと呼ばれる子供達の部屋に行くための施設に、1つの扉が残されているではありませんか。
普段はベルトコンベアーで運ばれてくるまで、倉庫に格納されているはずの扉が絶叫フロアの中にあるのです。そして、何と2歳の女の子がまぎれ込んでいたのです。こんなことは、モンスターの社会始まって以来の大事件です。どうしよう!? 急いで親友のマイクを探しに行くサリー。こうして2匹のモンスターと1人の女の子のドタバタ活劇が始まったのです。
● 感想
設定や伏線がとてもよく練り込まれていてよかったです。特に設定が秀逸でした。子供たちを怖がらせてエネルギーを集める「怖がらせ屋」、そして彼らの勤める「モンスターズ・インク(株式会社)」。この設定が核になって、いろいろと話が広がり、細部が詰められていました。
上質のファンタジーは、一つの大きなホラが核にあり、そこからどんどん発想が広がって行くものですが、モンスターズ・インクはまさにその典型というようなものでした。プログラムを見たところ、最初はなかなかこの絶叫がエネルギー源という設定に至らず、かなり難航したそうです。
扉の向こうがモンスターの社会という所から企画は始まったそうですが、この「怖がらせ屋」「モンスターズ・インク」の設定が決まるまでに、主人公や登場人物が何度も変更になったと言います。この設定が出てきたときに、スタッフたちが小躍りした様が目に浮かびます。
話はとてもうまく構成されており、「絶対後でこの話が出て来るな」と思うところはきちんと直球勝負で来るし、「えー! やられた!」という、思いも寄らぬ展開も待っています。だいたいさじ加減としては、9:1ぐらいでした。ワクワクドキドキしながらも、安心して見られる映画でした。
元々子供向けに作られている映画なので、これぐらいのさじ加減で、子供には意外な展開が4割ぐらいになるのではないかと思います。
また、子供向けだけに作ったかというとそうでもなく、大人が楽しめる話の展開も盛り込まれており非常に関心しました。サリーとマイクの関係は、幼馴染で親友だけど、サリーは街のヒーロー、マイクはその付き人的存在という関係です。でもマイクは、そんな自分の立場にまったく気付かずいつも陽気です。
大人の視点から見ると、マイクはちょっと悲しい、痛いキャラクターです。大人になった人間のほとんどは、サリーのようなヒーローにはなれず、マイクのような脇役的存在になってしまうからです。でも、そんな2人の関係をそのまま終わらせず、大人が思わず微笑む、とっても素敵なオチをつけてくれました。2人の友情をもっと深めながら。ここら辺は、大人の鑑賞に値するよいストーリー作りだなあと唸りました。
私がトイ・ストーリーで不満だった点がストーリーだったので、今回の話の作りはとても嬉しかったです。
さて、物語もよいのですが、もう1つとてもよかったものがあります。それは登場人物たちの表情です。体の表情も顔の表情もとても豊かに、そして木目細かく作られていました。
アメリカのアニメーションと言うと、どうしてもオーバーなアクションや描写を連想してしまうのですが、モンスターズ・インクでは非常に繊細な感情表現をしていました。特に、切ないシーンがとてもうまく描写されていました。
この表情には、相当の自信があったのだろうなと思います。ラストシーンをああいう終わらせ方にするのは、よっぽど自信がなければできないことだと思います。ここは書くと相当なネタバレになるので、各自見ていただければと思います。
しかし、見ていて羨ましい映画でした。スタッフが飛びきり楽しんで作っている様子が、画面から溢れ出てくるのです。また、余力も相当あるなあと思わせてくれました。
映画の冒頭に、トムとジェリーみたいに短い「the Bird」というアニメーションが入るのです。そして、最後のスタッフロールも遊びのシーンが満載です。本編を作るだけじゃ飽き足らず、まだまだやれるぜというスタッフたちの意気込みが伝わってきました。率直にいいなあと思いました。
こんな感じでモンスターズ・インクは非常に面白かったです。ついでですので、映画の始まる前にいつも流れているCMの感想も書いておきたいと思います。
一番印象に残ったのは、少林サッカーでした。
何の映画かと言うと、少林寺拳法のサッカーです。最後通牒様のところでいろいろと紹介されていましたが、「少林拳を世界に広めるために、かつて少林寺で学んだ仲間たちが結集してサッカーチームを作り、ハイテク・トレーニングや筋肉増強剤で不死身と化したチームと対戦する」のだそうです。
何と言うか、宣伝を見た限りでは超人サッカーという感じでした。面白そうでした。
本場の香港では、公開50日で香港映画史上最多となる6000万香港ドルの興収を打ち立て、6人に1人が見ている計算になっているそうです。えらいことになっています。
最後通牒様のところでは、漫画版や、ゲーム版も紹介されていました。香港公式サイトはここです。
公開は5月だそうです。