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2009年03月31日 19:52:32
 順番が前後しますが、こちらから書きます。

 映画「ウォッチメン」を三月下旬に、劇場で見てきました。

 LEGIOんさんが当たった試写会にご一緒させてもらいました。

 2009年の映画で、監督はザック・スナイダー、脚本はデヴィッド・ヘイター、原作はアラン・ムーアです。

 ザック・スナイダーは、「300 <スリーハンドレッド>」(2007)の監督です。

 アラン・ムーアは、「Vフォー・ヴェンデッタ」の原作者です。

 この陣容からして、まあ外れはないだろうと思って見に行きました。



 見た感想は、「面白かったんだけど、予備知識や事前知識を仕入れて行かないときついだろう」というものです。

 たぶん、何の前知識もなく見たら、見所が掴めないだろうと思いました。

 時間が2時間43分もある映画で、事前の情報がないと勘所が掴めない映画は、ちょっと興行的に厳しいでしょう。

 私の場合は、町山智浩氏の文章やポッドキャストで散々前知識を入れていたので問題なかったですが、そうじゃないと苦しいと思いました。



 なぜ前知識が必要なのかを書きます。それは、事前の知識がないと、映画の背景設定が分からないからです。

 では、どういった知識が必要なのか。それを以下に書きます。(注:私はアメコミに詳しくないので、私が知っている範囲の知識で書いています)

1.この物語は、ヒーロー大集結物で、「現実の世界の中に、アメコミの主人公たちが本当にいたらどうなるのか?」という「if」を扱っている作品である。

2.ニクソンが三期目当選を果たし、ベトナム戦争に勝利し、冷戦が続き、その緊張が極限まで高まっているという、「if」の時代と世界。



 まず、1についてです。

 元々この作品(原作)は、当時のアメコミの、ヒーロー大集結物の一つとして作られたそうです。そして、そういったヒーローたちが、凄い能力を持っているのに、街のちんぴらたちをやっつけるばかりではおかしい。きちんと世界レベルの話をしなければならない。そういった前提で制作されたそうです。

 そのため、映画の序盤では、ヒーローの誕生理由が解説されます。

 その話は以下のようなものです。

 元々マスクを被って何かをする習慣は、犯罪者たちから始まった。逮捕しても逮捕しても、同じ人物が現れ、犯罪者を特定できない。それに業を煮やした警察も、マスクを被って超法規的に対抗した。そして、そういったマスクを被った人物達がマスコミに注目され始めた。それが初代のヒーロー達。

 そして時代は下り、現代(映画の世界)では、老齢の一代目ヒーローがわずかに残り、後は二代目や新しいヒーローの時代になっている。

 その老齢のヒーローの中でも、コメディアンという名のヒーローは、政治と癒着することで自らの正義を行ってきた。彼は、ベトナム戦争に行き、敵を火炎放射器で焼きまくり、ケネディーを暗殺し、ウォーターゲート事件をもみ消してニクソン三期目の地盤を作った。

 コメディアンは、世間に自分の存在を知らせてはいないが、その仕事の成果として、超高層ビルに住み、豊かな暮らしをしている。

 その彼が「何かに怯え」「何者かに暗殺される」──。

 そこから物語は始まります。

 つまり、この作品ではヒーローは、それぞれの考えで動き、それぞれの能力で、自らの正義を実行しています。

 当然、問題意識や考え方のレベルも違い、世界平和のために動こうとする人間もいれば、自己保身に走っている人間もいます。

 そして、そのヒーロー達の活躍を禁止する法案が、この世界では可決されています。つまり、当初は必要だった逸脱した力を、磐石の態勢になったニクソン政権は危険分子として封印し、政府の目的以外では使えないようにしているわけです。そういった世界が、この作品の舞台背景になります。



 なので、この作品は、アメコミ・ヒーロー物を、リアル方向へ傾けたパロディーとなります。この前提知識があるのとないのとでは、映画の見方がだいぶ異なります。

 一番分かりやすいのが、「ナイト・オウル」というヒーローです。彼は、お金持ちで、自宅の地下に、アーチーという空飛ぶ乗り物を用意して、自分は梟の格好をして戦います。

 つまり、バットマンのパロディーです。

 映画の設定がリアルなのは、このナイト・オウルの地下の秘密基地がやたら小さかったり、彼が中年太りしかかっていたり、ヒーローの格好をして戦わないと勃起しなかったりするところです。

