● 2003.02.21(金)01 珠玉のメイドさんマンガ「エマ」2巻 メイドさん作品集「シャーリー」 (森 薫) 2/24同時発売

今、時代はメイドさんです。

「メイド喫茶ができた」という話題がニュースとして全国区で取り上げられ、インターネット上ではメイド喫茶のレポートに人が群がり、企業が威信をかけてメイド喫茶を開設するこの時代。全国総メイドさん好き現象の流れは、もはや社会的潮流と言えるでしょう。今後日本社会は、メイドさん文化の時代に流れ込むものと予想されます。

それはさておき、今、メイドさんが熱いブームを迎えつつあります。

しかし、このブームとは無関係に、昔からメイドさんを愛し、今後もメイドさんを愛し続けるだろうマンガ家がいます。森 薫さんです(森薫公式:伯爵夫人の昼食会)。

前回、「珠玉のメイドさんマンガ「エマ」(森 薫)1巻」として紹介しましたマンガ「エマ」(月刊コミックビーム連載)の第2巻が一昨日(19日)届きました。また、同時発売の「シャーリー」(森 薫さんが書かれた、メイドさん個人誌の単行本化)も届きましたので、2冊合わせて紹介したいと思います。

どちらも、とてもよい本に仕上がっています。


● 「エマ」第2巻

 
引用:エマ第2巻表紙:左は帯あり、右は帯なし

場所は英国、時はヴィクトリア朝時代、産業革命を経て、大英帝国が世界を席巻していた時代。そんな時代のお話です。

寡黙で美人で心の美しい眼鏡のメイドさん「エマ」と、ジェントリに名を連ねる名家のお坊ちゃま「ウィリアム」。その2人の身分違いの恋の物語です。

1巻では、各話で「エマ」やエマの主人である「ケリー夫人」、そして「ウィリアム」といった人物を丁寧に描いてきました。2巻では一転、物語が一気に進み始めます。

魅かれ合う2人、環境の変化、周囲の圧力、別れと物語はどんどん勢いを増して進みます。こういった物語の展開は、濃縮された「ハウス世界名作劇場」を見ているようで楽しいです。


引用:周囲の圧力

(最近の若い方は知らないかもしれませんが、ハウス世界名作劇場という一連の名作物語のアニメ化シリーズが過去にあったのです(前身はカルピスでしたが)。「小公女セーラ」を覚えている方は、「エマ」を読むと懐かしいかもしれません)

「エマ」と「ウィリアム」の2人を中心として、物語は深みを増していきます。「エマ」の子供時代の辛い回想シーン、そして「ウィリアム」の兄弟姉妹たちの登場。2人の育った環境を対比させながら物語は進んで行きます。

話的にはけっこう重いのですが、森 薫さんの温かい絵柄と、辛い部分を直接描写しない物語の進め方が、マンガを抑制の効いた温かみのある物に保ってくれています。何より、照れ屋で温和な「エマ」さんの反応が心を和ませてくれます。思わず守ってあげたくなるような女性とは、こういった人のことでしょう。


引用:抑制の効いた喜びの表現

「メイドさんが好き!」「大英帝国が好き!」という人だけではなく、子供の頃にハウス世界名作劇場を欠かさず見ていた人にもお奨めできるマンガだと思います。普通の感覚の人が普通に楽しめるマンガです。かなり正統派のマンガだと言えます。今時珍しいですが。

また、前回各所で好評だった、手書きアンケートハガキですが、今回もちゃんとついています。


引用:「エマ」アンケートハガキ

ここで、注目なのは、「ヴィクトリア時代の好きなところはどこですか?」という設問です。


引用:「ヴィクトリア時代の好きなところはどこですか?」

えー、作者のリビドー全開の設問です。

分からない人もいるかもしれませんが、ヴィクトリア時代とは、ヴィクトリア女王の在位していた時代(在位:1837年~1901年)のことです。この時代、英国が世界最強で、空前絶後の繁栄を誇っていました。

この時代の魅力は、朝焼けや夕焼けの魅力に近い物があると思います。産業革命の前は、人は貴族とそれ以外に別れていました。その時代、人とは貴族のことを指し、それ以外の人間は家畜と変わりませんでした。

しかし、産業革命後、余剰生産物が飛躍的に増え、社会に物があふれ始めた後、状況は一変しました。多くの人が、生活以外のことができる余裕が徐々にできてきたのです。そして、「エマ」の時代よりも、もう少し下った20世紀になると、全ての人が、人としての人権を獲得していく時代に突入していきます。

「エマ」の舞台背景になっているヴィクトリア時代は、この新旧の2つの時代に挟まれた、人類史上の転換期とも言える時代です。この時代には、新しい時代の勢いと、過去の古い体制とがぶつかり合って様々な矛盾が生じ、激しく社会が揺れ動いていました。けれども、空前絶後の繁栄というべき大英帝国のエネルギーが、その矛盾を抱えたまま、社会を爛熟期へと押し上げていきました。それ故にこの時代は、逢う魔が時のような、蠱惑的な魅力を持っているのではないかと思います。

