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2009年05月19日 00:56:11
 映画「グラン・トリノ」を劇場で四月下旬に見てきました。

 2008年の映画で、監督・主演はクリント・イーストウッド。脚本はニック・シェンクです。



 感想は「よかった」。

 一言で言うなら「円熟」。

 驚くような展開もないし、大どんでん返しもないけど、圧倒的に高い映画力で、ストレートに話を運んでいきます。

 何の飾りも脇道もケレンミもないし、無駄なエピソードや話もないです。話は本当に単純。粗筋も本当に短い。

 でも、一シーン一シーンの完成度が高く、豊穣なために、満足感が非常に高い。

 何よりもこの映画が特異なのは、言いたいことに対して、何のひねりもないストレートでシンプルなストーリーなのに、“監督・主演がイーストウッドなために”何倍も内容が膨らんで伝わってくることです。

 この映画は、イーストウッドの映画力で骨太になっています。

 この映画を見て、「漫画力」に対する「映画力」という言葉が必要だなと感じました。



 さて、イーストウッドがこの映画を撮った時点の年齢は七十八歳です。そして、ほぼこの年齢の老人の役を演じています。

 彼が演じる主人公のウォルト・コワルスキーは、子供や孫に嫌われている頑固親父です。そして、偏屈物で偏狭な老人です。

 映画中、アクションというようなものはほとんどありません。彼は超人でも何でもない、普通の老人です。

 そういった老人が主人公の映画で、撮っている人も老人なのに、この映画は、若い人が見ても退屈なところは一切ないです。

 前半は、いろいろと共感したり、笑ったり、ハラハラしたりしながら、この偏屈物の老人にのめりこんでいきます。

 そして後半は、映画の主人公の採った行動とともに、“映画人イーストウッドの選らんだ人生の締めくくり”に非常な重さを感じます。

 映画の途中の時点で、これ以外の締めくくりがないのは分かります。でも、いざ結末に至ると、その重さがずしりと肩にのしかかってきます。

 よかったです。

 そして、何よりもよかったと思うのは、この“重い結末”を見終わった後も、前半の面白さが快く心に残っていることです。

 中盤まで、映画館は笑いが絶えませんでした。重い結末が待っている映画だけど、けっして暗い話ではありません。ユーモアと温かさに包まれた快い話です。

 映画が時間を忘れさせる娯楽だとすれば、これだけ短い話で、これだけ心地よく二時間を過ごさせてくれるこの映画は、間違いなく傑作です。

 そして、重さと軽さのバランスも非常によい。押し付けがましくもなく、軽薄でもない。

 素直に「いい映画を見た」と思いました。



 映画が終わって、いつものようにプログラムを買ったのですが、この映画のプログラムは買っておいた方がいいです。

 豪華版です。

 イーストウッドの年譜や過去の作品の紹介、分類、分析などに多大なページが割かれています。仕事中だったというのもあるのですが、読み終わるまでに数日掛かりました。

 このプログラムを元に、イーストウッド作品をもっと見てみたい、そう思わせる作りになっていました。

 さて、このプログラムにはイーストウッドのインタビューも載っています。

 その中で、いいなと思ったのは、すでに八十近いイーストウッドが「まだまだ学ばなければならないことがたくさんある」と語っている部分です。

 たぶん、そう言った時のイーストウッドの目は、キラキラと輝いていたと思います。

 その様子を想像して、私は嬉しさで少し涙腺が緩みました。



 映画の表現ですが、「省略の美学」という言葉が相応しいと思いました。

 物語は、必要のない部分が一切描かれません。

 冒頭、主人公の妻の葬式から始まるのですが、映画中、妻とのエピソードや回想シーンはありません。

 また、主人公の妻に頼まれたという、新米神父が出てくるのですが、彼の経歴を語るエピソードや、彼単独のエピソードも一切ありません。

 隣家の姉弟と、その母親、祖母一家との交流が描かれるのですが、この一家の父親がなぜいないかなどのエピソードもありません。

 もっと言うと、主人公の息子は、冒頭二人出てくるのですが、映画中は兄しか話に絡みません。

 そういった感じで、普通なら掘り下げる部分を、この映画では全部ばっさりと切り落としています。

 無駄な部分を全部そぎ落とした日本刀のような構成です。

 でも、物足りないという印象はないです。

 理由は、エピソードごとの演出のうまさと、イーストウッド演じる主人公の面白さだと思います。

 この映画は、頑固親父のイーストウッドがともかく面白いです。「フグー、フグー」と唸っている様子とか、「ブガブガブー」という感じでブルドッグのように唸っている様子とか、そうなる原因も含めてとても楽しいです。

