2008年12月05日 16:58:45
映画「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」を、十一月下旬に劇場で見てきました。
2008年の映画で、監督・脚本・主演・原案・製作は、ベン・スティラー。
主役級で脇を固めているのは、ロバート・ダウニー・Jrに、ジャック・ブラック。
いや〜、本当に面白かったです。大爆笑。
特に、カメオ出演という名の、美味しいところ総取りの某俳優が最高でした。
それ以外の部分も非常によくできていました。
映画好きなら、見て損のないアクション・コメディー映画です。
それにしても、ベン・スティラーは才能のある人だなと思いました。
あと、この映画はプログラムの出来がよかったです。
映画の紹介だけでなく、どういう人間関係の中でこの映画ができたかが分かる、「各俳優の交友関係図」が入っていたり、「映画内映画のプログラム」が中綴じで入っていたりと凝っています。
久しぶりに、プログラムに対して「いい仕事しているな」と思いました。
さて、映画です。
この映画は、系統的には「裸の銃(ガン)を持つ男 」(1988)などの、パロディー映画の部類に入ります。
しかし、パロディーとは思えないほどの「本気」の作りになっています。
各映画を表面的にパロディーするだけでなく、その製作陣や俳優、ハリウッド自体などを、非常に突っ込んだところまで扱っています。そして、「映画業界全体」を高度にパロディー化しています。
そして、アクション。
そんじょそこらのアクション映画よりも、派手で爆発たっぷりのアクションです。
というか、ドッカン、ドッカン、爆発だらけ。何せ、重要キャラクターの中に「爆破コーディネーター」(といか、爆破マニア)が入っているぐらいですから。
そして、パロディーに頼らない笑いの出来もいいです。コメディーの間が絶妙です。
誰かが言った台詞を、ワンテンポ置いて華麗にスルーしたり、「全然本気で思っていないだろう!」という白々しい台詞を大真面目に言ったりします。
映画は、後半になればなるほどエンジンが掛かり、劇場は大爆笑に包まれました。
さて、「後半になればなるほど」と書きましたが、実は前半は少し不安要素がありました。
前半の笑いは「パロディー」に偏った笑いなのですが、「笑えるんだけど、大爆笑というほどではない笑い」だったからです。
つまり、「予定調和の笑い」。想定の範囲内のことしか起こらない。
なので、「この調子で最後まで行くと、面白くないぞ」と感じました。
あと、もう一点、途中で地雷が爆発して、ある人物が吹き飛ぶシーンがあるのですが、あまりにもブラック過ぎてドン引きしました。
私だけでなく、劇場全体がシーンとしていました。
「これって、笑わせるつもりの演出のはずだけど、笑えないんですが」という感じでした。
「この調子で最後まで行くと、ちょっとまずいんじゃないの?」と思いました。
ただ、このシーンを過ぎて以降は、徐々にエンジンが掛かってくるように面白くなっていき、中盤を過ぎた頃には、非常に面白くなっていました。
そういう意味で、映画の本筋に入るまでの導入がちょっと弱いなと感じました。
さて、先ほど「ドン引きした」と書きましたが、設定自体はけっこう過激です。
映画の予算が足りなくなった監督が、俳優をジャングルに置き去りにして“リアルに撮影しよう”としたら、そこが黄金の三角地帯で、本当の戦いに巻き込まれるという設定だからです。
この部分は、「地獄の黙示録」のパロディーです。「俳優を、実際の兵士のような状況に置いて、撮影する」ということに対するあてつけです。
「戦場に行かないと、本当の兵士の気持ちは味わえないだろう」と。
そして、敵が明確になった後は、パロディー部分もありつつ、笑いの何割かが「シチュエーション・コメディー」に移行します。
この、「パロディー」と「シチュエーション・コメディー」の割合がほどよく、さらに「成長譚」や「感動話」を適度に混ぜているおかげで、話に深みが出て、「笑いと感動の物語」風に上手く昇華していました。
上手いなと思ったのは話の中心軸に、成長譚を持って来ているところです。
この映画は「落ち目の俳優たちが、命懸けで戦場で演技をする」というのが主軸なのですが、その中で主人公が「極限状態で一皮剥けて、俳優として成長」します。
また、主人公とともに戦場に出る俳優たちも、それぞれ問題を抱えていて、映画の中で、その問題を克服していきます。
