映画「王と鳥」のDVDを十二月中旬に見ました。
1980年のフランスのアニメーション作品で、原題は「LE ROI ET L'OISEAU」。監督は、ポール・グリモー。
元々1952年に「やぶにらみの暴君」として発表され、その後、公開時の改変を監督が気に食わなかったために権利とフィルムを買い戻して手を加え、1979年に完成した作品です。
私が見たDVDは、ジブリの「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」の第1弾でした。
若き日の高畑勲や宮崎駿に多大な影響を与えた作品だそうです。
DVDには、2006年にデジタルリマスターされ、日本で劇場公開された時の舞台挨拶の様子も収録されていました。
高畑勲と爆笑問題の太田光がトークをしていたのですが、そこで太田光が言っていたのですが、「この作品は高畑さんというよりは、宮崎監督に直接的な影響を与えていますね」という言葉の通りだなと思いました。
具体的に言うと、よく分からない不思議な機械や乗り物が無数に出てきたり、お城で追いかけっこしてバトルしたり、巨大ロボットが出てきたり。
何と言うか「未来少年コナン」や「カリオストロの城」「天空の城ラピュタ」のエッセンスが散見されます。
作品は、ちょっと芸術寄りなのでその分おとなしめなのですが、でも様々なアイデアのてんこ盛りと味のあるキャラでなかなか面白かったです。
アニメならではの演出が多いのもよかったです。
何よりも秀逸なのは、キャラではなく舞台でした。
中世のお城風に見えながら、様々な機械や装置が出てくるところは未来風でもあり、そういった舞台に仕掛けのよく分からないギミックが満載でした。
これは楽しい。
さすがにキャラの動きには古さを感じさせますが、この舞台だけでも見る価値があるなと思いました。
さて、映画のストーリーについてです。
これは、非常にシュールです。
話としては一応筋が通っているのですが、細部の展開や結末に関しては、結構投げっぱなしの部分が多く、通常の起承転結の作品を見慣れていると、「えっ?」と思う部分が多々あります。
そのことを説明するために、まずは、粗筋をまとめます。
以下、粗筋です。(ネタバレなし。序盤まで書いています)
ある時代、ある場所、そこには、シャルル3+5+8で16世と呼ばれる王がいた。
その王は気分屋で尊大で圧制を敷き、人々から嫌われていた。彼はことあるごとに人々を死刑にし、自分を崇めるように国民に強要していた。
そんな彼に逆らう者がいた。
人間の法に従わない鳥である。
人の言葉をしゃべるその鳥は、城の上に巣を作って住んでいた。
彼は自分の息子を、シャルル16世の狩りから救って以来、シャルル16世を嘲り、からかうことを日課にしていた。
シャルル16世は、生きている人間が嫌いで、時間があれば自分の部屋に飾られた芸術作品を眺める日々を送っていた。
そして、自分の絵を画家に描かせては、その部屋に飾ったりもしていた。
彼にはお気に入りの絵があった。羊飼いの娘を描いた絵である。彼はその絵の中の少女に恋をしていた。
ある日の晩のことである。
王の部屋の美術品たちが動き出した。
羊飼いの少女は、その近くにある絵の中にいる煙突掃除夫の少年に恋をしていた。少女は絵をそっと抜け出し、煙突掃除夫のいる絵の中に入り込む。
だが、それを見ていた目があった。シャルル16世の絵である。
絵の中のシャルル16世は、少女を自分の物にするために絵から抜け出て、彼女を奪おうとする。
だが、羊飼いの少女と煙突掃除夫は、煙突を使って部屋の外へと逃げ出した。
その騒ぎに驚いた本物のシャルル16世が目を覚ます。彼は、もう一人の自分がいることに驚く。
絵から出てきたシャルル16世は、本物のシャルル16世を落とし穴から落とし、城の者たちに羊飼いの少女を探し出し、煙突掃除夫を捕まえるようにと命じる。
少女と少年は行く当てもなく、城の屋根の上で途方にくれる。そこに鳥が現れた。彼は二人の逃走の手助けを約束する。
そして、王と警察と、絵の中の少女と少年と鳥による王城での追跡劇が始まった……。
以下、ネタバレありの感想です。
絵の中から出てきたキャラが追跡劇を行う辺りは、アニメらしい展開です。
その彼らがチェイスを行う王城のギミックが秀逸です。
まず、平面移動は、動く玉座や、一人用ホバリングマシンなど、様々な奇妙な乗り物です。
そして、垂直移動は、外部にむき出しで、細い棒で支えられている奇妙なエレベーターです。
また、その空間を無視して自在に動き回る鳥、鳥のような翼を持ってムササビのように飛ぶ警察官など、いろいろな移動手段で楽しませてくれます。
さらに、ロープを使っての移動や、階段での追いかけっこなど、動きの多さも注目できます。
そういった中で、やはり目立つのはシュールな展開です。
まず、最初に「えっ?」と思うのは、シャルル16世の交代です。
絵の中の王と交代した後、映画の最後までそのままです。……シャルル16世、死んでいる?
次に驚くのは、貧困層の住む地下街での巨大ロボットの登場です。
なんで国王、こんなロボット用意しているの? そして、地下街破壊しまくりだし。
そして最後にびっくりするのは、巨大ロボットを奪った鳥が、王国の城を嬉しそうに全部破壊してしまうところです。
国王をこらしめるのではなく、単に破壊を楽しんでいる……。
ちなみに、この王城の崩壊は、ラピュタの崩壊的に気持ちがよいです。
なんというか、最初から丸くまとめる気がないのだろな監督はと思いました。
そういった点で、けっこう変わっていて面白かったです。
最後に、DVDに収録されていた高畑勲と太田光の舞台挨拶について少し書いておこうと思います。
この、「王と鳥」の劇場公開日は、「ゲド戦記」の公開日と同じ日だったそうです。
そのことをネタにした太田光が「この日にぶつけてくるとは、高畑さんの宮崎潰しだなと思いましたよ」と言い、それを受けて高畑勲が「あはははは」と笑っていたのが印象に残りました。
映画以上にシュールだなと思いました。
ちなみに、太田光の台詞には「ちょっと違うだろう」と思うところが多々ありました。