これまで、色々と「○○に行ったよ!」という、イベントや場所のネタを書いてきましたが、今回は「人型ロボットを作っている会社」に見学に行ってきました。
せっかく社長に出会ったので、行かないと損だろうということで「イクシスリサーチ」社を急襲(^^
事の起こりは、先週にハマクリ・イブニングに行って、ロボットの紹介を見たことです。
ここで、そのロボットを作っている会社「イクシスリサーチ」社の代表取締役の山崎さんと名刺交換をしました。そして「会社見学に行ってもいいですか?」とメールを送ったところ、快諾のメールが来たので、実際に訪ねてきたわけです。
訪問日時は6月30日の夕方16時。東横線の綱島駅で電車を降り、バスで15分ぐらい揺られた場所で下車。中川研磨という会社の2階に、目指す「イクシスリサーチ」社はありました。
通常の3階か4階ぐらいの高さに位置する“2階”に階段で登り、事務所に到着。
軽く挨拶を交わし、さっそく工場見学! というわけで、廊下を抜けて工場へと移動しました。
工場は、学校の教室より一回りか二回りぐらい狭い感じのフロア。そこに、女性の肩の高さぐらいの人型ロボットが2体と、作業をしている社員の方がいました。
工場というと、ベルトコンベアとかを想像するのですが、その場所は非常に簡素でした。そして、手作業でロボットを組み立てている。
ロボットの1体はメンテ用に戻ってきているもの。もう1体は現在組み立て始めているものでした。
作業している場所では扇風機が回っており、その前で社員の方がハンダ付けをしています。
「全部、手作業で1つずつ作っているんですね」
「そうですよ、1つ1つ人間の手で作っているんです」
少し驚く私を前に、山崎さんはにこやかに解説。このような一風変わった“工場”の中で、2体のロボットを前に、ロボット話を聞くことになりました。
(※ 工場は、受託先との守秘契約の関係で撮影はできませんでした。あしからず)
まず、興味を持って聞いたのが、「イクシスリサーチ」社のロボットのウリ。
「うちの一番のウリは、モーターを制御するコントローラー(制御基盤)が、全部USB接続で管理できるところです」と、山崎さんが解説。
そのおかげで、パソコンで簡単に制御ができ、データを取るのも非常に楽だそうです。研究用の用途での発注が多いということでしたが、これならデータを取りやすいだろうなと思いました。
また、そういったシステムで作っているためか、「ロボットというよりは、パソコンの周辺機器だと思っています。ほら、HDがここにあるでしょう。ここらへんがパソコン。そしてロボット部分は、USB接続の周辺機器」という言葉も飛び出し、なるほどなと思いました。
人型ロボットというと、ひどく普段使っている製品からかけ離れている気がするのですが、「プリンターで印刷物を出す代わりに動きを出力。スキャナーで画像を取り込む代わりに、腕などを人が動かした場合のモーションデータを読み取る」と言われて、妙に納得。
また、「イクシスリサーチ」社のロボットは、様々な効率化、低価格化の努力も行なっており、それもウリになっていると。いい機会なので、いろいろと根掘り葉掘り聞いてきました。
「腕など、色々な場所をモジュール化して、簡単に抜き差しできるようにしてある」「胴体などは基本設計のフレームがあり、その設計を毎回使っている」「設計は3次元CADで行なう(デジタル化)」「外装は、要望がなければ基本的に付けない」といった、効率化とコスト削減の工夫を教えていただきました。
また「値段交渉など、やりたくないことに時間は使いたくない」ということで、値段は非常にシステマティック。「エクセルの表があって、仕様を選ぶと値段が自動的に決まる。うちの会社の取り分も表示される」という明朗会計でした。
こういった方針で行なっているために、一台のロボットをかなり安い値段で作っていると。
試しに2台並んでいたロボットについて、「こういったタイプでどのくらいのお値段なのですか?」と伺うと「簡素なモデルなら3~4百万円でできますよ」と聞いてかなり驚きました。桁1つ上だと思っていましたので。
「無茶苦茶安いんじゃないですか?」と尋ねると、「ロボットの値段を知っている人はみんなそう言いますね」と答えが。正直、びっくりしました。パーツ代と人件費ぐらいの感覚。
納品も、「ふだんは2~3ヶ月で納品」だそうで、この会社のなかだけ、ロボットに関する時間の流れが違う感じがしました。
「どういった場所からの注文が多いのですか?」と試しに尋ねてみると「大学や研究機関、それと大企業がプロトタイプを作る時に発注することが多い」ということでした。
大企業でプロトタイプを作ろうと思ったら、高給取のサラリーマン10人が1年従事すると、すぐに1億円になる。それが、「イクシスリサーチ」社に発注すると、2~3ヶ月の期間で数百万円の値段で素体的なロボットが出来てしまう。大企業はこのプロトタイプでデータを取り(USBなので簡単にデータも取れる)、そのデータを元に実際のロボットを開発すると。
こりゃ、敵わんなと思いました(^^;
納品までの時間が短いのは「キャッシュフローの関係でともかく早く納品」という理由もあるとのこと。ベンチャー企業らしい理由です。
