2009年05月16日 19:26:37
映画「レッドクリフ Part II —未来への最終決戦—」を劇場で四月の中旬に見ました。
2009年の作品で、監督・脚本はジョン・ウーです。
いやー、大満足です。大規模肉弾戦大好きの私としては本当に満足。
娯楽大作になっています。人によっては細かいマイナス点を付けるかもしれませんが、総合評価では圧倒的にプラス点です。
映画は、「全てがクライマックス」といった感じの内容でした。
さて、感想を書く前に、1つだけ、みんながやっている突込みを。
「未来への最終決戦」は、違うだろうと。全然「最終決戦」ではないですし。
……というわけで、感想です。
今回、この映画を見て思ったのは、「ジョン・ウーは、本当に三国志が撮りたかったんだな」ということです。
この映画は「三国志として成立していて」「映画として見せ場だらけになるように作っていて」「ジョン・ウーが訴えたいことが入っていて」それが破綻や分離をあまりせずに、一つの娯楽大作になっています。
私はその点を大きく評価したいなと思いました。
この三点を成立させるために、「レッドクリフ Part II」は、かなり大胆に三国志を整理しています。でも「愛のある整理の仕方」だと思います。「映画として、これは正しい」と感じましたので。
この映画は、前後編の後編に当たります。前編でキャラクター説明や背景説明を全て終えたということもあって、後編の「レッドクリフ Part II」では、ただひたすらに赤壁の戦いを描いています。
これがいい。
映画は144分なのですが、その全時間を使って「赤壁の戦い」を濃密に描いています。
つまり、ジョン・ウーがひたすら軍隊や策略によるバトルを描き続けているわけです。これだけでもうお腹いっぱいです。
特に「おい、マジかよ」と思ったのはラストの三十分です。
この三十分は、肉と武器と血糊と爆炎の中、孫権&劉備連合軍が、曹操のいる場所をただひたすらに一直線に目指していくといった内容です。
三国志(というか大規模戦闘物)としては、物凄い“力技”の整理の仕方なのですが、これがもう「オレ三国志お祭りムービー」と化していて、ジョン・ウーが鼻血が出そうな勢いで戦闘を描いている様子が伝わってきます。
次から次にピンチが起こっては「ウォー」と叫びながら“ブッチギリ”で進んでいく。
ジョン・ウーの雄たけびが聞こえそうな映画でした。
さて、鼻血が出そうなバトルの連続について書きましたので、次は普通にお話の感想を書こうと思います。
先に三つの要素が破綻せずに共存していると書きましたが、そのことについて詳しく説明します。
まず「三国志として成立している」というお話です。
武将はかなり大胆に削ったりして整理していますが、主要人物はきちんといるので成立しています。また、それぞれのキャラが、三国志のイメージに従っているので、違和感はありません。
これは、ジョン・ウーが、ハリウッドで「曹操と劉備と関羽をまとめて一人にしろ」と言われて、(たぶん)ぶち切れたので、譲れないところだったんだろうなと思いました。
次に「映画として成立している」というお話です。
焦点を完全に「周瑜」「孔明」「曹操」の三人に絞っています。劉備などは完全に脇役です。
尺の関係があるので、どのポイントに重心を置き、話を組み立てるかは重要なのですが、今回はこれでよかったと思います。
まあ、前編と合わせて見ると「前編の劉備の描き方からして、もう少し活躍の場があるんじゃないの?」とか、「関羽と張飛はモブ・キャラ扱いだったね」とか、気になる点もあるのですが、前編の少しもったりとした部分が後編では払拭されていたので「まあいいや」と思いました。
特に今回よかったと思ったのは、上記三人に話を絞って、無駄な脇道に極力逸れないようにしていたところです。
娯楽大作としては、これでよいのではと感じました。
最後に「ジョン・ウーが訴えたいことが入っていた」ことについて。
尚香が敵陣に潜入して、敵兵と仲良くなるという話がそれです。鳩もばんばん飛ぶし。
映画全体としては少々浮いているのですが、「一兵士の視点」と「兵士レベルでは敵味方はない」という部分が描きたかったんだろうなと感じました。
自己主張が破綻へと至る“ギリギリのライン”から、指先0.7cmはみ出しているような感じの部分だったのですが、他の部分できっちりと仕事をしていたので許容範囲だと思いました。
ここはちょっと足を引っ張っている部分ではありますが。
あと、ラストの部分に少し突っ込みたいところがあったのですが、それは後述します。
娯楽大作の映画としては、十分以上に楽しめる映画でした。
さて、個別の感想です。
まずは、周瑜=トニー・レオンについて。
よかったです。
でも、どうしても気になる点があります。