 こういったパロディーが入っているということが分かるかどうかで、映画の見え方がだいぶ変わってきます。



 また、ヒーローによっては世代交代も既に行われています。

 ただ、その「世代交代」に関しては映画中では一切語られません。この部分は、原作に書かれているのかもしれません。

 この辺りについては、予習しておけばよかったなと思いました。



 2は、完全に歴史知識です。

 映画の冒頭で解説されるのは、ケネディー暗殺をコメディアンが手掛け、ニクソンが三期目だという事実が告げられるぐらいです。

 これで、その当時の時代背景が分からなければ、完全に置いてけぼりになってしまいます。

 現在三十代以上の人間で、ある程度物語を見たり読んだりしている人ならば、これですぐに背景を理解できそうですが、二十代以下の人で、ここら辺の時代に興味がない人は置いてけぼりだと思います。

 基本的にこの映画は、説明を説明として行う気がまるでないので、観客が適切な知識を持っていないと放置状態で進んでいきます。



 というわけで、前提知識がある程度ないと辛いです。

 ヒーロー物で、ネタバレで面白さが半減しないタイプの作品なので、見に行く人は、積極的に情報を仕入れてから行った方がいいと思います。

 というか、知らないで行くと、2時間43分放置状態です。



 あと、この映画は女性には辛いかもしれません。

 完全に男性向け、もっと言うと「オタクのおっさん向け」の映画です。

 ヒーローは男性ばっかで、紅一点的に女性もいます。でも、それは基本的に恋愛&出産要員です。ここら辺が、完全におっさん向けだなと思う点です。

 女性の中でも、ある方向性の人は、こめかみに青筋が立つかもしれないです。



 アクションは、「300」の監督だけあって、非常に格好良かったです。

 あの、止めと解放の強調アクションは健在です。興奮します。

 物語の方は、世界レベルの大きな話と、個人の恋愛レベルの卑近な話が、等価で扱われていて、ちょっと違和感を覚えました。

 つまり、世界レベルの大きな話を行おうとしているヒーローがいるのにも関わらず、紅一点の女性との恋愛がその展開に影響を与えているという構造です。

 まあ、恋愛要素は物語に大切なのでしょうが、ちょっと梃子の支点としてはどうかなと思いました。



 以下、登場人物について書きます。事前知識として頭に入れておいた方がいい部分だと思いますので。

 ちなみに、ヒーロー達の中では、ロールシャッハが、ハードボイルドで一番格好良かったです。

 ラストの「自己のアイデンティティのために、自分の運命を決める」といった展開は、ぐっと来るものがありました。

 自分が自分であるために、そこは曲げられない──。

 彼は、ヒーローたちの中では、唯一生い立ちが悲惨というのも、ダーク・ヒーローを感じさせました。

 あとロールシャッハは、ロールシャッハ・テストの模様のマスクを被っているのですが、映画で見るまで、どういったマスクなのか分かりませんでした。

 このマスク、模様が絶えず蠢き、変化しています。けっこう格好よかったです。

 というわけで、登場人物について書いていきます。



● ロールシャッハ

 ロールシャッハ・テストの模様のマスクを被った男。

 コメディアンの死を切っ掛けに、ヒーロー狩りが始まったと考え、コメディアンの死の真相を追い始める。

 融通が利かず、パラノイア的なところがあり、他のヒーロー達からは、空気が読めない男として距離を置かれている。



● コメディアン

 アメリカのマッチョイズムを体現した老ヒーロー。

「殺せ、犯せ、俺が正義だ!」といったキャラクター。政権に癒着し、アメリカの正義のために戦い続けてきた。



● ナイト・オウル

 梟男。二代目ヒーロー。

 梟のコスチュームを着て、空飛ぶ乗り物アーチーを駆って、街の悪者たちを倒すローカル・ヒーロー。

 中身は小心者のおっさん。



● DR.マンハッタン

 原爆を体現した男。科学実験の副作用として、時間と空間を超越した存在になる。

 ソ連の大量の原爆と、一人でバランスを取る超絶能力を持つ。世界の行方を左右するほどの力を有している。

 未来と過去を同時に見て、好きな場所に瞬間移動できる。真の意味での超人。既に神に近くなっている。

 外見は、マッチョで青く光り輝く禿頭の裸族。



● オジマンディアス

 自他ともに認める世界一の天才。アレクサンダー大王と自分を重ね合わせている。

 ウォッチメンをやめた後、素顔と正体を晒し、ビジネスを成功させて莫大な富を得る。世界トップ・クラスの富豪。

 オジマンディアスは、古代エジプトのファラオ・ラムセス大王の別名。



 映画中の一節「オジマンディアス 王の中の王」は、元ネタがあるらしいので調べてみましたが、パーシー・B・シェリーの詩から取られているのではないかと思います。

□壺齋閑話 - オジマンディアス OZYMANDIAS :シェリー
http://blog.hix05.com/blog/2008/01/_ozymandias.html

□壺齋閑話 - パーシー・ビッシュ・シェリー P.B.Shelley:生涯と作品
http://blog.hix05.com/blog/2008/01/b_pbshelley.html

