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2008年11月25日 15:12:28
カポーティ
 映画「カポーティ」のDVDを十月上旬に見ました。

 2005年の映画で、監督はベネット・ミラー、脚本はダン・ファターマンです。

 監督は、今作が劇映画初監督作だそうです。

 面白かったです。

 そして、主役のカポーティを演じるフィリップ・シーモア・ホフマンが非常によかったです。

 これは主演男優賞を取れるなと思いました。

 よくできた作品でした。



 さて、この映画について書くためには、まず主役のトルーマン・カポーティについて書いておかなければなりません。

 この人の作品で有名なのは「ティファニーで朝食を」(1958)、「冷血」(1966)です。

 どちらも未読ですが、「冷血」はノンフィクション・ノベルという新たなジャンルを切り開いた作品だそうです。

 田舎町で起こった一家四人惨殺事件を取材し、書かれた小説です。

 この映画は、この「冷血」が書かれる過程を映画化したものです。

□Wikipedia - トルーマン・カポーティ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83...



 トルーマン・カポーティには、もう一つのストーリーがあります。

 それは、「アラバマ物語」(1961年にピューリツァー賞を受賞)を書いた女性ネル・ハーパー・リーの幼馴染ということです。

 同作の映画化「アラバマ物語」(1962)の登場人物であるディルは、カポーティがモデルになっているそうです。

□Wikipedia - ハーパー・リー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83...

 彼女(本作中はネルとして登場)は、「冷血」の取材助手として、カポーティと一緒に旅行します。

 ちなみに、カポーティは男色家のようなので、一緒に旅行をしているといっても、恋人とかそういった関係ではないです。

 映画中には、この「アラバマ物語」の映画化の話も出てきたりして、同映画を知っている人にはけっこう嬉しいネタでした。



 このカポーティとネルが、この映画の主演と助演です。

 世の中に対して斜に構え、皮肉的で女性的なカポーティ。

 対して、ネルは、世の中を正面から見つめ、理性と知性で世間に向き合う、男性的な人物です。

 この二人の性格の違いと友情と距離感が、なかなかよかったです。

 ネルに対しての印象は、映画中だけでなく、「アラバマ物語」の原作者という印象が強いのですが、たぶん映画製作側は、その効果も狙っていると思います。有名な映画ですので。

 没頭するあまり、現実から遊離していくカポーティの錨とまでは言わないまでも、そういった役割を彼女はになわされていました。

 あと、どうでもいいことですが、この映画のネルは、私の親戚の伯母さんによく似ていました。

 性格も外見も似ていたので、こういう外見の人はこういう性格になるのかなと、一瞬思いました(そんなことはないでしょうが)。



 さて、映画自体についてです。

 あいかわらずストップウォッチを片手に見ているのですが、きれいに30分のところで、取材に行ったカポーティは殺人犯に出会っていました。

 映画は、序盤でカポーティが田舎に取材に行き、中盤で裁判が長引いてなかなか結末が見えない泥沼にはまり、終盤はその話が収束します。

 その中盤の開始点が、殺人犯との対面でした。



 この映画のサスペンス要素は、何種類かあります。

・取材が成功して原稿が書き上がるか否か。

・取材相手である殺人犯に、小説のタイトルを「冷血」と付けているのがばれるか否か。

・泥沼になった裁判が終結するか否か。

 少しずつサスペンスが立ち上がって行き、最後は、殺人犯と友情に近いものを持ってしまったカポーティの内面が、危機にさらされます。

 アクションもないし、命のやり取りもないですが、自制心やアイデンティティが危機にさらされることで、ハラハラ感が得られます。



 この作品は、殺人事件を扱った内容ですが、ミステリーではありません。

 心理アクションといった感じのジャンルだと思います。

 その心理の微妙なアクションを、カポーティ役のフィリップ・シーモア・ホフマンは演じきっていました。

 カポーティ本人を見たことはないですが、カポーティそっくりだと感じました。



 以下、粗筋です。(ネタバレあり。ほぼ終盤まで書いています。その後の感想で結末を書いています)

 主人公は天才と呼び名の高い小説家。彼は新しい小説の題材として、一家四人殺人事件を対象に選ぶ。

 主人公は非常に女性的で、男性の恋人がいる男である。

 彼は、幼馴染の男性的な性格の女性とともに、事件のあった田舎町に行く。

 最初は警察に相手にされなかったが、警察署長の奥さんが主人公の小説のファンで、突破口を開く。

 主人公は、取材の末、逮捕された犯人に会う。

 主人公は、犯人に取材を続け、弁護士を殺人犯に付け、不利な裁判に対抗して再審をさせる。

 その行為は、犯人が死ぬ前に情報を引き出すためだった。このことで主人公は犯人の信頼を勝ち取る。

 だが、そのことで主人公は苦しみを抱えるようになる。

 主人公と犯人との間には、奇妙な友情が芽生える。だが、裁判が終結して、犯人が死刑にならなければ小説は完成しない。

 主人公は葛藤し、犯人と距離を置こうとする。

 裁判は延び、葛藤はなかなか解消されない。主人公は、犯人の死を望みつつ、その死を恐れる。彼の精神はボロボロになっていく。

 そして、裁判の結果が出て、犯人の死刑が確定する。

 犯人は、主人公に「会いたい」という連絡を寄越してくる……。



 最後は、主人公は死刑に立ち会います。

 その死刑が、絞首刑で、倉庫のような場所で、何人かの立会いの下、行われていました。

「冷血」は1966年なのですが、この頃はまだ絞首刑だったのですね。

 えらく生々しい処刑現場で(本当にそこらへんのガレージという感じで)、ちょっと怖いなと思いました。

 映画は、非常に面白かったです。
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