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2008年09月30日 19:29:13
サウンド・オブ・ミュージック
 映画「サウンド・オブ・ミュージック」のDVDを八月上旬に見ました。

 1965年の作品で、監督はロバート・ワイズ、脚本はアーネスト・リーマン。

 このコンビは、「ウエスト・サイド物語」(1960)も撮っていますね。あと、アーネスト・リーマンは、「王様と私」(1956)も書いています。



 映画ですが、さすが傑作と呼ばれているだけあるという感じでした。

 非常によくできていて面白かったです。

 ミュージカル映画なのですが、ミュージカルである意味がきちんとある映画でした。

 主人公は、心を閉ざしたトラップ一家の子供たちと父親を、音楽の力で変えます。

 そのための歌と踊りなので、逆に「ミュージカルでなければならない」とも言えます。

 174分という長い映画なのですが、飽きずに一気に見られました。

 とても楽しめました。



 さて、脚本です。

「サウンド・オブ・ミュージック」「ウエスト・サイド物語」「王様と私」は、どれもミュージカル映画でしたが、非常に楽しめた作品です。そして、脚本家が共通です。

 なので、そこから何か学ぶべきところがあるのではないかと考えるのは当然です。

 そこで自分なりに考えてみました。「よいミュージカル映画に共通するもの」ではなく、「この三作に共通するもの」です。

 とは言っても、個人的な印象では「サウンド・オブ・ミュージック」と「王様と私」は設定が似ていますが、「ウエスト・サイド物語」は大きく違います。

 前者二つは、心を閉じている人のところに、音楽が好きな人がやって来て、心を開かせるというものです。

 歌と物語が密接に絡んでいて、音楽を通して心の交流が描かれていきます。

 対して後者は、音楽は演出に徹していて、演技をミュージカルで行うといったものでした。

 たぶん、この二種では作劇方法が違うのではないかと思います。

 その上で、この三作に共通しているところは、ミュージカルだからといって、楽しさを前面に押し出していないところだと感じました。

 楽しいシーンも描きつつ、その背後に死や戦争や闘争といった暗部も描いています。

 歌と踊りの「楽しい娯楽」ではなく、世間と地続きの「現実」を感じさせる何かがあります。

 これは、その背景設定に原因があると思います。

「サウンド・オブ・ミュージック」では、第二次大戦によるドイツの魔手が背後で徐々に進行します。

「ウエスト・サイド物語」では、移民たちの出身地による反目が背後にあります。

「王様と私」では植民地問題が根底にあります。

 そういった「現実で起こっている重い問題」をベースに置くことで、現実社会との地続き感を出し、その情勢で人がどう動くかという普遍性を出しているのではないかと感じました。

 そこらへんが、単に「歌って踊って」というミュージカルとは一線を画している原因の一つではないかと考えました。



「サウンド・オブ・ミュージック」に話を戻します。

 この映画を見ていて少し驚いたのは、意外に歌の数が少ないことです。

 というよりも、同じ歌を何度も使っています。

 174分もあれば、より多くの曲を使いたくなるのが人情だと思うのですが、異なるシーンで、全く同じ歌が使われるケースが多いです。

 これは、純粋なミュージカル映画としては物足りないだろうなと感じました。

 しかし、話自体はとてもよかったです。



 次は物語についてです。

 物語の構成上、上手くできているなと感じたのは、子供たちの父親の婚約者の存在です。主人公の家庭教師の恋のライバルに当たる人です。

 この婚約者自体は悪い人ではありません。しかし、彼女がいるおかげで、主人公は自分が恋をしていることに気付き、子供たちの父親は自分の本当の気持ちを考えます。

 彼女は物語の触媒作用として上手く働いています。

 そして、よくできているなと思ったのは、彼女が敵対的行為でその役を果たすのではなく、観察者的立場でその役を果たしていることです。

 二人の気持ちを見抜き、互いがそのことに気付いていないことも発見します。

 その彼女の言動や行動によって、観客は二人の恋の行方を視覚だけでなく、言語でも受け取ることができます。

 ミュージカル映画は、基本的に幅広い大衆向けなので、分かりやすい話でなければなりません。微妙なニュアンスを表現するような文学的な表現は向いていないと私は思っています。

