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2007年05月05日 22:16:53
プラネテス 1
 アニメ「プラネテス」の全二十六話を、四月上旬に見終わりました。

 昼飯と夕飯で一話ずつ見ていき、二十話以降は一気に見ました。

 よくできていて面白かったです。



 各話の粗筋を書くと長くなってしまうので、公式ページの粗筋が書いてあるページにリンクを貼っておきます。

□PLANETES Web - プラネテス公式ホームページ
http://www.planet-es.net/

□TECHNORA - テクノーラ社公式サイト - 業務日誌(粗筋)
http://www.planet-es.net/TECHNORA/index_story.html

 以下、全26話のタイトルです。

#01 大気の外で
#02 夢のような
#03 帰還軌道
#04 仕事として
#05 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
#06 月のムササビ
#07 地球外少女
#08 拠るべき場所
#09 心のこり
#10 屑星の空
#11 バウンダリー・ライン
#12 ささやかなる願いを
#13 ロケットのある風景
#14 ターニング・ポイント
#15 彼女の場合
#16 イグニッション
#17 それゆえの彼
#18 デブリ課、最期の日
#19 終わりは いつも…
#20 ためらいがちの
#21 タンデム・ミラー
#22 暴露
#23 デブリの群れ
#24 愛
#25 惑い人
#26 そして巡りあう日々



 以下は、アニメ全体の大きな流れです。(ネタバレあり。最後まで書いています)

 宇宙産業系の大企業テクノーラ社。その第二事業部内には、「半課」と呼ばれる部署があった。

 地球軌道上を舞う宇宙のごみ──デブリを回収するその部署の正式名称はデブリ課。そこに船外作業員として新人の田名部愛が入ってくる。

 彼女は真面目で頑固な性格で、万事適当な先輩社員 星野八郎太──通称ハチマキと対立する。

 彼らデブリ課は、宇宙のごみを回収しながら、宇宙開発の様々な裏の面を垣間見る。また、会社員としての立場から、様々な対立に巻き込まれる。

 そうしたデブリ課での生活の中、タナベとハチマキは次第に引かれ合う。そして二人は付き合いだす。

 だが、ある事件を切っ掛けにハチマキの心はタナベから離れていく。

 船外作業中の事故で、ハチマキは空間喪失症になる。その心の病を救ったのは、タナベの愛ではなく、木星往還船フォン・ブラウン号の心臓部、タンデム・ミラー・エンジンとの出会いだった。

 ハチマキは、会社を辞め、フォン・ブラウン号の乗組員としての試験を受ける。

 ハチマキの心は木星を向き、タナベからどんどん離れていく。

 だが、ファン・ブラウン号がテロリストによって襲われることで、ハチマキの心は再びタナベに向かう。

 テロリストたちの襲撃の直前、ハチマキの師匠は死んだ。そして、その師匠はハチマキに遺言を残していた。船には変えるべき港が必要だと。

 ハチマキはタナベと和解し、結婚する。そして、七年にわたる木星への旅に出掛けて行く。


プラネテス (1)
 さて、「プラネテス」についてです。

 原作のマンガは当然読んでいるのですが、当時、周囲が盛り上がっている中、私はそれほど熱中していませんでした。

 理由は大きく分けると二つあります。

1.精神的に共鳴するところが余りなかった。

2.SFだ、SFだと盛り上がっていたが、そちらよりも人間ドラマが中心の話だと感じていた。

 この二つの理由のために、アニメにもそれほど期待はしていなかったのですが、アニメは私の方に寄ってきていたので、素直に楽しめました。



 以下、アニメ版「プラネテス」の、マンガ版との違いです。

1.テクノーラ社という宇宙産業系大企業内の、会社ドラマを持ち込んだ。

2.ハチマキとタナベを軸とした恋愛ドラマの要素を強くした。

3.宇宙解放戦線と、軌道保安庁の対立を後半のメインに持ち込んだ。


ふたごのプラネテス
 1は非常に上手いなと思いました。

「ふたごのプラネテス」という、マンガ版とアニメ版の情報が書かれたムック本を読んだところ、放送時間帯から、視聴者をサラリーマン世代と考え、そこに合わせて話を大幅に変更したと書かれていました。

 これは正解だったと思います。派遣社員、平社員、中間管理職、管理職など、いくつかの人物を配すること、そして、デブリ課を「半課」として社内の不採算部門として描くことで、ストーリーが誰にとっても分かりやすく転がるようになっていました。

 ある程度の話数を作る必要と、序盤から必ず見てもらえるとは限らないアニメという媒体から考えると、この構造は、間口を大きく下げ、理解を促進する上で正しい選択だと思いました。

