2006年03月05日 04:17:05
映画「アラビアのロレンス 完全版」のDVDを2月の初旬に二日かけてみました。
222分と滅茶苦茶な長さで、見るのに躊躇していたこの作品ですが、パート1(139分)、パート2(83分)という構成になっており、間にインターミッションもちゃんとあり、完全な前後編物でした。
なるほど、こういう作りだったのか。
しかし、映画館でまとめて一気に流されていた当時は、映画館からのパッシングが凄まじかったようです。「一日に二回しか客を入れられないのはどういうことか」と。
おかげで、20分削って、さらにテレビ用で15分削ったとインタビューで言っていました。
そして、「テレビ用の短いバージョン(合計35分削ったもの)は映画館では流すな」と監督が言っていたのにも関わらず、勝手にその短いバージョンが映画館用にされてしまったそうです。
完全版を作るに当たって、最初の頃のフィルムが残っておらず、いろいろとかき集めることになったという話もありました。
しかし、音声がない部分もあり、四半世紀ぶりに主役の俳優にアフレコを行なってもらったそうです。
そのときの俳優の台詞なのですが、「四半世紀の時間を経て、ようやく満足の行く演技ができた」というのがあり、ちょっと胸に響きました。
あと、映像特典として、「スピルバーグが語るアラビアのロレンス」というインタビューが付いていて、「なぜスピルバーグ?」と思ったのですが、インタビューを聞いて納得。
完全版の製作では、スピルバーグがいろいろと動いたそうです。そして「アラビアのロレンス」の熱烈なファンでもあるということでした。
「アラビアのロレンス」について語るスピルバーグの目は、物凄くきらきらと輝いていました。
さて、映画の出来ですが非常によかったです。面白かった。特に前半部分の出来は出色で、見終わったあと、「まるでスターウォーズを初めて見たときのような満足感だ」と思いました。
物語もさることながら、ともかく映像が凄い。
砂漠の映像が圧倒的に素晴らしい。
これだけでも見る価値のある映画です。
スピルバーグがインタビューで「この映画をもしリメイクするようなことがあっても、今ならCGで作ることになるだろう。しかし、それはこの映画に対する冒涜だ。製作者は、観客はCGと実写の違いは分からないと考えている。しかし、観客はその違いを分かっている」と言っていました。(監督ではなく、製作者と言っている部分がポイント)
この映画の映像を見ると、「まさにその通りだ」と思いました。
非常に興奮する映像でした。
音楽もよく、映像の素晴らしさを倍化させていました。
この映画は脚本もよくできています。
「アラビアのロレンス」に出て来る人数は物凄く多いです。しかし、主役と脇役の役目をはっきりと決め、一つのシーンで主要登場人物を出し過ぎないようにしているので、物凄く分かりやすくなっています。
顔が分からなくても、きちんと物語の筋が分かるようにできています。
これは、人物のキャラ立ちにもよく現れています。
主要人物たちがともかく立っている。
学者肌の優男のロレンス。高潔で鉄の意志を持つアリ。金と暴力に生き、自分の欲望に忠実なアウダ。物腰穏やかだが、実はしたたかな王子。そしてイギリスの将軍やその取り巻き。
俳優たちの演技も素晴らしいです。そのキャラクター像を見事に演じています。
出て来る人物のイメージが非常に鮮明で、数も絞り込まれているおかげでドラマに集中できます。
よい脚本だと思いました。
ただし、前半は文句なく楽しめましたが、後半は前半ほど楽しめませんでした。
それは、前半で絶頂期に上り詰めたロレンスが、後半では自分の虚像と実像の剥離に悩み、精神に変調を来していくというお話だからです。
どうしても、その分観客の興奮は冷めます。
前半が直木賞作品だとすれば、後半は芥川賞作品。できはよいのですが、どうしても好みから言えば、前半の圧倒的楽しさにはひけをとってしまいます。
しかし、全体として見たときにきっちりとテーマは貫かれており、名作の名に恥じない素晴らしい映画になっていました。
あと、どうでもいいことですが、前半の最後でロレンスは中尉から少佐に昇進しました。
二階級特進?
