● 本のお話 ●

● 2007.03.27(火)01 「エマ」8巻(森 薫) 3月26日発売

先週末に「エマ」8巻(外伝1巻)と、その「DVD付特装版」が届きました。ちょっと熱で倒れていたり、飲み会があったりしていたので、ようやく感想を書いています(汗

というわけで、以下、恒例となった「エマ」の感想文です。既刊の感想については、過去の感想をご覧下さい。

「エマ」8巻(森 薫)「エマ」8巻(DVD付特装版)(森 薫)

私の拙い記憶が確かならば、単行本の別バージョンカバーを雑誌のおまけとして積極的にやり始めたのはビームだったと思います。(間違っていたらすみません。事実の確認は自己責任でお願いします)

なので、こういった2バージョンの単行本を出すというやり方はなるほどなと思いました。

ちなみに、本の値段は通常版が620円。DVD付特装版は1400円です。この1400円という値段は620円+780円です。

DVDも見ました。内容は以下の通りです。

「まるごと1話分の新作アニメ」:第1幕(以前放送)と第2幕(2007年4月より放送)の幕間。内容は第1幕の総集編です。

「特典映像集」:映画のDVDなどでよく見られるCM集。字幕なしのオープニング、エンディング映像。

「未放送『エマ総合ラジオ』スペシャル版」:アニメショップ用の特別回。

あと、本自体の奥付も少し違います。また、特装版には「MANOR HOUSE」のDVD-BOXの宣伝が入っています。森 薫氏も寄稿しているそうです。

幕間の感想については、後で書きます。まあ、上記の内容の通り、特別版は完全にコアなファン向けの内容ですので、そういった方々がゲットするものなのだろうなと思いました。

ちなみに、通常版も特装版もアンケートハガキは入っていませんでした。


● マンガの感想

さて、恒例のマンガについての感想です。

まず最初に、この巻に収録されている各話を掲載します。

  • 第一話 夢の水晶宮(前編)
  • 第二話 夢の水晶宮(後編)
  • 第三話 ブライトンの海(前編)
  • 第四話 ブライトンの海(後編)
  • 第五話 The Times
  • 第六話 家族と
  • あとがき

今回は外伝ということもあり、短編および前後編ばかりです。

個人的に、外伝としてよかったのは「夢の水晶宮」で、実験的な意味で面白かったのは「The Times」でした。他2編は、この2編ほどではないなと思いました。

というわけで、各話について感想を書いていきたいと思います。


● 夢の水晶宮(前後編)

エマの最初の主人のケリーが若くて、まだ彼女の旦那が生きている頃、二人で万博の水晶宮に行ったお話。

前編はお金を貯めて、後半は実際に行く話になっています。

二人の性格の対比と、ケリーの初心さがよかったです。また、万博楽しそうだなと思いました。

個人的には、過去から現在への切り替わりの瞬間がよかったです。

また、、最後の1ページがよかったです。最後の1ページの落ちの付け方は、マンガやアニメといったビジュアルのメディアでしかできないやり方ですので。


● ブライトンの海(前後編)

本編では、完全にエマの当て馬として使われていたエレノアが、ウィリアムと別れた後に、次の春が来る(かもしれない)という話。

まあこれは、作者のキャラに対する贖罪だなと思いました。好きなキャラなんだけど、不幸にしてごめん、という。


● The Times

新聞にまつわるあれこれのショートドラマを、短く繋ぎ合わせた話。

物語フォーマットには則っていないけど、実験的で面白かったです。

しかしまあ、最初の数ページを見て、これは描くの大変そうだと思いました。途中で肩凝りになりそうです。

新聞の紙面の文字を切れ切れの横線で表わしているのですが、コマ内、新聞だらけですので。

作者入魂の1作だと思いました。


● 家族と

失踪後のエマが一緒に働いていたターシャが里帰りする話。

話の内容も、短編の位置付け的にも、息抜き的要素が強いです。


● マンガまとめ

さて、この巻全体を読んだ印象を書きたいと思います。

非常に丁寧で、楽しめたのですが、その中でいくつか個人的に思ったことを書き留めておきたいと思います。

○ コマの使い方1

まず1つ目は、この作者は職人的なマンガの描き方をするなということです。

今までの感想で、現代のマンガ家では珍しいほど四角いコマを多用することは既に書いていますが、そのコマの使い方が非常にシステマティックです。

例えば、時間の経過を表わす方法としてのコマ間の隙間の開け方がほぼ一定です。ここまで明確に同じ方法で示す人も少ないです。

また、例えば、「ズーム繰り返しコマ」の使用があります。絵の一部を拡大、もしくは縮小することで、間を作ったり、時間や場所を説明したりする。この手法がマンガ中に多用されています。

さらに、「時間分割スローモーションコマ」も多いです。時間の流れをゆっくりにするために、動きや表情を複数コマにわたって書く。この手法もマンガ中に結構多く出てきます。この「ズーム繰り返しコマ」と「時間分割スローモーションコマ」は、後述するコマ密度とも関わる手法になっています。

3例を挙げましたが、割りとシステマティックに同じ手法が使いまわされているケースが多いです。

▼時間経過のコマの隙間







▼ズーム繰り返しコマ







▼時間分割スローモーションコマ

○ コマの使い方2

今回読んでいて思ったのが、コマの解放が極端に少ないことです。

たぶん、短編で、短いページ数に多くの内容を詰め込もうとしているところに原因があるのではないかと思うのですが、単行本として一気に全ての話を読むと、解放の部分がほとんどなくて、少し重かったです。