 この、会社ドラマの部分が、私には非常に面白かったです。



 2は、かなり多くの恋愛関係が描かれます。

 ハチマキとタナベだけでなく、ハチマキのかつての恋人、ハチマキの親友、タナベの同期の人間と多く用意されていました。

 また、そのそれぞれの恋愛関係の情報を非常に小出しにしており、この部分が次の話を見るための上手い誘引になっていました。

「この二人は、かつてどういう関係だったのだろうか?」

「この二人の関係は、果たして進展するのだろうか?」

 そういった部分を、上手く寸止めし、次回予告でその部分が解決されることを臭わせる。

 そういった手法で、うまく前半から中盤にかけて、視聴者を誘導していました。



 3に関しては、終盤の盛り上げとして派手なアクションを導入するためのギミックだなと思いました。

 序盤から中盤にかけて、軌道保安庁の人間との関わりを描き、宇宙解放戦線とのトラブルを描き、伏線を張っておきながら、終盤のバトルに持ち込む。

 真っ当な手法です。

 それに加えて、一つ上の階層の「政治的な駆け引きでの解決」という上位構造を描くことで、世界観を上手く立体的にしていました。

 この政治的な駆け引きに関しては、序盤に、「宇宙開発で割を食う発展途上国の現状」を人間レベルで描いていることで、上手く対比を作っており、説得性の高い物語展開になっていました。



 アニメ版では、会社にしろ、政治にしろ、こういった“階層構造”を持ち込むことにより、世界観を上手く立体的に再構成していました。

 マンガ版では、どちらかというと一人称視点の話だと感じたのですが、アニメ版では、こういった手法を使うことで、三人称視点に近い話になっているなと思いました。



 さて、全体に関しての感想です。

 まずは物語についてです。

 序盤から中盤に掛けては非常によかったけれども、終盤は回想シーンの多さと、マンガ版を引きずった内面描写の多さで失速してしまったという印象でした。

 最初の三分の二は、各話の独立性が高く、一話物として上手く結末をつけながら、後の伏線を張ったり、前の話で出たキャラを上手く挿入したりして、非常によくできていました。

 しかし、終盤の締めで、それらで膨らませた話が、木星往還船の話と、ハチマキの内面とで剥離してしまい、上手く行っていないという印象を持ちました。

 私が二十話以降を一気に見たのは、各話の独立性が急速に失われて、途中で切れる内容ではなくなってしまったからです。

 最後の六話、つまり三時間を、私は一気に見ました。

 しかし、最終六話は、この三時間を持たせるほどの構成にはなっておらず、見終わった時に、評価を下げました。

 映画でも、二時間を越える作品は一気に難易度が上がります。切れ目のないアニメを六話続けるのも、かなり難易度が高いのだろうなと思いました。

 ただ、個人的にはこの失速は、回想シーンの多さにあると思います。序盤から中盤で張った伏線を、回想シーンで受けるという構成は、多用し過ぎると物語の流れを堰き止めて停滞させてしまいます。

 三時間の中に、大量に回想シーンがあるという構成が、この作品の終盤でマイナスに働いているなと感じました。

 そのせいで、序盤から中盤に関しては、けっこう泣かされる話も多かったのですが、終盤は惰性的に見ました。

 こういった物語を上手く盛り上げて締めるというのは難しいなと感じました。



 次は絵についてです。

 キャラデザがよく、絵も安定してクオリティが高くて非常によかったです。

 特にキャラデザは好みでした。大人向けのアニメとして、素直に誰もが入れるデザインで、これなら誰に見せても大丈夫だなと思いました。

 また、タナベが非常に可愛くなっており、これは原作よりも格段によくなっていました。女性特有の肉の柔らかさを感じさせるバランスで、とてもよかったです。

 そして、各キャラの外見的個性も分かりやすく、こういった容姿の描き分けがされていると見やすくて楽だなと思いました。



 続いては、アニメオリジナルのキャラについてです。

 非常に成功していました。

 先ほども書きましたが、アニメ版では、「会社組織・恋愛関係・テロと保安」という枠組みを用意することで、原作から要素を上手く抽出したあと、それを視聴者に合わせて違う形で再構成し直すということを行っていました。

 そして、そこでできた足りない部分を補うために、オリジナルキャラが多数配置されていました。

 これが、全て必然性を持ち、きちんと機能していたのはお見事だと思いました。

 たくさん出てきているけど無駄がない。

 これはマンガ版と比較することで、“キャラ配置”ということについて、いろいろと考えさせられるなと思いました。

 ただ一点、必然性は分かるけど、残念だなと思うところがありました。クレアさんです。彼女の転落っぷりは、ちょっと可哀相でした。



 最後に、全体ではなく個別の話についての感想です。

 まずは、木星往還船の試験回りの話です。ここらへんは、もろに「ライト・スタッフ」だなと思いました。

 あと、先ほども書きましたが、序盤から中盤には泣ける話が多かったです。ここらへんの話は、ベタではありますが、よくできていました。



 個人的に一番考えさせられた話は、16話「イグニッション」です。

 デブリ回収中の事故で、通信が完全に閉ざされた状態に置かれたハチマキが、感覚遮断に耐えられなくなる空間喪失症という心の病に掛かるという回です。

 人間、何の反応もない場所にいると心に問題が生じます。

 それは、感覚や通信の反応がないといったことだけでなく、仕事や人間関係での反応がないといったことでも起こります。

 つまり、日常生活で、暗中模索というか、のれんに腕押しというか、そういった状態が長く続くと、病んでくるということです。

 人間は、反応がない場所に長くいることはできません。

 描いているのは通信の途絶ですが、これは仕事などでの問題に置き換えて考えられる話です。

 身につまされる内容だなと思いました。
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