人型のロボットの発注は、「年に5~6回ぐらいかな」ということでした。「モーターで制御できるものは、全てうちの仕事だと思っている」ということで、それ以外のお仕事も多数こなしているとのことでした。
その後、「人型ロボットをなぜこのサイズで作っているのか」について、山崎さんから面白い発言がありました。
「あまり小さいと、玩具と思われるんですよ。逆に人間ぐらいの大きさがあると、怖いと思われる。蹴って勝てそうだと思うぐらいのサイズが、一番いいんですよ」と。
目の前のロボットが、技術的制約ではなく、対人印象でサイズが決められているというのを知るのは、新鮮な驚きでした。ちなみに、重量は50KGぐらいとのこと。これなら怖くないです。
「でも、パワーはありますからね。暴走させると強いですよ(笑」と。まあ、わざと暴走させることはないでしょうが(^^;
あと、人型ロボットは人のような動きをすると思っている発注者は、出来あがったものを見て、拍子抜けするという話も聞きました。
「バンザイできますか?」と聞かれて、両腕を上げさせたら渋い顔をされると。「いや、バンザイって、両腕を上にあげることですよね」と言い、さらに渋い顔をされると。
いやー、人の形はしていますが、人と違って表情などはないですからね(^^;
「関節の駆動方法なども人間とは違うので、人間と同じ動きをさせることに、どれほどの意味があるのかは疑問」と、山崎さんはおっしゃっていました。人間とは、似て非なる物とのこと。
あと、現在納品して稼動しているロボットの面白い話も聞きました。
「イクシスリサーチ」社では、愛・地球博にもロボットを出展しているそうで、これは遠隔メンテナンスができるシステムになっているそうです。
横浜にいながら、インターネットを使ってメンテナンスや再起動などができるようになっているとのこと。便利だ。
また展示しているロボットは、依頼者側の要望で、ものすごい回数のデモンストレーションをこなしているそうです。1日あたり200回以上。
「2分で1回ぐらいになりますよ」「それは凄いですね」「データは全部、インターネット経由でうちに来ています」「それ売れそうですね(笑」「うちの製品の耐久性を示す、いい資料になりますよ(笑」ということで、なかなかハードな使用環境であるということを教えてもらいました。
もう1つの面白いロボットは、科学館で現在稼動しているという完全自立型巡回ロボット。
「これは苦労した!」ということで、様々な苦労話を伺いました。
まず、発注者側からの「子供が乗ってきても大丈夫で、安全で、館内の物に触れず、自分で充電して、完全自立で動いて……」という注文。
それで、この要望を実現してしまったそうです。
「センサーをたくさん取り付けて実現しましたよ。段差も乗り越えます! そして自分で充電の場所まで戻ってきます!」と自信たっぷりに。
実際、いろんな博物館の方が、そのロボットを視察に来るそうです。
「基本的に、どんな状況にも対応させられるように作っているんですけどね、1回だけ駄目だったことがありますよ」と山崎さんが難しそうな顔を。「どういう状況だったんですか?」と聞くと「子供に、階段の上から突き落とされた」と返答が。
あー、それはさすがに難しいでしょう。
「なので、完全自立と言っても、たまには見てくださいねと、科学館の方にお願いしました」
なかなか大変です(^^;
次は事務所に移動してお話。
ここでいきなり、山崎さんから面白い発言が。
「私はですね、ロボットが人型であることに懐疑的なんですよ」
人型ロボットを作っている会社の社長の発言とは思えません。大変興味深いです。
「汎用ロボットって、何もできないロボットのことを指しているんですよ。人型ロボットって、まさにこれ。何でもできそうで、実は何もできない」
うーん、納得。
「何かやりたいこと、目的があるのなら、単機能のロボットを作るほうが安い。それに、ロボットでなくてもいいかもしれない。介護ロボットを作る予算を、介護施設を作るのに回したほうが、社会的には有意義かもしれない。実は私、『ロボットを懐疑的に見るイベント』をやらないかと、ロボット関係の会社の人達に言ったことがあるんですよ。何を言っているんだ、お前はって顔をされましたけどね(笑」
面白いです。ロボットを作っている会社の社長が、なかなかこういうことは言えないです。
「そもそも、二足歩行である必然性がないんですよ」と、二足歩行を研究していた山崎さんが発言。「そうですよね、タイヤやキャタピラや多脚のほうが、合目的ですからね」「そうそう、まさにその通り!」
だから、「イクシスリサーチ」社がふだん納品する人型ロボットは、タイヤで動くタイプだそうです。
「二足歩行にかけるお金をほかの部分に使えば、もっと世の中にロボットをばら撒けると思っている」と山崎さん。
「まず、ロボットが、どこの家庭でも安く手に入る値段でばら撒けないと、その先の面白いところには行かないと思うんですよ」
ロボットが特別なものでなく、ファミコンなどのように、どこの家庭にもある世界。それが、山崎さんの見ている世界かなと思いました。
そして、考えさせられることもありました。
「一昔前はともかく、今はもう、ロボットだけでは驚いてくれないんですよ。ロボットが歩いていても、ふーん、で終わってしまう。テレビなどで、そういう映像がたくさん流れたから、陳腐化しているんです。本当は物凄いことなんだぞ! というのが分かってもらえないんですよ」
