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2008年09月29日 21:08:56
 映画「ダークナイト」を劇場で八月中旬に見ました。

 2008年の映画で、監督はクリストファー・ノーラン、脚本はクリストファー・ノーランとジョナサン・ノーランの兄弟です。



 前評判がべらぼうに高い映画でしたが、その前評判の高さも納得。これは非常によい映画です。

 アクション物としても、クライムサスペンス物としてもよく出来ていて、演技も最高で、脚本も非常に高レベルで、バットマン映画としてもよく出来ている。

 全てにおいて完成度が高く、それが高度に交じり合って結晶化しています。

 ジョーカー役のヒース・レジャー(今年の頭に他界)の話題が大きく出ていますが、それ以外の人たちのキャラも演技も立っています。

 そして、何よりもよく出来ているのは脚本です。

 様々な対立構造や闘争を描きながら、それが高いレベルで融合して昇華している。

 これは面白いです。

 さらに、金に糸目を付けないアクション。

 プログラムを読んでびっくりしたのですが、トレーラーの倒立前転シーンは、本当にトレーラーを街中で倒立させてひっくり返したそうです。

 そして、病院の爆発シーンも、本当に病院を爆破したそうです。

 凄い。

 もう、なんというか、あらゆるところで「凄い」が連発する映画です。

 152分という上映時間を、全く長いと感じませんでした。次から次に登場する危機や苦悩や仕掛けに、最後まで興奮しっぱなし。

 これは「今年一番」と言う人が続出するのも頷けます。私も現時点では今年で一番の映画です。

 久しぶりに、もう一度映画館に見に行ってもいいと感じています。それぐらい出来がよかったです。



 さて、この映画は「バットマン・ビギニンズ」の続編になります。前作を見ていなくとも楽しめますが、見ているとさらに楽しめると思います。

 主人公であるバットマン=ブルース・ウェインには、初恋の相手とでも言うような幼馴染がいます。

 そして、ウェインは、バットマンであることをやめられる時が来たら、彼女と一緒になりたいと思っています。

 彼は幼い頃に、目の前で両親を惨殺されたトラウマからバットマンとなり、悪人に恐怖を植え付ける戦いを行っています。

 いわば、“バットマン”という行為は、“正義の執行”であるとともに、“精神的逃避”の部分も内包しているわけです。

 ここまでが前提としてあります。



 以下、粗筋です。(大きなネタバレはなし。今回は通常の粗筋ではなく、解説的な粗筋の書き方にしています)

 今回の「ダークナイト」では、この「闇の正義の味方」に対して、「光の正義の味方」とでも言うべき人物が出てきます。

 その人物は「ホワイトナイト」と呼ばれる、ゴッサム新任の検事です。彼は素顔のままで悪と戦い、成果を上げていきます。

 その彼に、ウェインは自分の「正義」を、彼に託せるのではないかと感じます。

 しかしウェインにとって辛いことは、その「自分の理想」である検事が付き合っている相手が、幼馴染の彼女だということです。

 彼に全てを託すという決断は、検事の現状「ウェインの恋する相手と付き合っている」ことを肯定することでもあります。

 ここにまず苦悩があります。

 そういった状況の中、ルールを一切守らない悪党ジョーカーが跳梁を始めます。

 ジョーカーは、「バットマン=自分の決めたルールを守る正義の味方」を嘲笑うかのように、「ルール無用の戦い」を挑んできます。

 彼はバットマンを倒すことを生き甲斐として、バットマンが正体を表さなければ、無関係の市民を次々に殺害するという挑戦状を叩きつけてきます。

 その“ジョーカー”という、生きた人間の形を取った「混乱=カオス」に引きずられるようにして、バットマンや、検事、そして二人の間に立つゴードン警部補たちの運命が狂わされていきます。

