映画「イヴの総て」のDVDを一月上旬に見ました。
1950年の白黒映画で、監督・脚本はジョセフ・L・マンキーウィッツ。
アカデミー賞の、作品賞、助演男優賞、監督賞、脚色賞、衣装デザイン賞、録音賞を受賞で、ノミネートは、主演女優賞、助演女優賞、撮影賞、劇・喜劇映画音楽賞、美術(監督)賞、美術(装置)賞、編集賞です。
何と言うか総なめ状態です。
でも、映画を見て納得。「そりゃあ、取るなあ」という出来でした。
中盤以降の主人公の豹変振りに、上質のホラー映画を見るような戦慄を覚えました。ホラー映画ではないのですが、かなり怖い映画でした。
非常によい映画でした。そして、恐ろしい映画でした。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。終盤の冒頭まで書いています)
演劇の権威ある賞の受賞式。そこで今年賞を得ることになったのは、イヴという名の若い女優だった。
だが、彼女は一年前までは演劇界とはまるで縁のない女性だった。彼女の真の姿を知る人間たちは、その受賞を苦い思いで見ることになった。
八ヶ月前。
大御所女優の演劇を毎日見に来ている一人の若い女性がいた。その彼女を見つけた、大御所女優の友人で人気脚本家の妻は、大御所女優の楽屋に連れて行く。そして「あなたの熱心なファンだ」と紹介する。
その女性イヴは、不幸な生い立ちを語り、大御所女優の演劇を見ることで感動し、通い詰めるようになったと告白する。
その話に感動した大御所女優は、彼女を自分の家に置き、仕事を手伝わせることを決める。
それからしばらく経った。大御所女優は、イヴが物凄く有能なことを知る。全ての仕事をそつなくこなし、何も言わなくても先読みして、物事を手配してくれている。
大御所女優はイヴを気に入り、彼女と行動をともにする。
しかし、古くから大御所女優に仕える使用人が奇妙なことを告げる。
「イヴは、あなたのことを観察し、振る舞いや好みなどを徹底的に研究している」
大御所女優は、その言葉を鼻で笑う。しかし彼女の人生は、徐々にイヴによって乗っ取られ始める。
イヴは、大御所女優の付き人として得た人脈を利用して、大御所女優の舞台の代役の座を射止める。そして、自分が代役を務める時に記者を集めて、絶賛の記事を書かせる。
彼女はそのために、大御所女優の友人をはめる。人気脚本家の妻はイヴに弱みを握られ、彼女の策略に加担させられる。
そしてイヴは、一気に主演を手に入れる。
さらにイヴは、辛辣で知られる影響力のある演劇批評家を自分の策略に巻き込もうとする。
だが、演劇批評家の方が一枚上手だった。彼はイヴの過去に疑問を感じ、彼女の素性を調査する。
演劇批評家は、調査結果をイヴに突き付ける。彼女が大御所女優に語った話は、全てでたらめだった。
追い詰められたイヴは、その本性をむき出しにして演劇批評家に対峙する……。
非常に純朴そうに見えていた若い女性が、徐々にその本性を現して、相手の人生を乗っ取っていく様は鳥肌ものでした。
というか、本気で怖かったです。
映画の途中から、イヴの台詞や行動が恐ろしいです。
非常にまっとうで相手を気遣うような台詞を言うのですが、裏を知っている観客には、それが相手をはめる罠だというのがありありと分かります。
「きゃー○○さん、逃げて〜〜〜! それは罠だから〜〜〜!」
という感じで、映画の中の人は、その罠に気付きません。そして、それが罠だと気付いた時には、イヴに完全に手綱を握られて主導権を奪われています。
映画の途中まで、これらのイヴの行動が、天然なのか策略なのか分かりませんでした。
そして、演劇批評家が彼女の企みを暴き始めると、それが全てイヴの作戦だと分かって愕然とします。
「どこまで黒いんだよイヴ!」という感じです。
ええもう真っ黒です。
気持ちいいほど「騙す気まんまん」の人でした。凄い。
映画のラストは、ちょっとにやっとさせられる終わり方でした。
演劇批評家の台詞「イヴが全てを知っているから……」は、秀逸だなと思いました。
確かに、イヴは全てを知っています。
演劇界で成り上がる方法を……。人を騙して人生を乗っ取る方法を……。
非常によい映画でした。