映画「北京原人 Who are you?」のDVDを九月下旬に見ました。
ダメ映画好きの酒氏が上京してきたということで、氏のライブラリーから「北京原人」を選んだ結果です。
タイミング的に「丹波哲郎追悼記念」という意味もありました。
噂に違わぬ、ぶっとんだ“トンデモ映画”でした。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。最後まで書いています)
日本の研究所が、北京原人を復活させるプロジェクトを立ち上げる。
彼らは宇宙に北京原人のDNAを持ち込み、北京原人を復活させる。しかし、スペースデブリのせいで、宇宙船の実験棟が落下し、沖縄近くの孤島に不時着する。
研究所の職員であり、宇宙にも行った男女二人は、その島に行き、両親と子供の北京原人を発見する。
彼らは裸になり、北京原人とともに過ごし、心を通わせる。しかし、中国の魔の手が伸びてきたため、研究者たちは仲間を呼んで北京原人を回収する。
研究所では、北京原人の能力を測定する各種研究が行なわれる。
その間も、中国の陰謀の手が迫る。
研究所の所長は、北京原人を陸上競技会に出場させる。そこで北京原人たちは、中国の工作員が操る中国人の女マスコミの手により拉致される。
北京原人の父親と息子は、中国人の女マスコミと仲良くなる。
一人残された北京原人の母親は衰弱して死にそうになる。北京原人と心を通わせた男女の研究者は、その母親を盗み出し、セスナで中国へと亡命する。
中国で北京原人の親子は再会し、ロシアの研究所で再生されていたマンモスも合流し、彼らは前世の記憶にあった山に向けて歩きだす。
粗筋を読んだ方は、「おいおい、支離滅裂なことを書くなよ」と思うかもしれませんが、映画のままの粗筋です。
突っ込み所満載に見えますが、実際物語は“超展開”で進んでいきます。
この映画の基本フォーマットは「動物感動物」です。「北京原人という動物と、人間の触れ合いを描いた映画」というのが、この作品の最も分かりやすい説明です。
中国と共同製作だったそうなので、たぶん“北京原人”なのでしょう。なんというか、その動物を選んだ時点で、興行で負けが決まったような気がします。
素直にパンダとかにしておけばよかったのに。
いくらなんでも、動物感動物の“動物”が“北京原人”では、子供やファミリーは見に来てくれません。
さて、感想ですが、どこから書けばよいのか悩むので、映画の時系列に沿って、いろいろと突っ込みを入れていきたいと思います。
まず、酒氏と映画を見ていて、一番最初に突っ込んだところ。
北京原人を復活させるのに、日本製スペースシャトルのHOPE-X(だったと思う)で宇宙に行くのですが、宇宙に行く理由がほとんどありません。
むしろ害の方が多そう。
百歩譲って宇宙に行くのに意味があるとしても、「地上でDNAを採取したあとの北京原人の頭蓋骨」を宇宙に持って行く理由はまったくありません。
これは、科学以前の問題なので。
そして、この実験用の研究棟がスペースデブリにぶつかって落下するのですが、凄いことに、“自立飛行着陸システ”ムが付いていて、沖縄近くの孤島に自力で無事にたどり着きます。
なんて豪華な作りなんでしょう。無駄に豪華……。
そして、最大の突っ込み所なのですが、すぐに回収に行くと、なぜか成人に成長した男女の北京原人と、その子供が島にいます。
えっ?