 さらに、彼らの戦いは過激さを増していきます。ジョーカーは、人の善意や正義感を嘲笑うように、“究極の決断”をバットマンたちに突き付けてきます。

 究極の決断とは「どちらか一方しか助からないデストラップ」です。これを次から次に繰り出します。そして徐々に重い決断にしていきます。

 さらに、正義の矢面に立つヒーローたちだけでなく、一般市民にもその決断を迫り、全ての人々の心を混乱と混沌の中に叩き落そうとします。

 その中、必死に正義を遂行しようとするバットマンは、どんどん心を折られていき、ダークヒーローとして闇の底に落ちていきます。

 その畳み掛けるようなジョーカーの仕掛けとバットマンたちの正義の執行。

 そして、様々な決断と、それによる人々の絶望やその中の希望。

 無数の対立要素が渦を巻くように大きくなっていく様子は圧巻です。

 さらに、アクションの規模やアイデアもどんどん盛り上がっていきます。

 これは見ないと損な映画です。

 そして、映画館で見た方がいい映画です。



 俳優たちもキャラが立っていて非常によいです。

 ジョーカー役のヒース・レジャーは文句無くいいです。これはもう圧巻。混沌を人型にしたような演技は凄いの一言です。

 企んでいるのに、無知を装う。そして、それが意図的であるのに天然に見える。

 その微妙な“分からなさ”を前面に出して演じきったのは本当に凄いと思います。



 ブルース・ウェイン役のクリスチャン・ベイルもよいです。旧バットマンのウェインと違って非常に存在感があります。

 彼はブルース・ウェインの時とバットマンの時ではだいぶ趣が違います。この映画のバットマンは、暴力性剥き出しで悪と紙一重のような場面もあります。

 生身のはずなのに、生身を越えた存在に見える。そういった超人的存在感のバットマンです。

 ただクリスチャン・ベイルは、個人的に「アメリカン・サイコ」(2000)の主役の印象が強く、スーツを着て画面に出てくると「きっと内面は狂っているんだ」と思ってしまいます。

 非常に強烈な役でしたので。

 映画によって、俳優に色が付いてしまうのは仕方がないなと思いました。



 あと、ジム・ゴードン役のゲイリー・オールドマンが渋くて格好よかったです。

 バットマンに出てくるゴードンというと、警察側の狂言回しのような印象が強かったのですが、この映画では第一線で大活躍の重要キャラです。

 バットマン&ゴードン&ハービー・デントの三枚看板で悪と戦う「正義の一角」を担っています。非常によかったです。

 この人は「シド・アンド・ナンシー」(1986)でシド・ビシャス役をしていた人です。

 プログラムのインタビューで語っていましたが、「シド・アンド・ナンシー」でだいぶ色が付いて大変だったようです。



 ハービー・デント検事役のアーロン・エッカートもなかなかよかったです。

 クリスチャン・ベイルに比べてどこかぼけたような印象のある容姿だったので、なんだか凡人臭く見えるなと最初思っていましたが、映画が始まると熱血さを前面に出し、どんどんいい感じに見えてきたのは、さすが俳優だなと思いました。

 終盤も含めて、いろいろな意味で美味しい役だなと思いました。



 さて、以下ネタバレだらけの感想なので改行して書きます。
































 検事の後半の展開は、予習をして行ったのに気付かなかったので「私は馬鹿か?」と思い、へこみました。

 検事という職業、コイントスの癖。その二つがあれば、キャラの名前を覚えていなくとも、一発で彼がどうなるのか分からないと駄目です。

 そして、バットマン映画のお約束も踏襲しています。

「ああ、上手く配置したな」と思いました。

 あと、この後半の展開をプログラムの見開きのキャラクター関係図で、大きな文字で明かすのはどうにかした方がいいと思いました。

 これは、何の予備知識もなく見に来た人には完全なネタバレなので。



 個人的に好きだったシーンは、二つの客船のシーンです。そこでの決断の場面は「この映画はゴッサム市民も主役」というのを強く感じてよかったです。

 ジョーカーに一矢を報いたのは、バットマンや正義の最前線にいる人々ではなく、善意の市民だということに価値があると感じさせられました。



 ジョーカーの罠が、いちいち効果的過ぎてよかったです。

 毎回「誰かを助けるには、誰かを殺さないといけない」という選択を突き付け、その決断の重さがどんどん大きくなっていく。

 物語の構造としてもよくできていたし、映像的盛り上がりとしてもよくできていました。



 盗聴による透視シーン(映画を見た人はどのシーンか分かるはず)の映像表現のプレッシャー性の高さは圧巻でした。

 バットマン=ブルース・ウェインの怒りの大きさと闇への下落が、「パワーを感じる映像表現」としてきちんと描かれています。

 単なるギミックとしても面白いのですが、それが内面描写の映像表現にもなっているのは心憎いと思いました。



 暴力シーンが暴力的でよかったです。

 特に音。

 ドルビーの威力が十二分に発揮されていました。

 音による暴力の表現が上手いなと感じました。



 そしてラストのバットマンの決断もぐっと来ます。

「ダークヒーロー」という名前がしっくりくる苦悩の末の決断です。

 これは上手く締めたなと思いました。



 細かいところを書いていくと切りがないのですが、これは映画好きの人は見に行って語り合うべき映画だなと思いました。

 鉄板で面白いです。未見の人は、見ることをお薦めします。
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