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2009年10月30日 14:32:26
探偵物語
 映画「探偵物語」のDVDを、八月下旬に見ました。

 1983年の映画で、監督は根岸吉太郎、脚本は鎌田敏夫、原作は赤川次郎、主演は薬師丸ひろ子、競演は松田優作でした。



● 松田優作と薬師丸ひろ子

 さて、この映画は、松田優作と薬師丸ひろ子が競演している映画です。この二人は、キャラが立っているなというのが素直な感想でした。

 まず、松田優作ですが、この映画ではえらい真面目な格好をしています。そして、非常に真面目な役を演じています。もっとワイルドなイメージが強い俳優だったのですが、控えめな役もなかなかよかったです。

 あと、松田優作という俳優は、ぼそぼそとしゃべるのが似合うなと思いました。「おかしいな」と思いながら、訥々としゃべる。そういった演技が上手いです。これは、この人の持ち味なのかなと思いました。

 対して薬師丸ひろ子ですが、この人は、何を考えているのかちょっと分からない、不思議ちゃんが少し入った、お嬢様が似合うなと思いました。

 この人は、決して可愛いわけではないのですが(ファンには怒られそうですが)、体半身分ずらしたようなズレを持った上品さや、おしゃまさを持っていますね。

 ストライクというよりは、少し外した変化球というか、でも狙った変化球ではなく、握りがおかしいせいで、微妙にズレた軌道というか、そういった雰囲気を感じました。

 何にせよ、薬師丸ひろ子に松田優作が振り回されるという情景は、見ていて面白かったです。



● 不倫映画

「この映画は、不倫映画か!」というレベルで、至るところに不倫がはめ込まれている映画でした。

 主人公の周りにも、主人公の相方の周りにも、事件の周りにも、不倫が必ず影を落としています。

 ありとあらゆる場所が不倫で塗りつぶされている映画でした。そして、不倫でなくても、恋愛関係の裏切りがやたらと多い話でした。

 これは、原作の赤川次郎が意図的にしたのでしょうか? ちょっと謎でした。



● ミステリと演出

 映画は、最初の方で、事件が起こる前に犯人が分かりました。それは推理とかではなく、主人公周りの人間関係で「事件が起こったら、犯人はこの人だよな」という演出がなされていたからです。それも、その人がなぜ犯人になるかの理由込みで。

