2005年11月16日 17:56:29
映画「椿三十郎」のDVDを10月中旬に見ました。
黒澤明の映画ですね。「七人の侍」のような重厚な感じのお話ではなく、軽妙な感じの時代劇です。面白かったです。
物語は以下の感じ。
藩内の不正を調べていた9人の若侍。彼らは城代家老にそのことを相談に行くがあしらわれる。次に大目付のところに行くと「仲間を集めておけ、そこに私も行こう」と言われ、神社に集まることにした。
神社で大目付を待っている若者たち。彼らの話を、たまたま居あわせた中年浪人が聞いていた。彼は、「傍目八目というが、俺は城代家老の方が正義で、大目付の方が悪だと思うぜ」と話に加わる。
男の考えを否定する若侍たち。だが神社を取り囲む侍たちの姿を発見し、中年浪人の推理が正しかったことを知る。
絶対絶命の彼らは、中年浪人の機転で命を助けられる。同じ頃、若侍たちと話を交わしたせいで、城代家老が大目付に捕まっていた。大目付は城代家老に罪を全てなすりつけて殺すつもりだ。
若侍たちは、城代家老を救い出して一発逆転を狙おうとする。その彼らを見ながら中年浪人は考える。「若侍たちは、どうもこの手の仕事をするには素直過ぎる」
「ええい、お前ら危なっかしくて見ていられねえぜ!」浪人はそう言い、10番目の志士として若侍たちに加わり、八面六臂の活躍を始める。
この映画を見ていて考えさせられたのは「遠伏線」と「近伏線」。こんな用語があるかどうかは知りませんが、敢えて言うならこうかなと。
「普通の伏線」を遠伏線と仮に呼び、「情報が提示されてすぐに答えが出されるような演出」を仮に近伏線と呼ぶことにします。
本作を見て思ったのは、この近伏線がともかく気持ちいいこと。椿三十郎の頭の回転の早さを表現するためにとことん使われているのですが、映画中出てくる情報のほとんどがこの近伏線。即興の掛け合いのような楽しさを演出してくれます。
そして、物語の結論にいたる部分にドカッと遠伏線を使っています。柱を遠伏線で作り、枝葉を近伏線で作る。そして最後に遠伏線で「ウムッ」と観客に言わせてしまう。
この使い分けが非常に分かりやすく、よくできているなと思いました。
物語の結論としては「本当にいい刀は鞘に入っている」と、「規定の枠内に入らない能力を持っている人間には安住の土地などない」というところですか。
あと、どうしても気になったのが「なぜ若侍が9人なのか」。たぶん理由があるはずなのですが、分かりませんでした。悔しい。
作劇上の理由なら、私に何か重大な見落としがあるはずです。その他の映画外の理由なら、私のインプットが足りていないということです。
うーん、椿三十郎のような頭の回転のよさがあればすぐ気付くのでしょうが。
「1ケタの大人数で、7じゃない奇数」(7だと七人の侍に被ってしまう)ということで「9」かと思ったのですが、もっと明確な理由がありそうな気がします。
10人で1部隊と考えて、指揮官に椿三十郎が加わるから9人なのかもしれません。正確な理由はわかりませんが。
そのうち、黒澤明関係の本を読まないといけないかもしれませんね。
しかしまあ、椿三十郎というのは、能力は高くても生き方が不器用な人だなと思いました。
非常に面白くて、温かい映画でした。