映画「クライング・ゲーム」のDVDを十四日前に見ました。
1992年のイギリス映画で、監督・脚本はニール・ジョーダン。
ニール・ジョーダンは、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年)の監督や、「マイケル・コリンズ」(1996年)の監督・脚本をしています。
また、本作はアカデミー賞の脚本賞を取っています。
ネタバレしない方が確実に面白い映画なので、見る気満々の人は以下の感想は読まない方がよいかもしれません。
Amazonの商品説明「ストーリー展開も、じつに意表をついた奇想天外で甘美な味わいに満ちた成り行きへと突き進んでいくのだが、そこは記さないほうが筋というものだろう」というのは的を得ています。
「意表をついた奇想天外で甘美な味わいに満ちた成り行きへと突き進んでいく」という、まさにそのままの展開です。
「成り行きへと突き進んでいく」といった微妙な言い回しがぴったりの映画です。
というわけで、以下感想です。
さて、この映画ですが、昨年の大晦日に見ました。
ちょうど、後輩の酒氏がコミケで上京してうちに来ていたので一緒に酒を飲みながら観覧しました。
だいたい酒氏が上京してくると、酒氏が持ってきたトンデモ・ムービーを見ることが多いのですが、この日は、1月1日に私が帰省する関係でDVDを消化しないといけなかったので、私が借りているDVDを掛けることになりました。
そして見始めて二人で言った台詞が「いつものトンデモムービーに勝るとも劣らない!」でした。
いや、なんというか、映画の冒頭でいきなり一回超展開が入り、その後、前半でもう一回超展開が入ります。
真面目な映画なのですが、真面目さが滑稽に見えてくるほどの展開の予想外さに、なんというか二人ともくらくら。
映画ではIRAの陰謀に巻き込まれたりするのですが、何と言うか、超展開でてんぱっている主人公の前では、IRAなど些事にしか過ぎず、私と酒氏は口を揃えて「IRAが哀れだ」と呟く始末。
最後には酒氏が「いやー、いいトンデモ映画でしたよ!」と大喜び。
アカデミー脚本賞で真面目な映画を流したつもりだったのですが、凄いぶっ飛んだ映画でした。
いやもう本当に、ハリウッドの人たちは「好きだね〜」と思いました。
映画は、そんなわけで色々な意味で面白かったです。
さて、この映画の超展開について書かないといけません。
以下、ネタバレ満載です。粗筋を交えた感想です。
この映画は、主人公らしき人物がIRA(アイルランド共和軍)の、森の中の秘密のアジトに拉致されるところから始まります。
□Wikipedia - アイルランド共和軍
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82... 主人公らしき人物は、兵士らしいのですが、その素性は全く分かりません。映像から唯一分かることは、デブなことぐらいです(役者はフォレスト・ウィテカー)。
彼は監禁され、見張りについた男と会話をします。彼は見張りの男と互いに名前で呼び合うようにしたりして、相手に自分を人間として認めさせることで、殺されることを防ごうとします。
そして徐々に相手の心を懐柔していき、親しくなっていきます。
しかし処刑の瞬間が近付き、彼は見張りの男の迷いを利用して逃げ出します。見張りの男は必死に兵士を追い掛けます。
そして、兵士は道路にたどり着き「やった、脱出成功だ!」と思った瞬間、装甲車にひき殺されます。
「はっ!?」
ここで観客はぽかんとします。
こいつ、主人公じゃなかったの?