このために、単なるお笑い映画ではなく、「ちょっといい話」的な部分も加味されています。
この、「戦場に行った俳優たち」の話部分も面白いのですが、それに輪を掛けて美味しいのが、それを高みの見物している「プロデューサー視点」の話です。
金の亡者的なプロデューサーが、美味しいところを総取り的な会話や演技をしまくってくれます。
正直言って、ずるいほど面白いです。
私が一番気に入ったシーンは、俳優が麻薬組織に捕まった時、身代金交渉の電話に出たプロデューサーが会話をするシーンです。
罵詈雑言を浴びせた後、「テロリストとは交渉しない!」と、ぶちっと電話を切ります。腰巾着たいは「お見事です!」とプロデューサーをよいしょします。
テロリスト云々が理由ではなく、「金を払う気がまるでない」というのが、演技からありありと見えて大爆笑でした。
ラストも、プロデューサーが美味しいところを持って行きますし。
これで、カメオ出演か〜と思いました。
いきいきと輝いていました。最高でした。
以下、粗筋です。(中盤が始まるところぐらいまで書いています)
主人公は落ち目のアクション俳優。彼は、起死回生として演技派を目指して知的障害者の役を演じたが興行に失敗し、崖っぷちに立たされていた。
そんな彼が次に出演を決めたのは「トロピック・サンダー」という映画。
ベトナム戦争を描くこの映画には、彼以外にも、問題を抱える俳優たちが出演を決めていた。
お下品映画ばかりを作り、麻薬で捕まって崖っぷちの俳優。
映画のたびにその役になりきってしまう、役者バカ“過ぎる”アカデミー賞俳優。
そういった仲間たちとともに、主人公は撮影現場に入った。
だが、撮影は難航する。俳優たちの一致団結はなかなか行われず、撮影の失敗もあり、予算が超過してしまう。
プロデューサーに締め付けられた監督は、起死回生の策として、俳優たちをヘリコプターでジャングルの奥地に連れていく。
これなら予算も抑えられるし、リアルな映像が撮れると思ったからだ。
しかし、思わぬ事態になる。そこは、黄金の三角地帯で、麻薬組織のテリトリーだった。
完全武装(ただし、全部小道具)の兵士たちを発見した麻薬組織のメンバーたちは、主人公たちを仕留めようと動き出す。
だが、主人公たちは、それが撮影だと思っている。
何人かの俳優は、アクシデントの結果、ジャングルに置き去りにされてしまったことに気付いていた。だが、この映画に全てを賭けている主人公は、聞く耳を持たない。
そして、「自分が撮影されている」と信じている主人公は、撮影を敢行するために、ジャングルの奥地へと入っていく。
仕掛けとして上手いなと思ったのは、主人公が興行的に失敗した「知的障害者の役を演じた映画」を使い倒しているところです。
失敗を「一つの行動」にして、その失敗を「新たな方法でなぞる」ことで、失敗を乗り越えたことを象徴的に表現しています。
これは、分かりやすくて、説得力があるなと思いました。
「過去に犯した失敗を、正しい形で乗り越えることで、失敗の克服を観客に理解させる」というのは、忘れがちだけど王道なので、覚えておこうと思いました。
さて、いくつか俳優について書いておこうと思います。
まずは、ベン・スティラー。なんだか、記憶に残り難い顔をしているなと思いました。過去にどこかで見ているのかもしれませんが、まったく記憶に残っていませんでしたので。
「ケーブル・ガイ」(1996)の監督もしているそうですが、こちらはあまり面白くなかったです。
次にジャック・ブラック。いつものジャック・ブラックでした。終わり。
そして、ロバート・ダウニー・JR。黒人役です。最近、芸幅を広げている感じですね。いたるところで目にします。
あと、どうでもいいですが、ニック・ノルティ。ちょうど、「48時間 PART2 帰って来たふたり」(1990)を見た後だったので、「おお〜、ニック・ノルティだ」と思いました。18年も経っているのですね。
そして、個人的に注目したのは、敵の麻薬組織の少年ボスを演じていたブランドン・スー・フーです。
中学生ながら、カリフォルニア州のテコンドー大会で何度も金メダルや銀メダルを取っているらしく、アクションと激怒の表情と眼力が凄かったです。
子供ながら、ボスの貫禄がありました。
今後、いろいろとアクション系で出てきそうな子役だなと思いました。
というわけで、映画は非常に面白かったです。
でもまあ、マニア向けの映画だよなと思いました。