● 本のお話 ● |
● 2006.05.24(水)01 珠玉のメイドさんマンガ「エマ」7巻(森 薫) 5月25日発売先週末に「エマ」7巻(最終巻)が届きました。ちょっとドタバタしていたので、ようやく感想を書いています(汗 というわけで、以下、恒例となった「エマ」の感想文です。既刊の感想については、過去の感想をご覧下さい。 「エマ」7巻(森 薫) 表紙画像からは分かりませんが、この巻はやたら分厚いです。定規で計ってみましたが2.6cmありました。ページ数では274ページ。かなりのボリュームです。 相変わらず出来がよく、楽しんで読ませてもらいました。 予定通りのソフトランディングで、きちんとハッピーエンドになっていました(少し意外な展開でしたが)。これまでの話でバッドエンドにはならないことは、さすがに全読者が分かっていたでしょうから妥当なところだと思います。 あと、帯を見ると「緊急速報 エマの登場人物たちによる、外伝的な読切シリーズが 月刊コミックビーム9月号(8月12日)より連載スタート」と書いてありました。 本連載が終わったあと、次の連載は何にするのかなと思っていたのですが、どうやら、メイド・スキーの作者は、まだまだメイドや英国を描き足らないようです。 作品的にも商業的にも無難な選択といえると思いますが、違った方向の作品も少し見てみたかった気もします。まあ、あの時代の英国をこのレベルの絵で描いてくれるだけで非常に満足なのですが。 ● 個人的な感想まず最初は、この巻に収録されている各話を掲載します。
この巻を読んで思ったのは2点です。 「絵が上手くなったせいで、連載当初に比べて劇的に表現の幅が広がっている」 「物語の構成能力は、絵の成長ほど伸びていない」(注:マンガの構成力ではなく、物語全体の構成力) このマンガは、もう私が何を書いても評価は変わらないぐらい世間的に評価を得ているので、ちょっと厳しめのことも含めて書いてみたいと思います。 以下、上記の2点について解説していきます。私の個人的な見方なので、的外れな点もあるかと思います。その点はあらかじめ断っておきます。本文を読む方は、その点をご了解下さい。 ● 絵の成長と、表現の幅の広がりだいたい、マンガ家のデビュー作の場合、よっぽど絵が完成されている作者でない限り、連載初期と連載終了期の絵は大きく変わってしまいます。そして、よっぽど不器用な人でない限り、絵は上手くなります。 森 薫氏の絵の能力は、「エマ」の連載中に劇的に成長しています。 物の形が正確になり、シャープな描線を引けるようになり、線の末端の処理が適切になり、……といったように、数多くの点で連載当初とは違っています。 そういった小さな変化の積み重ねの結果、描線による各コマの印象のコントロールができるようになり、空気感の表現ができるようになりました。 例えば、硬いコマ、柔らかいコマ、重いコマ、軽いコマなどを演出できるようになり、絵のレイアウトだけではできない印象表現が可能になっています。 今回の7巻を読んでいて、その点を強く感じたのは、「第四十五話 新大陸」です。この回のエマの心理描写は、1巻の頃の絵のレベルではできなかった表現です。 そもそも1巻の頃の実力では絵に説得力がないので、このような表現をしても強い印象を伝えることはできなかったでしょう。 この回のように「1話内でおこなう目的がはっきりと決まっている回」では、こういった実力の上昇ぶりが非常に分かりやすく出ます。ただし、そうではない回では、ただ単に「上手くなった絵で丁寧に描いているだけ」になりやすく、「絵が上手くなった」のは分かっても「表現の幅が広がった」ことは見え難くなっているなと感じました。 あと、絵の実力が上がって変わったのは「硬く重い絵」が作れるようになったことです。シャーリーの頃の絵を見ると特に思うのですが、元々「柔らかく軽い絵」の作者だったのではないかと思います。 描線が正確になったために、絵を重くすることができるようになった。そういう風に私には見えます。 あと、どうでもいいですが、この作者はおっぱいが好きなのかなと思いました。あの形のおっぱいは、ただ漫然と描いているだけでは出てこない“趣味の入った形”だと思ったので。 ● 物語の構成能力絵に関しては、非常に好みなのでベタ誉めなのですが、物語の構成に関してはいくつか問題点があると感じています。 それでも手放しで誉めなければならないことがあります。それは、デビュー1作目の連載をきちんとまとめて完結させたことです。これができただけで、作者としての責任をきちんと果たしたことになります。これは、なかなかできることではなく、人気と実力と編集部の理解がなければできないことです。この点に関しては文句なく素晴らしい。 その上で、問題点を挙げていくことにします。 1番の問題点は「エピソードの刈り込みができていないこと」。2番目の問題点は「閉じていないエピソードがあること」です。 