2009年02月13日 15:29:56
映画「チェ 39歳 別れの手紙」を劇場で二月の上旬に見てきました。
2008年の作品で、監督はスティーヴン・ソダーバーグ、脚本はピーター・バックマン、主人公は、製作も兼ねているベニチオ・デル・トロです。
この感想は「チェ 28歳の革命」の感想の続きです。
「28歳」で二人しか覚えなくてよかった人間関係は、「39歳」に至っては「チェ・ゲバラ」一人だけ覚えていれば問題ない内容になっていきます。
そして、映画は「チェ」の個人的な内面へと降りていきます。
この「39歳」では、「28歳」の頃の精彩はありません。
革命家として行動しながらも、全ての行動が失敗していく、絶望の行軍が描かれていきます。
その憤懣が爆発するシーンがあります。チェの乗っている馬が立ち止まり、その馬をチェが殴り付けるシーンです。
馬は頭のよい動物です。このシーンは、飢えた馬がチェを乗り手として認めなくなったこと、そしてそれに対して暴力でしか答えられないチェの状態を鮮明に表現しています。
人間、上手く行っていない時は、上手く行っている時と同じようには振舞うことが難しいです。このシーンは、そのことを強く思い知らされます。
しかし、その中でも、チェは平静を極力保ち、自分の言葉の通り生きようとし続けます。
その、身動きのままならない中で必死に自己を保とうとする“チェ・ゲバラ”の精神の強さと、“人間”としての弱さが、一つの肉体の中に揺らぐようにして見えてきます。
映画を見終わった後、確かに「39歳」だけでは、表現したいことは表現できず、成功体験である「28歳」の部分が必要だなと感じました。
爽快さもなく、エンターテインメント性もない映画なので、見ても面白くない人も多いと感じましたが、個人的には楽しめました。
さて、この映画で、少し書いておきたいことがあります。
それは、手持ちカメラの映像です。
映画館で、画面と近い席になってしまうと、手持ちカメラの映像は酔うのできついです。特にこの映画は二時間以上あるので、その時間揺れ続けているとさすがに疲れます。
当日、エアコンの風が直接当たる席になってしまったこともあって、映画が終わる頃には気分が悪くなっていました。
この手の「手持ちカメラ」系の映画は、事前に分かれば、なるべく後ろの方の席を取る方がいいと思いました。
けっこう辛かったですので。
以下、粗筋です。(歴史的事実なので、そのまま書きます)
ボリビア入りしたチェ・ゲバラは、当てにしていた現地の支援を得られない。彼は共産党に協力を拒まれ、農民にも敵視される。そしてボリビア政府はキューバでの過去を重視し、アメリカから教官を招き、特殊部隊を組織した。
劣勢に立たされたゲバラ率いる革命軍は、隊を分断されたこともありどんどん消耗させられていく。そしてゲバラは捕まり、処刑されてしまう。
映画を見終わり、プログラムを読んで分かったことがあります。
この映画では、ボリビア入りするに当たって、チェ・ゲバラが抱えていたであろう精神の鬱屈は盛り込まれていないということです。
プログラムに書かれていた記事によると、「別れの手紙」は、本来はチェの死後に公表される予定だったそうです。
それも、文章中には「革命に成功すればキューバに戻る」とあったのに「キューバには戻らない」といった意味で公表されてしまい、キューバに戻る道が断たれてしまっていたそうです。
この話が映画に盛り込まれていると、少し色合いが変わってくるなと感じました。
また、この「39歳」を見て思ったのは、キューバ革命でのカストロの存在の大きさです。
チェ・ゲバラは、アイコンやアイドルではあったけれど、革命を成し遂げた本人ではないのだなと感じました。
理想主義と現実主義は相容れないものだと思いますので。
でも、だからこそ、彼は今でも人気があるのだろうなと感じました。