映画「裸のランチ」のDVDを六月下旬に見ました。
ゴキブリ用殺虫剤を麻薬代わりに摂取してラリって、肛門で喋る虫が見えるお話です。終わり。
いや、さすがにそれでは見ていない人には何のことか分からないと思いますので、もう少し詳しく書きます。
ちなみに、映画の感想自体は面白かったです。“変な雰囲気”を味わい、“ぐるぐるした気分”を楽しむ映画でした。
以下、粗筋です。(序盤ぐらいまでを中心に書いています)
主人公は、ゴキブリ退治人。殺虫剤の入ったポンプをかついで客の家に行き、ノズルで粉薬を送り込んで虫を殺す毎日だ。
しかしある日、その薬が足りずに往生する。配給量は決まっており、足りないということはどこかで薬を抜かれたとしか考えられない。
その“薬泥棒”は彼の妻だった。彼女は旦那の目を盗み、殺虫剤を麻薬代わりに注射していた。
困り果てる主人公。そんな折、彼は麻薬所持の容疑で警察に捕まる。
「これは殺虫剤だ」と言っても信じてもらえず、取調室で「じゃあ、この虫を殺してみろ」と言われて箱を差し出される。
その箱から出て来た虫は、三十センチもあろうかという巨大虫だった。そして、その背中には人間の肛門があった。
呆然とする主人公の前で、その肛門が喋りだす。
「お前の妻は人間の女ではない。奴を殺すのだ。そして報告書を書くのだ!」
彼は虫を殺して警察署から逃亡する。そして部屋に戻ると、妻が殺虫剤でラリっており、旦那の友人たちと肌を重ね合わせていた。
「あなたも、薬を使う?」そう言う妻を無視して自室に戻る主人公。妻や友人は、彼を追って部屋に入ってきた。
「ウィリアムテルごっこをしよう」なぜか主人公はそう言い、妻はコップを頭の上に乗せる。部屋に銃声が響いた直後、妻の額には穴が空いていた。
倒れる死体。その姿を見て、主人公はようやく自分が殺人を犯したことを知る。
そして、彼は奇妙な逃亡生活を始める。
“報告書”を書くためのタイプライターを購入し、中東らしき街へと主人公はやって来る。
タイプライターは、不思議な虫に変身して、またもや“背中の肛門”で喋りだした。“タイプライター虫”は、彼に次々と指令を与える。
そして、主人公は小説家夫婦を探るために、男色家の小説家として現地で振るまい始める。彼は“虫のエージェント”として行動を続ける。
そして、彼自身の言葉が、行動が、妄想が、現実が、次第に境界線を無くし始め、渾然一体と混じりあいだす。
主人公は、次第に彼と虫の共通の“敵”へと近付いていくのだが……。
粗筋を読んでも、どういった物語かよく分からないと思いますが、映画もそんな感じです。
麻薬患者の妄想物語といった雰囲気です。しかし、巧みに謎や不思議な状況を出してくるために、のめり込むように見てしまいます。
「物語的にどう面白かったか?」と問われると何とも答え難いのですが、「映画としてどう面白かったか?」と問われると、映像自体と、その構成と答えると思います。
何が起こるか分からないドキドキ感と、負の期待感がある作品です。
総合評価としては、水準以上に面白かったです。
さて、DVDにはメイキングが付いていました。
映画監督や原作者へのインタビューです。
このなかで、“原作の紹介”および“原作者の話”が特に興味深かったです。
原作の「裸のランチ」は、イメージをふんだんに盛り込んだばらばらのページを、コラージュのように適当に並べて出版したものだそうです。
印刷所に渡すときに、適当にページを並べて、「戻って来たら校正しよう」と思っていたら、「これで大丈夫じゃないのか?」と思ったので、そのまま世に出したそうです。
うーん。アバンギャルドだ。
あと、映画中の妻を殺す話は、原作にあった話ではなく、原作を書いていた頃の原作者の実話だと。
つまり、映画「裸のランチ」は、原作の「裸のランチ」と、それを書いている“小説家自身”の話を巧みにつなげ合わせて、取捨選択して作ったというわけです。
そのような原作付き映画のシナリオ・ライティング方法もあるのかと思いました。
いろいろな意味で、興味深い作品でした。