映画「野獣死すべし」のDVDを十一月中旬に見ました。
切っ掛けは、NHKの“松田優作”特番。特番情報を教えてくれたらじさんに感謝です。
というわけで、早速感想なのですが、「すげえ、最後の方は、主人公が完全に壊れている」でした。
序盤は「ちょっといっちゃった人」だった主人公(松田優作)なのですが、中盤辺りには「彼岸に行った人」になってしまい、終盤は「もう戻って来れない、気が狂った人」になっていました。
途中までは、まだ理性と狂気の狭間だったのですが、最後は支離滅裂なことを唱え続けているヤバイ挙動不審者でした。ええもう本当に。
面白い面白くないで言えば「面白かった」ですが、万人向けではないですね。狂気に踏み込む人を見て喜ぶタイプの人は絶賛だと思います。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。中盤ぐらいまで書いています)
戦場を渡り歩いた報道カメラマンの主人公は、務めていた通信社を退職した。
彼は刑事を殺して銃を奪い、ヤクザの賭場に踏み込み数人を射殺して現金を奪う。
数日後、彼は大学のサークルの同窓会に出る。そこで彼は、レストランの給仕をしていた荒くれ者の男に目を付け、彼を“殺人の同好の士”にする。
仲間を得た主人公は、銀行強盗を決行する。彼の目的は、金を奪うことよりも、多数の人を射殺することにあった……。
映画を見て思ったのは、「松田優作が不気味だ」です。
まず、目がいかれています。焦点が合っていないというか、世界に対して興味のピントが合っていない目をしています。
地に足が付いておらず、ふわふわとどこか変なところを歩いているような、世界に対して噛み合っていない目です。
そして表情が不気味です。脳と顔面の表情筋が繋がっていないような表情をしています。
例えるのならば、糸が数本切れたマリオネットのような印象です。表情が精神にぶら下がっていない。そんな印象を受けました。
でも、ときどき、何か変な歯車が噛み合うと、猛烈に喋りだしたり動きだしたりする。
さっきまで錆び付いていて機械が、急に脈絡なく動きだしたような感じです。そして、そのときだけ、目がギラギラと輝いていて、どこか他人と違う場所を見ています。
「ああ、いっちゃった人って、こんな感じなんだろうな」と思いました。
“不気味な松田優作”を見るだけで、映画としてはお腹いっぱいになりました。
しかしまあ、これは撮影のときの現場の空気は凄かっただろうなと思いました。
ピリピリしているというか、ビクビクしているというか、役者である松田優作自身もかなりいっていただろうなというのが想像が付きます。
演技をしている瞬間だけこういう状態ではなく、役の前後も、ある程度引きずっていただろうなという気がします。
かなり集中力を高めて没入しないと、この境地まではいけないだろうと思いましたので。
映画を見終わったあとの印象は「狂った映画」の一言になるのですが、よくもまあ、こんな映画でGOサインが出たなと思いました
何を訴えるわけでもなく、何を伝えるでもなく、「気が狂った松田優作をスクリーンに叩き付ける」というだけの内容なので。
私は楽しめましたが、ドン引きする人も結構いるのではないかと思いました。