 なぜならば、恋をした時は恋の歌を歌い、悩んでいる時は悩みの歌を歌うのがミュージカルですから。

 だから、理解の閾値を下げる彼女の言動や行動は、ターゲットに対して噛み砕いて話を伝えるのに役立っているなと感じました。



 また、これは少し違うのですが、同じような分かりやすさを前面に押し出した脚本上の工夫が他にもあります。

 それは、トラップ一家の長女の恋の相手です。

 最初は仲がよかった二人ですが、舞台であるオーストリアがドイツに併合された後、恋人はナチスに傾倒します。

 単に「ナチスがやって来た」ではなく、そのナチスに迎合していく「オーストリア国民」を、その恋人という「個人」に代表させることで、社会情勢の変化を個人レベルで受け入れやすい形で表現しています。

 これは、映画の作劇で、抽象的な敵を出す際は、その組織を代表する個人を出すという手法と同じです。

 政治情勢の変化を、身近な人物の変化という形で表現するのは、定番ですが有効な手法だなと改めて思いました。



 以下、粗筋です。(ネタバレあり。最後の直前まで書いています。有名で古い映画なので、見たことのある人が多いと思うので、気にせず書きます)

 オーストリア。その修道院にいる主人公は歌と自然を愛し、修道院の掟をすぐに破ってしまう少し変わった女性だった。

 彼女は院長に呼ばれて家庭教師に行くように告げられる。

 行った先は、トラップ家という貴族の家だった。その当主は英雄として有名な元軍人で、七人の子供たちに厳格なしつけをしていた。

 主人公は、元軍人がそういった行動を取る背景には、最愛の妻の死が関係していると知る。

 彼女は、元軍人が留守にしている間に、子供たちを大いに遊ばせ、得意な歌も教える。

 元軍人は婚約者とともに屋敷に戻ってくる。彼は、子供たちを自由に遊ばせていた主人公を叱る。しかし、子供たちが婚約者を歌で出迎える様子を見て、心を翻す。

 彼はかつて歌が好きだった。そして屋敷は歌で溢れていた。元軍人は、主人公に子供たちの家庭教師を続けるようにと言う。

 歌と明るさを取り戻した元軍人は久しぶりに舞踏会を開く。そこで婚約者は、元軍人と家庭教師が引かれ合っていることに気付く。

 彼女は家庭教師にそのことを告げ、身を引くように勧める。主人公は自分の恋心に気付き、修道院に身を隠す。

 子供たちが迎えに行くが主人公は会おうとしない。彼女は院長に相談し、屋敷に戻ってくる。だが、そこで元軍人と婚約者が結婚することを知らされる。

 婚約者は子供と打ち解けようとする。しかし、子供との心の距離は縮まらず、元軍人の心も自分に向いていないことを知る。

 彼女は身を引き、元軍人と主人公は結婚する。

 その頃、オーストリアには暗雲が垂れ込み始めていた。オーストリアはドイツに併合され、元軍人は英雄としての名声から、ドイツ軍に徴用される。

 しかしオーストリアを愛する元軍人はそのことに反発する。彼は音楽祭の日、夜陰に乗じて、家族ごと出国しようとする。

 だが、彼は見張られていた。出国は頓挫し、音楽祭に出場することとなる。

 その場所で人々の心を打つ歌を歌った一家は優勝する。しかし、その表彰の場に彼らは現れなかった。彼らは国境を目指して、会場を抜け出していた……。



 この映画を見たのは、実は人生で二回目です。

 一回目は、高校時代、社会の授業で見ました。

 その頃の社会の先生が、授業の一環として、視聴覚室でいろいろな映画を流してくれていましたので(その頃見て、一番記憶に残っているのは「十二人の怒れる男」です)。

 でも、「サウンド・オブ・ミュージック」は、全くと言うほど記憶に残っていませんでした。そのため、新鮮に見ることができました。

 こんな傑作映画なのに、なぜ覚えていなかったのか不思議です。

 まあ、見る時の環境とか、その時の感受性や受容力なども関係しているのでしょう。

 我ながら、もったいないなあと思いました。
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