どんなに計算しても、時間の計算が合わないのですが……。
成長する時間も、子供を作る時間もありません。
……さっぱり分かりません。
島にやって来た研究者二人(緒形直人、片岡礼子)は、北京原人と心を通わせようとします。
そのために緒形直人が考えた作戦は、「俺たちも裸になるんだ!」です。片岡礼子は最初嫌がるのですが、もうどうでもよくなったのか急に真っ裸になります。
それから、かなり長いこと、二人は裸のまま演技を続けます
酒氏いわく「女優の人は監督に、必然性があれば脱ぎます! と言ったそうですよ」
それを受けた私の返事「なんだか、とって付けたような“必然性のある裸のシーン”だよね」
……。
「このまま、映画全編裸でもいいや」という気持ちになりましたが、途中で二人は服を着ました。残念。
そうやって心の交流を目指すのですが、中国の工作員に入れ知恵された中国人の女マスコミたちがやって来ると、あっさりと北京原人を睡眠薬で眠らせて、本土の研究所に連れていきます。
「今までの頑張り(心の交流)は何だったんだ!」
さて、研究所にやって来たあともトンデモシーンはたくさんあります。
そのなかで、存在自体がトンデモだった人がいます。研究所の所長の丹波哲郎です。
この人は、やたらと電波発言を繰り返すのですが、最も過激で気に入ったのは、以下のシーンです。
片岡礼子が、北京原人の雄に性的暴行を受けそうになり、必死に檻から逃げてきます。
その片岡礼子を向かえた丹波哲郎は、目をクワッと見開いて大喝します。
「馬鹿もん! お前も科学者なら、なぜ北京原人とセックスをしないのだ!」
「そ、そんなあ」
「お前も科学者なら、子供ができないことぐらい分かっているだろう。いや、もし仮に子供ができたとしたら、それは世紀の大発見だぞ。なぜ試そうとしない! 科学者なら、北京原人の子供を孕むのだ!」
……。
すごいです丹波哲郎。倫理を超越している人です。
日本全国の孕ミストや、獣姦マニアの人たちは、丹波哲郎を崇めるべきです。
全国公開の映画で、そんなことを力説されるとは思いませんでした。
丹波哲郎が所長の“生物科学研究所(という名前だったと思う)”には、人類の科学力を超越した超装置が数々あります。
そのなかでも、最も凄かったのは、「脳をスキャンして、記憶や思考を映像化する装置」です。
今の科学力では存在しない装置ですが、実はこの装置は、もう一つ凄い能力を持っています。
丹波哲郎いわく。「さあ、前世の記憶を映し出すのだ!」
「えーっ!」
前世の記憶は、どんなに脳をスキャンしても出てこないのですが……。
恐るべし丹波哲郎(というか脚本家)。なんというか、脱帽しました。
丹波哲郎は、政府の圧力を受けて北京原人の研究を公表しないように言われます。
しかし、そんなことでへこたれる丹波哲郎ではありません。
彼は、北京原人を陸上競技大会に出場させます。
というか、マスコミの人たちは、政府の圧力を受けているはずの研究をなぜか知っていて、「おっ、北京原人だ!」とか言っています。
セキュリティの絶望的な低さに絶望──。
そして、北京原人の雄ども(父親と息子)は、中国女のハニートラップに引っ掛かってさらわれます。
これ以降、映画は迷走します。いや、今まででも、十分迷走しているのですが……。
まず、ヒロインが交代します。
今までヒロインだった片岡礼子は脇役になり、中国人の女マスコミがヒロインに昇格します。
そして、北京原人との心の交流(裸にはならない)を繰り広げます。
もう、訳が分かりません。
緒形直人、片岡礼子は、セスナに乗り込み、北京原人の母親を連れて、万里の長城まで飛んで行きます。
燃料がどうなっているのかは大きな謎なのですが、「きっとあのセスナも生物科学研究所の超兵器なんだろう」ということで、酒氏と意見の一致を見ました。
そして最後は、ロシアの研究所で再生されていたマンモスと合流し、北京原人は前世の記憶にあった山に向けて歩き出します。
なぜマンモス?
捕食者と被食者がなぜ仲良く?
さっぱり意味が分かりません。
ということで、酒氏と議論した結果、「きっと脚本を書いていた人の頭には、“はじめ人間ギャートルズ”があって、科学知識もその時代で止まっているのだろう」と、考えがまとまりました。
最後のスタッフロールの頃には、もう笑いも出なくなっていたのですが、最後の最後に爆弾が仕込まれていました。
協力 科学技術庁。
「ぎゃーっ!」
きっと脚本を読まずに協力したのでしょう。いくらなんでも「科学」と言える内容はこの映画にはないです。
でかでかと書かれた「科学技術庁」の文字が、痛々しかったです。
以下、おまけ。
Amazonの商品説明を見ると、以下のようなことが書いてありました。
そもそも本作は、北京原人の骨が国家間の陰謀の果てに紛失した歴史的事実をミステリとして描きたいという、中国に精通した国際派・佐藤監督ならではの構想が、企画サイドによってなぜかこうしたお話に捻じ曲げられてしまったという経緯があり、またそれでも徹底的に科学考証などを行ったリサーチの鬼たる佐藤監督のリアル志向と、あくまでもファミリー映画を目指す企画サイドとのズレが解決しないまま脚本が上がり、それでクランクインせざるをえなかったところに悲劇の要因がある。
監督さんも、なかなか大変なようです。