プログラムを読んでいると「『ラスト、コーション』の撮影で体調を崩した」と書いてありました。直前にDVDを見たのですが、どれだけ激しいセックス演技をしていたんだと思いました。
体調を崩すほどのガチンコとは。いや、確かに激しいバトルでしたが。
この人は「ラスト、コーション」(2007年)でもそうでしたが、今回もあまりしゃべらない役でした。でも存在感と人間の大きさを感じさせます。いい役者さんだなと思いました。
次に、孔明=金城武です。
風が変わる時に、タイミングを計って扇を振っているシーンが可愛くてよかったです。「ワン・ツー・スリー」という感じで。
兵士たちに、自分が風を起こしているように見せているのですが、「ああ頑張っているな孔明」と思いました。
あと、孔明は魯粛との絡みのシーンが多かったのですが、そのユーモアのある描き方がよかったです。
曹操=チャン・フォンイー≒星野監督。
今回はあまり星野監督に見えませんでした。外見は似ているのですが、曹操にしか見えませんでした。
この人もよかったです。
この映画の曹操を見て思ったことは、英雄となる人は、プラスもマイナスも普通の人の何百倍もあるんだなということです。
物凄い嫌われる卑劣なことをしたかと思うと、次のシーンでは周囲の兵士を感動させるカリスマ性も発揮する。
善や悪の片方に傾いた一面的な描き方をしていないのがよかったです。
小喬=リン・チーリン。
美人だけど、演技はしていないよねという感じでした。しかしまあ、美人なだけで成立するのは便利だなと思いました。
終盤、お茶のシーンがあるのですが、曹操がちょっと気の毒でした。「あなたは、お茶の心が分からない!」と切れるのですが、そういう切れられ方をしたら曹操も困るだろうにと思いました。
甘興=中村獅童は、おいしい役どころでした。
一連の爆発エピソードは、きっちり落ちまでついていましたし。
劉備軍ご一行。
脇役でした。
劉備好きの人はがっかりかもしれません。
尚香=ヴィッキー・チャオ。
ちょっと浮いていました。さすがにそれはないだろうと思いましたが、まあ他がよかったので許します。
最後に、鳩。
大活躍でした。
でもまあ、一番の主役は「軍隊」だと思います。
あのバトルが見られただけでも大満足。前編の戦闘が、本当に小競り合いに思える大規模戦は、非常に満足でした。
欲を言うなら、俯瞰など、もう少し戦闘シーンの描き方にバリエーションがあった方がよかったです。それでも「欲を言うなら」というレベルではあるのですが。
以下、粗筋です。(ネタバレ的なことは少なくして、中盤の後半ぐらいまで書いています)
赤壁の戦いが始まった。慣れない土地での戦闘のために、曹操軍では病人が増え、疫病が蔓延し始める。人を人とも思わない曹操は、その死体を船に乗せ、孫権軍に突っ込ませて疫病を敵陣にも広める。
孫権たちはいきり立つ。しかし、劉備の反応は違った。兵士を疫病から守るために軍を引くという。同盟は破棄され、孫権たちは独力で曹操軍に対抗しなければならなくなった。
劉備軍で唯一残った孔明は、一人で劉備軍に匹敵する仕事をしようとする。周瑜と孔明は、それぞれの作戦を遂行しながら友情を深めていく。
そして孔明は、曹操軍を打ち破る決定的な策を披露する。気象を読む孔明は、絶好の火計のタイミングを割り出したのだ。
しかし、その好機の直前まで、利は曹操にあった。風向きが変わるのには時間が掛かる。曹操はその前に、逆に孫権軍を火計で葬ろうと作戦を進めていく。
周瑜と孔明に必要なのは、唯一「時間」だった。
そのことを知った周瑜の妻の小喬は、曹操を足止めするために、単身敵陣に乗り込んでいく。
粗筋のその後は、ご存知の通りの大戦闘です。
ドッカン、ドッカンという感じです。
久しぶりに大画面で大戦闘が見られたので満足しました。
この戦闘シーンを見て思ったのは、このレベルの絵を取れる人は、世界でも少ないよなとということです。本物の軍隊を動かしているのと変わらないレベルですし。
特殊能力です。本当に。
映画の終盤、赤壁で敗れた曹操が殺されないのですが(三国志なので、死なないに決まっているのですが)、これは普通に考えたら死んでいるだろうと思いました。
映画として面白く盛り上げたツケで、曹操が死なないとおかしくなるような展開になっているのに、なぜか曹操は死にません。
ここで曹操が死んだら、ジョン・ウーは神になれていただろうにと思いました。
そして、「未来への最終決戦」というサブタイトルが嘘偽りのないものになり、「すげー、ジョン・ウー、確かに最終決戦だった!」と絶叫できたのに。
惜しい……。
いやまあ、興行的には曹操が死ななくて、三国志として破綻していない方がよいのでしょうが。
しかしまあ、そういった「レッドクリフ」も見てみたかったなと思いました。