映画「イギリスから来た男」のDVDを五月の中旬に見ました。
スティーヴン・ソダーバーグ監督の1999年の作品。主演はテレンス・スタンプ。
見た感想は、「あー、好きそうな人は、好きそうな作品だな」です。私の興味の対象外。
映像的スタイリッシュさを追求したような作品で、ストーリー自体は非常に単純で単調です。尺も短いですし。
まあ、これで尺が長かったら、非常にやばい作品になってしまうのですが。
映像の特徴としては、二点あります。
一つ目は、同監督の「トラフィック」のように、やたらと色味調整を行っている画面。
二つ目は、ぶつ切りにして時間軸をばらばらばにシャッフルした短いショットの連続です。
一に関しては、この監督はこういった手法が好きなんだろうなと思いました。
「トラフィック」では、複数視点の物語で、それぞれの視点に色を割り振るという、意味ある使い方をしていたのですが、今作では、そういった意図はあまり感じられませんでした。
二に関しては、「これで最後までいったらウザイな」と思っていましたが、冒頭三十分ぐらい以降はあまり多用しなくなりました。
この表現に関しては、「時間軸がばらばらのシーンをモンタージュ的に並べる」ことで、「ある一定の感情の襞を作りだす」といった、実験的意味合いの強い方法です。
意図はきちんと伝わっているものの、間延びしている感が強く、ちょっとなあと思いました。
そういった部分が「好きそうな人は、好きそうな作品」だという印象になりました。
個人的には、「これは実験作であって、堅実に作られた作品ではない」と感じました。
まあ、映像作家としては、こういった作品もキャリアの中で必要なのかもしれませんが。
ちなみに、原題は「THE LIMEY」です。
この「ライミー」は、イギリス人の蔑称です。イギリス船員が、壊血病予防のために、ライムをかじっていたことからきているそうです。
DVDについていたテキストに載っていました。
以下、粗筋です。(なるべくネタバレがないように、物語の後半ぐらいまで書いています)
アメリカにいる一人の女性が、交通事故で死んだ。
そして、その父がイギリスからやって来た。彼は、刑務所で暮らしている期間の方が長い男で、最近出所したばかりだった。
父親は、娘の死の真相を知りたいと願う。彼は、娘が死の直前に会っていた人たちを訪ねていく。
そして、娘が、麻薬の取り引きを防ごうとしていたらしい、ということを知る。
父親は、娘が死の前に付き合っていた男に会いに行く。彼は、音楽業界の地域の元締めで麻薬の金のマネーロンダリングを引き受けるような男だった。
痛い腹を探られたくないその音楽プロデューサーは、父親を殺そうと目論む。しかし、彼は逃げる。
父親は、自分の娘の死の真相を知るために音楽プロデューサーに会いに行こうとする。
対して、音楽プロデューサーは、彼に殺されると思い、海辺の別荘に引きこもる。
父親は海辺の別荘に現れ、音楽プロデューサーの部下たちと、激しい銃撃戦を始める。
話としては非常に単純です。
その基本的な単純さを補うために、麻薬捜査官たちと、音楽プロデューサーの仲間が雇ったチンピラたちという、二つの勢力が途中で投入されます。
しかし、この二つの勢力は、あまり顔が見えない奴らなので、本筋には大きく絡みません。単なるアクセントです。
なので、脇道にほとんどそれない、本当にストレートな話です。
まあ、映像だけを描きたいのならば、こういった話でいいんだろうなと思いました。尺も短い、完全な小品ですので。
あまり満足できませんでしたが、ソダーバーグの嗜好を知る上では有用かなと思いました。
DVDにはメイキングが付いていました。
音楽プロデューサー役は、「イージー・ライダー」のピーター・フォンダでした。
「かつての栄光に引きずられる役は、僕自身だ」みたいなことを言っていて、なんだか大変そうだなと思いました。