「元々こういう形の連載になると想定していなかったので……」という“逃げ”ができない部分で、この問題は顕在化しています。それは、最終巻だというのに、まだ新しい要素(キャラおよびエピソード)を入れようとしていることです。 そりゃあ、最終巻が分厚くもなるよなと思いました。1番目の問題点として挙げた「エピソードの刈り込みができていない」というのは、このことが由来しています。 ウィリアムの妹のグレイスに関するエピソードも、この時点でやるべきものではないと感じました。 書きたいことが多くあるのは理解できるのですが、ちょっと散漫になっています。 2番目の問題点として挙げた「閉じていないエピソードがある」というのは、ウィリアムが婚約していたエレノアの一家であるキャンベル家についてです。 エレノア、モニカ、キャンベル子爵、フレデリックと多くの人物が出てきているのですが、きちんとエピソードが閉じていない。連載物だから仕方がない部分があるにしても、最低限、フレデリックを切って他のキャラのエピソードの密度を上げるべきだったのではないかと思いました。 1番目、2番目ほど問題ではないが、構成次第で回避できた問題としては、モニカのインド人の召し使いの存在があります。 この巻の冒頭でモニカが登場するシーンでハキムが出てくるので、彼女の召し使いとハキムの召し使いとが混ざってしまい、読者を混乱させてしまいます。そもそも、ネタ被っているし。外見上の違いもそれほど大きくないので、明確に違うキャラだと感じさせる構成にするべきだったと感じました。 ただ、そもそもこの巻でモニカのインド人の召し使いを登場させる必要が物語の構成上必要なのかどうかという問題はあるのですが……。 こういった構成上の問題があるために、最終巻であるのに、主人公であるエマの印象が弱まってしまっています。ここは、いろいろと書きたい欲求をぐっと堪えて、物語の完結に集中するべきだったのではないかと思います。 勝手な想像ですが、こういった問題が生じるのは、編集者と作者の関係にあるのではないかと思います。編集者が、作者の寄り道を許容してしまう編集体制だったのではないかと感じました。 物語の完結のさせ方については、予想の終了位置とは違っていましたが、まあここら辺で終了させるのもありかなと思いました。それほど悪くはない終わり方です。惜しむらくは、最終巻で寄り道を多くしているために、最終話の印象がぼけてしまっている点です。 あと、「これは連載マンガであるのでどうしようもないが、もったいないな」と思ったのは、ウィリアムの弟のアーサーの扱いです。第1話から再構成して書けるのならば、もっと美味しい活躍ができるキャラです。 作者もそのことに気付いているのか、最終巻でそういう位置に置こうとしていたのですが、残念ながらこのキャラに連載中のエピソードの蓄積がないために、あまり有効に機能していません。もったいないです。しかし、どうしようもない部分だと思います。 ● まとめ「物語の構成能力」についての感想だけを読むと、やたら批判しているように見えてしまうのですが、非常にレベルの高い作品で、全連載を通して楽しく読めました。(そもそも、いいマンガでなければ毎回徹夜して感想など書きません) 確実に他人にすすめられるマンガですし、語るべき要素の多いマンガでもあります 今回で最終巻ですが、全巻通じて感想を書くこと自体も楽しめました。 普段からマンガをまめに読んでいて(といっても週に20誌程度)、その感想については飲みの席などでよく語ってはいても、単行本の各巻についてその感想を文章で書くといったことはやっていなかったのでよい経験でした。 人間、見ようと思わなければ見ない点の方が多いので。 このような機会はそうはないので、非常に感謝しています。 また、最初の巻から読み直してみようと思います。 ● 「アンケートハガキ」「エマ」7巻にも、毎度お馴染みの手書きアンケートハガキがついています。 というわけで、アンケートの内容と個人的感想です。(送るのはもったいなさ過ぎて無理ですので) ○ 好きなシーンはどこですか? 「第四十五話 新大陸」の一連の心理描写。全編これだと問題ですが、物語上必要不可欠なシーンだと思うので。 ○ おススメの音楽を教えてくれると嬉しいな 基本的にラジオ人間なので、特定の音楽のファンではなかったりします。最近では、山崎まさよしの「アンジェラ」がいいです。 ○ その他作者に伝えたい事があったら何でも書くといいんじゃないかな! 次回作を期待しています。それが最高の誉め言葉だと思うので。 ● 参考リンクエマ 7巻 森 薫(amazon) エマ 6巻 森 薫(amazon) エマ 5巻 森 薫(amazon) エマ 4巻 森 薫(amazon) エマ 3巻 森 薫(amazon) エマヴィクトリアンガイド 森 薫 (著), 村上 リコ (著)(amazon) エマ 2巻 森 薫(amazon) エマ 1巻 森 薫(amazon) シャーリー 森 薫(amazon) |