うーん。まだ普及していない技術が、メディアのおかげで陳腐化する。
メディアの功罪と、最先端技術、特殊技術の報道の難しさというのを考えさせられました。
そして「ロボットだけでは駄目。ロボットはプラットフォームにしか過ぎない。ロボットに何をさせるのかが、これからの時代で重要」という発言に続きます。
「じゃあ、人型である意味って、どこにあるんですかね」という質問に、山崎さんが今考えていることを答えてくれました。
「人型であることに意味があるのは、実はインターフェースの部分にあるんじゃないかと思っているんですよ。例えばホームロボットの仕事なんて、壁に埋め込んだパネルで十分なんですよ。人型である必然性がまるでない。そこにあえて必然性を見出すとするならば、インターフェースの部分にあるんじゃないかと思うんです。身振りとか手振り。そういうのがあるだけで、随分人間の気持ちは変わります。だから、手は必要だと思うんですよ。逆に言うと、足はいらない。あとは、人型で意味があるのは、コミュニケーションかなと思います」
人型ロボットに何か仕事をさせるのではなく、“人型”はあくまで心理面の役割を担わせる。
「ロボットの動きは、基本的に人と違いますからね。人のやる仕事を、人型ロボットにやらせる意味はないと思います」
実際に作っている方の言葉だけでに重みがあるなと思いました。
さらに続いて、山崎さんの発言。
「ロボットで何をするのか。そのコンテンツが重要。実は人型ロボットを作る会社は、ハードよりコンテンツのほうを、これから見ていかないといけないと思っている」
その一環として、“面白いこと”を考えていると。今年の9月と10月に、地下のショッピング街を「ロボットで埋め尽くす」そうです。
「人が犬を連れて歩いていると思ったら、実はそれがロボット犬で……」など、“街にいきなりロボットが現れる”巻き込み型のイベントをやる準備を進めているそうです。
「イクシスリサーチ」社では、すでに犬型ロボットは実績があり、人が小走りするぐらいの速さで走れるそうです。走るだけでなく、曲がったりとかも普通にできると。
「いろいろ、企画を考えているんですよ」ということで、私もちょろちょろ「こんなのどうですか?」と話をしました。
そして最後に、また工場に移動して、会社自体のお話や今後の展開などを伺いました。
会社の規模は、社員6名、バイトを入れても10人ぐらいだそうです。“やっていること”の割に、ものすごく人数が少なくてびっくりしました。
もともと山崎さんは、学生時代に会社を立ち上げたそうです。研究室にいる時は、携帯電話に電話を転送して仕事を請けていたと。
「だから、サラリーマン経験がないんですよ。だから世間知らずで」と、笑いながら山崎さん。「いや~、その方がよっぽど社会経験豊富でしょう」「ベンチャー経営ということではそうかもしれませんね」
山崎さん、なかなか面白い人生を歩んでいます。
「うちは、技術者集団なんです。全員が技術者」と会社の考え方も語ってくれました。
「だから、1つのロボットを作るときも、全員がデバッグできるように、全員開発に関わるようにしているんです」、そして「どんどん、新しいこと、最先端なことをやっていきたい」と。
こういった台詞から、会社の方針がよく見えてきます。
あと興味深かったのは、「うちは、バイトにはまずケーブル作りからやらせるんですよ。地味な作業ですよ。でも、これがきちんとできない人は、うちはいらない。だって、ケーブルが1本でも切れていると、もうロボットは動かない。自信を持って、僕の担当した場所のケーブルは大丈夫ですと言えないと困る」という発言でした。
「ロボットは、モーター制御という非常に枯れた技術を使っている。だけどその数が多いから、バランスを取るのが大変なんです」
こういう発言もありました。だから、“きちんとできる人”でないとロボット作りの仕事はできない。そういうことだろうなと思いました。
そして、今後のロボットで考えていることも伺いました。
「ハードがコピーされるのは、ある部分で仕方がないんです。だって、製品ができて世に出たら、中国とかが簡単に安い値段で真似するでしょう」
爆弾発言です(^^;
「だから、私はコンテンツが重要だと思っているんです。ロボットで何をするのかというコンテンツ。例えば、人間国宝の舞踊の先生の動きを入れて、お墨付きをもらう。このお墨付きはコピーできない。オンリーワン。そういったものが必要だと思うんですよ」
「だから、そういうコンテンツで商売ができるのなら、ハードは安い値段でコピーされても大丈夫だと思うんですよ。そのハードの上で、私達のロボットのコンテンツを売る。そういうことも、将来的にはできるかなと思っています」
「だから、コンテンツ会社とのコラボレーションが大切だと思うんですよ」
“人型ロボット”という“ハード”を作っている会社のイメージからは、思いも付かなかった考え方を聞くことができました。
なるほど、実際に作っている人がどう思っているかは、訪ねて行って、聞いてみないと分からないなと思いました。
いやはや、面白かったです。
また、面白い話を聞きに行ったら、みなさんに紹介したいと思います。