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http://che.gyao.jp/
2009年02月12日 13:01:00
 映画「チェ 28歳の革命」を劇場で一月下旬に劇場で見ました。

 2008年の映画で、監督はスティーヴン・ソダーバーグ、脚本はピーター・バックマン、主人公は、製作も兼ねているベニチオ・デル・トロです。

 二月の頭に「チェ 39歳 別れの手紙」も見たので、二週連続の映画館でした。

 なかなかよかったですが、かなり変わった映画だなと思いました。



 もともと、この「チェ」は一本の映画だったのが、作ったら大きくなり過ぎたせいで二本に分けたそうです。

 そして、「チェ 39歳 別れの手紙」が、元々の構想で、作っている内に「その前提」も描かなければ意味が分からないと分かったために「チェ 28歳の革命」が付け加わったそうです。

 その「28歳」を見た印象は「『アラビアのロレンス』(1962)の前半だ」でした。

 エンターテインメント性や、満足感といった、最終的な出来では「アラビアのロレンス」の方が上だと感じましたが、非常に近い印象を抱きました。

 その理由は、この前後編が、「革命成功の話」と「革命失敗の話」だからです。どんどん成功していく話と、どうにもならなく落ちていく話。

 そこに、非常に「アラビアのロレンス」との相似性を感じました。



 もう一つ、この映画を見て印象的だった点があります。それは、この映画が「非常に変わっている」と感じる点です。

 この映画は、「チェ・ゲバラ」を主人公とした話で、その周辺で起こった話を描いているのですが、驚くほどに「周辺の人物」を記憶する必要がありません。

 この「28歳」で、唯一顔と名前を覚える必要性があるのは「チェ・ゲバラ」と「フィデル・カストロ」の二人だけです。

 後は、誰も名前と顔が一致する必要性がありません。

 これは、映画としてはかなり奇妙な作り方です。

 こういった作りが何を意味しているかと言うと、映画の中心が「物語」ではなく「チェ」という人物だということです。

 人間関係の力学による「物語」が主要な部分ではなく、「チェ」という人物が、何を見て、何をして、何を感じたのか。それが映画の主眼であり、それ以外は完全に脇だということです。

 そういった意味で、この映画は、通常のハリウッド映画の文法とはちょっと違う「変わった映画」になっています。

 そして、「39歳」に至っては「チェ」以外は、誰も覚える必要性がないというところまで来て、「39歳」のラスト付近は、どんどん一人称の映画になっていき、最後は完全にカメラの視点が、「チェ」自身の視点になっていくといった手法になっています。



 他にも、変わっていると感じた点があります。

「28歳」と「39歳」は基本的に対比されているのですが、それだけで終わらず「チェ」という人物の描き方や、映画の手法自体がかなり異なっています。

「28歳」は、割とオーソドックスな映像でした。物語の進展も、クライマックスに革命の激戦を描き、盛り上げるといった典型的な展開を見せていました。

 対して「39歳」は手持ちカメラ風の映像で、ラストは「派手な戦闘」ではなく「足掻く戦闘」になっており、そこには28歳の頃の精彩はありません。

「28歳」では、あれほど建設的に進めてきたゲリラ戦も、「39歳」ではただ成り行き任せのぐたぐたな戦いになっています。

「39歳」ではそういった展開を、ボリビア入りからの日数を表示しながら時系列でたどっていく「再現ドラマ」として作っています。

 二つの映画は、前後編として繋がっていますが、だいぶ色合いの違う作り方がされていて、興味深かったです。



 さて、映画的には「28歳」の方が面白かったです。

 その中でも、個人的に面白かったと感じた点が四つあります。

 一点目は、革命のゲリラ戦の実情をかなり丹念に描いている点です。

 医療や兵員の教育など、主人公が医師であるからこそのエピソードが随所に出てきて、単なる戦闘映画になっていないのが面白かったです。

 二点目は、終盤の市街戦です。ゲリラとして町を攻める様子が、障害の発生とその克服として時系列で描かれていて面白かったです。

「なるほど、敵はこう来て、それをこう攻めるのか」と思いながら観賞しました。

 三点目は、カストロの存在です。「ああ、現実主義者のカストロがいたからこそ革命は成功したんだな」と思いました。

 理想主義者のチェ・ゲバラに対して、カストロは柔軟に妥協したりして政治力を発揮します。その様子に、ソニーとかホンダとかの両輪創業者を感じました。

 そして、どっちが主でどっちが従かと言うと、カストロが圧倒的に主だよなと思いました。カストロがいなければゲバラは成立しないけど、ゲバラがいなくてもカストロは成立しそうだしと。それは「39歳」で一人になったゲバラの様子を見ながら、強くそう思いました。

 四点目は、「ゲリラの外」を感じさせるゲリラの描き方です。それが何かというと「資金の流れ」です。

 外国の支援組織からの資金の話が出てくるので、「ああ、なるほど、そういう背景があるのか」と感じることができます。これは小さい表現だけど、上手いなと思いました。

 当初、ゲリラの人数があまりにも少なく、「こんな少数しかいないのか?」と思いましたが、人数としてカウントされていないところで、多くの人が動いているというのが分かりました。



 主演のベニチオ・デル・トロについても、少し書いておこうと思います。

 チェ・ゲバラになりきっていました。

「28歳」では包容力のある青年医師兼兵士兼革命家を、「39歳」では敗残将を。

 また、彼のスペイン語による演説は、非常に歯切れがよく、耳に心地よく響きました。

 あと、これはベニチオ・デル・トロではなく、チェ・ゲバラ自身についてなのですが、喘息なのに葉巻を吸い続けるのはいかがなものかと思いました。

 ただでさえそのせいで虚弱なので。

 一応、虫対策らしいですが、それ以前に愛煙家っぽいですし、肺にもよくないだろうと思いました。



 以下、粗筋です。(歴史的事実なので、そのまま書きます)

 国連で演説をするチェ・ゲバラ。その数年前、彼はカストロと出会い、キューバの革命に兵士として身を投じていた。

 彼は最前線で戦うことを望んでいたが、カストロから負傷兵の救護や、新兵の育成を命ぜられる。だが、そこで革命への思いを深め、人望を得ていったゲバラは、部隊を任される将となり、激戦を物にして、キューバを革命に導く。



 というわけで、感想の続きは「チェ 39歳 別れの手紙」に書きます。
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