映画「マラソンマン」のDVDを一月中旬に見ました。
1976年の映画で、監督はジョン・シュレシンジャー。原作・脚本はウィリアム・ゴールドマン。
ウィリアム・ゴールドマンは、「明日に向って撃て!」や「大統領の陰謀」「ミザリー」の脚本を書いています。
この作品のラインナップからして「当たり」のような感じがしていたのですが、映画を見た感想は素直に言って「消化不良」という感じでした。
雰囲気とか、個々のパーツの出来はよいのですが、肝心のところで伏線っぽい部分が回収されていません。
ちなみに、主役はダスティン・ホフマンです。
映画を見終わった時の印象は「原作物で、脚本に切り詰める時に、重要なエピソードのいくつかが抜け落ちた感じだな」でした。
そして、その後に、原作と脚本が同じ人物だというのを知りました。
「おいっ、自分で切っておいて、そんな切り方するか?」と思いました。
思わせぶりで重要そうなキャラクターが、終盤で消化不良の台詞を吐いたりします。
もしかしたら、自分で切ったせいで「あれも残したい、これも残したい」と思って、大胆に切れなかったのかもしれません。
うーん。
もうちょっと上手く、映画用にアレンジして欲しいなと思いました。
さて、雰囲気に関してです。
よく出来ていました。
「これぞ、サスペンス」といった感じの画面作りです。
少し粗いフィルム、体のパーツしか見せないカメラワーク、静と動の使い分け。
予備知識なしでも、いきなり冒頭のシーンで「これはサスペンスだ」と感じさせてくれます。
ここは上手いなと思いました。
次に個々のパーツです。
特によかった部分が二つあります。
以下、ネタバレありです。
サスペンスなので、ネタバレが嫌いな人は読まないで下さい。
よかったパーツの一つ目は拷問シーンです。
拷問を行う敵は、歯科医師です。
キュイーンというドリルの音を鳴らしながら歯を削っていき、神経を剥き出しにしてガリガリやっていきます。
これが本当に痛そうです。
うわーっと思いました。
このシーンは非常によくできています。
この拷問を行っているローレンス・オリヴィエは、この役でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされています。
確かに印象に残るシーンでした。
二つ目のパーツは、ラストの駆け引きのシーンです。
全財産として大量のダイヤモンドを持つ敵。その敵に対して主人公のダスティン・ホフマンが、下水にダイヤモンドを投げ捨てていくことで精神的拷問を与えていきます。
ここはかなりぐっと来ます。
一つ目も二つ目も「拷問シーン」なのですが、この映画はこういったシーンが非常によくできていました。
ついでに、悪かった部分も二つ書いておきます。
一つ目は終盤の伏線の不回収による消化不良。二つ目は、話が繋がらないまま宙ぶらりんにされる序盤の不親切な設計です。
伏線の件に関しては既に書いたので、序盤のことについて書きます。
序盤は二つの異なる話が平行して進みます。
ダスティン・ホフマン演じる大学生のパートと、よく分からない抗争に巻き込まれている謎の男の話です。
この後者の話が断片的なので、なぜ抗争に巻き込まれているのか中盤になるまでさっぱり分かりません。
たぶん、「よく分からない」ことで、観客の注意を引いているのでしょうが、もう少し親切設計でもよいと思いました。
ちなみに、この映画で一番驚いたのは、序盤のラストで「二つのパートの繋がり」が明らかになった瞬間です。
「なるほど」と思いました。
そしてそれ以降、それを上回る驚きはありませんでした。
がっくり。
それに、「マラソンマン」の題名ですが、マラソンはあまり関係ありませんでした。
主人公がマラソンの練習をしているだけです。いちおう、「だから体力がある」というシーンが出てくるのですが、それ以上のものではないです。
おいおいと思いました。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。いくつか核心的なところをぼかして終盤まで書いています)
主人公は大学生。彼はマラソンを趣味にしている。
彼の父親は歴史学の教授で、戦後の赤狩りの際に自殺していた。
彼はある日、図書館で女性と恋に落ちる。そして、強引に誘って彼女と付き合いだす。
しかし、それからしばらく経ち、公園でスーツの男たちに襲われる。
その頃と前後して、一人の謎の男が、何かを運ぼうとしていて、誰かに狙われて、命を奪われそうになる。
彼は、誰かと会い、よく分からない敵と対峙する。そして、理由は分からないがピンチに陥る。
主人公は、彼女と付き合いながら、日々の生活を送る。
そんな彼の許に、一人の男がやってきた。それは兄だった。兄は実業家として、世界を飛び回っていた。
主人公は久しぶりの再会を喜ぶ。しかし、その直後に兄が何者かに殺された。兄の仕事は全て偽りだった。そして、その死に際に立ち会った主人公は、それ以降、危険に巻き込まれる。
主人公は兄から何も聞いていなかった。しかし謎の敵たちは、彼が何か伝言されたと勘違いした。
拉致され、拷問を受ける主人公。
辛くも逃げ出した主人公は、兄の復讐のために、そして自分の安全を確実にするために動き出す。
主人公が付き合っていた女は、敵の組織に繋がっていた。
彼は恋人から情報を引き出し、復讐に赴く。
そして、敵を次々と倒して敵のボスに肉薄し、そして直接対決する。
伏線っぽくて回収されていなかった部分について書いておきます。
一つ目は恋人の件。
思わせぶりな癖に、回収がほとんどされていません。たぶん、尺に入りきらなかったのだと思います。
二つ目は父親の件。
これはほとんど回収されていません。たぶん、過去で何かあったはずだと思います。
けっこう大きな伏線が二つも回収されていないはどうかなと思いました。
基本的に水準以上の作品だとは思いますが、見なければならない映画ではないなと思いました。他に見るべき映画はたくさんあるので。
ただ、拷問シーンだけは、記憶に留める価値があると感じました。