映画「許されざる者」のDVDを五月下旬に見ました。
1992年の映画で、クリント・イーストウッドが、製作・監督・主演です。
敵役の保安官はジーン・ハックマン。イーストウッドの仲間はモーガン・フリーマン。脚本は、「ブレード・ランナー」のデイヴィッド・ピープルズ。
一度銃を捨てた老ガンマンが、殺し合いの虚しさを知るという内容の映画です。よい映画でした。
話としては、非常にオーソドックスなものです。
キャラ配置は以下の通り。
・老ガンマン:かつて荒くれ者だったが、結婚を機に銃を捨てた。妻に操を立てていて、二人の子供がいる。
・老仲間:老ガンマンのかつての仲間。凄腕の狙撃手。しかし、老ガンマン同様、十一年間人を撃っていない。
・若仲間:賞金稼ぎの話を持って来るひよっこ。若気の至りで、殺し合いに憧れているが、まだ人を殺すということがどういうことか分かっていない。近眼。
・保安官:町を守るためには何でもする。賞金稼ぎなど人間の屑だと思っている。
・娼婦たち:カウボーイに顔を切り刻まれた娼婦の仇を討つために、賞金稼ぎを金で雇おうとする。
・カウボーイたち:娼婦を傷付ける。普段は仕事熱心な男たち。
・賞金稼ぎ:娼婦たちの話に引かれてやってくる。
この映画では、上記のキャラで、対立と対比を行っていきます。
・娼婦たち V.S. カウボーイたち:発端の事件となる。
・娼婦たち ←→ 保安官:個人の尊厳を守ることと、町の治安を守ること。
・保安官 V.S. 賞金稼ぎ:保安官の強さを引き立てる。
・若仲間 ←→ 老仲間:新参者と古参者の対立。
・老ガンマン ←→ 老仲間:非情になれる者となれない者。
・老ガンマン ←→ 若仲間:殺しに染まる者と染まらない者。
・老ガンマン V.S. カウボーイたち:娼婦たちの復讐を実行。
・保安官 V.S. 老仲間:保安官と老ガンマンの対立理由を作る。
・老ガンマン V.S. 保安官:それぞれの立場から対立。決着を付ける。
物語は、二つの話が平行して進んでいく形を取ります。
二つの話とは、保安官シナリオと、老ガンマンシナリオです。
保安官シナリオでは、彼の立場を明確にして、その強さを印象付けていくことに時間が割かれます。
つまり、「社会正義」の象徴として、彼を大きな存在として観客の中で確立させるために、外堀を埋めていくわけです。
対して、老ガンマンシナリオでは、若仲間と老仲間との関わりや対比から、「彼がいかに普通人になろうとしても、人殺しに一度手を染めた彼は、結局はアウトローなんだ。人として間違った奴なんだ」ということが描かれていきます。
最後には激突する老ガンマンと保安官なのですが、勝ったとしても負けたとしても、そこには満足感も勝利感もなく、虚しさだけが残ることになります。
そういう積み重ねを丁寧にした上で、最終的にその戦いを見せ場に持って来て、それが終わると映画をさっさと終わらせます。
描きたいことがあり、その目的に向かって積み上げていき、映画としてのカタルシスを見せた上で、語りすぎずにさっと幕を引く。
よくできた映画だなと思いました。
この映画が面白いのは、丁寧な話なのもありますが、役者が上手いというのが大きいと思います。
この話には二つのシナリオがあると書きましたが、実は動きがあって面白いのは保安官シナリオの方で、老ガンマンシナリオの方はかなり退屈です。
老ガンマンが、旅立って、旅をして、町に着く。そこまでは、かなり単調な話が続きます。
その単調さを救っているのが、クリント・イーストウッドとモーガン・フリーマンです。
まあ、この二人が出て画面で演技をしていたら、そりゃあ間も持ちます。
そうでなければ、この映画は、けっこう退屈な作品になっていたかもしれないなと思いました。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。ほぼ最後まで書いています)
ある町で事件が起こる。からかわれたカウボーイが、娼婦の顔をナイフで切り刻んだのだ。
「縛り首にしろ」という娼婦たち。
しかし保安官は、カウボーイたちに馬を払わせることで事を収める。
納得しない娼婦たちは、金を出し合って賞金稼ぎを雇うことに決めた。
場所は変わる。
主人公は老いたガンマン。彼は若い頃、人を殺しまくったが、結婚することで銃を捨てた。彼は妻に、人の道を教えられた。
その妻も三年前に死んだ。二人の子供を抱えながら、老ガンマンは豚の飼育を続けている。
ある日、一人の若いガンマンがやって来た。娼婦たちがカウボーイに切り刻まれた、その復讐に賞金が出るというのだ。
彼は、老ガンマンのかつての話を知っており、仲間にしたいと思っていた。
一度は断わった老ガンマンだが、子供たちの養育費を稼ぐために銃を取る。そして、かつての仲間を誘い、三人で娼婦たちがいる町を目指す。
その頃、町には賞金稼ぎがやって来ていた。その賞金稼ぎを保安官は鮮やかな手並みで倒す。
緊張が高まる中、老ガンマンたちは町に到着する。しかし、いったん撃退される。
だが、彼らは仕事を遂行しようとする。そして、カウボーイたちを撃ち殺す。だが、それは簡単なことではなかった。
老ガンマンの仲間は、十一年のブランクで人を殺せなくなっていた。また、若いガンマンは、初めての人殺しで、この稼業から足を洗うことを決める。
たった一人になる老ガンマン。その彼の許に訃報が入る。人を殺せず立ち去った仲間が、保安官の拷問で死んだというのだ。
復讐を誓った老ガンマンは、単身、保安官と町の男たちがいる酒場に襲撃に行く……。
イーストウッドの西部劇の総決算という煽り文句に相応しい作品だなと思いました。「西部劇」を描いていながら、「西部劇という時代は終わったんだよ」という内容でしたので。
銃撃戦もよかったです。
しかしまあ、渋い役者ばかりの映画だなと思いました。
DVDにはキャストの紹介が付いていました。そこで驚いたのは「ジーン・ハックマンはダスティン・ホフマンの同級生」という文章でした。
年齢近かったっけ? と思って調べてみました。
ダスティン・ホフマンは1937年生まれ、ジーン・ハックマンは1930年生まれ。
なぜ? と思って調べたら、「パサディナ・プレイハウスやリー・ストラスバーグ主催のアクターズ・スタジオでダスティン・ホフマンとともに演技を学んだ」とありました。
□Wikipedia - ジーン・ハックマン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82... ああ、そういうことかと思いました。
ついでに、アクターズ・スタジオも調べてみたら、予想していたとはいえ、錚々たるメンバーでした。
□Wikipedia - アクターズ・スタジオ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82... 以下、転載です。
□主な出身者
アル・パチーノ
アン・バンクロフト
アンジェリーナ・ジョリー
アンソニー・ホプキンス
エレン・バースティン
クレア・デインズ
サリー・フィールド
ジーン・ハックマン
ジェームズ・ディーン
ジェーン・フォンダ
シェリー・ウィンターズ
ジャック・ニコルソン
ジョアン・ウッドワード
スティーブ・マックイーン
ダスティン・ホフマン
テネシー・ウィリアムズ
ノーマン・メイラー
ハーヴェイ・カイテル
ポール・ニューマン
マーティン・ランドー
マーロン・ブランド
マリリン・モンロー
ミッキー・ローク
メリル・ストリープ
ロバート・デ・ニーロ
大地康雄