● 本のお話 ●

● 2008.05.02(金)01 入江亜季「群青学舎」3巻

先週、入江亜季の「群青学舎」3巻が届きました。「ビーム」連載の単行本です。


入江亜季「群青学舎」3巻

前作までの感想は、以下をご覧下さい。

□入江亜季「群青学舎」2巻
http://crocro.com/book/070802.html

□入江亜季「群青学舎」1巻、「コダマの谷」
http://crocro.com/book/060828.html

以下に、単行本収録のマンガの初出と各タイトルをリストにしておきます。

  • 「群青学舎」3巻(初出 月刊コミックビーム 2006年9月号、2007年6月号~2008年1月号)
    • 第 二 十 話 赤い屋根の家
    • 第二十一話 続々ピンク・チョコレート
    • 第二十二話 薄命【前編】
    • 第二十三話 薄命【後編】
    • 第二十四話 メリー・ガーデン
    • 第二十五話 待宵姫は籠の中【前編】
    • 第二十六話 待宵姫は籠の中【中編】
    • 第二十七話 待宵姫は籠の中【後編】
    • 第二十八話 雪降り積もる

というわけで、何度か読んだので感想を書こうと思います。


まず、この巻を手に取って読み始めて最初に思ったのは「変わった?」ということです。

「赤い屋根の家」と「続々ピンク・チョコレート」が、前二冊よりも読みやすく、面白くなっていたからです。

話の焦点が明確になり、具体性の強い話になっていました。

しかし、その次の「薄命」で「戻った?」と思いました。

入江亜季のマンガの特徴として、印象を切り取ろうとする傾向があります。このことからマンガでポエムをやっているなと思っています。

その“印象”を切り取る際の視点の位置が、人物から少し引いたところにあるなとも感じています。

主人公視点ではなく、そこから少し引いて、主人公視点と観察者視点の間ぐらいという感じです。観察者視点というにはカメラが近すぎますので(引きの映像がない)。

最初の二話は、人物に感情移入しやすかったのが、よくなったと感じた理由ではないかと思います。


もう一点、マンガ技法的なことで感じた点があります。

たぶん入江亜季は、マンガよりも絵にこだわりがある人なのではないかと思います。

そのせいかどうか分かりませんが、コマ間の密度に差があまりなく、コマ間のダイナミックレンジが少ないです。

達人レベルのマンガ家になると、コマの配置とコマの白黒の密度だけで感情をコントロールしてきます。

入江亜季の場合は、コマの密度がほぼ同じために、そういったコマによる感情コントロールがあまりありません。

マンガでポエムをするのなら、たぶんここは今後クリアしていかないといけない点ではないかと思います。


それでは、なぜコマの密度配分があまりできていないか。それはたぶん、捨てゴマを描けないからだと思います。

ここで言う捨てゴマとは、ほとんど白の、感情の抜きを与えるコマや、読者に丸投げの背景だけの大ゴマです。

絵を描かないコマを、絵を描きたいために描けないのではないかと思います。変な言い回しですが。

いや、それよりもこの人の場合は、捨てゴマではなく捨てページが必要なのだと思います。

1ページ辺りのコマ密度が高いマンガ家なので、コマ密度の落差を出すためには、捨てページがなければならない気がしますので。

あとは、線や絵が整い過ぎるのも気になっています。マンガの落差は線や絵が崩れることでももたらされます。例としては藤田和日郎です。

せっかく線や絵が整っているので、それを崩すのはもったいないのですが、武器としてあるとよいかもと感じました。

前から気になっている点なので、あれこれと考えてみました。

以下、個別の感想です。


● 赤い屋根の家

父親と娘と間に入った若い男性秘書の話。なかなか面白かったです。

読んでいる時に、この構図どこかで見たなと思ったのですが(たぶんよくある構図だと思うのですが)、最初に思い浮かんだのは川原泉の「笑うミカエル」です。

確か、こんな構図の話があった気がします。

まあでも、面白かったです。


● 続々ピンク・チョコレート

キャラ立ちがはっきりしているので読みやすく、面白いです。

まあでもこの状況は、主人公は怒るよなと思いました。

そして、周囲の反応通り、別れるには惜しい人材だよなとも思いました。


● 薄命

非常にポエムでした。ある意味、入江亜季らしい作品です。

これを読んでいた時に感じたのがダイナミックレンジの狭さです。

カメラの引きと寄り、捨てゴマなど、印象の手綱を引いたり緩めたりする部分が少ないと感じました。

たぶん、自分のコントロールの利く範囲内で印象を作ろうとしているのではないかと思います。

読み手に任せて「それをどう取るかは分からないけど主導権を委譲する」という引きのコマがあった方が情感はふくらむなと感じました。

解放の部分があれば、もっとよいのにと思いましたので。

読んでいる途中に止まって考えるコマがないのが、ポエム的マンガとして足りない部分だと感じています。


● メリー・ガーデン

悪くはないけど、良いとも言い切れない作品。

たぶん、ページ数を増やしてコマ密度を減らすか、内容を切り詰めてコマ密度を減らすともっとよくなると感じました。

あと、話的な部分では、闇の要素がないことが落差を減らしていると思いました。(そういう部分を少し書いているけど、闇と言えるほど強くはない)

ただ、そこは好みの問題なので、人それぞれかと思います。


● 待宵姫は籠の中

たぶん「北の十剣」と同じ系統の話ではないかと思います。

「北の十剣」よりはレベルアップしているなと感じました。

ただ、しゃべらず動かない主人公は、ちょっと扱いづらいかなと思いました。


● 雪降り積もる

これも、入江亜季のマンガの特徴がよく出ている作品だと思いました。

印象を切り取っているのですが、感情移入する力点が見付からない作品です。


なんとなくの印象ですが、よいキャラができ、そのキャラを中心に回している作品はよくできている気がします。

逆に、切り取りたい場面があり、そこにキャラを配置している感じの作品は、面白さが減っているように思えます。

マンガというのは、キャラが全体を牽引するのだなと感じました。


● 参考リンク


入江亜季「群青学舎」3巻



入江亜季「群青学舎」2巻



「群青学舎」1巻(amazon)



「コダマの谷」(amazon)


□入江亜季「群青学舎」2巻(感想)
http://crocro.com/book/070802.html

□入江亜季「群青学舎」1巻、「コダマの谷」(感想)
http://crocro.com/book/060828.html

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