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2008年05月02日 13:12:14
ゴスフォード・パーク
 映画「ゴスフォード・パーク」のDVDを三月下旬に見ました。

 2001年の映画で、監督・原案はロバート・アルトマン。

 イギリス上流社会とその使用人たちを描いた群像劇。アカデミー賞脚本賞を取っています。



 個人的には「メイド映画」だなと思いました。

 現代社会のいわゆる「メイド」ではなく、本物の使用人の方の「メイド」です。

 DVDにはインタビューが付いており、もともとアガサ・クリスティーの作品を映画化しようと思って企画を始めたら、全部映画化されていたので自分たちで原案から作ったそうです。

 そして、貴族たちの使用人にスポットを当てた、ミステリーっぽい作品を作ろうとしたそうです。

 そのために、当時本当に貴族に仕えていた使用人たち(みんな老人)をアドバイザーに連れてきて、徹底的に使用人たちのリアリティーにこだわったそうです。

 なので、「メイド映画」だと思いました。

 たぶんメイドスキーの人たち(森薫とか)は萌え萌えの映画なのだと思います。



 映画は、先ほど「ミステリーっぽい作品」と書きましたが、ここはだいぶおまけっぽいです。

 話の中心は、貴族の「家」の「使用人」たちの群像劇です。

 137分の映画中、最初の90分ぐらいは使用人たちの人間関係と、貴族たちの人間関係をそれぞれスイッチして描写することで進みます。その間、ミステリー要素は一切ないです。

 映画は、狩りのために複数の貴族が自分たちの使用人を連れて一つの家に集まっている舞台設定です。

 面白かったのは、この貴族たちの力関係が、より拡大されて使用人たちの人間関係に反映されていることです。

 食事の時に座る席など、かなり露骨です。

「差別は、差別される側でもさらに再生産される」という構図はよく見るのですが、この映画では「拡大再生産される」という感じでした。

 抑圧された人間は、さらにその歪みを周囲に向けるというところでしょうか。



 以下、明確なネタバレではありませんが、少しヒントになるかもしれないことを書きます。

 まあ、それが分かっていたら解けるタイプの作品ではないので問題はないと思うのですが、いちおうミステリーなので「一切のネタバレ拒否」という人もいると思いますので宣言しておきます。

 それでは続きです。



 ……そして、最後の40分ぐらいで事件が置きます。

 この後、ミステリーが始まります。

 ただし、仕掛けを解くタイプのミステリーではありません。ホワイダニット(Whydunit = Why (had) done it)タイプのお話です。

 そこで、これまで描かれていた人間関係の裏が解き明かされていきます。

 この終末部分を見て、「おおっ」と思わず声を上げてしまいました。

 キーワードは、犯人が言う台詞「パーフェクトな使用人」です。

 パーフェクトな使用人であるからこそ事件を起こした。

 その動機と「パーフェクトな使用人」という言葉が、映画をぐっと引き締めてくれます。

「なるほど、確かにこれは使用人の映画だ」と納得させてくれます。

 よくミステリーを見ていて「全てが裏返る」感覚や「全てが解ける」感覚を味わうことがあるのですが、この映画は「全てが一点に収束する」タイプの感覚を味わうことができます。

 上手いなと思いました。

 テーマと、事件と、その答えが、非常にきれいにはまっていたので感心しました。

「パーフェクトな使用人」の犯人が格好よく見えました。



 以下、粗筋です。(答え部分のネタバレはなし)

 ある貴族の家で狩りが行われることになった。

 その招待客と使用人が屋敷を訪れる。

 客の中には、その貴族の親族や友人以外にも、彼に融資をして欲しいと思っている人間や、貴族の知人の映画人もいた。

 彼らはそれぞれ、この屋敷に来た思惑があった。

 だが、その階上の人間関係とは別に、階下の人間関係もあった。使用人たちの世界だ。

 彼らは階上の人間たちにサービスをしながら、それぞれの生活を送っている。そして、彼らの力関係は、階上の人間たちの力関係を反映していた。

 屋敷の当主の親族の使用人としてやって来た若いメイドは、彼らと触れあいながら、それぞれの人柄を知っていく。

 そこには多くの人間がいた。

 厳格なメイド長、性格のきついコック長、執事やメイドたち。彼らの中には、親の時代からの使用人もいた。そして、紆余曲折の末、使用人になった者たちもいた。

 そして、二日目の晩餐の後、悲劇が起きた。屋敷の当主が死んだのだ。

 その死体は他殺によるものだった。しかし、その死体には奇妙な点があった……。



 しかしまあ、貴族様ともなると、女に手を付け放題なんだなというのが正直な感想です。

 精力旺盛過ぎです。

 あと、人間に権力が集中してもよいのは一代までだよなと思います。

 だいたい、代を重ねるごとに、なぜその人に権力を集中させているのかが本人に分からなくなってきます。

 つまり、貴族の義務を理解できなくなる。

 権力には義務があるというバランス感覚が分からなくなる。つまり、天秤のバランスが権力だけ重くなってしまう。

 まあ、一代目でもそのバランスが分からない人も多いので、何とも言えないのですが。

 ただ、個人に対してチャンスが開かれていない社会は駄目だなと思います。

 人間は努力が報われないと分かると荒れ始めますので。



 もう一つ、映画中で印象に残ったシーンに付いて書きます。

 殺人が起こる少し前に、映画俳優がピアノに向かって演奏しながら歌います。

 これが、非常によいです。

 こういった貴族の屋敷で、美声でこういった弾き語りをされるとくらくらくるのがよく分かります。

 これはいい。

 そう思わせてくれます。

 弾き語りが贅沢なものだと、感じさせてくれるよいシーンでした。



 あと、全体的に「資料としてよい映画だよな」と思いました。
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