映画「ザ・エージェント」のDVDを十月中旬に見ました。
原題は「JERRY MAGUIRE」。トム・クルーズ演じる主人公のジェリーが、理想に向かって進んでいくというお話。
ちなみに主人公は、スポーツ選手の年俸やCMの交渉をするエージェントです。
それなりによく出来た話だとは思うのですが、主人公のジェリーがなんか中途半端な男だよなというのが感想です。
なんでだろう? そのことをいくつか分析していきたいと思います。
まず、中途半端だと感じた最初の要素は、「映画のスタート時点での動機」と「映画のゴール時点で解決する葛藤」が違うことです。
映画のスタート時点での動機は「金儲けばかりに邁進するのではなく、本当に選手のためになるエージェントの仕事をしたい」です。
そして、映画のゴール時点で解決する葛藤は「映画の途中で手を付けて妻にした女性との信頼関係を築き上げる」です。
こうやって書くとよく分かるのですが、話が途中ですりかわっています。
いや、ちゃんと最初の時点での動機も終盤に解決するのですが、映画の途中で第二の動機が追加され、終盤ではそちらの比重が大きくなるのです。
これは、ドラマの構造としては、あまりよくないだろうと思いました。
また、中途半端だと感じた次の要素は、最初の動機そのものです。
「金儲けばかりに邁進するのではなく、本当に選手のためになるエージェントの仕事をしたい」という動機なのですが、これは要約すると「金儲けよりも心の繋がりを重視したい」ということになります。
しかし、“スポーツ選手”と“エージェント”といった「本質的に役目が違い、直接協力できない間柄の人間のドラマ」をワンエピソードで描くのは難しく、話としてメリハリを付け難いという難点があります。
映画の後半(心の交流をする部分)は、シーン数を割き、その点を割と頑張って描いています。
しかし、映画の前半(金儲け主義の弊害)は、ワンカットだけで描いており、これは印象として弱過ぎると感じました。
もしかしたら、私がそう思ったのは、「アメリカと日本のエージェントという仕事の社会への浸透度の差」かも知れず、また「私がそれほどスポーツに社会的価値を置いていないこと」が原因かもしれません。
とはいえ、総体として見れば、映画のシーン・バランスの比重として、やはり説明不足の感は拭えませんでした。
さらに、中途半端だと感じた要素は、主人公のジェリーの人格そのものです。
「やり手のエージェント」という設定の割には、仕事が上手くいっているシーンはほとんどなく、会社を飛び出したあとは、彼女に振られて自分の秘書に手を付ける体たらく。
なんというか、人間臭いといえば人間臭いのですが、芯が弱過ぎてあまり感情移入できないというのが正直なところでした。
また、「金儲けばかりに邁進するのではなく、本当に選手のためになるエージェントの仕事をしたい」という動機に関しても問題があります。
この動機は、「何となく家で閃き、一晩で書いた」という提案書が元になっており、切迫感もなく、信念も感じられません。
人として、「俺はこれが重要」という守るべき一線がないキャラクターというのは、背骨の入っていないこんにゃくのような存在で、映画の主人公として積極的に評価しようという気にさせてくれません。
もう少し前半の人物像の造形や、動機の描き方を練り込んだ方がよかったのではないかと思いました。
以下、粗筋です。(中盤ぐらいまで書いています)
全米でもトップ・レベルの交渉を行なうスポーツ・エージェントの会社に勤めるジェリーは、ある日一冊の提案書を書く。
怪我をして、入院する羽目になった選手を見舞いに行ったときに、“体を壊してもいいからどんどん稼げ”と、けしかけなければいけない自分に嫌気が差したのだ。
彼はその提案書をコピーして全社員に配る。だがそのせいで彼は首になってしまう。
ジェリーは「自分と理想をともにする人は付いてきて欲しい」と訴える。だが、その誘いに乗ったのは、事務職のバツイチの子持ちの女性ただ一人だった。
ジェリーは彼女と二人で新しい会社を立ち上げる。しかし、契約は全く取れない。唯一取れたのは、前の会社でエージェントをしていた落ち目のアメフト選手だけ。
彼はその選手の契約金の上昇を目指す。
だが、金のことばかり言って、アメフトの楽しさを周囲に見せることのないその選手に監督は高い評価を与えない。
また、ジェリー自身も彼女に振られ、その傷心を癒すために自分の社員に手を付ける始末。
だが苦楽をともにした人と、ジェリーは心を通わせていく。社員とは結婚し、アメフト選手とは親友の関係になっていく。
そして、彼は自分自身を成長させながら、ビジネスの成功も目論んでいく。
手を付けられるバツイチの女性はレニー・ゼルウィガーです。
「ブリジット・ジョーンズの日記」(まだ未見)で、“ブスで頑張る主人公”を演じていましたが、この人はちょうどよいレベルのブスさを持っていると思います。
「冴えない女」を演じることが多々ある彼女ですが、“女優”としては美人じゃないけど、“スクリーンに映したくない”ほど醜くもない。
あくまで映画のなかでの相対的なブス。現実だと、スタイルもいいし、いけている方。
女性に反感を感じさせず、男性に煙たがられず、ちょうどよいレベルのブスを演じるのは結構難しいと思います。
レニー・ゼルウィガーは、そんな“映画に使いやすいブス”を演じられる面白い女優だと思います。
本人的に、そういった使われ方が嬉しいのか嬉しくないのかはちょっと分からなかったりするのですが。
割と批判的なことばかり書いているような感じですが、映画としては普通に面白く見ることができました。