2005年06月21日 00:38:53
昨日、電車の中で読了。
読んだ感想は、「これまでネットで見ていた松浦晋也氏の記事の総まとめ」でした。色々とばらばらに書かれていた断片を、きちんと統一の流れの中で書き直した。そんな印象を受けました。
タイトルは「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」となっていますが、「国産」ロケットに限らず、世界のロケット情勢を概観できる本になっていました。
この本を読んで痛切に感じたのは、日本は上に行くほど「理系の物の考え方ができない人だらけになる」ということ。それと「やっぱり予算が全然足りていないよね」と、「日本の政治家と官僚機構のやばさ」です。日本、やばいです。
本書でも書かれていましたが、中国がロケットを急速に成功させたのは、「中国のトップ陣が理系出身者が多いから」ということ。これは、以前外交官の方と飲んだ時にも、外交官の方が声高に主張されていました。物事を論理的に考えられるのは、理系出身だからだろうと。
さて、前回読んだ「スペースシャトルの落日(2005年)」と、今回読んだ「国産ロケットはなぜ墜ちるのか(2004年)」の比較ですが、「スペースシャトル〜」が「1つのトピック」から入る、敷居を低くした入門者向けの本、「国産ロケット〜」が「全体を見渡す」、少し上級者向けの入門本という印象でした。
それは文章にも反映されています。「スペースシャトル〜」は、相手が分からないことを前提に、懇切丁寧に解説している。「国産ロケット〜」は、ある程度理解できることを前提に書いている。読み進めるスピードも、前者は速くて、後者は普通でした。
2つの本を読む順番ですが、ロケットの話をあまり聞いたことがない場合は、「スペースシャトルの落日」から読む方がいいだろうと思いました。なぜなら、「アメリカの宇宙開発の歴史」という太い年表上の骨格が、この本で理解できるからです。これが分かっていると、「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」の時代背景もすんなり入ってくると思います。
あと、「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」を読んで関心したのは、ロケットのことを窓口として、社会や政治などに著者が切り込もうとしていること。単なる技術解説書や、歴史書になってはおらず、著者の視線には「その先がある」と感じさせる内容になっていました。
もし、前回・今回の2冊の本のうち、「どちらを“自分の仕事”として他人に紹介するか?」と問われれば、「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」だろうなと思いました。著者の「単なるロケット野郎ではない」という自己主張が意欲的に感じられましたので。
最後に、1つ思ったこと。
「出典JAXA」の図表が、どれも非常に分かり難い図表でした。これは、どういう意図なのかなとだいぶ迷いました。
1つの考え方としては、一次資料をできるだけ提示しようという著者の考え方の反映。もう1つは、既にある図表を再度分かりやすく書きおこすという予算がなかった可能性。さらにもう1つは、著者と編集サイドに、JAXAの図表が分かり難いという意識がなかったというケース。
本の前半にそういう「分かり難い」JAXAの図表が多かったのですが、後半に著者がやたらと一次情報の入手先を掲げていることから判断して、一次資料を提示したかったのかなと思いました。
個人的要望ですが、これらの図表は、本の後半の文章での要約引用と同じように、入手先を明らかにしつつ、分かりやすい図表にして欲しかったと思いました。
そういう前後での引用の仕方の違いを見ていると、前半と後半で、若干書いている時期が違うか、意識の変化があったのかなと感じました。ただ、実際どうなのかまでは分かりません。
「スペースシャトルの落日」が「アメリカのスペースシャトルの歴史」という「線」の本なら、「国産ロケットはなぜ墜ちるのか」は、様々な分野に踏みこんだ「網」の本でした。なかなかおもしろかったです。