映画「ウォンテッド」のDVDを、九月下旬に見ました。
2008年の映画で、監督はティムール・ベクマンベトフ、脚本はマイケル・ブラントとデレク・ハース、原作はマーク・ミラーとJ・G・ジョーンズです。
この監督は、ソ連出身で、「ナイト・ウォッチ」(2004年)、「デイ・ウォッチ」(2006年)の監督・脚本を行った人です。
「ナイト・ウォッチ」も面白かったですが、この「ウォンテッド」もなかなか面白かったです。(「デイ・ウォッチ」は、この直後に見ました)
でも、映像の斬新さでは、「ナイト・ウォッチ」の方が上でした。
● 映像表現の格好よさ
この監督は、「ナイト・ウォッチ」で、斬新でクールな映像表現を見せてくれましたが、そのセンスは、この「ウォンテッド」でも健在でした。
とはいえ、「ナイト・ウォッチ」ほど、斬新過ぎて分かりにくいことはありませんでした。「ナイト・ウォッチ」の方は、映像なれしていない人には、「ストーリーを取りこぼすのでは?」という部分がありましたが、こちらの「ウォンテッド」では、そういった部分はありませんでした。
まあ、「ナイト・ウォッチ」で分かりにくくなっている部分は、「時系列いじり」の部分が多かったので、脚本(演出?)の問題だとも、言えるのですが。
こちらの「ウォンテッド」は、より多くの人向けに、だいぶ丸くしたという印象でした。
でも、個人的には、「ナイト・ウォッチ」の映像表現の方が、好きでした。
どちらにしろ、格好よいことには、変わりはありません。
● 銃を撃つときのアクション
この映画では、銃を撃つとき、その弾の軌道を念力で曲げます。
この表現と、修行がなかなか面白かったです。また、そのせいで、銃の撃ち方が、他の映画のガン・アクションとまったく違ったものになっていて魅せていました。
ただ、この撃ち方、一点だけ気になる点がありました。
この映画の主人公は、右手を大きく横に振りかぶって、野球のサイド・スローのように銃を振って撃ちます。
でも、その軌道は、左から右にねじ込むようにはならず、右から左にねじ込むようになります。この軌道に違和感を持ちました。
図で描くと、こんな感じです。
↓ /
↓├○┤【右手を振りかぶって射撃】
↓ \
↓ ☆ 【弾丸発射】
↓ /
↓│ 【弾丸の軌道】
↓│
↓│○ 【障害物を避ける】
↓│
↓│
↓ \
↓━★━【的に到達】
何か変なのですが……。右手を大きく横に振りかぶれば、右ではなく、左から回り込むのが、生理的に納得のいく動きだと思うのですが。
図で描くと、こんな感じです。
↓ /
↓├○┤【右手を振りかぶって射撃】
↓ \
↓ ☆ 【弾丸発射】
↓ \
↓ │【弾丸の軌道】
↓ │
↓ ○│【障害物を避ける】
↓ │
↓ │
↓ /
↓━★━【的に到達】
なぜ、逆にしようと思ったのでしょうか? これはかなり謎でした。監督のなかでは、映画の軌道の方が正しい理由があるのだと思います。私には、その理由が分かりませんでした。
● アンジェリーナ・ジョリー
ヒロイン(?)です。というより、主人公を指導する、鬼女教官的な立場です。
このアンジェリーナ・ジョリーですが、やたら細くてびっくりしました。この人、こんなに肉がなかったっけ? と思いました。昔は、もっとムチムチしていたと思うのですが。
そういえば、「チェンジリング」(2008)でも、えらい肉がスカスカだなと思った記憶があります。
単なる老化なのでしょうか? ちょっと気になりました。
● ジェームズ・マカヴォイ
最近、やたらよく見る俳優です。なんとなく、ちょっと弱めで、成長途上のようなキャラをよく演じています。
別に凄い童顔というわけではないのですが、「若い」キャラに合う雰囲気を持っているのだと思います。
この映画でも、そういった主人公を演じていました。
この人は、あと十年経ったら、どういった役を演じるのだろうかと思いました。
● 運命の織機の設定
映画は、神話的な雰囲気を持っていました。この映画では、「フラタニティ」という秘密の暗殺組織が太古よりあり、殺害するべき人間を、天から聞き取ります。
その方法が面白かったです。
運命の織機(機織り機)があり、その糸の目のエラーを、バイト・コードとして読み取り、名前に変換します。
こういう、やり方は謎めいていて、それなりの説得力もあり、面白いなと思いました。
あと、この映画が、神話的な雰囲気をうまく醸し出しているのは、監督の影響が大きいだろうとも感じました。「ナイト・ウォッチ」が、そういった映画でしたので。
● 薬の設定
主人公は、普段から心臓の薬を飲んでいます。心臓の鼓動を遅くして、気持ちを落ち着かせるための薬です。
映画の途中で明かされるのですが、実はこの薬のせいで、主人公の能力は封印されています。
怒りを爆発させ、心臓が高速で動くことで、主人公は常人の数倍の速度で世界を認識して、行動できるようになります。
この設定は、演出として分かりやすく、よくできているなと思いました。
● 粗筋
以下、粗筋です(大きなネタバレはなし。中盤ぐらいまで書いています)。
主人公は冴えないサラリーマン。彼はあるとき、一人の女性と出会う。彼女は、いきなり銃撃戦を演じ、彼を連れ出す。彼女は、主人公の父親が殺されたという。
女は、主人公の父親は、暗殺組織のトップ・レベルの殺し屋だったという。しかし、裏切り者に、殺されてしまったと話す。女は主人公に、父の跡を継ぎ、殺し屋組織に入るようにと言う。
主人公は断るが、会社で怒りを爆発させ、殺し屋組織に入る。しかし、そこでは過酷な修行が待っていた。主人公は、その修行で、自分の目的を探して、殺し屋へと成長する。
主人公は、女とともに、裏切り者を追う。そして、急行列車のなかで、その裏切り者と対峙する。激しい戦闘の末、列車は渓谷へと落ちる。その途中、裏切り者は、なぜか主人公を助けた。そのことにより、主人公は、組織の真の姿を知ることになる……。
● ラストの締めくくり方
ラストは上手かったです。
映画のラストは、最初の場面との対比で描かれることが少なくないのですが、この映画は、それをきれいに映像表現として演出していました。
監督は、こういった表現が好きそうだなと思いました。
映画は、傑作というほどではないですが、佳品としてよくできていました。面白かったです。