こういった社会的な背景以前に、この時代は造形的な魅力に溢れています。世界帝国となった大英帝国の総力を挙げて、世界中の珍しい物が集められてきたきらびやかな時代。様々な時代、種々の場所の文化が、ロンドンという街に流れ込んでいた時代。

この時代の魅力は、時代の勢いが街全体に溢れて、過去と未来、世界各地の文明が一点に集中し、科学反応を起こしていた所ではないかと思います。

閑話休題。

「エマ」の作品世界が、上記のように時代と時代の狭間にあるように、「エマ」と「ウィリアム」も時代の体現者のように、まったく違う背景世界を持っています。この2人の矛盾が今後どう解決されていくのかとても楽しみです。

メイドさん好きの方もそうでない方も、「エマ」は1巻と合わせて購入しておきたい本だと思います。

ネタバレになるので、物語の詳細は書きませんが、代わりに目次を以下に掲載しておきます。

  • Dramatis personae
  • 第八話 クリスタルパレスにて
  • 第九話 家族
  • 第十話 ひとり
  • 第十一話 晩餐会のエレノア
  • 第十二話 さよならエマ(前編)
  • 第十三話 さよならエマ(中編)
  • 第十四話 さよならエマ(後編)
  • あとがき

森 薫さんのファンの方へ。相変わらず「あとがき」は飛ばしているので必読です。


● 「シャーリー」

 
引用:シャーリー表紙:左は帯あり、右は帯なし

森 薫さんが、「エマ」と同時期に個人誌で発表した作品群をすべて収録した本です。

「エマ」が連載物ということで、物語性を重視した作りになっているのに対して、この「シャーリー」はシチュエーション重視の作りになっています。

この人は、メイドさんが本当に好きなんだなあと思います。いやもう本当に。

以下、収録作品を先に紹介して、各作品に解説を加えていきたいと思います。

  • シャーリー
    • 第一話 はじまり
    • 第二話 リトル・マリー
    • 第三話 ブロンドとコルセット
    • 第四話 家
    • 第五話 雨
  • 僕とネリーとある日の午後
  • メアリ・バンクス
  • あとがき

表題作品の「シャーリー」は、作者いわく「13才少女メイドという変なスイッチが入った勢いで描いたマンガ」だそうです。「13才少女メイド」という言葉には、私もくらくら来ます。黒髪でおかっぱで13才少女メイドの「シャーリー」はかなりツボでした。

えー、「13才少女メイド」というだけで買いかと思います。


引用:反則とも言える「13才少女メイド」。
「即買い!」と言えるでしょう。

主人公の「シャーリー」は、器用で賢くて仕事ができ、完璧主義だけど、子供のあどけなさを残している13才です。大変よろしいです(力説)。危険なマンガだなあと思います。


引用:もらったメイド服に喜んでいる所を
女主人に見られる13才少女メイドの図

この「シャーリー」ですが、かなりよいです。女主人(あっけらかんとしていて、美人でブロンド)とのかけあいもよいです。「いやあ、メイドさんっていいなあ」というか、「13才少女メイドはかわいいよね」というお話になっています。

続いて、「僕とネリーとある日の午後」です。眼鏡メイドさんに、かわいい少年に、動物も出てきて、全方位萌えマンガになっています。

個人的な注目シーンは、お仕事の終わった後の「ネリー」(眼鏡メイドさん)のシーンです。

やはりメイドさんが、仕事の後にメイド服を脱いで、眼鏡のまま、くしで髪を梳かしているシーンはいいなあと。眼鏡萌え属性がない方でも、思わず注目してしまうシーンだと思います。

最後は、「メアリ・バンクス」です。ちょっと強気なメイドさんと、いたずら好きのご主人様のお話です。最後はホロリと泣かせる話になっています。

ファンの方にとって朗報は、「シャーリー」にも手書きのアンケートハガキが付いていることです。また、「もったいなくて出せねえよ!」という方が出てきそうですが(^^;


引用:「シャーリー」アンケートハガキ


というわけで、駆け足で紹介しましたが、「エマ」2巻と「シャーリー」はお奨めのマンガです。書店で見かけた際には、ぜひお手に取ってみることをお奨めします。

さて、「エマ」2巻と「シャーリー」の発売に合わせて、森 薫さんのサイン会があるそうです。森 薫さんのサイト伯爵夫人の昼食会お仕事にその詳細が掲載されています。

それでは、「エマ」3巻を楽しみにしながら、もう一度2巻を読みなおすことにします。


● 「エマ」参考サイト、Web上の発言一覧

重要そうなサイト、発言、ページへのリンクと感想の引用をまとめておきます。(引用は、引用元の原文通り)

「Google」で「森薫 エマ」で引っかかった719件の中から、200件を読んでピックアップしました。大絶賛の嵐だということが改めて分かりました(*^o^*

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