 主人公は、“愛すべき頑固親父”という感じで、非常によかったです。



 以下、粗筋です(中盤の終わりまで書いています。ネタバレが困る映画でもないですが、まだ公開期間中なので、ネタバレが嫌な人は、以下、読まないでください)。

 主人公は、デトロイトに住む、元フォードの自動車工。彼は朝鮮戦争にも行った、古い時代の人間だ。

 彼は頑固で偏狭で口汚い。そんな彼と長年連れ添ってきた妻が死んだ。その葬式にやって来た孫たちの躾のなさを見て彼は怒りを露にする。

 葬式が終わり、息子一家は家に戻った。主人公は、妻と暮らした一軒家で一人暮らしを始める。

 彼を心配する若い神父に悪態を吐き、父親を煙たがる息子達に毒を撒き散らし、主人公はわが道を行く。

 彼が住んでいる地区は、元々は白人が住む町だった。しかし、町の斜陽とともに、アジア人が多く住む地区になっていた。その場所では、白人は彼一人になっていた。

 主人公はその状況が許せなかった。何よりも許せないのは、アジア人たちが家の手入れをきちんとしないことだった。

 主人公は家と庭を磨き上げていた。そして、愛車のグラン・トリノの整備に余念がなかった。その車は、アメリカの自動車産業の輝ける時代の象徴だった。

 ある日、主人公は庭に入ってきたアジア人たちに銃を向ける。そのアジア人たちは、隣家の一人息子を悪の道に誘い込もうとしている不良たちだった。

 成り行きで隣家の一人息子を助けた主人公は感謝される。しかし、彼はそれを迷惑がる。

 その数日後、町で不良に囲まれている若い女を、主人公は成り行きで助ける。彼は、アジア人でも、黒人でも、白人でも、躾がなっていない人間を見るとむかつく性質だった。

 助けた女性は、隣家の一人息子の姉だった。彼女は喧嘩っぱやいが機知に富んでいて主人公と馬が合った。

 数日後、主人公は彼女に家に招かれる。アジア人の家などに行く気はなかった主人公だが、ビールが切れていたせいで仕方なく行く。

 主人公は朝鮮戦争でアジア人を殺している。そのため、アジア人に対して後ろめたさを持っていた。

 隣家に住む人々はモン族だった。モン族は、ベトナム戦争でアメリカに協力したせいで、故郷を離れざるを得なかった人々だ。

 そこでの交流が彼の心に温かい物を感じさせる。心の通わない身内よりも、人種も文化も違う隣人の方が身近に感じる。主人公はその事実に衝撃を受ける。

 その頃より、主人公に死の影が訪れる。彼は頻繁に血を吐くようになる。

 隣家の姉弟や家族との交流は続く。隣家の弟は、大人しすぎて自己主張ができない子供だった。彼には父親がいない。主人公は、大人の男の姿を彼に対して見せることを意識し始める。

 二人の間には、奇妙な師弟関係ができる。隣家の弟は、悪い仲間に命令されて、主人公のグラン・トリノを盗もうとした過去もあった。主人公は、彼に仕事を紹介し、一人前の男に育てようとする。

 だが、その努力も悪い仲間たちの横槍で阻まれる。このままでは、隣家の弟は真っ当な道にはいけない。そう判断した主人公は、一人でその関係を絶とうと動く。だが、その行動が、報復に次ぐ報復の連鎖を招き寄せる結果となってしまう……。



 以下、映画の終盤に関わることを書きます。

 映画の終盤で、リアルだと思ったことがあります。

 それは、この映画の主人公ウォルト・コワルスキーが朝鮮戦争で殺したという人の数です。

 十四人です。

 戦争で殺した人数としては圧倒的に少ないと思えるのですが、日常で殺した人数としては狂気を感じる人数です。

 殺しまくったとは言えないけど、決して少ない数ではない。そして、トラウマになるには十分な数です。何より、このぐらいの数だと、全部の殺害シーンを覚えているだろうと思いました。

 この人数を聞いて、「夢に出る……」という言葉に重みを感じました。

 もう一つ、リアルだと感じたことがあります。

 それは、主人公の懺悔の内容です。

 もっと重要な事実が隠されているかと思っていた神父が、「えっ?」という感じでキョトンとします。

 でも、普通の一人の人間が、心の中で悔いることは、実はこういったことなんだろうと思いました。

 話自体は非常にシンプルな脚本なのですが、こういった部分は、この脚本の大きな魅力なんだろうと感じました。



 映画を見始めて、序盤の時点で思ったことがあります。

 私は年を取ったら、この映画のような頑固親父になりそうだ……。あんな口汚くはないですが。

 私は、主人公と同じことに怒るだろうし、同じように文句を言うと思います。

 四十年後の自分の姿を見ているような気になり、ちょっと複雑な気分になりました。
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