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2006年10月13日 15:52:17
THX-1138 ディレクターズカット 特別版
 映画「THX1138」のDVDを十日前に見ました。

 あまり聞いたことのないタイトルかもしれませんが、ジョージ・ルーカスのデビュー作です。

 「アメリカン・グラフィティ」の前に撮った映画で、「アメリカン・グラフィティ」のDVDのメイキングで監督はこのように語っていました。

「マニアには受けたんだけど、配給会社のお偉方には凄い不評で、監督生命の危機に立たされた映画だったんだ」

 えー、ジョージ・ルーカス、そんな、第一作からチャレンジャーな……。

 というわけで、気になったので借りて来て観賞しました。

 内容は、ガチのSF。それも、スペース・オペラではなくて、ハードSF。手抜き一切なしのSF世界。

 ルーカスが若かった時代にそんな作品を作れば、そりゃあお偉方に絶不評だろうなと思いました。

 映画自体はそこそこの出来でした。



 しかしまあ、スピルバーグとルーカスの初期作品を見て思ったのは、スピルバーグは職人的映像作家で、ルーカスは冒険家的映像作家だということ。

 スピルバーグは、題材を職人的にきっちり作り込むことにパラノイア的な情熱を見せて、ルーカスは作品自体の題材にこだわり、果敢に新しい物を作る傾向がある。

 まったくタイプの違う作家だよなと思いました。



 以下、粗筋です。(中盤ぐらいまで書いています)

 未来。人間の管理官とロボット警官が世界を支配する超管理社会。

 その世界では、人々は性欲などの種々の欲望を抑える薬を飲み、“今ある社会”を維持するために機械的な生活を送っていた。

 そのような社会で暮らす、ロボット工場の技師THX1138は、真面目な社会構成員だった。

 だが、同室で暮らす女性が薬を飲むことを止めたために生活は一変する。彼女は性欲を回復し、THX1138を恋愛対象として見るようになる。

 彼女はTHX1138の薬をこっそりと抜き取り、そのせいでTHX1138は人間的な感情に目覚めてしまう。

 彼女はこの社会から抜け出すことを提案する。だが彼は躊躇する。そして、いつものように工場へと向かう。

 薬を絶っていたTHX1138は、そこでミスを犯した。極度の緊張を強いられる職場で、“感情”は冷静な判断を阻害する“邪魔者”以外の何物でもなかった。

 彼は薬を飲んでいないことがばれて投獄される。

 THX1138は、その牢獄で出会った仲間とともに脱出を図り、彼女を取り戻そうとするのだが……。



 映画は大きく分けて三つのパートに分かれます。

 第一パートが「日常からの脱出」。第二パートが「牢獄からの脱出」。第三パートが「社会からの脱出」

 “脱出”だらけです。

 短い映画だったので、少しオーディオ・コメンタリーを聞いたのですが、監督いわく、

「THX1138も、アメリカン・グラフィティも、スターウォーズもテーマは全部一緒なんだ。旅立ちだ。あの頃は、そのことばかりテーマにしていた」

 ということでした。



 映画中、面白かったのは、ロボット警官を組み立てているシーンです。

 服や仮面を付けていないロボットの素体は、どう見ても「スターウォーズ」の「C3PO」です。

 もしかしたら、このロボットが「C3PO」の原点なのかも知れないなと思いました。



 あと、映画のストーリーで面白かったのは、管理官(オペレーション・ルームに勤めている人間たち)が、ロボット警官にTHX1138の追跡命令を出しているシーンです。

 追跡予算が決まっていて、その予算をオーバーすると、追跡を打ち切るという設定になっています。

“予算”で追跡リミットが決まる設定は珍しいなと思いました。

 でもまあ、追われている本人は、そんなことが分かるはずもないので、必死に逃げ続けるわけですが。



「アメリカン・グラフィティ」のメイキングで、ルーカスがコッポラに可愛がられていたらしいという話が出てきましたが、この映画のクレジットにもコッポラが入っていました。

 どうやら、デビュー当時から目を掛けられていたようです。



 以下、オーディオ・コメンタリーを三十分ほど聞いたなかから、面白かった話を抜粋して書いていきます。

 まず、この映画は、「SFを作るには低予算過ぎた」せいで、セットなどは特に作らずに、あり物をそのまま使い、間に合わせたそうです。

 そのため、ちょっと変わったエピソードがいろいろとあったようです。

(元々は、日本で撮りたかったと言っていました。この映画は、「管理主義と商業主義が高度に発達した社会」が舞台。そのため、そういった社会の典型である日本を使いたかったと)

 例えば、あるシーンは「原発」のなかで撮っているそうです。「一日しか撮影許可が下りず、大変だった」と言っていました。

 また、スキンヘッドのエキストラが大量に必要だったので、シナノンという麻薬更正組織の人たちを使ったそうです。

 しかし、撮影の数年後に、そのシナノンが内部的におかしくなり、この映画のように“超管理主義”の組織に変質してしまうという事件があったそうです。

 なんだかシュールな話だなと思いました。

 あと記憶に残っているのは、映像のコンセプトの話です。

「未来の映画は、きっとこういう撮り方をするだろうということを考えて撮った。現在の映画ではなく、“映画の設定の時代”の映像の撮り方で撮影したかったんだ」

 ということです。

 いろいろとチャレンジする人だなと思いました。
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