凄いなと思いました。
以下、前編の粗筋です。(ネタバレあり)
アラブで活躍した高名なロレンスがバイク事故で死んだ。葬式ではロレンスとは何者だったのかが話題になる。
だが誰も本当のロレンスがどういう人物だったのか答えられない。
カイロ駐在のイギリス人将校T・E・ロレンスは変わり者として有名だった。
その彼に特命が与えられる。アラブ情勢の調査だ。彼は単身アラブに向かう。
案内人とともに砂漠を渡るロレンス。しかし、ある井戸で案内人が殺された。殺したのはアリという名の、ある部族の長だ。
「敵対部族の者が勝手に井戸の水を飲むのは許されない」彼はそう言い、その場を去った。ロレンスは、アラブの内部が部族によって対立していることを知る。
ロレンスはアラブの王子たちの部隊がいる場所にたどりつく。しかしその場所は敵軍に襲われ、近代兵器の前にアラブ軍は一方的に打撃を受ける。
戦いは終わり一行は戦場から移動を始める。その場所には王子だけでなく、砂漠で出会ったアリという男もいた。
アラブの王子はこの状況を打破するには、イギリスに頼るか奇跡が起きるしかないと言う。
砂漠に、そしてアラブに魅せられたロレンスは奇跡を起こす方法を考える。
そして、誰も渡ったことのない砂漠を渡り、トルコ軍の基地を後背から奇襲する作戦を考えつく。
アリは反対する。しかし、ロレンスは王子に兵を借り、作戦を決行する。その作戦に、アリも付いて来る。
彼らは無事砂漠を渡る。そしてその地でアウダという、トルコ軍に金で雇われていた部族の長を味方につける。彼らは敵基地を奇襲する。
襲撃は成功し、ロレンスは奇跡を起こし、英雄となる。
彼はカイロに戻り、そのことを将軍に報告する。そしてこの役の任を解いてくれるようにと頼む。
理由を尋ねる将軍にロレンスは「私は人を殺すのを楽しんでしまいました」とその心情を語る。
しかし、ロレンスの願いは聞き入れられない。彼は昇進を果たし、アラブへの援助も許可される。
以下、後編の粗筋です。
アラブに戻ったロレンスは、敵の線路を破壊し、列車を強奪して戦果を挙げる。
しかし、冬とともにアウダたちは引き返し、アリたち少数の兵だけが残る状態となる。
アラブの生まれではないのに、アラブのために働こうと考えるロレンスは、自分が英雄でなければ受け入れてもらえないと考える。
そして、自分が奇跡を起こせる人間なのではないかと思い、現実と願望の境界が曖昧になっていく。
彼は、自らが英雄であることを証明しようとして敵の手に落ちる。そして陵辱を受けることで、自分は英雄などではなく、ただの人間なのだと気付く。
ロレンスはアリたちの希望を退け、失意のうちにイギリス軍に帰る。
しかし、イギリス軍では、ロレンス個人は必要とされておらず、「アラビアのロレンス」が求められていた。
彼は、多数の資金と武器とともにアラブに戻る。
そして、アラブの軍を率いて首都を得るための最後の戦いに向かう。
その途上、村を虐殺したトルコ軍を見て、ロレンスは逆上する。そしてトルコ軍を皆殺しにする指示を出す。
自らもその手を血に染めたロレンスは、自分が単なる虐殺者になってしまったことを知る。
首都はロレンスたちの手によって占領され、アラブの国家はできたかのように見えた。
しかし、部族間の対立はおさまらず、ロレンスの夢見ていたようなアラブ統一には至らない。
用済みになったロレンスは、その任を解かれてイギリスに帰ることになる。失意と後悔にさいなまれるロレンスは、暗い表情のままイギリスに向かう。
長い映画ですが、完全に映画二本分と思って見れば非常に楽しめます。実際に、映画の作り自体も二本分でした。
もしこの映画が最近公開されたなら、前編と後編に分かれて公開されるなと思いました。
惜しむらくは、大画面で見られなかったことです。家のテレビで見る映画ではないです。映画館で見る映画です。
映画館で見たかったなと思いました。