映画「或る夜の出来事」のDVDを六月下旬に見ました。
1934年の白黒映画で、監督はフランク・キャプラ。脚本はロバート・リスキン。
フランク・キャプラの映画はいいですね、今見ても素直によいなあと思います。
これまで見た他の作品が割と社会派(というか、純真な正義対、大人の悪といった感じ)だったのに対し、この映画はラブロマンスでした。
系統としては「ローマの休日」なんかのイメージに近いです。
富豪の娘と、偏屈な記者の恋の物語です。
よかったです。
この映画には、物語が盛り上がる仕掛けがいくつか用意されています。
まずは、“移動要素”です。
アメリカ西部の富豪の娘は、父親の目を盗んで、アメリカ東部にいる婚約者(娘が一方的に決めた)に会いに行きます。
飛行機や電車だと、すぐにばれるので、敢えて長距離バスを使います。
なので、ロードムービー的な移動要素があります。そのために、事件(障害や予定外の事件)が次々と起こり、観客を飽きさせません。
次は、どちらに転ぶか分からないといった“不確定要素”です。
富豪の娘は、婚約者に会いに行こうとします。そこで同乗した記者は、彼女を無事に婚約者の許にたどり着かせる代わりに、その道程を独占記事にすることを提案します。
この二人が、恋に落ちそうな予感は映画的に必然なのですが、富豪の娘は婚約者に会いたい一心で親元を飛び出しています。
そのため、彼女がどちらに転ぶか分からないといった“不確定要素”が観客の興味を引きます。
あとは、“追跡劇”の要素も入っています。
娘の父親に雇われた探偵たちが、彼らを探していて、それを二人は出し抜いていきます。
このように、様々なエンターテインメント要素が入っており、観客を飽きさせません。
よくできているなと思いました。
また、主人公の記者も魅力的です。
新聞記者だが、偏屈で仕事一筋で、恋愛にはほとんど興味はなく、上とは絶えず衝突している。
世俗的な意味では出世とはまるで縁がない不器用者だが、現実的な問題解決能力はずば抜けている。
そして金に対する執着はなく、富豪の娘を「甘やかされて育った娘」「父親の教育が悪いせい」と言って叱り、懸賞金などは無視して、あくまで彼女を仕事の対象として扱う。
さらに、ユーモアのセンスもある。
なかなか魅力的な人物です。
そして、頼って惚れてくる富豪の娘に心が傾いていく。
当然、すんなり上手くいくわけでもなく、どちらに転ぶか分かったものではないので、そこはハラハラさせられます。
恋愛映画なのに、私が突っ込みを入れたくなるような場所もなく(たいてい、何らか突っ込んでいるのですが)楽しめました。
以下、粗筋です。(ある程度のネタバレあり。ただし、この展開は特に書かなくても予想が付くと思います。終盤に入ったところまで書いています)
主人公は新聞記者。彼は、アメリカ西部から東部に移動する長距離バスで、一人の娘と隣の席になる。
最初は少々の対立があったものの、彼女は旅慣れていない様子で、彼はそれとなく助け船を出す。
そして、主人公は、彼女が行方不明になっている富豪の娘だと気付く。彼女は、アメリカ東部にいる婚約者の許に行こうとしていた。彼女の父親はその婚約に反対だった。
主人公は、彼女の旅を助ける代わりに独占記事を書かせてもらう約束をする。
そして、紳士的に振る舞いながら、様々なトラブルを解決していく。
旅が進むにつれ、主人公の魅力に富豪の娘は気付き始める。
そして、いつしか恋に落ちる。
しかし、東部が近付いてきて旅が終わろうとしていた。
彼女は主人公に告白する。しかし、主人公はすぐには返事をしない。彼は一足先に新聞社に戻り、独占記事を渡して退職金をもらい、彼女に返事をするために車を飛ばす。
だが、二人は行き違いになった。主人公に逃げられたと思った富豪の娘は父親を呼ぶ。父親と婚約者は今回の件を切っ掛けに和解していたからだ。
そして、二人のすれ違いは続いたまま、結婚式の日が近付いていく……。
最後は、「富豪の親父さん、グッドジョブ!」という感じでした。
そして、締めのシーンもニヤリとさせられるユーモア溢れるものでした。
面白かったです。
これぐらい古い作品でも、今見ても面白い映画は時々ありますね。
時代で風化しないものを作るのは、凄いなと思います。