映画「アレキサンダー」のDVDを十二月上旬に見ました。
オリバー・ストーン監督の作品で、三時間級の長い映画です。
公開時には欧米では非難の嵐だったことを記憶しています。その時の主な理由は「アレキサンダーを同性愛者として描写している」というものでした。
見て思ったのが「これはガチの同性愛映画だ」です。アレキサンダーは「女は嫌い。男がいい」と公言しますし、その性癖通りに行動します。
でもまあ、アリストテレスを師匠に持つ辺りで真性のギリシア文明圏なわけだし、そりゃあ“男色まっしぐら”ですよ。
映画中、アリストテレスが「愛はやっぱり男に限る!」とか、アレキサンダーに吹き込んでいますし。
同性愛を問題にするのは、キリスト教の倫理観が基準になっているからです。そういった後世の倫理観を、キリスト教普及以前の文化に当てはめようとするのは無茶だと思います。
一神教信者の悪いところが、もろに出た非難の仕方だなと思いました。
日本だって、戦国物の映画を本気で作ろうとすれば、豪華絢爛な同性愛物語になります。
というわけで、たぶんヤオイ好きの腐女子の方には美味しい映画ではないかと思いました。
さて、映画が面白かったかというと、面白くありませんでした。
「おいおい、さっきの擁護は何のためだったんだ?」と言われそうですが、この映画の問題点は、上記のような同性愛描写ではなく、主人公であるアレキサンダーへの感情移入ができないことにあります。
そのことをはっきりとさせるために、敢えて同性愛についていろいろと書きました。
さて本作は、アレキサンダーが死んだあと、エジプトを得たプトレマイオスの回想という形で進んでいきます。
アレキサンダーは、神話の英雄に憧れ、まだ見ぬ東の果てに行くことを夢見、そのために邁進します。
しかしそれは苦難の連続で、彼とともに歩を進める兵士たちは疲労困憊していきます。
アレキサンダーの夢は、誰も共有できず、東に行けば行くほど彼は軍のなかで孤立していきます。
そしてインドまで来た時点で兵の不満は頂点に達します。彼らの怒りは当然で、「誰も成し遂げたことのない偉業」を目指すアレキサンダーの望みは彼らには全く無関係だからです。
それよりも彼らには、「戦争で得た儲けを持って妻子のもとに戻ること」の方が重要です。
これは、映画のクライマックス近くに、アレキサンダーV.S.兵士全員という構図で爆発します。
そして最終的にはアレキサンダーは兵士たちに従います。
さらに駄目押しのようにラスト近くで、回想していたプトレマイオスに「あいつは自分勝手な奴だった」と言わせます。
このような発言を総合すると、「アレキサンダーはわがままで傲慢だった」ということになります。
実質的な戦争シーンが二箇所しかないことも合わせて、映像的な爽快感のなさと、主人公の理解のされなさ&挫折っぷりばかりが強調された映画になっています。
このような構図で映画を作り、オリバー・ストーンは何を言いたかったのか理解に苦しみます。
確かに、アレキサンダーにも共感できる理想があります。それは彼が多くの世界を見ていくにつれ、部族や民族を越えた自由な社会を作りたいと考えるようになることです。
しかし、それはどちらかというと“従”でしかなく、“主”は「自分を英雄にすること」です。
アレキサンダーを「自己肥大した妄想の男」として描くことで、人々がアレキサンダー大王の映画に期待している爽快感を根こそぎ奪った映画を作ったオリバー・ストーン。
オリバー・ストーンのことですから、何か強いメッセージを持っているのでしょうが、それはこの映画に関してはマイナスにしか働いていないなと思いました。
以下、粗筋です。
あまりにも我の強い母に育てられたアレキサンダーは女嫌いになった。そしてギリシアの男色の素晴らしさをアリストテレスに教えられた彼は、同性愛者になった。
アレキサンダーの父親は多数の女に手を付ける男で、アレキサンダーの母親は正妻であったが、その座も危うくなっていた。
彼が成人したあと、父親は新しい娘を后に迎え、その子に王位を継がせようとする。だが、父王は死に、アレキサンダーは王になる。
彼はペルシャを打ち破り、瞬く間に周囲を併呑していく。
だが彼の欲望は留まるところを知らなかった。東の端まで行ってみたい。そう考えた彼は兵を進め、大遠征を行なう。
だがそれは、後世の人々が考えるようなきらびやかなものではなく、三蔵法師の旅のように苦難に満ちたものだった……。
だいたい感想は最初に書き尽くしたので、アレキサンダーの配役についてだけ書いておきたいと思います。
アレキサンダーは、コリン・ファレルが演じています。
個人的には、シルベスター・スタローンに演じて欲しかったなと思いました。
学生時代、教科書のアレキサンダー大王を見て、「シルベスター・スタローンだ!」と思いましたので。
……同じ経験をした人は多くいると思います。
□Wikipedia - 愛馬ブケファロスに騎乗したアレクサンドロス(画像)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:BattleofIssus333BC-mosaic-detail1.jpg
以下、参考です。
□Wikipedia - アレクサンドロス3世
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B93%E4%B8%96□Wikipedia - アレクサンドロス3世の遠征・征服の道程を描いた地図(画像)
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7f/MakedonischesReich.jpg