 そのため、ミステリとしてはどうなのかなと少し思いました。まあ、ハウダニットということで問題ないのでしょうが。

 ただ、フーダニットとホワイダニットが、情報と全く無関係に、人間関係の演出で除外されるのには、少し違和感を抱きました。



● 恋愛感情

 出会いから恋愛感情への発展が、細やかでよかったです。

 出会い、敵対、反感、同情、感謝、共感、競争心など、様々なエピソードを通して、主人公であるヒロインの恋愛感情を育てていっていました。

 これは、非常によかったです。

 また、探偵を中心軸にして、ヒロインと元妻という二人の女性が出てきて、主人公がそのあいだに立っているというバランス感覚もよかったです。

 最終的に、主人公はどっちに行くのだろうかと思わせながら、主人公自身にはそういったそぶりを見せない。そういった演出もよかったです。

 そして、ラストの人間関係の解決も、映画っぽくないけど、妙に現実感のある帰結でよかったです。

 個人的には、ミステリというよりも、恋愛映画、それも、青春恋愛映画という感じでした。まあ、ミステリではないのでしょうが。



● 岸田今日子がおいしい

 えー、メイドの長谷沼さんを演じていた岸田今日子がおいし過ぎです。

 彼女は主人公であるヒロイン(金持ち)の家に古くからいるメイドさんです。そして、どうやらこの家の主人と出来ています。

 そのことに気付いているので、ヒロインはこの長谷沼さんに、ことあるごとに辛く当たります。

 そんな長谷沼さんとの仲ですが、主人公は今回の映画の事件を通して成長して、少し見方が変わります。

 そのあと、主人公が長谷沼さんに質問します。

「長谷沼さん、パパのこと愛しているんでしょう?」

「そんなこと言いません。言うと減りますから」

 このやり取りがたまらなくよかったです。さらりと肯定していながら、自分の立ち位置を微妙に確保しています。

 映画中ずっと「長谷沼さんいいね」と思っていましたが、この台詞でノックアウトされました。



● ラストの長回し

 ラスト・シーンの空港の長回しのシーンはよかったです。でも、これが映えるのは、その前の、探偵の部屋でのシーンがあるからだよなと思いました。

 感情的には徹底的に“溜め”になるシーンを、狭い部屋の普通の方法で撮影し、感情が動く“動”のシーンを、開放的な空港で撮り、長まわしでどんどん引きながら静的に演出する。

 そのおかげで、えもいわれぬ開放感が味わえるシーンになっていました。

 この対比は上手いなと思いました。

 また、対比だけでなく、ラストのじめじめとしない爽やかさもよかったです。映画全体が、ドロドロとした愛憎関係で彩られていただけに(演出としてはドロドロしていないですが)、最後のあっけらかんとした様子が、気持ちのよい爽快さを感じさせてくれました。



● 粗筋

 以下、粗筋です(終盤、ラスト直前まで書いています)。

 主人公は大学生。彼女は海外留学を控えていた。主人公は、恋心を抱いていた先輩とともに、海に行く。そして、そこでホテルに泊まろうとする。そこに、“叔父”と名乗る人物が現れ、先輩を追い返した。

 主人公は、その“叔父”と名乗った男を知らなかった。彼は探偵だった。主人公は、怒りながら帰宅する。そんな彼女を、探偵はずっとガードし続ける。

 翌日、大学にも探偵はついてきた。主人公は先輩に謝ろうとして、アパートに行く。だが、彼は不在だということで会えなかった。探偵は窓からその家を見て、その先輩が、同年輩の女性と同棲していることに気付く。

 探偵は主人公に付き従う。そんな彼をからかってやろうと、主人公は、帰宅後、探偵のあとをこっそりとつける。探偵はバニーガールのいる店に行く。そこには、探偵の元妻がいた。二人は、不倫で離婚していた

 主人公は、その店で主人公に会う。その店には、先輩が付き合っている女性がバニーガールとして働いていた。

 翌日、主人公はニュースを見て驚く。探偵の元妻が、彼女の働く店の店長を殺した容疑で、指名手配になっていたのだ。主人公は探偵の家に行く。そこには、探偵と元妻がいた。そして、ヤクザがその家にやってきた。

 主人公は機転を利かせて元妻を匿う。そして、探偵の元妻を自分の屋敷に連れていく。

 主人公と探偵と元妻は、主人公の家でこれからのことを話し合う。主人公は、真犯人を見つけることを提案するが、探偵に怒られる。主人公は勝手に調査を始め、探偵はしぶしぶ付き合うことになる。

 殺された店長は、ヤクザの親分の息子だった。そして、その妻は不倫をしていた。主人公たちはその証拠を手に入れる。だが、家に帰ってみると、屋敷のメイドがヤクザにさらわれていた。無関係な人間を巻き込むわけにはいかないと、元妻はヤクザの許に行くことを決める。

 主人公は、証拠のカセット・テープをダビングして、主人公に渡しに行く。そして、探偵と元妻がセックスをしている現場を目撃してしまう。探偵に淡い恋心を抱き始めていた主人公は自暴自棄になり、夜の町をさまよい、見知らぬ男とホテルに入る。

 そのホテルは、殺人事件の現場だった。そこで彼女は、他の人間が殺人を犯す方法を知る。

 主人公が家に帰ると、探偵と元妻は連れ去られたあとだった。主人公はヤクザの許に行き、二人が犯行とは無関係なことを証明する。その過程で、彼女は真犯人に気付く……。



● その他

 エロ・シーンはけっこうあり、内容もそれなりにハードだったのですが、何気に全然エロくなかったです。

 何と言うか、お子様向けエロ・シーンという感じでした。

 映画は、なかなか楽しかったです。
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