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2008年02月28日 14:48:28
巴里のアメリカ人
 映画「巴里のアメリカ人」のDVDを一月中旬に見ました。

 1951年の映画で、監督はヴィンセント・ミネリ、脚本はアラン・ジェイ・ラーナーです。

 アカデミー賞の作品賞、脚本賞、撮影賞(カラー)、ミュージカル映画音楽賞、美術監督・装置賞(カラー)、衣装デザイン賞(カラー)を受賞して、監督賞にもノミネートされた作品です。

 うーん、でも、個人的には外れでした。

「ミュージカル系の映画には地雷が多い」というのもあるのですが、色々と納得いかなかところが多い映画でした。



 ミュージカル系の映画を面白いと思うかどうかについては、たぶん鑑賞者側の文化的背景が大きいと思います。

 日本には歌劇文化がありません。なので、「歌って踊って」のシーンになると退屈に感じます。

 逆に欧米人は、そこに興奮するのでしょう。

 というわけで、ミュージカルパートに入った時にストーリーが停滞する映画は、私の中では全て評価が低いです。

 この映画も、そういった類の作品でした。



 あと、この映画に関しては、時代的に「フルカラーだということが評価の向上に役立っている」のだと思います。

 映画のセットや衣装も、「色彩豊か」であることを強調する配色になっていましたので。

 なので、公開された時点で、上手く消費者のニーズを捉えていた作品だったのでしょう。

 逆にタイムリーな分、今見るとどうしてもマイナス評価になってしまいます。



 さて、この映画には二つの納得のいかない点があります。

 一つ目は俳優、二つ目は脚本についてです。

 そのことを説明する前に、まずはこの映画の粗筋を書いておきます。



 以下、粗筋です。(ネタバレあり。最後まで書いています)

 主人公は、巴里に住む売れない画家のアメリカ人。

 だが彼は性格がよく、周囲の人々と仲良くしており、子供たちに慕われていた。

 ある日、その主人公の隣人であるピアニストの許に、若くして成功した一人の歌手がやって来る。

 金持ちになっても偉ぶるところのない人格者の歌手と、主人公は友達になる。

 それから数日後、道で絵を売っていた主人公の許に、一人の女がやって来る。

 彼女は父親が金持ちの未亡人で、芸術家をプロデュースし、その芸術家を恋人にすることを趣味としていた。

 主人公はいったんは彼女の申し出を断るが、チャンスを物にすることも大切だと思い、彼女をパトロンにする。

 しかし主人公は、そのパトロンと行ったカフェで、一人の女性を見つけて恋に落ちる。彼女はまだ若いが、利発で活動的な女性だった。

 主人公は猛然とアタックを掛け、彼女と付き合い始める。しかし、その仲が進展していくに従い、彼女は暗い表情を見せ始める。

 なぜならば彼女には婚約者がいたからだ。彼女は、自分を助け、援助してくれたその婚約者を愛していた。

 彼女は、その人物に対して「愛情」を持ち、主人公に対しては「恋心」を抱いていた。

 主人公は、彼女をものにするにはどうすればよいか考える。そして、友人の歌手に相談する。

 歌手は、自分の思いを素直に伝えることが何よりも大切だと言う。

 主人公はその言葉に力を得て告白する。しかし、彼女の婚約者は、主人公が相談をした歌手その人だった。

 ──自分は、あの人格者の友人から婚約者を奪うことになる。

 主人公は悩む。その彼に対して「私は婚約者と結婚して渡米する」と彼女は言う。

 主人公は絶望し、彼女への思いを断ち切るために、パトロンと付き合うことに決める。

 彼女が旅立つ直前、主人公とパトロン、歌手と彼女は同じパーティー会場で出会う。

 主人公は、思いを必死に断ち切ろうとする。そして、最後の願いとして彼女を抱擁する。

 その現場を、歌手が陰から見ていた。

 失意の歌手は、婚約者と別れ、彼女は主人公の許に走る。



 主人公は、若い女性に一目惚れするのですが、その女性があまり可愛くありません。

 ブスとまでは言いませんが、美人ではありません。頑張って褒めて「チャーミング」が限度です。

 この女性に対して、外見だけで一目惚れするのはミスキャストだろうと思いました。

 何か切っ掛けがあり、そのエピソードで惚れるのならまだしも、外見だけで惚れるのならば、説得力のある外見をしている必要があります。

 少なくとも、この女優に関しては、そういったところがありませんでした。

 外見から得られる情報が、そういった説得力を感じさせるだけのものではありませんでしたので。



 いちおう、この女性に関しては、想像の中で出てきた女性に似ているという伏線があります。

 しかし、想像は想像です。その女性の姿である理由は、やはり語られていません。

 いくらなんでもそれはなあと思いました。



 次に、脚本上納得いかなかった点について書きます。

 ヒロインは婚約者を捨て、主人公に走るのですが、客観的に見て、婚約者の方が素晴らしい人間です。

 人格的にも優れていて、社会的にも成功していて、さらには過去においてはヒロインを命懸けで助け、さらには援助して一人立ちするまで支援しています。

 外見もよく、若く健康的で、さらに性格も明るく素直です。

 ヒロインが彼を捨てる理由がどこにもありません。

 唯一の理由は、ヒロインが「恋は盲目」状態に陥っていることです。

 つまりこの映画は「いきなり現れて口説いてきた経済的に困窮している軟派男に、一時の気の迷いで走ってしまう若い女の話」ということになります。

 映画は盛り上がったラストシーンで終わりますが、たぶんこの後に待っているのは辛い現実です。

 どうするんだろう、このヒロインはと思いました。

 この映画の結論は「恋は全てに勝る」なのだと思います。しかし恋というのは、一時の気の迷いなので、それを基準に人生の重要事を決定すると、多くの場合失敗します。

「なんか、納得いかない映画だな」と思いました。

 せめて婚約者の歌手に瑕疵があれば「よかったね」と思えるのですが、確実に歌手の方がランクが上なので「恋で暴走して下手を打ったな」としか見えません。

 うーん。

 それでも「恋は全てに勝る」という考え方は、それはそれで一つの価値観です。

 なので、この映画が評価されるということは、世の中にはそういった思考方法の人が多いのだろうなと感じました。
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