その直後に、兵士の襲撃が開始され、アジトは木っ端微塵に吹き飛びます。
主人公だと思っていた人間が死に、その舞台もなくなり、いきなり足下のはしごを外されたような気分になって冒頭の話は終了します。
はっきりと言って、この時点で「何〜っ!」と驚きました。
このままじゃ、映画の残り時間が余り過ぎているので映画は続きます。
主役の交代です。
これ以降の主役は、見張り役だった冴えない男です。
彼は、拉致されていた兵士を追い掛けていたので、アジトの襲撃に巻き込まれずに済みました。
彼は兵士と話していた時に、「自分が殺されたら恋人にそのことを伝えて欲しい」と言われていたので探しに行きます。
そして、接触を試みるのですが最初は拒絶されます。
しかし、その恋人が男に絡まれているのを助けてあげたことで信頼を得ます(主人公はIRAの兵士ですので割と強いです)。
そして次第に恋仲のような雰囲気になっていきます。
主人公は、「兵士との約束」と「恋の雰囲気」との間で揺れ動きます。
そして、相手の部屋でベッドインすることになります。そのベッドインの直前、相手が服を脱いで主人公は驚愕します。
拉致されていた兵士の恋人は男だったのです。女装していた男……。
主人公は「キスもしたのに〜〜」と驚き、その場でゲーゲー吐きます。
相手は「聞いてなかったの!」とびっくり。
映画の中の二人も驚いていますが、観客の方がもっと驚愕しています。これが二つ目の超展開です。
この「恋人が男だった」展開は、その瞬間はびっくりしましたが、よくよく考えれば伏線は巧妙に張られていました。
拉致された兵士が、自分が引っ掛けられた女をやたら罵倒していたり、見張りの男に向かって嬉しそうな顔を始終向けていたり。
それに、小便をする時に「縛られたままなので手が使えない!」と言い、見張りの兵士に自分の一物を触らせて喜んでいたり。
見張りの男と会話して仲良くしようとしていたのも、実は脱出のための交渉ではなく、単に男が好きだったからのようですし……。
というわけで、完全に騙されました。
それに、この兵士役のフォレスト・ウィテカーは、よく見るとテディベア系です。その手の人の、一つのパターンです。
何と言うか、フォレスト・ウィテカー渾身の演技だよなと思いました。
映画は続きます。
以降、どんどん相手に惚れられていく主人公。彼は色々な意味で人生投げやりになっていきます。
そして再登場するIRA。でも、主人公にとっては、IRAなど最早些事にしか過ぎません。
さらに、IRAに女装の男が狙われるようになり、真面目な主人公は仕方なく彼女(?)を守るように動きます。
そして、IRAが道化のような役回りをする中、仕方なしの成り行きで彼女(男)を頑張って救おうとします。
結果的に、彼女(男)がIRAの女を射殺してゴタゴタは終わります。
主人公は、IRAのメンバーを殺した彼女(男)の代わりに刑務所に入ります。彼にとっては、刑務所の中が一番安全だし、心休まる場所だったからです。
しかし、彼の思惑は外れます。
彼女(男)は、“自分のために刑務所に入ってくれた”主人公に、永遠の愛を捧げ、毎週のように刑務所に訪問してくるようになります。
そして「出所まで、あと○日ね!」とラブラブで語り掛けます。
「ああっ……」両手で頭を抱える主人公。
映画は、主人公が全てに投げやりになってため息を吐く場面で終わります。
何と言うか、主人公がどんどん脱力して、人生がどうでもよくなっていく様を、乾いた笑いとともに鑑賞するという一風変わった映画でした。
でもまあ面白かったです。
アカデミー脚本賞は、時々変な映画が紛れ込んでいるのですが、これもそういった感じの一作だなと思いました。
何と言うか、斜め上の展開が素敵な映画でした。
彼女(男)が裸になった時、一物がぽろんと見えていたのが凄かったです。モザイクなしです。
凄い映画だなと思いました。
しかしまあ、彼女が男なのは、気付いていたのに気付けなかったのが悔しかったです。
彼女が出てきた時に「あれ、男の声だ」と言い、何度か「男の声だよね」と話をしていたのにも関わらず、男だと確信できなかったのは敗北です。
あとどうでもいいですが、酒氏が言っていた「IRAがかわいそう」というのは、その通りだなと思いました。
ここまで滑稽な役を割り当てられたIRAは、あまりないんじゃないかと思いました。