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2007年10月26日 21:45:13
ビデオドローム
 映画「ビデオドローム」のDVDを九月中旬に見ました。

 1982年の作品で、デイヴィッド・クローネンバーグが監督、脚本の映画です。「ヴィデオドローム」の表記もあるようですね。

 デイヴィッド・クローネンバーグの作品は、ちょっと前だと「裸のランチ」を見ました。

 この「ビデオドローム」は、町山智浩氏の「〈映画の見方〉がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀」を読んで、見てみようと思いました。

 本を読んだ印象では、もっと破綻している映画かと思いましたが、思ったより普通に楽しめました。

 まあ、事前にいろいろとストーリー情報があったからかもしれませんが。



 映画は、低予算を感じさせる作りとなっていました。

 どこが特にそう思ったかというと、敵の本拠地です。

 本を読むと「世界革命を狙う組織」ということになっていたのですが、実際に映画を見ると「町の眼鏡屋」でした。

 たぶん、予算の問題で、敵の本拠地を豪華なものにできなかったのだと思います。

 ちなみに主人公は、「ポルノ映画を中心に扱う、ローカルテレビ局の社長」です。

 この二つの組み合せのために、映画はよく分からない対決構図になっています。

 映画を予備知識なしに見るとたぶん、「ポルノ好きのローカルテレビ局の社長が、町の眼鏡屋と対決する映画」にしか見えません。

 なんだそりゃー。

 自分で書いていて、わけが分かりません。

 ともかく、脳内パッチが必要な設定になっています。「町の眼鏡屋=世界革命を狙う組織」です。そうやって見ると、きちんと見られると思います。



 さて、この映画は、カルト的人気を誇ったそうですが、「あー、なんとなくそんな感じかも」と思いました。

 事前情報から、もっとB級っぽい作りを想像していましたが、あまりB級っぽくありませんでした。

 いや、確かに、B級っぽいところもちらほらあるのですが、七〜八割は、きちんとした映画の雰囲気を醸し出しています。

「古い映画だな」とは思いますが、「B級っぽい映画だな」とはあまり感じません。ストーリー運びも、そんなに唐突ではないですし。

 ちなみに、B級っぽくなるところは、だいたいエロ関係のところです。

 エロをB級っぽくなく撮影するのは、けっこう難しいのかもしれません。

 でもまあ、この映画の場合は、そこがB級っぽくなるのは、演出の可能性が高いです。「アングラ系のテレビ局の社長が、視聴率優先でエロビデオを探して放送する」という設定ですので。

 逆に、同じエロでも、この映画の特徴である「テレビとのセックス」や「テレビとのSMプレイ」は、SFを感じさせるホラーテイストで撮られていて、映像的にもなかなか面白かったです。

 また、主人公の腹が割れ、そこに拳銃を突っ込むシーン(ヴァギナにペニスを挿入する様子にそっくり)も、グロテスクに撮られていて印象的でした。

 普通のエロは「エロビデオテイストの、ある意味現実的な映像」で、特殊なエロは「ホラーテイストの、非現実な映像」になっています。

 そして、ストーリーは、「テレビ映像を使って、世界中の人間を変容させて革命を起こす」という、カルト的なものです。

 公開される時代が上手く合致して、先駆者になれば、マニアが喜びそうな映画だなと思いました。

 時代背景の問題や、映画では読み取り難い背景設定などがあるので、事前に情報を仕入れておいた方が楽しめるタイプの映画ではありますが、私は楽しめました。



 この映画を見て、私が感じたのは、「コンピュータ社会+インターネット」と「攻殻機動隊」といったような、社会と作品の対応関係です。

「ビデオドローム」は、「ケーブルテレビ社会+カルト」との対応かなと思いました。この場合は、「攻殻機動隊」と違って、「社会→作品」という対応関係でしょうが。

 ちなみに、「ビデオドローム」は1982年、「攻殻機動隊」は1989年が初出です。

 十年弱ぐらいの時間差がありますね。



 以下、粗筋です。(ネタバレあり。中盤のラストぐらいまで書いています)

 視聴率優先のローカルテレビを経営する主人公は、奇抜な番組を探していた。

 彼の会社には、海外の放送のスクランブルを解いて、視聴できるようにすることが専門の社員がいた。主人公は彼から、ビデオドロームという番組を教えてもらう。

 その番組は、赤い部屋で、裸の女性を拷問して殺害するというものだった。

 主人公は、このビデオドロームに心を奪われる。

 同じ頃、彼は、メディア系の人物として、メディアと社会について議論するトーク番組に参加する。

 参加者は、彼と、ラジオパーソナリティーの女性と、テレビを研究する大学教授だった。

 主人公とラジオパーソナリティーは親しくなり、付き合いだす。そして、彼女は、主人公が録画していたビデオドロームを見る。

 彼女は、ビデオドロームに出演したいと語り、姿を消す。

 主人公は、そのことに一抹の不安を感じつつも、地下ビデオを扱う知人の老女に、ビデオドロームの調査を依頼する。

 老女は、調査の後、主人公に手を引くことを勧める。理由を尋ねた主人公に、彼女は「ビデオドロームは政治的過ぎる」と語る。

 主人公は詳細を聞き出す。ビデオドロームを製作したのは、彼と同じ番組に出演した大学教授だった。

 主人公は、教授を訪ねていく。

 教授には、不思議な点があった。彼は、メディアに登場する際は、必ずテレビ映像を通して出演していた。そして、彼は謎の教団を運営していた。

 主人公は教団に行くが、教授の娘に面会を断わられる。そして、教授からの伝言であるというビデオを渡される。

 それは、教授が主人公に警告を発し、殺害されるという内容だった。そのビデオを見た頃から、主人公は幻覚に悩まされるようになる。

 主人公は教団に行き、娘を問い詰める。そして、教授が既に死んでいること、そして、メディアに出る時は、膨大なビデオライブラリーを流しているだけだということを知る。

 教授の死因は脳腫瘍だった。ビデオドロームは、脳に腫瘍を作り、その人に幻覚を見せ、精神を覚醒させるという。

 そして、このビデオを悪用して、世界征服を目論む男と、教授は袂を分かち、殺されていた。

 覚醒を始めた主人公に、その男が接触してきた。彼は、テレビ局を持つ主人公を巻き込み、ビデオドロームを世界に向けて、発信しようとしていた……。



 話と設定の大きさに比べて、敵の本拠地が「眼鏡屋」としょぼかったのですが、なかなか楽しめました。

 あと、映像的にも面白いところが多い映画でした。

 低予算なのは丸分かりな感じなのですが、雰囲気作りが上手かったです。

 もう少し予算と時間があれば、もっと見栄えがよくなっていただろうなと感じました。これはまあ、仕方がないなと思いました。



 あと、DVDには予告編が付いていました。

 これが、滅茶苦茶シュールでした。

 コンピュータ・グラフィックスっぽい、手書きのSFアニメみたいな映像です。

 映画の映像は、二〜三割しか使われていない印象です。

 B級っぽいというか、C級以下にしか見えません。

「なんだこりゃ?」と、本気で思いました。

 映画を見終わった後に、こんな変なおまけが付いているとは、思いませんでした。
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