映画「大日本人」のDVDを五月上旬に見ました。
2007年の邦画で、監督・脚本・主演は松本人志。
感想は「最後の十六分で全てがぶち壊し」「これは駄目だろう」です。
ネットで前評判を聞いていましたが、確かにこれは映画好きの人は怒るだろうと思います。
「テレビのバラエティでやるならともかく、映画館まで足を運ばせて二時間も掛けてやることじゃない」というのが素直な感想です。
なまじ、最後の十六分以外の出来がそれなりによかっただけに残念です。最後がなければ、それなりに評価の高い映画になりそうだったのですが。
以下、なぜそういった感想になったのか理由を書きます。その後に、ネタバレ入りの詳細を書きます。
さて、上記の感想の理由です。
映画は、無料で流されるテレビと違い、時間的にも金額的にもコストの高い娯楽です。そこでは当然、そのコストに見合う質と内容が要求されます。
「大日本人」でやるようなネタは(後で詳述)、無料で流されるテレビ番組内の、二十分程度の一コーナーでやるべきネタです。
それを、要求されるものが全く違う映画でやっていることが問題です。
この映画は完全に「テレビの松本人志のファン」向けの作品であり、一般の人に向けた作品ではありません。つまり、同人誌をそのまま映画館で流したような映画です。
本来、この作品は「松本人志ファンの集い」などのクローズドな場所で流すべきものです。
それを、他の商業向け映画と同列に売ろうとしていることが無茶だというのが理由です。
なので、そういった内容を「映画(一般向け商業映画)」として売っているのは、そりゃあ映画ファンは怒るなと思います。実際、私も「これはなしだ」と思いましたし。
またそういった制作姿勢から「俺だから許される」という松本人志の傲慢さも感じられ、それがさらに反感を買う理由になっていると思います。
「あんたは映画に関しては、ただの素人の新人だろう。何様のつもりだ」と。そんな風に、映画関係者は怒ると思います。
映画に対するリスペクトが感じられず、「お前ら、松本人志がこういうの作ったら笑うんちゃうの?」という姿勢が見え隠れしますので。
そこらへんが、この映画の問題点だと思っています。
映画の出来うんぬんの前に、制作姿勢に不快感を持ってしまうので。
それでは、ネタバレを交えた感想に入ります。
まずは、粗筋を途中まで書きます。その後、ネタバレありの、終盤の内容について書きます。
以下、粗筋です。
現代日本。そこには「大日本人」と呼ばれる伝統的職業の人間がいた。
大日本人は巨大化して怪獣と戦う職業で、普段は普通の人として暮らし、怪獣が出てくると自衛隊の要請で巨大化して戦闘を行うことで生計を立てている。
昔は羽振りがよく、人数も多く、テレビでの視聴率も高く大人気だったこの職業だが、現在では一人だけになり、テレビでの放送も深夜帯になっていた。
その“最後の大日本人”である大佐藤のドキュメンタリーとして、カメラは彼の日常と活躍を追う。
大佐藤は、近隣住民から嫌われていた。既に斜陽産業となり、不要論の高まっている大日本人は、怪獣との戦いで町を破壊する悪人と見なされていた。
彼は目立たないようにして生きながら、家への投石や落書き、罵倒から必死に耐えて生きていた。
そもそも怪獣の数が少なくなっており、自衛隊の戦力が向上してきたことで、大日本人の必要性は薄れてきていた。彼自身も、自分が最後の大日本人になる可能性をひしひしと感じていた。
そのドキュメンタリーの撮影の中、怪獣が現れ、大佐藤は出動する。そして自衛隊の基地に行き、電気を浴びて巨大化する。彼は町に出撃して怪獣を撃退する。
そんな大佐藤には、老人ホームに入っている祖父がいた。
四代目大日本人だった彼を、大佐藤は慕っていた。五代目であった父親に厳しくされていた彼は、祖父によく助けられていたからだ。その五代目は、電気の流しすぎで死んでしまった。
ドキュメンタリーの撮影開始以降、次々と怪獣が町に現れる。そしてその都度大佐藤は出撃して撃退する。
だが彼は、未確認の怪物に敗北してしまう。そしてそのことで大日本人に対する世間の関心が一気に高まる。瞬間視聴率が跳ね上がり、雑誌は彼のことを取り上げ出す。
大佐藤は、世間の批判の矢面に立たされることになった。
そして、大佐藤を敗北させた怪獣が再び現れた時、逃げようとする彼の目の前に、変身した老人の四代目が現れた……。
最後の十六分以前は、それなりによく出来ています。
ウルトラマン的存在を、プロレスや伝統芸能的に扱い、ディティール積み重ねていくことでリアリティを積み重ねていきます。
この手法はかなりよく出来ており、実際に“巨大怪物物”として一定以上のクオリティを保っています。
下手な邦画の特撮よりクオリティが高いのではないかと思わされます。
そして大佐藤の微妙な立ち位置もよいです。強い力を持っていながらも社会的には弱者である存在。
また、ドキュメンタリーを撮っているスタッフとのやり取りも上手いです。スタッフは、基本的に大日本人否定派で、ゆとり世代的な受け答えで大佐藤をいらいらさせていきます。
しかし大佐藤は、自分の存在と大日本人の存在を守るために、できるだけ愛想よくしなければならず、必死に堪えます。
ここらへんは、終盤にいつ爆発するんだろうと思わせる爆弾要素になり、緊張感を醸し出しています。
映画が、こういった前提の上に、何らかのきれいな解決をしていれば、たぶん評価の高い映画になっていたでしょう。
しかし、実際はそうなっていませんでした。
では、どうなっていたかというと、最後の十六分で、いきなり「うそっぴょーん」と、これまで一時間半以上積み重ねていたものを全てなかったことにします。
「ここからは実写でお送りします」
といきなりテロップが出て、着ぐるみが出てきて(それも、これまでのストーリーと無関係のキャラ)、適当に戦って終わります。
夢オチよりもひどい展開です。
テレビのバラエティ番組内の二十分ぐらいのコーナーならこれでもいいのでしょうが、二時間掛けて見せる映画でやることではないです。
この人、映画業界に来なくていいのにと本気で思いました。
これはひどい。
というわけで、身も蓋もないひどいオチの映画なので、作ったスタッフは報われないなと思いました。CG頑張っていたのに。
また、松本人志という人間は、テレビのバラエティの中だけで仕事をしていた方がいい人間だなとも思いました。
自分の知名度に寄っかかって仕事をする人は、物の作り手として問題があります。少なくとも、その知名度で別ジャンルで簡単に仕事ができるとは思わないで欲しいです。
まだ今年は半分経っていませんが、たぶん今年のワースト三に入る映画だなというのが正直な感想でした。