 詩を読むと、台座に「我が名はオジマンディアス 王の中の王 全能の神よ我が業をみよ そして絶望せよ」と書かれているそうなので、そちらが直接元ネタかもしれません。

 以下、Wikipediaより転載、メモ。

 パーシー・B・シェリーは、イギリスのロマン派詩人。彼の後妻メアリー・シェリーは、「フランケンシュタイン」の作者。

 アイザック・アシモフは「ロボットの時代」において、後世にシェリーの名声が詩人愛好家や知識人階級に留まっているのに対して、アマチュア作家の妻メアリーの作品が古典のひとつとなってしまった事を「作家の悪夢」と評している。

□Wikipedia - パーシー・ビッシュ・シェリー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC



● シルク・スペクター

 紅一点。二代目ヒーロー。母親がヒーローで、娘として後を継いだ。

 DR.マンハッタンの恋人として、政府の研究所で暮らしている。

 恋愛要員。



 以下、粗筋です。(中盤までのネタバレあり。終盤のネタバレはしていません)

 アメリカ。

 ケネディーが暗殺され、アメリカがベトナム戦争に勝ち、ニクソンが三期目の政権に居座っている世界。

 冷戦は続き、ソ連の核の脅威と均衡を取っているのは、一人のヒーローの存在だった。

 その世界の枠組みを支え、時の政権に迎合して、アメリカを導き続けてきた老ヒーローが死んだ。彼の名はコメディアン。

 コメディアンの死を知ったロールシャッハは、その原因を調べ始めた。コメディアンは、普通の人間に殺されるような男ではなかったからだ。

 その時代、ヒーローたちは活動を制限されていた。混乱期には役立つ逸脱した力は、安定期には邪魔になる。ヒーローの多くは、その正体を隠し、ひっそりと暮らしていた。

 その中、二人のヒーローが世界にその名を明かし、活動していた。一人はソ連の核と均衡を保っているヒーロー DR.マンハッタン。もう一人は、世界一の天才オジマンディアスである。

 二人は共同で、次世代のエネルギーの開発を行っていた。エネルギー問題の解決こそが、二つの超大国の対立原因を解消させると信じていたからだ。

 ロールシャッハは、彼らに会い、コメディアンが殺された件について「ヒーロー狩りが行われているようだ」という私見を述べる。彼は二人に警告し、危険を回避するように促すが、相手にされない。

 そこで、世間から身を隠しているかつてのヒーロー仲間のところに赴く。ナイト・オウル。梟の姿で戦っていた彼は、今は目立たぬ姿で世間から身を隠して生きている。彼は警告は受け入れるが、法律で規制されているので表立って動く気はないと告げる。

 ロールシャッハは、殺される前のコメディアンの行動を調べ、死の真相に迫ろうとする。その彼に対して妨害の手が次々と伸びてくる。

 それだけではない。何者かが、DR.マンハッタンを失脚させ、オジマンディアスの命も狙おうとする。人間に絶望したDR.マンハッタンは、地球を去って火星に行く。

 やはり、何か巨大な陰謀があるのだ。ロールシャッハは調査を進めるが、罠にはめられ刑務所に送られる。その刑務所のほとんどの人間は、ロールシャッハが捕まえ、送り込んだ人間たちだった。マスクをはがされた素顔の彼は、そこで敵に囲まれて暮らすことになる。

 DR.マンハッタンと別れた女性ヒーロー シルク・スペクターは、ナイトオウルを頼って家を訪れる。そして二人は結ばれる。高揚した彼らは、人々を救うために法を犯す。

 ヒーロー達は助け合わなければならない──。彼らは、ロールシャッハを救うために刑務所に行く。

 合流した三人のヒーロー。しかし、その間に世界は終わりを迎えようとしていた。

 軍事的な均衡を保っていたDR.マンハッタンが去ったことは敵国には知られていない。しかし、それが明らかになれば、米国はソ連の支配に屈することになる。

 これは、先制攻撃しかない。ニクソンは悩んだ末に決断する。そして、軍事行動の開始時刻を決める。

 DR.マンハッタンの帰還を、この時間まで待つ──。

 ニクソンは、その時間を軍のトップたちと必死の形相で待ち続けた……。



 話の結末ですが、いくつか肩透かしを食らいました。

 世界を平和に導くという部分に関しては、あれでありだと思います。ヒーローの中には、憤慨したり、呆然としたりする人たちがいましたが、方法の一つではありますので。それに冷戦下のSFでは、何度か見た展開ですし。

 しかし、映画の冒頭で掲げられた「ヒーローが次々と殺されていく」という「ヒーロー狩り」に関しては「えーっ」と思いました。

 これは、映画を見れば分かります。完全に肩透かしでした。

 でもまあ、ここら辺の話は、ロールシャッハが格好良いといころを見せてくれたので我慢しようと思いました。



 映画は、私個人は楽しめましたが、積極的に他人に薦めるのは難しいなと思いました。
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