「コマの解放」と書きましたが、これは、演出上、圧縮していた読者の気持ちを、一気にふわっと抜くために、わざと遊びを持たせた大ゴマを使うことです。

森薫は、1ページのコマ数が割りと多いです。この原因になっている点はいくつかあるのですが、先述した「ズーム繰り返しコマ」や「時間分割スローモーションコマ」の多用が、この傾向に拍車を掛けているのは事実です。

また、コマの書き込みが均等に多いために、解放の目的のコマが、余り解放の役に立っていないことも少なくありません。

また、解放コマが思い切って大きく取っていないので(短編なので詰め込みたいということもあるのでしょうが)、これも、解放のコマの機能を阻害している要因になっています。

結果、コマ密度が高い、コマの解放が極端に少ないマンガになっています。

まあ、コマの解放の密度や強度は、読み手の好みですので、読者によっては全く感じないかもしれません。

この「解放が少ない」という部分が、唯一「きちんと解放されている」と感じたのは、「夢の水晶宮」の後編で、過去から現在に戻る、ページが変わった直後のシーンです(66P1コマ目)。

背景が全くなく、手だけのコマです。

このページですが、後で、コマ構成だけを確認するために見直してみましたが、解放のコマとしてはかなり小さな部類です。なので、相対的に解放として機能していると見るべきかもしれません。

書きたいことも多いみたいですし、短編ということもあるので、この密度になるのかなと思いました。まあ、ファンはきちんと付いてきているようですし、今のところは問題ないのでしょう。

個人的に気になるのは、新連載を1から起こす時に、このコマ構成がどうなるのかです。

いろいろ書きましたが、別に不満があったわけではなく、マンガは普通に楽しみました。面白かったです。


● アニメ「幕間」の感想

さて、DVD付特装版に付いていたアニメ「幕間」(前作の総集編)の感想を書きたいと思います。

その前に、少しだけアニメのエマについて書こうと思います。

○ アニメ第1話の感想

エマのアニメですが、表には特に書いていませんが、前作は1話だけ見ています。普段、全くエアチェックをしない人間なのですが、その時期のアニメを1話ずつまとめたDVDを先輩が見せてくれたので観賞する機会がありました。

その時の感想は以下のようなものでした。

・ぴえろだし、絵はやっぱりきれいだよな。

・エマの人の声のボリュームが大き過ぎるよな。

・動きがないな。

少し解説をしておかなければなりません。まず、声のボリュームの話です。

エマという主人公キャラは、その性格上、大きくはっきりとはしゃべりません。そのため、声優はそういった演技をします。しかし、アニメの主人公である以上、その声の情報は重要で、ボリュームを上げざるをえません。結果、小さい声が大きく聞こえるので非常に違和感を感じます。

私はこの声の問題が非常に気になり、1話目を見たとき、そのことにかなり気を取られました。

次に、動きの問題です。

私は、アニメーションは動いてなんぼだと思っています。

しかし、エマのアニメの第1話に、動きはほとんどありませんでした。これは、エマという主人公が、積極的に動く登場人物ではなかったからです。

そこで、この作品は絵はきれいだけど、アニメとしてはどうなのかなと思いました。

他のメディアの作品をアニメ化する場合には、いくつかのパターンがあります。

1.アニメでしかできない方法で表現することで、アニメで表現する意味のある作品を作る。

2.アニメという入りやすいメディアを使い、他のメディアの販促ツールとする(もしくは相乗効果を狙う)。

3.アニメという別メディアを使い、元の作品の作品世界を広げる。

4.ファンサービスという意味で、アニメでも見られるようにする。

エマ1話目を見た時の印象は、1ではないよなでした。

マンガをアニメにする場合、マンガで表現できず、アニメで最も表現できるのは動きです。ここに面白さが付加されていない場合は、1にはなりません。

動かないなら、アニメというメディアを使う理由がほとんどありませんので。

このことは、私の周りのアニメを見る人には当時、会うごとに意見を言って、相手の感想をヒアリングしていました。割りと似たような印象を持っている人が多かったことを記憶しています。

ただ、放送当時は書くのはよしておこうと思い、いつの間にか時間が経ち、今書くことになりました。

○ 幕間の感想

幕間は、第1幕の総集編のようなものでした。

それを見て思ったのは、声については第1話を見た時の感想のままだなです。

ただ、動きについては少し印象を改めました。後半になればなるほど、動きは増えているなと。

そこで、原作のマンガのことを考えて、そういえばマンガの初期の頃は、動きを取り入れた話を書くほどには作者の作劇力や作画力がなかったなと思い直しました。

中盤以降は、動きを意識したコマ割りや話の展開がぐっと増えますので。

アニメも原作に縛られるので、序盤はアニメとして作りにくい物だったのではないかと思いました。

第2幕は、エマがロンドンを去って以降の話になるので、動きという点ではかなり増えます。アニメという点では、問題なさそうだなと思いました。


● まとめ

マンガは、若い頃のケリーがよかったです。いつもはツンツンしているのに、初心なところとか。

あと、旦那の台詞で「ケリーはスタイルがよい」と出ているのですが、それが絵として描かれていないのだけが悔しかったです。


● 参考リンク

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