映画「キサラギ」のDVDを三月中旬に見ました。
2007年の作品で、監督は佐藤祐市、脚本は古沢良太。出演は、小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之です。
監督の佐藤祐市はテレビ系の人のようですね。
脚本の古沢良太は「ALWAYS 三丁目の夕日」の人です。
私が好きな「構造がきれいにできているタイプの作品」です。
映画は、劇場系の一舞台で進む会話劇で、なかなか面白かったです。
いちおうミステリー系に分類されると思うのですが、本格ではないです。なぜならば、答えの可能性がどんどん上書きされていくからです。
どちらかというと、カードゲームのような感覚に近いです。
それぞれのプレイヤー(出演者)が、場にカード(情報)を出すことで、推理の筋道が再構築されていくといった内容です。
話が進むたびに、「いや、それじゃあおかしいと思いますよ。実は……」といった感じで、新情報がどんどん明らかになっていく。
そのたびに、悪人や善人が入れ替わり、出演者たちの立場が入れ替わり、右往左往していく。
そういった感じの話です。
よくまあ、時間いっぱいまで、どんでん返しを延々と繰り返したなと思いました。
そして、最後は上手いこと落ちを付けたなと思いました。
やはり、最後に勝つのは、一番小さな数字(カードゲームでよくある、弱者が裏返って最強になる図式)じゃないと駄目ですからね。
でもまあ、この映画はヒットしないよなと思いました。
面白い、面白くないで言えば、及第点を遥かに超えて面白いです。
でも、三つ商業的な問題があります。
一つ目は、密室劇なところ。
普通の人は、場面の変わらない作品を好みません。環境の変化がないと、感情のダイナミックレンジが小さくなりますので。
やはり、景色の威力というのは、映像作品では重要です。
二つ目は、上書きどんでん返しの繰り返しなところ。
普通の人は、最初から最後まで頭を使う系の作品を好みません。二時間も頭を使うのが好きな人は、特殊な人たちです。
三つ目は、テーマがB級アイドルなところ。
これは致命的です。メジャー作品にはなれません。まあ、目指していないのでしょうが。
主人公たちが、謎の死を遂げたB級アイドルの一周忌に集まって追悼式をするなど、一般向けのテーマではありません。
なので、面白くてもヒットはしないなと思いました。
以下、粗筋です。(ネタバレは特になし。最初の方だけ書いています)
B級アイドルが謎の自殺をしてから一年が経った。
そのアイドルを扱うネットの掲示板の管理人主催の追悼式が、ビルの屋上の一室で行われることになった。
その場所に集まったのは、掲示板の管理人とその常連たち。
彼らは喪服を着て、往時のアイドルの話に花を咲かせた。
しかし、その話は徐々に不穏な方向に流れ始める。その切っ掛けは、その場に集まった一人が発した言葉だった。
「私はこの一年、死の真相について調べてきたんですよ。そして、自殺ではないと確信するに至ったのです」
その人物は、犯人の目星が付いているようだった。そして、掲示板での会話から、その犯人を推測しているようだった。
だが、話は二転、三転と大きく転がっていく。
彼らはそのアイドルについて、今までばらばらに情報を持っていた。その情報を徐々に明かしていくことで、その死の詳細が、そしてアイドルの人間関係が浮かび上がってきた……。
登場人物の中では、ユースケ・サンタマリアの上手さが目立っていました。
そして個人的に思ったことは、どんなに面白いものを作っても、元のテーマがマイナー過ぎるとメジャーを狙うのは難しいなということでした。
でもまあ、よくできた作品でした。