映画「ジョゼと虎と魚たち」のDVDを七月上旬に見ました。
2003年の映画で、監督は犬童一心。脚本は渡辺あや。
のごさんとのDVD鑑賞会でこの日見た映画の中では一番よい作品でした。
さて、この映画で一番凄いなと感じたのは、そのリアルさです。
出てくる登場人物の台詞、行動、顛末が非常にリアルだと感じます。
この場所でこの人物はこう言うだろうし、こう行動するだろうし、時間が経つとこうなるに違いない。納得がいく。そう思わされます。
特に強くそう感じた点が三つあります。そのことを書こうと思います。
まず一点目は性描写です。
この映画では、主人公が“何人か”と“何度か”ことに及びます。
そのシーンがとにかくリアルです。
同じ男性であっても、相手となる女性、互いの立場、付き合っている時間、感情によってどういった接し方をするのかが変わります。
その違いが非常に丁寧に描かれています。
特にそのことがよく分かるのは、前戯の仕方が全部違うことです。相手によって、その時の気持ちによって、付き合っている長さによって、丁寧になったり、ぞんざいになったり、ためらいがちになったりします。
ハリウッド映画によく見られる、記号としてのセックスシーンではなく、コミュニケーションとしての性行為が描かれています。
この映画は、そういったシーンでなくてもリアルさを感じましたが、こういった“二人の関係が緊密になるシーン”に、そういったリアルさが集約されているように感じました。
二点目は開いた世界です。
映画なので閉じた世界ではあるのですが、登場人物がストーリーのための行動ではなく、登場人物自身のための行動を取り、多くの人物のストーリーが集約ではなく発散します。
その加減がよく、“開いた世界”=“リアルな世界”を感じさせます。
そのため、それぞれの人物がそれぞれの人生を歩んでいるという感覚を与えてくれます。
三点目は、これは私が感じた点ではなく、一緒に見ていたのごさんの指摘で気付いた点です。
女性の台詞のリアルさです。
男性の思考パターンでは出てこない、女性独特の思考から出てくる台詞です。
主人公とヒロインが付き合い出した後、動物園に初めて行ったヒロインが、主人公に「ありがたく思えよ」と言うシーンがあります。
好きな人ができたら虎を見に行きたかった。主人公と虎を見に行った。だから「ありがたく思えよ」という内容です。
男性はこういう物の考え方はしないので、なるほどなと思いました。
以下、粗筋です。(ネタバレあり。だいぶ端折って中盤の終わりぐらいまで書いています)
主人公は雀荘でバイトをする大学生。彼はそこで不思議な話を聞く。早朝に乳母車を押している不思議な老婆がいるという話だ。
彼は仕事帰りの早朝にその老婆に出会う。乳母車には自分と同じぐらいの年頃の女性が乗っていた。彼女は足が不自由だった。
主人公はその老婆の家に行き、食事をご馳走になる。非常に美味しく、彼はそこに通うようになる。
そして、足が不自由な女性と親しくなる。
その頃彼は付き合っている女性がいた。だがそれほど好きではなく、おざなりなセックスをしていた。
彼女は主人公に、一人の女性が興味を持っていると告げる。それは福祉系の学科に通う、お嬢様タイプの女の子だった。主人公はその女性と付き合いだす。
そうこうしている内に老婆が死ぬ。主人公は足の不自由な女性のために援助を行う。そのうちに恋愛感情が高まり、彼女と付き合いだす。
主人公は、彼女を連れて実家に行こうとする。だがその道のりは遠く、思うようにはたどり着けなかった……。
さて、個人的に一番印象に残ったシーンについて書きます。
主人公の恋人だった福祉系の女子大生が、ヒロインに主人公を取られた後のシーンです。
ここで彼女は「身障者の癖に!」とヒロインをぶちます。
これは「うわぁー」と思いました。
この映画は、身障者をヒロインにしていますが、身障者だからといった神格化や蔑視などの特別扱いは一切していません。
そういった文脈の中でこの台詞は吐かれます。
この台詞を吐いた彼女は、自分の言った言葉のせいで、福祉の仕事を目指していた大学生活を全否定します。
結果、就職活動を行えるはずもなく落ちぶれます。
凄いなと思いました。
あと、この映画は何よりも池脇千鶴がよかったです。
彼女の「演技」と、「演技の積み重ねによるヒロインの造形」は素晴らしかったです。
それとこれは完全に個人的な意見ですが、池脇千鶴の濡れ場は非常にぐっときました。エロかったです(私の最高の褒め言葉)。
とてもよい映画でした。